演劇と映像の垣根を越えて
名だたる俳優たちを魅了する30歳
実力ある俳優たちが、こぞってその人の作品に出たいと願う。脚本家や演出家にとってこれほど冥利に尽きることはないだろう。加藤拓也はそんな存在だ。ここ数年、彼の作品に関わった俳優の名前を挙げるだけで、大作映画が何本もできてしまうほど。
演劇のフィールドからスタートし、今やテレビドラマや映画の脚本・監督も務め、唯一無二の世界観を持つ作品を生み出し続けている。魅力は、人間関係の機微を描き出すリアルな会話。時にはお互いの不倫が露呈し、破綻した関係を続ける夫婦。時には意図せぬ妊娠に戸惑う大学生カップル。30歳という若さで、なぜこうも様々な局面に立たされた人間の心情を、痛切なリアリティで描くことができるのか。岸田國士戯曲賞の選考委員を務めた野田秀樹は「人物描写が巧み」で「人間の普遍性にまで届いている」と賛辞を惜しまない。
取材が始まったのは2年以上前。気鋭の脚本家を取材するからには脚本執筆の様子を撮影させてほしいと、顔合わせの席でオーダーすると「これから書く脚本の初演は2年後、ロンドンの劇場です」との答え。これは腹を括るしかないと2年越しの取材が始まった。
その間にも門脇麦主演の映画「ほつれる」、安達祐実主演の舞台「綿子はもつれる」、堤真一主演のドラマ『滅相も無い』など、取材先には豪華な俳優陣と彼らを演出する加藤の姿があった。
そしてロンドンでの舞台上演に向けた、オリジナル作品の執筆。物語の設定は月面移住が現実のものになろうとしている近未来。加藤は入念なリサーチを経てプロットを固めてから、1日に2ページほどというペースで執筆を進めてゆく。そこで取材カメラは、知られざる創作過程と意外な横顔を見ることになった。
なぜ加藤は俳優たちから愛されるのか?なぜリアルな会話を紡ぐことができるのか?そのヒントが、最小限の家財道具しか置かれていない1LDKの部屋に詰まっている。
Takuya Kato
1993年、大阪生まれ。「劇団た組」主宰。17歳でラジオの構成作家を始め、18歳の時にミュージックビデオの撮影でイタリアへ、映像演出について学ぶ。日本に帰国後、演劇関係の知人が集うシェアハウスに住み、演劇と関わりを持ち始め、その後「劇団た組」を立ち上げ舞台演出を始める。近年はテレビドラマの脚本・演出、映画の脚本・監督も務め、国内外で数々の賞に輝いている。
第10回市川森一脚本賞受賞 NHK「きれいのくに」(2022)
第26回鶴屋南北戯曲賞ノミネート 舞台「もはやしずか」(2023)
第30回読売演劇大賞演出家賞部門 優秀賞 舞台「ザ・ウェルキン」「もはやしずか」(2023)
第67回岸田國士戯曲賞 舞台「ドードーが落下する」(2023)
第45回ヨコハマ映画祭 森田芳光メモリアル 新人監督賞受賞 映画「ほつれる」(2023)
ナント三大陸映画祭 DISTRIBUTION SUPPORT AWARD 受賞 映画「ほつれる」(2023)
バレンシア国際映画祭 -Cinema jove- 長編映画部門グランプリ 映画「ほつれる」(2024)
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