2022年03月15日(火)公開
【専門家解説】ウクライナ侵攻4回目の停戦交渉...「トルコとイスラエルは仲介役として期待できる」ウクライナ研究者岡部芳彦氏
編集部セレクト
ロシア軍によるウクライナ軍事侵攻から19日が経過し、4回目となる停戦交渉について、3月15日放送の毎日放送『よんチャンTV』に出演したウクライナ研究者である神戸学院大学の岡部芳彦教授は、「これまで敵地で交渉していたのがそもそも異常なこと。暗殺されるかもしれない危険な状態だった。オンライン会議になったのはいいこと」と話しました。そのうえで、交渉の席にロシア側は2軍のメンバーしか出席していないとして、交渉当事者のバランスに問題があると指摘しています。また仲介役として名前があがっているトルコやイスラエルについては、これまでの歴史を踏まえて「期待できる」と話しました。
オンラインで行われた4回目の停戦交渉…「これまでの適地での交渉がそもそも異常」
(大吉洋平アナウンサー)
「これまで行われた停戦交渉の場所というのは全て『ベラルーシ』でした。ベラルーシというのはロシアとべったりの国です。今回で4回目の停戦交渉はオンラインで開催されていましたが、一時中断ということになったわけですね。これが再開されるのかどうなのか。聞く耳を持たない相手との、なかなかゴールが見えてこない停戦交渉のようにも見えますが、岡部教授は『これまでの敵地での交渉、これがそもそも異常なのである』と見ています。これはどういうことでしょうか?」
(岡部芳彦教授)
「ベラルーシに国防大臣が乗り込んで行きますので。もしかすると暗殺するような部隊が首都キエフにいるんじゃないかという時期でしたので非常に危険があると。だから、それを避けるためにポーランドまでわざわざ行って、ポーランドのヘリコプターで現地に入るという。ちゃんと証拠も残した形でやっていましたので。かなり危険を冒した停戦交渉をしていたと思います。それに比べるともちろんオンラインですので、そういうことは今回はなくなったということが言えます」
(大吉洋平アナウンサー)
「ポーランドに一旦入って、そこからベラルーシに行くルートを通っていたと」
(岡部芳彦教授)
「しかもポーランドのヘリコプターでですね、撃ち落されないためだと思います」
(大吉洋平アナウンサー)
「停戦交渉っていうと『話し合いをするのに敵地に入っていくのはあり得ないよね』っていう理論はわかるんだけど。でも、ありえないことばかりを突きつけてきているから、それ以上やりようがないっていうのがね」
(岡部芳彦教授)
「ロシア側もそれ以外での開催というのをこれまで認めてこなかったという経緯もあります」
(大吉洋平アナウンサー)
「岡部先生が以前番組に来られたときに過去の停戦交渉の様子をご覧になって、『ウクライナ側が出してきている人たち、そのレベルに見合った人をロシア側は出していない』、先生の言葉を借りると“2軍”という言い方をしました。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問のツイッターからの映像では、手前がウクライナ側で、モニターに映っている方がロシア側?」
(岡部芳彦教授)
「視線がこっちに向いていますので、正面に画面があるのかなという気もちょっとします。前を見ていますので。そっちにロシア側が映っているのかもしれません」
(大吉洋平アナウンサー)
「この写真から何か読み取れることはありますか?」
(岡部芳彦教授)
「この写真を見る限りですね、国防大臣はおられませんので。あとは同じメンバーでウクライナ側は交渉している。ポドリャクさんとアラハミアさんは変わらずやっているということになりますので、ウクライナ側は変わらない陣容で交渉を続けているということになりますね」
(大吉洋平アナウンサー)
「つまりウクライナ側は、先生の表現を借りると“1軍”を出してきているということになりますよね」
(岡部芳彦教授)
「そうですね。それは変わらずです」
「『トルコ』と『イスラエル』は共に仲介役を期待できる」
(大吉洋平アナウンサー)
「この4回目の停戦交渉は再開となるのか。そんな中、仲介役の国々の動きです。『トルコ』と『イスラエル』。トルコに関しては、3月10日に外相会談が行われましたが進展はありませんでした。一方のイスラエルです。3月14日にイスラエルのベネット首相とロシアのプーチン大統領が電話で会談を行いました。そのときに、プーチン大統領からベネット首相に停戦交渉の状況が伝えられた。ここに関してなのですが、ウクライナのゼレンスキー大統領はイスラエルにロシアとの仲介役としての期待感を示しているんですね。岡部先生は『トルコもイスラエルもどちらの国も仲介役に関しては期待ができる』と見ているんですね」
(岡部芳彦教授)
「はい。実はトルコは伝統的にウクライナの友好国でありまして。理由はクリミア半島にですね、クリミアタタール人というイスラム教徒の少数民族が、これはウクライナ人なんですけれどもおりまして。ウクライナの国会議員だったりもするんですけれども。ウクライナとはすごく関係が近い。そしてロシアとトルコっていうのは、シリアのときはロシア軍機を撃墜するなんてこともあったりして、緊張をはらむけど兵器なんかも買っていてロシアからも信用されていると。そういう意味でも非常に仲介役としては適してるというふうに思います。この外相会談はですね、あとで行われた記者会見でロシアのラブロフ外相が、『戦争はやっていない。マリウポリなんか攻撃はしているけど、あれは軍事施設で病院じゃない』というような言い方をして、逆にロシア側の不正確な情報が明らかになった形になります。イスラエルに関しては、ソ連が崩壊した後に、実はたくさん旧ソ連にはユダヤ系の方がおられまして、イスラエルへ移住をして。例えばイスラエルの選挙のときなんかは、ロシア語の字幕が流れるようなCMが流れたりしますので。その意味でも関係が深くて交渉役にも適しているという形になります。ただ、この戦争が始まった初期は、どちらかというとイスラエルは少しゼレンスキー大統領との電話会談などでネガティブな対応というか、『もう降伏してもいいんじゃないか』とまで言わなかったのかもしれませんけれども、あまり積極的ではなかったので。当初はゼレンスキー大統領も不安を示されていたんですけれども、今は期待感を表明しております」
今後の“日本とロシアとの友好関係”について
(大吉洋平アナウンサー)
「そして、こんな動きもあります。ロシアと日本の自治体の関係性。在日ウクライナ大使館が北海道根室市に書面を送りました。『ロシアとの姉妹都市関係を解消して』とお願いする書面です。在日ウクライナ大使館は先週ツイッターで同様に、ロシアの自治体と姉妹都市関係にある日本の自治体に関係解消を呼びかけました。現在はこのツイートというのは削除されているということです。日本国内でロシアの自治体と姉妹都市または友好都市関係にある日本の自治体って48あるんですね。東京や大阪、兵庫、京都なども含まれるんですが。例えば、大阪市だと『サンクトペテルブルグ市』と関係を結んでいると。もちろん、一応の要件やプロセスというのは必要なんですけれども、姉妹都市の定義に法律的な決まりはありません」
(大吉洋平アナウンサー)
「そんな中、大阪ではこんな動きもありました。3月8日に大阪市はサンクトペテルブルグ市に書簡を送っています。内容は、『一刻も早くロシア連邦はウクライナでの軍事行動を中止し、軍を撤退させ、事態を終結させるべきである。この現在の状況が平和的な手法によって解決され、両市が未来志向で強固な関係を継続できることを強く期待する』というものでした。これに対してロシア側から反応があったことも大阪市は明らかにしています。大阪市の松井一郎市長は、『サンクトペテルブルグ市の責任あるポジションの方からメールが返ってきたが、やはりすれ違っている』と話しました。この詳細、どうすれ違っているのか。なかなか我々には伝わってこないんですが、何かやっぱりすれ違っているという空気感を感じているんだと。『戦争を仕掛ける、そういう国とはお付き合いできないと明確なメッセージが必要だと思います』と松井市長は口にしています。岡部先生はこの辺りの姉妹都市であったり友好関係にある都市だったり、この関係性の変化というのはどういう影響がほかに考えられますか?」
(岡部芳彦教授)
「これは本当に我々がいろんな意味で試されている状況です。例えば、ウクライナ大使館からの要請っていうのは自治体だけじゃなくて大学にも送られていまして、日露大学協会というものに加盟している大学にも送られています。本学にも送られてきました。それで非常に難しいなと思うのは、実は大学に関しては、3月4日にロシア学長連盟の声明として、『今回の戦争に大賛成だ』というような声明文がちょっと出まして。『我々は大学人として東ウクライナでの戦闘を支持する』という声明が出てしまったんですね。それで本学も難しい対応を迫られたんですけれども、4つのロシアの大学と協定を結んでいたんですが、連名でロシアの200ぐらいの大学の学長さんが署名をされていまして、そこに署名をされた大学とは一時交流停止を我々はしておりまして。もちろんロシアと関係を途絶えることもよくありませんし、学術交流というのは普段はこういうことをすべきではないんですけれども。やっぱり戦争賛美というのはなかなか受け入れにくいなというのが正直なところです。先ほどのウクライナ大使館も後にですね、『ちょっとやりすぎた要請はした』というふうに言っておりますので、非常に難しい問題ではないかなと思います」
(大吉洋平アナウンサー)
「本来、その政治の動きと学術交流、そして自治体というのは別で考えないといけない。だけど戦争を肯定するという考えは受け入れられないと」
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