2021年10月08日(金)公開
「関西演劇界の聖地」が存続の危機...『9000万円の維持費』負担する市と『劇場の存続』望む演劇界
コダワリ
兵庫県伊丹市に『関西演劇界の聖地』と呼ばれる劇場があります。数々の有名劇団が公演を行ってきた劇場ですが、今、存続の危機に直面しているといいます。劇場は伊丹市が維持・運営をしていますが、維持に多額の税金がかかることなどを理由に劇場の閉鎖を検討しているということです。こうした“文化”を守っていくにはどうするべきなのでしょうか。
『名だたる人気劇団も公演』全国からファンが集まる「小劇場」
兵庫県伊丹市にある伊丹市立演劇ホール「アイホール」。10月3日、緊急事態宣言が明けて初の日曜日。この日の公演は全て満席となる賑わいでした。
アイホールは最大300席ほどの“小劇場”ながら、全国から演劇ファンが集まる『関西演劇界の聖地』です。
1988年に劇場が建てられて、俳優の生瀬勝久さんや山西惇さんがかつて所属していた「劇団そとばこまち」や、古田新太さんが所属する「劇団☆新感線」など、全国有数の人気劇団が公演を行ってきました。
アイホールは19m四方の正方形の形となっていて、ホールは3階までの吹き抜け天井となっていて、約20mの高さをいかした演出ができます。照明も天井一面に広がっています。
最大の特徴は可動式の床により客席と舞台を自由に配置ができることです。
(アイホール 山口英樹館長)
「小劇場となるとスペースが限られている中で、非常にぜいたくな空間と言えます。なかなかよそでは見られないような演出やお芝居が見られることが特徴だと思います」
年間9000万円の維持費は「市民の税金のみ」で支える
伊丹市は“劇場都市”を目指してアイホールを開業しましたが、実際にアイホールに訪れたことがあるか、伊丹市民に聞いてみました。
(伊丹市民)
「行ったことはないですね。前はよく通りますけど」
「ないです。子供連れなんで、そんなに利用はしないですかね」
市が行ったアンケート調査によりますと、ホールの利用客のうち、伊丹市民の割合は15%ほどにとどまります。
一方で、市が負担する指定管理料は、年間約9000万円かかります。さらに建設から30年以上が経ち、老朽化していて追加の設備投資費用が約4億円かかることも判明しました。
この状況について伊丹市の担当者は次のように話しています。
(伊丹市施設マネジメント課 野中考志課長)
「全国に名だたるような施設を“伊丹市民の税金のみ”で毎年の指定管理委託料が9000万円で支え続けることに従前から課題があった。何も検討せずに続けるのはいかがなものかというのもありまして、まずは検討と」
また、阪急とJRの伊丹駅周辺にはアイホール以外にも「東リいたみホール」と「伊丹アイフォニックホール」の2つのホールがあり、市はそこでも演劇はできると主張します。そこで伊丹市は今年6月、劇場の閉鎖も視野にほかの使い方ができないか、民間に公募を始めたのです。
“文化”を残すためには市民の理解がなくてはならない
9月14日にアイホールの存続を求めて、『日本劇作家協会会長』の女優・渡辺えりさんが伊丹市役所を訪れて、藤原保幸伊丹市長に直談判を行いました。
(渡辺えりさん)「小劇場は本当に、本当に大事だと思うんですよね」
(藤原保幸市長)「ただ人口20万人の伊丹市が、日本の演劇文化を支える、市民の負担で支えるというのは荷が重いなと、それが私の本音だということで。文化を残すためには市民の理解がなきゃいかん、市民のサポートがなく支持がない施設というのは潰さないといかん時代が来るだろうと」
(渡辺えりさん)「でも絶対諦めない、潰したくないですね」
市民の利用率が低い、裏を返せば市外の来訪者が経済効果を生んでいると渡辺さんは主張しますが…。
(渡辺えりさん)「お客さんが市外から大勢来て、うどんを食べたり、そばを食べたり、飲んだりとか…。その効果もありますよね?」
(藤原保幸市長)「公演は週末の夕方(だけ)。1日通年的に人が来る施設にしたほうが経済波及効果は高いということになりまして」
(渡辺えりさん)「市民が使っていないということが一番の問題ですか?」
(藤原保幸市長)「それと市民が負担していることも知らない方が多いだろうということです」
(渡辺えりさん)
「いい劇場があることが、伊丹市の人たちがほとんど知らないということがすごくショックで。こっちはもう何十年も前から自分の作品をやっていただいて、それを見に来て『ああいい劇場だな』と思って帰っていたわけですね。小劇場を支えていくという意味でも(アイホールを)存続する力になれればと改めて思いました」
演劇人たちは「アイホールの存続を望む会」を立ち上げて、廃止に反対する署名活動を始めました。この会の発起人で25年ほど前から毎年アイホールで公演を続ける劇作家・平田オリザさんは、劇場を守るべきだと訴えます。
(劇作家 平田オリザさん)
「(Qここがなくなると?)10年後30年後の関西の演劇界にとって深いダメージになるでしょうね。当然議論はするべきだと思うんですよ。ただその時にその議論が、短期的な行政の収支だけでは教育や文化に関しては非常に危険なのではないか」
一方で、市民だけが負担し続ける現状には疑問を投げかけます。
(劇作家 平田オリザさん)
「関西の演劇文化の中で、アイホールの役割が非常に素晴らしいということは誰でもわかるわけです。でも伊丹市民からしたら、なぜそれを伊丹が担わないといけないのかということは、理屈は通らないですよ、現実には。だから本当は周りがもっと支援するなり、国がもっと積極的に支援する必要があるでしょうね」
関西演劇界の聖地。存続するのか、廃止するのか。誰もが納得できる結論はどこにあるのでしょうか。
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