2023年01月12日(木)公開
「虐待の話もここだと引かれないし共感される」東京・トー横や大阪・グリ下『漂流する若者たち』が語る胸の内...「案件でお金を貯めてネイリストに」
特命取材班 スクープ
夜の街を漂流する若者たち。大阪・ミナミのグリコの看板の下、いわゆる『グリ下』。そして新宿・歌舞伎町の東宝シネマズの横、『トー横』。どちらも若者のたまり場になっている。なぜ彼らはそこに集まり続けるのか?取材を続けて見えてきた実態とは。
大阪・グリ下の若者を取材…しかし「帝王がいないので答えられない」
大阪・ミナミの戎橋の下にその場所はある。グリコの看板の下、略して『グリ下』。2021年の夏ごろから若者たちのたまり場になっている。
この場所に何を求めてやってくるのか。去年8月、取材班はグリ下に集まる若者たちに話を聞いた。
(記者)「こんにちは。みんな何歳?」
(若者)「何も答えられない」
(若者)「人がいないんで。“一番上”の人が」
(記者)「一番上の人がいない?一番上ってどういう?」
(若者)「偉い人」
(若者)「帝王ってやつが今いないので。トップが今ここにいないので。基本的にそいつにいろいろ決めてもらっているんで」
取材した日の午後5時、集まっていたのは9人の男女。グリ下には帝王と呼ばれるリーダー格がいるという。
(記者)「みんなはどういうつながりがあるの?」
(若者)「ここで出会っただけ」
(若者)「公園でおばあちゃんおじいちゃんが仲良くなっているのと同じ」
(記者)「おうちの人は心配しない?」
(若者)「しないしない」
家庭の話をすると、あからさまに表情を曇らせた。時間をかけて彼らの心の内を探る。
「ここを奪われると困る」彼らにとっての『グリ下』
日が沈み、川面に揺れるネオン。大人に対する不信感が渦巻いていた。
(若者)「もうええやん。ただ単に困っている子がいるから集まっている、ただそれだけでええやん。もうグリ下に関わらんといてほしい、大人」
タバコを手に声を荒らげる男性。事情を尋ねると少しずつ話をしてくれた。
(記者)「お兄さんはどういう事情があった?」
(若者)「家庭ですね、普通に。話を聞いてもらえなくて、親に。困っていることとか相談に乗ってもらえなくて」
(記者)「お兄さんにとってグリ下ってどういう場所?」
(若者)「ほんまになんやろ…一個の居場所。ほんまに居場所。ここを奪われると正直困ります。仲良くなった子もいるし。ここに集まるのが間違いなのはわかっているんですよ、みんな。でも集まれる場所がここにしかない」
(記者)「ここにいっぱいいるけど、全員、名前と顔はわかる?」
(若者)「わかる子もいるし、新しく来た子とかもいるから」
(記者)「でも、何となくみんなつながっている?」
(若者)「そうじゃない?」
似た境遇を持つ者同士が、緩やかに、それでいて確かにつながっている。そんな実感を持てる場所がグリ下なのだという。
「家庭環境が最悪じゃない人いないよね、ここに」
午後10時に話を聞いた若者たちもまた、家庭環境に深刻な問題を抱えていた。
(記者)「なんでここにいつもいるの?」
(若者)「暇つぶしです。実家に帰ると殴られる。だから家を出たし、友達の家にいるし」
(記者)「誰に殴られる?」
(若者)「親です。お父さんです。だから16歳になって原付の免許とか取って、それでもう逃げてみたいな。それでもなんか捜索願も出されたことないし」
(若者)「だいたい家庭環境、最悪だよね、みんな。家庭環境、最悪じゃない人いないよね、ここに。だいたい虐待とかあるじゃん」
午前0時。道端には大量のたばこの吸い殻。
(記者リポート)
「またここに戻ってくるという意思表示なのでしょうか。カバンが置き去りになっていますね。荷物の量を見れば、彼らが家出をしてきたと容易に想像できますね」
15人ほどがグリ下に戻ってきた。するとそこへ…。
(記者リポート)
「大阪府警の警察官がグリ下の少年たちのもとへと向かって歩いていきます。補導するのでしょうか」
身分証を提示させて年齢を確認する警察官。すぐさま一人の少女が保護された。周りにいた仲間に聞くと、その少女は11歳だったという。
東京・歌舞伎町では…「トー横はキショ溜め」
東京にもよく似た場所がある。新宿・歌舞伎町の『トー横』と呼ばれるエリアだ。去年11月、取材班がトー横を訪れた。
(記者リポート)
「すぐ横には警備員もいるんですが、そのすぐ目の前で若者たちが集まり、何をするでもなく時間を過ごしています」
東宝シネマズの横にあるのが、トー横と呼ばれる所以だ。グリ下よりも歴史は長く、3年ほど前から行き場を失った若者たちのたまり場になっている。
(記者)「親は心配しない?」
(少女・16)「縁切っている」
(記者)「なんで?」
(少女・16)「虐待。虐待と借金とか、そういう都合で。言葉もあるし、歯を折られたりとかそういう暴力もあるし」
(記者)「トー横ってどういう場所?」
(少女・16)「キショ溜め」
(記者)「キショ溜めって何?」
(少女・16)「気色が悪いの溜め=キショ溜め。本当に気持ちが悪い人たちが集まっているだけ。社会から逃げたりし続けているヤツの集まりだと思うし」
(記者)「でもそこに来てしまうでしょ?それはなんでなの?」
(少女・16)「一人だとやるせなくて。何もできないから。下を見て安心しているみたいな」
スーツケースに荷物を詰め込んでやってきた若者も。
(記者)「どこから来たんですか?」
(男性・20)「北海道です」
(記者)「どういう理由で?」
(男性・20)「親の虐待。虐待・殴る・蹴る・首絞める・噛む・投げる、そんな感じ」
(記者)「それに耐えられなくなって、地元を離れて東京に来たんだ」
(男性・20)「そうですね」
アルバイトで貯めたお金はすでに底をついた。「路上で夜を明かすことに対してもはや抵抗はなくなった」という。
自殺願望ある若者が『風邪薬の過剰摂取』で搬送される問題も
午前1時、突然の雨に慌てて屋根の下へ駆け込む。
(男性・19)「お金ある人はネカフェで泊まったり、ホテルを取ったりする。ない人は、こうやって立ちんぼですね。僕ニートなので今」
(記者)「働こうとか、そういう気はない?」
(男性・19)「なんかね、ここに来ちゃったら、やる気がなくなっちゃって」
広場には無数のゴミが散乱していた。
(記者リポート)
「若者たちが座っていた場所に薬の残骸ですね。メジコンという咳止めの薬です」
今トー横では、自殺願望のある若者たちが、市販の風邪薬を過剰摂取して病院に搬送されるケースが相次いでいる。
案件(売春行為)で生きる少女…その中で語る夢
雨上がり、一人の少女が重い口を開いた。母親から虐待を受け、中学卒業と同時に家を出たという。
(少女・15)「要は同じ境遇の子と一緒にいたいって感じですね。虐待とかの話って通じないじゃないですか。みんなに言っても『え?』ってなるじゃないですか。ここだと引かれないし、逆に共感されるんで」
母親は離婚と再婚を繰り返していて、少女には「帰ってこなくていい」と告げたという。
(記者)「今日はこの後どうするんですか?」
(少女・15)「この後は野宿します」
(記者)「ここで?」
(少女・15)「その辺で」
(記者)「危なくない?」
(少女・15)「お金ないんで」
(記者)「風呂とかはどうしているんですか?」
(少女・15)「『案件』でラブホ行くじゃないですか、その時に『先にお風呂入っていいですか?』って言ってお風呂に入ったりしています」
少女の言う案件とは売春のことだ。
(少女・15)「やっぱ…そういうことをする時、おじさんじゃないですか、相手って。だから結構、精神的にはきついですけど、でもやらないと生きていけないしみたいな葛藤はあります」
(記者)「将来、どうしていこうと?」
(少女・15)「やり方的には犯罪ですけど、案件(売春行為)とかでお金を貯めて、専門学校に行ってネイリストになってちゃんと働こうかなとか思っています」
自らを危険にさらして命をつなぐ少女。腕に刻まれた無数の傷あと。
(少女・15)「いつも死にたいと思っているから、切ると、今日もちゃんと生きていたんだ偉い、と思って」
居場所を求めて、夜の街を漂流する若者たち。このまま見て見ぬふりをし続けるのか。重い課題が突きつけられている。
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