2022年01月19日(水)公開
第5波で相次いだ『自宅放置死』去年8月~9月に自宅で死亡したコロナ患者は132人と判明...遺族の想い「助けられたんじゃないか」
コダワリ
新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、去年8月~9月にかけての第5波のときは、入院やホテル療養が間に合わず自宅で死亡する事例いわゆる『自宅放置死』が全国で相次ぎました。亡くなった患者の遺族らは「本来は助かる命だったのでは」という無念の思いを今も抱いたままです。
保健所が訪問したときには亡くなっていた弟
大阪府内に住む高田かおりさん(47)。弟の善彦さん(当時43)は去年8月に沖縄県那覇市で新型コロナウイルスを発症して、その後、自宅で亡くなりました。
(弟の善彦さんを亡くした高田かおりさん)
「なんでって。どんな亡くなり方でも悔しさしか残らないのはあると思うんですけれども、ただ助けられたんじゃないかなという悔しさ」
亡くなった善彦さんは大阪から沖縄に移住して居酒屋を経営。穏やかな性格で多くの友人に慕われていたといいます。
善彦さんの死後、かおりさんが保健所などから聞き取ったメモによりますと、善彦さんがコロナを発症したとみられるのは7月27日。その9日後となる8月5日に陽性が確定して、保健所は6日と7日に電話をしましたが、電話はつながらなかったといいます。
そして8日も同じく電話がつながらなかったことから、保健所が1人暮らしのアパートを訪問したところ、善彦さんはすでに亡くなっていました。
(高田かおりさん)
「8月6日の日付の総菜が腐っていましたと。誰かに『大丈夫ですか』『頑張ろうね』『助けますから』とか、そんな言葉すらかけてもらえずに、たった1人で生きようと思って買った惣菜すら食べられず」
当時、新型コロナウイルスは第5波の真っ只中。沖縄県では8月上旬、新規感染者数は最大で1日600人を超え、自宅療養や入院待機中の人は4000人近くに上りました。かおりさんは保健所から「手が回らず訪問ができなかった」と言われたといいます。
(高田かおりさん)
「訪問しなかったのが2日以上、24時間以上どころじゃないので。別に保健所の人が行かなくても、何かあったん違うんと。せめて『大丈夫ですか』と誰かに声をかけてもらうことすらしてもらえなかった人生、なんも悪いことしていないのにってやっぱり思いますよね。なんにも悪いことしていないんですよ」
持病があり入院を希望したが「自宅療養」と判断され亡くなった父
同様の事例は埼玉県でもありました。さいたま市に住む西里優子さん(27)。
第5波が襲った去年8月、父親の昌徳さん(当時73)を自宅で亡くしました。
(父親の昌徳さんを亡くした西里優子さん)
「お父さん本当にどこにもつながらなくて心配で、友達にいっぱい電話かけたりとか、『どうしよう入院できない』とか『僕の身に何かあったらお母さんと優子のことを頼むね』とか、相当不安だったと思うんですよね」
昌徳さんの陽性が判明したのは8月8日。かつて大動脈かい離を患い、高血圧の持病もありましたが、保健所からは「息苦しさがないこと」などから自宅療養を続けるよう指示を受けたといいます。それでも入院を希望した昌徳さん。何度電話するもつながらず、陽性判明5日後の8月13日にやっと連絡がついたものの、保健所の自宅療養の判断は変わりませんでした。その日の夜に昌徳さんは亡くなりました。
(西里優子さん)
「『それくらいなら大丈夫って言われちゃったから入院できなかったよ』と言われて。本人が助けを求めて声を上げていたのにそれすらも聞き逃されて。自分から入院したいって相当辛かったと思うんですけど、判断が間違っているんじゃないかなと思っちゃうんですよ、どうしても。どうしても納得はできないですよね」
父親の死後、西里さんは保健所から、入院できなかった理由について「目立った症状はありませんでした。病床も足りない中、やれることはやりました」と言われたといいます。
(西里優子さん)
「父の既往歴とかも知っている中で、なんで軽症って判断しちゃったんだろう。私たち本当に平等な医療を受けられるって信じて今まで生きてきたのに、大事なお父さんなのになんでこういう冷たい対応だったんだろう」
コロナ感染した親族を自宅で亡くした2人『自宅放置死遺族会』を結成
去年9月、その西里さんに出会ったのが、弟を亡くした高田さんでした。
2人は遺族会を結成。名前は『自宅放置死遺族会』と名付けました。
(高田かおりさん)
「放置されちゃったんですよ。放置されなかったら亡くならなかったんです。きっと」
厚生労働省は、去年8月~9月の2か月間で、新型コロナウイルスに感染後に自宅で死亡した患者数を56人と発表していました。高田さんや西里さんと同様に多くが適切な医療を受けられずに死亡したと見られています。
医師から行政対応に疑問の声も
去年12月上旬、遺族会は初めての会議をオンラインで開催。参加した医師からは行政の対応に疑問の声が上がりました。
【オンライン会議でのやりとり】
(大阪府内でコロナ治療に従事する水野宅郎医師)「(大阪府の場合)65歳以上であれば必ずリスクなので高齢なら即動くとは思いますけどね」
(西里優子さん)「自治体によって対応が本当に違うんだなとわかりました」
(水野宅郎医師)「ちょっとひどいなと思いました」
自宅放置死遺族会は行政に対して自宅放置死の実態について検証をした上で対応を改善するよう求めたいとしています。
これまでの発表人数の2倍以上の「自宅放置死」が明らかに
その5日後、国会でも動きがありました。遺族会の活動を知った議員が「自宅待機中のコロナ患者の死亡を検証するべき」と総理に提言しました。
【去年12月13日の衆議院予算委員会】
(立憲民主党 長妻昭議員)
「入院すれば助かった方がですね、この日本で入院できない、それでお亡くなりになる。これぜひですね、検証していただきたいんですよ」
(岸田文雄首相)
「深刻な事態であったと受け止めています。その実態把握について、政府として今現在どういう状況にあるのか、私も確認してみたいと思います。そういった声も大変重要な声であると考えます」
総理の指示を受けて厚生労働省は再度調査を実施。すると第5波があった去年8月~9月の2か月間で、新型コロナウイルスに感染後、自宅で死亡した患者数は132人に上っていたことがわかりました。これまで発表していた56人の2倍以上となる自宅放置死の実態が明らかになったのです。
「守れるものは守れる社会であってほしい」
第6波では、自宅療養者は1月12日時点で全国で1万8708人と再び急増しています。弟の死が教訓として生かされないまま、また自宅放置死が相次いでしまうのではないか。高田さんは危機感を強めています。
(高田かおりさん)
「性格的に、自分が亡くなったことが悔しいと思うかなあの子、と考えたら、『悔しい』よりも今は『無駄にせんといて』と思うでしょうね、きっと。みなさん大事な1個しかない命やから、守れるものは守れる社会であってほしいと思います」
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