新年度はじめの番組は「自殺率の低い町」の密着です。和歌山県立医大に勤務する研究者の調査結果をもとに、生き心地のいい町とはどんな町なのかを探求します。はたしてどこまで映像化が可能なのか、手探りの取材が続きます。
徳島県・旧海部町(現海陽町)。サーフィンの名所で知られるこの小さな町は「自殺者の少ない町」で知られるようになりました。自殺者の多いエリアや原因を探る研究は山ほどありますが"少ない理由"を分析した研究は皆無でした。和歌山県立医大の岡檀(まゆみ)さんの著書「生き心地のいい町」は旧海部町の自殺の少ない理由を分析していて、増刷を重ねています。この本では自殺予防因子を5つ挙げています。
私たちは岡さんの研究を軸に旧海部町を訪ね歩き、「もしかしたらこれかも...」という場面を撮り続けています。海部の人たちは自分の考えをはっきり伝え、上下関係なく話し合う空気があります。「病、市に出せ」という、この町に古くから受け継がれるいい伝えがあります。病気や悩み事を隠さずにオープンにしていくことで、様々な問題を解決してきたそうです。「プライバシーがない」と苦笑する人もいますが、世話好きで細かなことを気にしない人が多いのかもしれません。ときどき訪れる食堂の店主は重たい荷物を持つカメラ助手の女の子を見て、私に「あんた、持ったらんかいな」と突っ込んできます。ルールや決まりごとに息苦しさを感じることが多い今、この町のそんな空気はなぜかいつも心地良いのです。これを見習えば自殺を予防できる!それを番組で伝えることはできません。ただ観ている人のこころが少しでも和み、心地いい生き方について考えるきかっけになればと思います。
月1回、それも日曜日深夜の放送という地味な番組ながら、ドキュメンタリーファンからの根強い支持を頂いており、2020年4月で放送開始から40年になります。
この間、番組は国内外のコンクールで高い評価を受け、芸術祭賞を始め、日本民間放送連盟賞、日本ジャーナリスト会議賞、更にはテレビ界のアカデミー賞といわれる国際エミー賞の最優秀賞を受賞するなど、輝かしい成果を上げてきました。また、こうした長年にわたる地道な活動と実績に対して、2003年には放送批評懇談会から「ギャラクシー特別賞」を受賞しています。
これからも「地域に密着したドキュメンタリー」という原点にたえず立ちかえりながら、より高い水準の作品をめざして“時代を映す”さまざまなメッセージを発信し続けてまいります。