BLOGフォトストーリー2022.03.16

珈琲をのみながら、手紙を書く人。第7話

スマート珈琲店で文先輩に書いた手紙の行方もわからず、先輩からの返事もない。

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あらためて手紙を書いたとしても、スマート珈琲店で書いた手紙を「タマゴ」が先輩に渡していたら、「コーヒーでもご一緒しませんか」というお誘いがあるものとないものが届くことになる。それは恥ずかしい。

そんな事を思っては別のことを考え、思っては別のことを考え、それを何日も繰り返していたある日、鴨川デルタの亀石あたりで橋の上にいる猫が目に入ってきた。

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「タマゴ」だ。よく見ると封筒をくわえている。

私は急いで橋に上がり、「タマゴ」を追いかけた。封筒をくわえた「タマゴ」は足早に青信号をわたって、枡形商店街に入っていく。そして、かわいい足さばきで茶色の扉をすり抜けていく。そこは出町座という映画館だった。

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中に入ると、「タマゴ」はカフェのカウンター席にちょこんと座っていた。壁にはちょうど観たかった映画のポスターがある。私は券売機の珈琲のボタンと一緒に映画のチケットのボタンも押した。始まるまで30分ほどある。

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カフェでコーヒーのチケットを渡し、「タマゴ」の隣の椅子に座り、くわえている封筒を見て気がついた。私が書いた手紙ではない。半透明の封筒から見える包み紙は、猫の柄ではなく、いつも文先輩が送ってくれる縞模様のものだ。


杏実さんからの返事が届かない。
私の手紙も届いていないのだろう。

あらためて手紙を書き、宛先も宛名も書き、切手も貼って送ろうかと悩んでいた矢先、賀茂大橋の下で杏実さんが以前飼っていた猫の「おいも」と出会った。目が合った後、私が歩を進めると足元まで寄ってきて、止めると踵を返した。

ついてこいということなのだろうか...。

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足早に進んでいく「おいも」を小走りで追いかけてみたが、その速さにじき姿を見失ってしまった。あきらめて立ち止まると茶色の扉が目に入った。扉のガラス越しに目を凝らすと、カウンター席に猫がいる。さらに目を凝らすと「おいも」ではなく「タマゴ」である。

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私は券売機でコーヒーのチケットを買い、「タマゴ」の隣に座った。棚を埋めるたくさんの本に囲まれた空間でコーヒーをのむ。

一息ついた私はさっきまでの「おいも」の目撃情報を伝えるため、杏実さんに手紙を書くことにした。

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鞄から便箋と万年筆を取り出して、手紙を書きはじめようとした時、隣に座る女性と目があった。

その女性がやさしく話しかけてきた。

「素敵な万年筆ですね。」

(おわり)


珈琲をのみながら、手紙を書く人。第6話はこちら

作:渡辺たくみ(nidone.works)
イラスト:やまもとかれん(nidone.works)
写真:マツダ ナオキ
文(ふみ):コニシムツキ
杏実(あんみ):日下七海(安住の地)

出町座のソコ

京都市上京区三芳町133 出町座1F
075-203-9862
営業時間9:30~19:00(時短営業中)
https://demachisoko.theshop.jp/

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