■あらすじ
デザイナーを夢見て都会に出たあかりだったが、41歳になる今も、小物を置いてくれる店を探しては細々と仕事をもらっている日々。
その夜も遅くまで過労をおしてミシンかけを急いでいたあかりは、突然の激烈な頭痛に倒れる。
生死の境界に浮流しながら、あかりが不思議な夢を見る。
放送局からかかってくる、覚えのない懸賞当選の電話。
賞品の海外旅行先で起こる殺人事件。
その事件の犯人に仕立てられ、死刑判決を受けてしまう夫。
国外追放の列車に放り込まれた、あかり。
降りた覚えもないのに、深い森の駅のベンチに掛けている、あかり。
いつから持っていたのか、手の中には鏡面に980tiMと読める刻印のある、ホテルキー。
ベルボーイに導かれるまま、辿り着いた先は、威容を誇る不気味なホテルだまし絵のように、昇っても昇れず降りても降りられない階段、鍵穴のないドア、消える客室、さまよう客たち・・・・・・・・
そこは実は、観光開発のバブルに踊らされ、ずさんな工事の果てに廃墟と化した、河口堰のありさま。
遡上の道を断たれた鮭たちの、魂の墓場だった。
「貴女をここへ呼んだのは、私たちです」と鮭たちが打ち明ける。
「なぜ私をこんな所に」
「貴女も、貴女の川をお探しでいらっしゃいますから」
故郷へ帰れない鮭たちの嘆きと戸惑いが、自らの故郷へ帰れない哀しみと重なった時、あかりは、この牢獄のような堰の正体に目をこらす。
「この残酷な廃墟堰は、もしや、本来の遡上の川から何処かで無理に転轍された、人工の支流なのでは・・・・?」
鮭たちの水の線路にあった筈の転轍機を探し回る、あかり。
ついに轟音と共に開く水門。
水しぶきの中を、生まれた川へと遡って行く鮭の魂たち。
水に呑まれ押し流されるあかりの腕を、誰かがつかんで遡る。
気がつくと、保険調査員と称する男に腕をとられて、あかりは、あの法廷に立っていた。
仕組まれた冤罪であったことを主張する、調査員。
しかしそれは、あかりが被告を赤の他人として証言できる場合にのみ初めて成立する無罪だった。
夫としての彼を失いたくないか。
他人として別れてでも彼を生かしたいか。
最後の選択を、あかりは述べる。
「ええ、私たち、他人です」
夢から醒める、あかり。
床に倒れていたのは、どれくらいのあいだだったのだろう。
不思議な夢を振り払って、仕事机に戻って行く。
その机は本格的なデザイナーの裁断机。
あかりの姿は、中堅どころのプロデザイナー。
ここが、倒れた時とは違う世界であること、つまりあの水の線路が命の線路でもあったことに、あかりは気づいているのだろうか・・・・・・・・・・。
生と死の境を、己の影と共に旅してゆく、あかり。
すべては、銀河鉄道に運ばれてゆく、命たちの終わりなき旅の物語である。
DVD『夜会vol.13「24時着0時発」』
ブックレットより抜粋
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