2023年02月13日(月)公開
【北朝鮮】金総書記の長女・ジュエ氏が後継者ではない「男尊女卑」など3つの理由 李相哲氏が解説する「暗躍する現代版海賊」北朝鮮のハッカー集団の狙いは
編集部セレクト
北朝鮮の軍事パレードに金正恩総書記とともに姿を見せた少女の正体は?韓国メディアは金総書記の長女キム・ジュエとの見方を提示。金王朝の継承者としてのお披露目かとみられましたが、龍谷大学の李相哲教授は「年齢が若すぎる」「内部闘争が起きる」「男尊女卑」と言った3つの理由で後継者説を否定します。一方、北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」について日本政府は「暗号資産関連業者が標的にされていると強く推察される」と警戒感を強めています。李教授は「北朝鮮は国をあげてハッカーを養成している。ラザルスは1年で16.5億ドル(日本円にして2145億円)という国家予算の10倍規模を盗み出している」と指摘しています。(2023年2月13日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)
李相哲氏(龍谷大学社会学部教授):中国・黒竜江省生まれで両親は朝鮮半島出身。上智大大学院で博士号(新聞学)取得。 専門は韓国・朝鮮半島情勢分析。「金正日と金正恩の正体」などの著書。
金総書記の長女「キム・ジュエ」と同姓同名の国民は“改名”命じられる
―――金正恩総書記自身は三男ですね、結婚をして、子供が3人いるとなっています。一人目が2010年生まれですから13歳ぐらい。ジュエ氏が10歳、そしてもう1人、2017年に生まれた6歳の子供の、3人いるとされています。それ以上子供がいるという話はないです。
―――そんな中で、最近映像でも注目されているのが、長女と見られるジュエ氏が後継者なのではないかという話です。どうしてなのか、同名の人に改名を強要したから・・・。アメリカ政府系のRFAによりますと、関係筋の話として、ジュエという名前の住人を当局が呼び出し、改名を強要した。「ジュエだったらもう名前を変えなさい」ということですよね。李教授、名前を変えるというのはどういう意味なんがあるんですか?
龍谷大学・李相哲教授: 昔から金日成、それから次の世代の指導者の金正日、それから金正恩にいたって、全て住民からお名前を変えろというような、そういうような指示は出たことがありますね。
―――名前が一緒だとどういうことが考えられますか。
「尊敬するお子様」最高指導者以外に「尊敬」と呼ぶのは異例
聖なる存在、何か権威を傷つけるという意味じゃないんですか。ジュエは今風の名前なんです。昔の日本なら花子とか、そういう名前はですね、北朝鮮の場合は淑女の「淑」に子供の「子」とか、従順の「順」を使ったりする名前が多かったんですけれども、ジュエは割と珍しい今風の名前ですね。
―――「北メディア異例の表現」ということで李先生が注目されてるのが「金正恩総書記が、尊敬するお子様と軍の宿舎に到着」というふうに報じられたということです。北朝鮮で尊敬するという敬称が、最高指導者以外に用いられるのは異例だというですね。
昔はですね、金日成の奥さんに対して尊敬するという言葉を使ったことはあるんです。しかし指導者以外の人に尊敬するという言葉を使ったのはあんまりなかった。ですから異例と言うべきですね。
―――もちろんこれは、撮影をさせて公開させるというところも計算されているのですね?
もちろんです。それがなければ、そのような子はやっぱり出せないですよね。
―――ただなぜこの時期、このタイミングで?ってなるんですけど。
二つの可能性が考えられるんです。やっぱり金総書記が健康状態が芳しくない。しかし逆に、体がちょっともたないという状況だったら、こういうふうに出さないですよね。
もう一つ考えられるのは権力内部でこの「聖なる家族」「白頭血統」(はくとうけっとう)といいますが、血統が純粋なんですね。そこを脅かす何かの勢力を牽制する意味で「わが共和国はこれからもこの聖なる家族・金正恩一家で背負っていくんだ」っていう。それを印象づけるための演出だったんじゃないかと。
長女キム・ジュエが後継者になれない3つの理由
―――金正恩氏が39歳ということなので、李先生は「キム・ジュエ氏は後継者ではないんじゃないか」とお考えです、非常に若い。早いんじゃないかと。
龍谷大学・李相哲教授: 尊敬するという言葉を使ったことにみんな注目しますけれども。例えは悪いかもしれませんが、金正恩が犬を飼ったとしてもそれは尊敬する犬になる可能性があるんですよね。ですからあんまりとらわれる必要は私はないと思いまして。三つの理由はですね。一つは彼がまだ39歳の若い年齢の指導者ですから今後継者を指名するのはちょっと考えられない。彼が何か問題があるんじゃないかってに勘ぐってしまうしね。
―――二つ目は「内部闘争が起きる可能性」で先生は後継者だとは考えていない。「ジュエ」ラインにすり寄る人も、太陽は二つ上らないものだと?
はい。後継者が決まったとすれば、その周辺にまた人たちが集まるんですよね。そうすると一枚岩にはなりにくい。それから三番目も非常に大事です。今の北朝鮮政権の中枢には女性がほとんどいないんですね。金与正氏以外。
しかもですね。まだジュエ氏は10歳です。北朝鮮では最高指導者になれば、党のトップでもあるし人民軍の最高司令官ですね。軍人になるには17歳以上じゃないとなりませんし、党のトップになるには党員にならなければなりません。18歳以上じゃないと党員にもなれない。北朝鮮がいくら王朝のような国だと言っても、一応、社会主義国家ですので今の段階での後継者指名はあり得ないですね。
―――まだまだこの男尊女卑という考え方が強くて、しかも「女の子である」というところからも先生は後継者と考えにくいということですね。ただアピールの仕方を見ると豊田さん、一体どういうことなのかなと思ってしまいますね。
豊田真由子元衆院議員: 逆に、男尊女卑だからしてあげる気持ちもよくわかるんですけど、逆にだからだからこそ早いうちから「この子だよ」っていうふうに決めて既成事実化したいのかなとちょっと思ったりします。
やっぱり北朝鮮って国内外にものすごい不安定で、決して権力基盤が盤石じゃないって自覚してると思うんですよ。だからこそ身内も暗殺されたりとか、幹部も粛清するとかいっぱい権力闘争がある中で、クーデターとかをなるべく起こさせないで、もうこの子なんだよってやりたいのかなと思ったりもするんですが、それがないとすると、逆にどういう意味でこの子が出てきていて、その兄はどうしてるのかなとか、そのあたりをお伺いできたらなと思うんです。
龍谷大学・李相哲教授: 考えられるのは、お兄ちゃんが本命ですから、絶対外には出さない。今ジュエさんを出してもあんまり害はないですよね。権力を奪われる心配もない。それから女性に関する北朝鮮の一般の人々の感覚というのは、北朝鮮の人たちはいまだに昔の古い言葉もよく使うんですよね。「メス鳥が鳴くと家が滅びる」というふうな。普通に使います。
ですから北朝鮮の権力中枢、最高位の30番以内に、女性は1人か2人しかいないんですよ。ですから彼女は軍が統制できませんし、逆に女性だから今出して、ただその意味はですね、やっぱり金一族性のある家族の次の世帯も大事な存在なんだっていう。そのようなメッセージを送ってるんですね。つまり、金正恩の次の世代だったらば、女性だろうがどういう人存在であろうが、特別な存在だという演出だったというふうに思います。
―――いっぽう朝鮮中央テレビによりますと、6日、金正恩総書記が出席した会議で、「戦争準備態勢をより厳格に完備することが決定した」ということです。さらにミサイル総局なる新たな組織も創設されたのではないかということです。李教授によりますと、「戦争準備態勢=実戦配備なのではないか」ということです。
龍谷大学・李相哲教授: そうですね。北朝鮮はずっと戦争に備えて、実験をいろいろやってきました。もう今度は準備を完成するためには、それを実戦に耐えうるような体制を作らなければなりません。それは実戦配備しかないですよね。
―――でもここのところ日本海にたくさんのミサイル発射実験ですよね。この取り組みというのは、戦争準備体制ではなかったということですか?
様々な種類のミサイルを撃ちましたよね。その様々な種類の全てのミサイルに小型化のその核兵器を搭載できるような体制を作って初めて完全な体制になります。最近やたら北朝鮮が見せている長距離弾道ミサイル以外にもですね、直径が大きい、放射砲400キロぐらいの、それもたくさん見せてるんですね。そこにも小型化した核兵器を搭載できるようにする体制を今作っているというふうに見られます。
―――去年の12月に金与正氏は「すぐにやればできる」というふうに発言をしていました。そして潜水艦の発射弾道ミサイル、SLBMの実験ですとか、あとは軍事衛星の打ち上げとか様々なものを実験している?
そうですね、これまで大陸間弾道ミサイルの発射を何度もやりましたけれども、全て高角度の「ロフテット」型の落ち方をしてるんですね。ですから距離はあんまり飛ばなくて高く飛ぶんですが、通常角度で飛ばせばですね、アメリカ近くまで飛ぶんです。
ただ、今専門家が見てるのは通常角度で飛んだ場合に大気圏内に突入するときにその弾頭部分がはねられる可能性がある。だからその技術は北朝鮮ないんじゃないかっていうふうに言われているので、それを「すぐにもうやってみせることができる、私達は技術あるんだよ」っていう話をしてるんですね。
ですから、次やるのはそのような実験じゃないかと。それから北朝鮮が核システムを全部完備するにはやっぱり衛星が必要なんですね。軍事衛星の打ち上げもこの春にはあるんじゃないかって思います。
―――核実験に関しては先生もずっと言われてますよね?
今順番を北朝鮮が考えてるのかもしれません。北朝鮮はひたすら外国に対して脅威になる体制を作りたいんですよね。そのためにはやっぱりICBMが通常通りに機能するというのを見せる必要がある。他に韓国を攻撃できる能力を証明するには小さな核兵器を持たなければならないんですね。
専門家は持ってるというふうに言う人もいるけれども、本当は彼らは実験をしなければ、小型化の核兵器は持つことができないですから、北朝鮮が戦争準備態勢を完成するには小型化した核兵器はぜひとも必要なんですね。
ですから私は核実験は必ずやると。近い将来。ただそのタイミングの問題ですね、これは金総書記の気持ち次第でもありますし、軍事的に考えて順番的にどれがいいかっていうことは、その政治状況にもよりますね。
2千億円超盗み出すハッカー集団「ラザルス」、北の貿易収入の10倍
―――恐ろしいのはミサイルだけではありません。暗躍する現代版海賊、北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」という集団がいます。北朝鮮当局の下部組織とされています。日本では去年12月2日、資産凍結の対象に加える制裁措置を行っています。
―――松野官房長官去年の12月7日の発言では、「日本でも暗号資産関連事業者が攻撃の標的になっていることが強く推察される」ということです。ミサイルとか軍事だけじゃなくてこういったことも、北朝鮮はめちゃくちゃ力入れてやってるんですね。
非常に難しいですよね。彼らはハッキングをする人たちは、北朝鮮でやってるのではなくって様々な国に散らばってやってるんですよね。それが難しいのと、まず彼らは14歳ぐらいから特別教育を受けて国を挙げて今ハッキング集団を養成している。大体6000人ぐらいいるって言われてるんです。もちろんその任務はそれぞれ違うんですが、このラザルスというのは、お金を盗む部隊ですよね。
―――このラザルスが盗んだ金は去年だけで16.5億ドル つまり2000億円以上ということで、貿易収入の10倍以上。
北朝鮮の年間の貿易収入は今2億ドルもないので、それだけ盗んでるんですよね。北朝鮮はこうして得た金で軍事パレードはミサイル核開発を行っているんじゃないか。金正恩一家の贅沢品の調達もそこからやってるんですよね。
―――だから本当に今食糧事情が非常に大変なんですよね?
北朝鮮は3大特別市の一つ開城に餓死者が続出しているという報道があるんですよね。ですからもっと田舎に行くと悲惨な状況であるというふうにも考えられます。
―――国民は苦しんでいる中、こういったことが着々と進められているということです。
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