2021年10月19日(火)公開
放置自転車との闘い...撤去を『すればするだけ赤字』になる実態 ナゼ撤去料は高くできない?
特盛!憤マン
20年ほど前は『大阪名物』などと言われるほど酷かった大阪の放置自転車。これに対して、大阪市は条例を作るなどして対応していますが、それでも問題は消えてはいません。そんな中で、大阪市は放置自転車対策として撤去活動を行っていますが、この事業が実は赤字続きで「赤字を運ぶ放置自転車」などと揶揄されています。一体、何が起きているのか取材しました。
「駐輪禁止」看板前に自転車を止める人たち
9月24日、午前8時すぎの京阪・天満橋駅前。「駐輪禁止」の看板があちこちにありますが、その看板の目の前に堂々と自転車が止められていました。
取材中にも駐輪禁止の看板の前に自転車を止めようとする人がいました。
(記者)「ここ自転車止めたらだめなんですけど」
(自転車の人)「あー、はいはい」
記者が駐輪禁止だと伝えると、数分後、別の禁止場所に自転車を止めて立ち去りました。
(記者リポート)
「有料の駐輪場はまだ空いているのですが、反対側にある『駐輪禁止』の表示の目の前に放置自転車が置いてあります」
放置自転車は歩道を塞ぎ、通行の妨げにもなっています。夕方にもなるとずらりと並びます。こうした状況に街の人は次のように話します。
(街の人)
「絶対あんな出てたらぶつかるので」
「あの辺が(自転車で)塞がっているんですよ。だから向こうから入れない時があるから危ないと思います」
有料駐輪場が近くにあるのに歩道に自転車を放置していく人たち。大阪市の条例では禁止エリアに放置された自転車は撤去されることになっています。放置自転車に警告の紙を貼り付ける大阪市の職員。
30分経過しても持ち主が取りに来なければ自転車は撤去されます。
(記者)「多いときはどれぐらい?」
(撤去作業員)「22~23台はあると思います」
(記者)「トラックいっぱいになる?」
(撤去作業員)「はい」
撤去後、自転車を放置していた人が戻ってきました。
(自転車を撤去された人)「いま銀行に行ってきて取られた。最悪やな」
(記者)「周りに駐輪場ありますけど、なんで止めなかった?」
(自転車を撤去された人)「いやいや、ちょっともう銀行に振り込みだけやったから」
徴収する『撤去料』を値上げできないワケ
では撤去された自転車はどうなるのか。大阪市浪速区にある「浪速西保管所」には、中央区や天王寺区などで撤去された放置自転車が保管されています。
(大阪市・自転車対策担当 櫻井秀昭係長)
「浪速西保管所で大体700~800台くらい。街中でも増えてきているのかなと思いますけれど(ペダル付き)原動機付き自転車も増えてきている状態にあると思います」
保管期間は20日間。所有者が自転車を持ち帰るには1台2500円、原付バイクは4000円を撤去保管料として払わなければなりません。取りに来ない場合は鉄くずとして売却されることになっています。日々続けられる放置自転車対策ですが、ある問題を抱えています。
(大阪市・自転車対策担当 櫻井秀昭係長)
「こういった保管所の管理運営ということで、年間で約2億6000万円の経費がかかっています。自転車1台あたりで約3800円の経費がかかっている」
所有者から撤去料として徴収しているのは1台2500円。つまり撤去すればするだけ赤字になっているというのです。その補填は?
(大阪市・自転車対策担当 櫻井秀昭係長)
「やはり税金ですね。皆さまからお預かりしている税金で賄わせていただいている。ザクっと申し上げれば(年間)5億円ぐらいですね」
今年5月、大阪市の監査委員会は、20年間も十分な検討をせずに徴収料を据え置いていることを問題視し、「撤去保管料の負担額が適切であるかどうか」を毎年検証するよう指摘しています。
憤懣取材班はこれまで何度も大阪市の放置自転車の問題を取り上げてきました。2003年に「迷惑駐輪日本一」と言われたJR寺田町駅では…。
(ボランティアの男性)「あーちょっとちょっとちょっと。二重に止めたらアカンで」
(ボランティアの男性)「2列になってもた、見てみ困ってるから。中に入れてちょうだい」
(自転車の人)「元から二重やん」
(ボランティアの男性)「それあかんねん、だから整理してるねん」
(ボランティアの男性)「人が通るし、車も通るところや。いま整理しているからお願いします」
(自転車の人)「電車間に合わない」
(ボランティアの男性)「急ぐ気持ちはわかるけど中に止めて」
(自転車の人)「じゃあおじさんお願い、これ置いてよ。どっか置いててよ。電車間に合いません」
(ボランティアの男性)「どういうことですか?」
当時、駅前は禁止区域には指定されておらず、まさに無法状態。その後、大阪市もようやく対策に乗り出し、4年後の2007年には迷惑駐輪が大幅に減少。街の姿は一変しました。
ピーク時の1983年には、年間で約6万9000台あった大阪市の放置自転車は、2015年には約4000台にまで減少しました。
事業としては、1台あたりの撤去費用が増える中、徴収料金の見直しはほとんど行われてきませんでした。一体なぜ徴収料金を引き上げることはできないのでしょうか?
(大阪市・自転車対策担当 櫻井秀昭係長)
「中古の自転車を販売されている価格帯を見ましても、だいたい5000円くらいで買えるのかなと。交通費を加味すると2500円から価格を上げることによって、(自転車の)返還率が変わってくると思います」
徴収する金額をあげると取りに来る人が少なくなるという懸念があるというのです。
「みんな止めているから」「置くところがないから」
10月8日、大阪・キタを取材すると、商業施設の周辺は放置自転車で溢れかえっていました。
ここでも憤懣取材班の目の前で自転車を止めようとする人たちがいました。
(記者)「ここ自転車止めたらだめってご存知でしたか?」
(自転車の人)「ああ、知ってます。近いし、みんなが止めているからって感じです」
(記者)「駐輪場あるんですけど、止めようとは思わない?」
(自転車の人)「止めた方が良いのはわかっているんですけど、(ここが)一番近いなと思って。正直そんなに車にも邪魔になっていないので」
(記者)「なんで止めてる?」
(自転車の人)「なんでって…、特にないです」
(記者)「駐輪場には止めない?」
(自転車の人)「どこにあるか知らないです」
(記者)「目の前に書いてありますけど」
(自転車の人)「…はい」
この道は一方通行のため、自転車がはみ出すと、車にとっては邪魔でしかありません。
(タクシードライバー)
「駐輪禁止の前で、大きな看板が出ているのに、そこに置いていますよね。多いです。なんとかしてほしいです」
「自転車でタクシー自体が通れないことがある。真ん中にポーンと置く人間がおるからね。事故が起こりやすくなるよね、あれだけ自転車があったらね」
梅田の家電量販店の近くでも、駐輪場はあるのに、放置自転車が点字ブロックにまではみ出していました。
(記者)「どちらにいま止めていましたか?」
(自転車の人)「そこ!置くところがないから」
(記者)「裏に駐輪場があるのはご存じですか?」
(自転車の人)「それは知らなかったです」
(記者)「遠くの駐輪場には止めない?」
(自転車の人)「次回からそうします」
大阪市北区は、放置自転車の数が大阪市内で長年ワースト1位で、区役所が中心となって梅田周辺に新たに1000台分の駐輪場を整備していく方針です。
自転車を放置していく行為は許されるものではありませんが、行政側の対策も『赤字を運ぶ放置自転車』などと揶揄されていて、少なからず課題は残されています。
2021年10月19日(火)現在の情報です