ドラマのモデルとなった田村恵子さん。日本のホスピスの草分けでもある淀川キリスト教病院のホスピスナースとして、25年を過ごされて来ました。がん看護の専門看護師としての田村さんのお話は、人の生から死へのはざまを象徴するような含蓄があります。田村さんからお伺いしたお話を一部、ご紹介します。
◆ 患者さんは本当の意味で辛いことや苦しいことをわかっているから、だんだん人生の顔になってくるんですね。ここにいると、もっと前の人生でいい時期のその時の顔になる。人は仕事をしている時は仕事の顔になったりするけれど、日々の暮らしに追われている人にはないものが出てくる。ここにいると人生のことだけ。価値のあるものとないものを見分ける力がある。本当に大事なものを見つけた人は、本当にやすらかに逝かれる。大事なものがいろいろあっても、向こうには持っていけない。そんな人は少しずつ”引き剥がされてゆく”感じ。辛いけど、引き剥がされることで身軽になっていく。その次の思いが出てくる。次第に遠浅の海になってゆく感じです。ゆるやかな波が最後まで続いてる。最後は引き潮ですね。
◆ 痛みが強くなると、イコール病気が悪くなっているということを感じて、頑張ろうとする人もいますが、痛みには波があるし、やがて収まる。痛みがひどい時に病気と闘ってエネルギーを使ってもしかたないから、その時は病気にまかせて、波に乗っていきましょうといいます。
◆ 「どんな時も人は希望を持っている。それを見つけ出す力がある」と私は思います。私たちはその探し物のお手伝いをしているだけ。病気があったり、悩みがあったりすると、それに隠れてしまって、見えなかったり、気づかなかったりする。それを一緒に探す感じです。
◆ 「頑張ろう」っていうのは、すごく大事だと思う。本当にその人の痛みがわかっていれば、言うべき時に言った方がいい。まったく知らない人に突然言われても受け付けないだろうけど、私は患者さんに聞いたことがあるんです。「頑張ろうって言われたらどう?」って。そしたら「田村さんに言われるんならいい」と。気心の知れた人に言われるのはいいんです。
◆私たちのケアの基盤になっているのは、「人の生は有限なんだ、私もそうなんだ」ということ。「私もいずれ死ぬのよ、同じなのよ」と。そこが一緒だと思っているから、(患者さんの前で)たじろがない。たじろぐことはないです。
◆(日本的な)察してわかる文化はすてきだと思うけど、聞いてみてわかることもあるんです。聞いてみて初めて表情と違う思いが心の中にあるのがわかったことも。ホスピスでは、月に一度、「イベント食」が出るんですが、その時は、皆さんに食べたいものを聞いて回ります。食欲がなさそうに見えて、「ステーキが食べたい」という人もいれば、「何でもいい」と最初怒っていても、「何か決めて」というと、「この前の寿司がおいしかった」と。聞いてわかることは聞いて、伝えることも大切なんです。
田村恵子さんプロフィール 1957年和歌山県生まれ。 聖路加看護大学大学院前期博士課程修了。大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。がん看護専門看護師。1987年から淀川キリスト教病院勤務。現在、ホスピス主任看護課長。がん患者、家族へのホスピスケアに精力的に取り組み続けている。著書に「また逢えるといいねホスピスナースのひとりごと」(学研)、「余命18日をどう生きるか」(朝日新聞出版)がある