食知新ブログ
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.05.21
「Osteria S.Puro」-「祇園ゆやま」の湯山猛さんが通う店
「祇園ゆやま」 湯山猛さん熊本県出身。大阪の寿司店を皮切りに、京都の名料亭「伊勢長」や「河富」で修業し、34歳で「先斗町ふじ田」の料理長に就任した。モットーは「料理屋は料理だけでは成り立たない。料理、雰囲気、そして何よりも人」ということ。この3つが揃って初めて、お客様にとって本当に良い店となりうるという湯山さんは、自身の店にもその考えを大切に貫いている。今も仕入れは自分の目利きで行い、季節の彩りを豊かに表現する日本料理38年のベテラン。 五条通西大路をさらに西へ。巨大ショッピングモールのすぐ近くのビルの2階に店を構えるオーナーシェフ徳江聡さんと友香さん夫妻は、自分たちの店をオープンして4年目を迎えたばかり。 徳江さんは福島県生まれ。若い頃、故郷のスパゲティ店でアルバイトをしていた頃から、「料理って面白い!」とのめり込んでいったそうだ。24歳の時に縁あって京都へ。イタリアン・リストランテやフレンチの名店で修業を積み、2018年、42歳の時に自宅から程近い、この地に店を開いた。「イタリアンとフレンチの両方の世界を知っているので、自分らしく融合させた料理をお出ししたいと考えています。あとは場所柄、あまり気取りなく、リラックスしていただきながらも、きちんとしたレストランの雰囲気とおもてなしを提供したいと思っています」と徳江さん。「最初はうちの近所で洋食でも食べようかとすごく気軽な感じで家族で訪ねたのですが、まず前菜を食べてそのおいしさに驚いて、コース料理を食べるほどに、どんどん徳江シェフの味にハマっていきました。グラスワインでいいかなと思っていたけれど、これはちゃんとボトルの良いのを頼んで、しっかり味わわないともったないぞと...(笑)。今では、記念日とか大切な集まり、といえば、必ず寄せていただいています。いつも期待以上の素晴らしい料理を出してもらっています」と湯山さんは絶賛する。「湯山さんにそんなことを言っていただくと照れます...」と、はにかむ徳江シェフ。その表情に実直な性格が窺い知れる。 料理はまず食材ありき、と徳江シェフは考えている。野菜にしても魚介にしても肉にしても自分自身がしっかり素材を見て、信頼できて納得いく食材を揃えることがこの仕事の第一歩だという。 野菜は亀岡の農家から、肉は亀岡牛や丹波牛のメス肉のみ、さらに京都ポーク、そして、魚介は家からも店からも近い中央市場の馴染みの魚屋から仕入れる。 特に亀岡の農家、栗山大(ひろし)さんとは、親交も深く、いつ行っても「今が最高に美味しい野菜」をたっぷり譲ってもらうそうだ。「とにかく、鮮度抜群で、甘い、香りがいい、濃いの三拍子の野菜たちで、大地の力が漲っていて...。しなやかでふくよかで、どんな料理にしようか、いつもワクワクするんです」盛り付けの一つひとつ、細やかなところまで心を砕く徳江シェフ。妥協は絶対にしたくないという。 ランチもディナーもシェフのお任せコースのみ。ディナーはアミューズ、前菜盛り合わせ、季節のパスタ、メイン(コースによって肉、魚からチョイス、または両方)、自家製パン、デザートで構成。料理だけでなく、パン、ソースやドレッシング、デザートまで、全てシェフ自身が手がける。「何かと思い入れが強くて、頑固で、結構、大変、なんですよ」と妻の友香さんが微笑みながら見守る視線の向こうで、シェフが真剣な眼差しで料理に取り組む。そんな夫婦のあり方もとても好ましい。本日のディナーコース(5830円)から料理を抜粋。この前菜盛り合わせだけでも十分ワインが飲めてしまう。 本日のディナーコースから、おすすめ料理をいくつか作ってもらった。 ガラスの長皿で出された前菜盛り合わせにまずびっくりする。美しい!そしてそのボリュームも半端ない。「お料理をチマチマお出しするのが性に合わなくて...。たっぷりと存分に召し上がって欲しいんです」 富山産のホタルイカにプッタネスカを添えたものには、下にオレンジと新玉葱が隠されていて、重層的な深い味わい。福井県産のサワラのミキュイは梅肉と紫蘇の実を加えたトマトソースを合わせ、その隣の長崎産のキンメダイのムース仕立てに青々としたスナップエンドウを添えて。前菜の4つ目は、京都ポークのテリーヌと同じく京都ポークのリエットをシュー詰めにしたもの。どの一品も、野菜を巧みに使って味を忍ばせて、単一ではなく、複雑な妙味に満ちて、それでいて一つの力ある料理に仕上がっているのは、まさに見事!というほかはない。 ワイン好きの集まりなら、この前菜だけで、スパークリングのボトルが軽く空いてしまいそうになるはずだ。ひと際華やかな魚料理の一皿。どこまでも海の旨味を引き出して、濃厚に、香り芳しく、豊かな味わいに仕立てていく。 深い黒の丸皿に、花が一輪、ぱっと咲いたような一皿は、本日の魚料理、明石真鯛のタンバル仕立て、桜海老と白魚のガレット、鯛の白子添え。明石真鯛の上品な味わいに香ばしいガレット、魚介の旨味に満ちたブールブランソース、栗山さんの春ほうれん草が素晴らしいコンビネーション、重なり具合を見せて、最初のひと口でうっとりとしてしまう。春から初夏にかけて、旬菜たちの弾むような美味しさが溢れるメイン料理。肉本来の持ち味がしっかりと感じられる。 真っ白な皿をキャンバスに見立てた絵画のように美しい一皿は、本日の肉料理、丹波牛のステーキだ。カイノミという希少部位に、綿密に計算をして最適な火入れをして、ロゼ色に仕上げたステーキには、西洋ワサビを利かせたレフォールソースをかけて。キレがありながら、濃厚なソースを、肉らしい滋味に満ちたステーキに絡めていただけば、ボリューミーな一皿もぺろりと平らげてしまえる。添えられた赤米と筍の焼きリゾットの軽やかな食感を楽しみつつ、春キャベツとアスパラが秘めた春から初夏にかけての滋養を存分にいただく幸せ。 どの料理にも本当にたっぷりと、いろいろな種類の野菜が、姿を変え、味を変えて登場し、料理を食べるほどに、からだの中が綺麗になって、元気の「気」が満ちてくるよう...。「素材ありき」というシェフの思いが、素材の持ち味をここまで引き出し、最高のかたちに仕立てていることを実感する。常連さんに人気のシェフ手作りのパン(フォカッチャ)。北海道産小麦粉を使って焼いたもっちりとした食感が自慢。予約すればテイクアウトもできる。 愛情と熱意を込めた料理の数々は、ゆったりとしたテーブル席でいただける。店内は3つの部屋に分かれており、どの席もプライベート感が高く、家族で安心して食事ができる。 木の優しさと深いブルーを基調にした店内には、「くつろいで、気兼ねなく、レストランの味わいを提供したい」というシェフ夫妻の思いが隅々まで息づいている。広々とした店内。密になることなく、家族や大切な友人と落ち着いて食事ができる。奥の部屋もテーブルがゆったり配置されている。美しい花々が出迎えてくれる。 「京都は食の文化が古くから発展した土地なので、もともと良い食材が集まる場所。さらに少し足を延ばせば、亀岡のように豊かな農業地帯があって、自分が暮らす近くで、これだけの豊富な食材を手に入れられるというのは、料理人にとって本当に幸せなことだと思います。これからも良い食材をたっぷりと惜しみなく使って、喜んでいただける料理を提供していきたいですね」と徳江シェフ。優しい笑顔と、旬の恵みに満ちた料理にほっと癒されたくて、またすぐに行きたくなる、そんな一軒だ。 店名には「初心を忘れるべからず」という思いが込められているという。天性の優れた感覚と、真摯に料理に取り組む姿勢からこの店ならではの美味が生み出される。■「Osteria S.Puro」(オステリア・エスプーロ)京都市右京区西院西寿町32−2 2F075-748-9187営業時間 11:30~14:30、ディナーに関しては店舗に問い合わせを。おまかせコース料理は、昼2200円〜、夜4300円〜。水曜定休ランチは予約がベター、ディナーは要予約撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG京の会長&社長めし
2021.05.20
株式会社京都鳩居堂の社長が通う店「ルシュルシュル」
■熊谷 直久(くまがい なおひさ)さん 株式会社 京都鳩居堂 代表取締役社長1663年創業 源頼朝の軍師 熊谷直実から数えて20代目も熊谷直心が薬種商を開いたのが「鳩居堂」のはじまり。江戸時代に薬種と同じ原料の薫香を商い、後に文房四宝、和紙製品を販売し現在に至ります。1975年生 京都府出身最後の晩餐は未定。洗練の料理をセレクトが光るワインと。アットホームな雰囲気で楽しむ"日常の中の特別"御池通から丸太町通に挟まれた御所南は、富裕層も多く暮らす人気の文教エリア。その一角のビル1階に、熊谷さんお薦めの「ルシュルシュル」がある。「カジュアルなイタリアンのお店です。私はイタリアンが好きなんですが、日本でおいしいイタリアンを食べたいと思っても、かしこまった店でないとなかなか食べられない。でも、ここは本場イタリアのバルのような雰囲気で、気軽に行けてゆったりおいしい料理が食べられます。一人でも男性同士でも行きやすいので、仕事が遅くなる時や仕事での会合へ行く前の軽い夕食や、仕事関係の人との食事の際によく利用しています」(熊谷さん)オーナーシェフの剱持彩子さん・ソムリエの土橋陽さん夫妻が切り盛りするこの店は、2011年8月に開業。洒落たエントランスの奥は、カウンターとソファ2つの、小さいながらもくつろげる空間になっている。前菜からメインまで良質の食材を使ったアラカルトとイタリアワインに定評があり、地元を中心に30~60代のワイン好きが集まる。熊谷さんはここに10年程前から通っているという。「私は土橋くんと同学年で、学校は違いますがお互いサッカー部だった関係で仲間の集まりで顔を合わせることがよくあったんです。ここも友人に『どばっちゃん(土橋さんのあだ名)が店をオープンしたし、皆で行こう』と誘われたのがきっかけでした」(熊谷さん)「熊谷くんは共通の友人が多く、そのつながりで来てくれたのが最初です。朗らかな人で、彼がいてくれるとお店の雰囲気がとてもやわらかくなる。『これと合わせてみて』ってワインを無理やり持っていくんですが、彼は『ワインはわからへんわ』とか言いながらも楽しんでくれます」(土橋さん)「料理は食材選びに気を遣われているし、ワインもいいものを揃えておられる。料理とワイン双方の相性をすごく考えて提供されているので、ワイン好きの方を連れていくと皆さん喜ばれます」(熊谷さん)地元北海道の高級イタリアンで腕を磨いた剱持さん。この10年、舌の肥えた地元客の要望に応えるかたちで食材やメニューも変えていったと話す。魚は市場で目利きの業者からその日のお薦めを仕入れるほか、北海道から直送のものも。また大原の野菜、淡路の椚座(くぬぎざ)牛、欧州から空輸するチーズや肉類など、吟味して選んだ食材を使用している。そして、それらに合わせて二人で話し合いながらメニューやワインを決めていくという。ほぼイタリア産というワインは5~6千円台が中心。デイリーなものからレアな高級ワインまで400種以上を揃え、ワインの輸入業者もお客として訪れるそうだ。「この料理に合うワインを持ってきてと、お任せされる方は多いです。同じメニューを同じレシピで作っても、素材が違うと合わせるワインも変わったりします。だからライブ感があってお客様とセッションしているような感じですね」と、土橋さん。グラスワインも日替わりで用意され、ペアリングで楽しむことも可能だ。 一人の時は前菜とパスタを頼むことが多いという熊谷さん。お薦めに挙げたのが、前菜の「伊プーリア産ブッラティーナとプロシュット」2640円。モッツァレラチーズと生クリームを包んだ南イタリアのチーズを使った人気の一品で、生ハムの塩味、バルサミコソースの芳醇さ、季節のフルーツの酸味など、淡白でクリーミーなチーズとの味のハーモニーをデザート感覚で楽しめる。ワインは溌溂とした印象の爽やかな白やフレッシュで軽めの赤を。 熊谷さんが「ほかにない味で、パスタの中でも印象に残っている」と話すのが、北海道産のウニを贅沢に使ったリングイネ(3080円)。剱持さんが師匠のレシピをアレンジしたこの名物的メニューは、いいウニが入った時のみ登場する。アンチョビで香ばしさを加えたウニのソースを麺に絡め、更にたっぷりウニをのせて。ウニならではの濃厚で深みのあるおいしさを一皿で堪能できる。「お客様から『これはウニよりウニやな』とよく言われます。ワインは熟成感のある赤や濃厚な白がいいと思います」と、土橋さん。ユニークな半円形のソファは常連客に好評で、「落ち着くし、和気あいあいとした雰囲気になりやすい」と、熊谷さんもお気に入りだ。なお、今年10周年を迎えるのを機に、4月末に店内を改装する予定。席の配置は変えず、カウンターを低くしたりソファ席と床の段差を小さくしたりするという。※写真は改装前のものトルコ語でキラキラした、明るいという意味の店名のように、楽しい雰囲気で食事をしてもらいたいとお二人。抜群のコンビネーションで訪れる人を迎える。「お客様それぞれ求められるものも違う。お客様の空気や呼吸を大事にしてその方の楽しみ方に合わせたもてなしをしていきたいですね」(土橋さん)「日常の中で、少しだけ特別感を楽しんでいただけたら。ありがたいことに、皆さん『これで明日も頑張れるわ』と言ってくださいます」(剱持さん)居心地の良い空間、親しみやすく丁寧な接客とともにおいしい料理とワインを満喫し、明日の活力をもらう。そんなファンも多いのだろう。「熊谷くんのように誰かを連れてきてくださる方もいらっしゃいますし、逆に、誰にも教えたくないと言ってくださる方もいらっしゃる。それもうれしいお言葉ですね」(土橋さん)予算は1万円~1万5千円。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■ルシュルシュル京都市中京区麩屋町押小路上る尾張町225 第二ふや町ビル1F075-252-2587営業時間 18時~22時(LO21時) ※予約が望ましい定休日 火曜※営業時間は状況により変更の場合あり。お店にお問い合わせください。http://lshlshl.com/
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BLOGうつわ知新
2021.05.06
呉須と呉須赤絵3
梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。今月のテーマは「呉須と呉須赤絵」です。400年以上も前に中国で生み出された歴史あるうつわについて、梶さんに解説いただきました。1回目は呉須と呉須赤絵の歴史やなりたち。そして2回目はそれぞれの器の見方や解説。そして、3回目は、イル・ギオットーネの笹島保弘シェフとのコラボレーションです。笹島シェフが歴史あるこの中国のうつわに現代的なイタリアンを盛り付けてくださいます。「呉須と呉須赤絵の世界」をお楽しみください。呉須&呉須赤絵とイタリアン これが「呉須または呉須手」と呼ばれる漳州窯の染付です、写真が美しく撮られていて上手く相違点が伝わらないのですが、景徳鎮の古染付に比べて厚手にできています。色素に含まれる鉄分が多いのか染付の色は沈んだ青が特徴です。またこの「呉須または呉須手」は沈んだ濃い青色こそがその特徴です。沈んだ青のおかげでうつわに重厚感が生まれているようです。 「呉須または呉須手」は白磁の白部分もややくすんだ白色なのです。ここでうつわの裏面の写真があるのでご覧ください。呉須と呉須赤絵2よりウニとそら豆 そら豆型パスタを添えて「美しい染付のうつわにインスピレーションを得て、初夏の自然を表現しました。 耳たぶのような形をしたオレキエッテというパスタを、よりそら豆に寄せ、そら豆とともにウニのソースで和えています。 日本ではパスタというとスパゲティのようなロングパスタが好まれますが、イタリアではこのオレキエッテのようなショートパスタも日常的に食べられています。凹凸があって、ソースがよく絡むのです。 今回は緑が映えるオレンジのソース、初夏の芽吹きを感じていただける料理にしました。 自然体で心のおもむくままに盛り付けてみました。」笹島シェフ 呉須赤絵の鉢です。染付の「呉須」の鉢に盛られた料理に比べて、「呉須赤絵」に盛られた料理はずっと華やかに見えると思いませんか。 やはり暖色系の色合いのうつわの方がお祝い気分を盛り上げるというのでしょうか、料理を引き立てているようです。この鉢は骨董品や美術品としてとしては全く評価が低いのですが、強い筆使いも、やや黄色みがかった白磁の部分も逆に料理を引き立てているように思えるほどです。やはりうつわの良し悪しは、鑑賞品としての評価とは別物なのだと気付かされます。呉須と呉須赤絵2よりオマールと紫蘇のカプレーゼ「この鉢を見たときに、同じような赤い色の料理を盛ろうと思いました。 赤絵の鉢にすっと添うような料理です。 オマール海老は、脱皮前の5月6月が、身がしまって美味しいと言われます。火を入れ過ぎず、旬の旨味を味わっていただきます。 オマール海老の下には、こちらも初夏から美味しくなる茄子を潜ませています。赤紫蘇のジュースをジュレにしてソースにしました。オマール海老には赤紫蘇と青紫蘇のマイクロリーフ、ブラッターチーズにはキャビアを添えて食感や風味も楽しんでいただく一皿です。」笹島シェフ笹島保弘ローマへ渡伊後、京都「ラヴィータ」、「イル・パッパラルド」両店でシェフを務め、2002年に独立し、「イル・ギオットーネ」をオープン。東京丸の内店や大阪グランフロント店のほか、ワインやイタリア食材のショップ「オフィチーナ イル・ギオットーネ」も展開。テレビ、雑誌などメディアでも活躍している。イル・ギオットーネ関西イタリアンの名店として人気を誇るレストラン。笹島保弘シェフは、京都の素材を活かした京イタリアンの先駆者としても知られる存在。上賀茂の農家でとれた伝統の京野菜や鱧など、厳選した食材を巧みに融合させたイタリア料理は、これまでにない素材の組み合わせの妙を存分に楽しめる。■イル・ギオットーネ京都本店京都市東山区下河原町塔ノ前下ル八坂上町388-1電話:075-532-2550営業時間:12時~14時、17時~19時半(いずれもL.O.)定休日:火曜、水曜
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BLOGうつわ知新
2021.04.30
呉須と呉須赤絵2
梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。今月のテーマは「呉須と呉須赤絵」です。400年以上も前に中国で生み出された歴史あるうつわについて、梶さんに解説いただきました。1回目は呉須と呉須赤絵の歴史やなりたち。そして2回目はそれぞれの器の見方や解説。そして、3回目は、イルギオットーネの笹島保弘シェフとのコラボレーションです。笹島シェフが歴史あるこの中国のうつわに現代的なイタリアンを盛り付けてくださいます。「呉須と呉須赤絵の世界」をお楽しみください。呉須と呉須赤絵2 景徳鎮でも漳州窯でも焼成の際は窯の床に砂を撒いています。高台部分の釉薬が垂れて窯の床面にうつわが固着するのを防ぐのが目的です。しかし、高台部分に釉薬がたっぷりかかっていたら、焼き上がったうつわの底部には大量の砂が付着してしまいます。そこで景徳鎮は「畳付き(たたみつき)」と呼ばれる高台が畳や床とじかに触れる部分の釉薬を拭き取るなどして、砂の付着を最小限にする工夫をしています。その反面、漳州窯では高台も含め全体にたっぷり釉薬をかけないと、白くない素地が顔をだして、うつわの雰囲気を損ねてしまいます。景徳鎮製品との市場争いをしていて、よほど素地の色合いにコンプレックスがあったのか、砂の付着は顧みず、たっぷりと釉薬をかけています。このような高台部分の景色が漳州窯のうつわに粗雑な印象を強調して与えているようにも思います。 こうしてお話しして参りますと、漳州窯の「呉須赤絵」は景徳鎮の色絵磁器に比べて、高台周りに砂が多く付着し、素地は黒ずみ、釉薬は白濁して透明感がない、ぽってりした生地も野暮ったいと、まるで完全に劣っているかのような印象を受けます。 ところが日本人の美意識はきっちり整って張り詰めるような隙の無いうつわより、やや崩れておおらかなものを好む傾向があるのかもしれません。 それはもしかすると日本人は、陶磁器を鑑賞する対象よりも、使用する道具として育んできたからではないでしょうか。呉須赤絵のうつわも、実際に菓子や料理を盛り付けてみると、予想していたよりはるかに美しく見えることに私はいつも驚かされます。「呉須赤絵」の内部に貯められていたエネルギーが、菓子や料理に向かって注がれているかのようです。 料理や茶会に「呉須赤絵」のうつわを使うと言うと、あまりにも定番すぎて、ワクワクしてもらえないようでありますが、しかしこれほどに盛られた料理を美しく見せるうつわは他にはないなぁと、毎度の様に感動してしまいます。やっぱり昔の数寄者は目が高かった。 明朝末期、景徳鎮の焼物は世界中に運ばれて行きましたが、漳州窯の呉須赤絵の大半は日本に来ていると言われています。そして現代でも作家たちの手によって作り続けられているわけです。 皆さんのお家の食器棚にも呉須赤絵のうつわがあるのではないでしょうか。是非そのうつわにお料理を盛ってみてください。これを読んだ後なら、定番の呉須赤絵がいつもより輝いて見えるかもしれませんよ。 これが「呉須または呉須手」と呼ばれる漳州窯の染付です、写真が美しく撮られていて上手く相違点が伝わらないのですが、景徳鎮の古染付に比べて厚手にできています。色素に含まれる鉄分が多いのか染付の色は沈んだ青が特徴です。またこの「呉須または呉須手」は沈んだ濃い青色こそがその特徴です。沈んだ青のおかげでうつわに重厚感が生まれているようです。 「呉須または呉須手」は白磁の白部分もややくすんだ白色なのです。ここでうつわの裏面の写真があるのでご覧ください。 写真の奥がこの染付の鉢です。全体に厚ぼったく釉薬がかけられているので、素地の色を見ることはかないません。しかしかすかに黒ずんだ素地が、釉薬を通してまだら模様に見えています。染付の絵はきれいに見えていますから、釉薬は白濁せずに透明なのだと理解できます。とすれば、くすんだ素地を白化粧して、その上に染付で絵を描いて、透明釉をかけて焼きあがっていることが推測されます。 さらにこの鉢は高台と高台内に大量の砂を付着させています。これだけの砂を付着させてでも、美しくない素地を隠したかったのか、高台周辺の釉薬を剥ぎ取る手間を省きたかったのかも知れません。 次は呉須赤絵の鉢です。染付の「呉須」の鉢に盛られた料理に比べて、「呉須赤絵」に盛られた料理はずっと華やかに見えると思いませんか。 やはり暖色系の色合いのうつわの方がお祝い気分を盛り上げるというのでしょうか、料理を引き立てているようです。この鉢は骨董品や美術品としてとしては全く評価が低いのですが、強い筆使いも、やや黄色みがかった白磁の部分も逆に料理を引き立てているように思えるほどです。やはりうつわの良し悪しは、鑑賞品としての評価とは別物なのだと気付かされます。 写真の手前側がこの呉須赤絵の鉢の裏面です。高台内は素地が露出していて、その色が土壁の色(ベージュ色)のようです。そこに釉薬がかかり、薄くかかった部分は土壁に水を含ませたような色(黄土色)になり、厚くかかった部分は白濁した釉薬で白くなっています。うつわ全体がやや黄ばんで見えるのは、白濁した釉薬のかかりが薄かったことで素地の色が透けて見えているようです。釉薬のかかりが薄かった高台周辺には砂の付着も少量であります。 奥によく似た呉須赤絵の鉢が左右に並んでいます。図柄などに違いがありますが、評価に関わる大きな違いがあります。皆さんにはその違いが分かりますでしょうか。 実は使われている色の数が違うのです。双方ともに赤と緑は使われているのですが、青は左の鉢にしか使われていません。そのことで視覚的な華やかさを添えているように私には思えます。ただ残念なことに青の色が少し煮えています。煮えているというのは、各色の釉薬が溶ける適温が異なっていて、窯の温度が青に対してわずかに高く上がりすぎて、釉薬が沸騰してしまったと言うことです。 白い釉薬のかかりは左の鉢の方がうまくいったためか、白が際立っているように見えます。このように、色の数と白の美しさで左側の鉢に高い評価を与えたいと思います。このふたつ鉢は兜形と呼ばれ、縁の部分に鍔を持っています。お椀形の鉢が一般的ですが、料理を盛る見込みの部分が平らで広く使いやすいので、私はこの形を好んでいます。 手前にある木瓜型(もっこがた)の染付の鉢は、もしかすると景徳鎮製のうつわかもしれません。それは素地が白すぎることからそう思っています。しかしやや沈んだ染付の青で描かれたざっくりした絵、厚ぼったい生地から漳州窯の「呉須または呉須手」だと判断しています。これが漳州窯の作品だとすれば、白い素地を厳選して作った特別なものなのだと考えています。「青呉須赤壁賦鉢(あおごすせきへきふはち)」または、「呉須青赤壁賦鉢(ごすあおせきへきふはち)」、さらに単に「赤壁賦鉢(せきへきふはち)」と呼ばれているうつわです。先に「呉須」の様々な表記については今回お話ししないと言っておりました。それはここでもわかりますように、うつわは同じでも、人によって使う名称が異なっていることに振り回されたくなかったからなのです。 ご覧の鉢は、鮮やかな水色と赤の釉薬によって描かれています。図柄は、三人の人物が船に乗っている様子を描いた、強い中華様式のものです。 元々私はこの鉢が嫌いでした。でもある時呉須赤絵の仲間だと言う理由で、美術レクチャーの中でお話しする題材にしようと手に入れたのです。そしてこの鉢に描かれている歌と絵について調べてみました。 北宋時代の1082(元豊5)年、政治家の蘇軾(そしょく、別名 蘇東坡[そとうば])が失脚し流刑になります。その流刑地の近くに長江が流れ、皆様も映画の「Red Cliff」ご覧になった有名な赤壁の大古戦場があったのです。 220~280年、「華北の魏・江南の呉・四川の蜀」の三国が分立し争った時代、そのクライマックスとも言われる赤壁の戦いがあった地の話です。長江に小舟を浮かべ、訪ねてきた友人と酒を酌み交わし、自分の置かれた状況に感傷的になり蘇軾(そしょく)は詩をよむのです。ふと気づけば舟は流れるままに歴史上誰もが知る大古戦場に差し掛かります。 しかし世に名をとどろかせた大英雄たちもいまなく、ただ月が照り、川風が川面にさざ波を作るに過ぎません。人にはあがなうことが出来ない悠久の時の流れや、自然の移ろいのなかで、自らのはかなさと同時に、自分もこの世の万物と共にあることを感じて、朗々と読み上げた歌は時代と国を超えてこの鉢に絵と文字で刻まれているのです。 私はその物語を知ってからこの鉢に対しての見方が大きく変わり、同時に好きにもなりました。 そうです美術は視覚に頼って鑑賞するものではなかったのです。美術は頭や心で鑑賞するものでもあるということをこの鉢は私に教えてくれたのです。 先にもお話ししましたが呉須や呉須赤絵の焼物の大半は日本に渡ってきていますし、中国製本土には皆無と言ってよいほど残っていません。つまり昔の日本人はこの物語のことをよく知っていて、それを好んだからうつわにして発注していたのだということです。呉須と呉須赤絵3につづく
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BLOGうつわ知新
2021.04.29
呉須と呉須赤絵1
今月のテーマは「呉須と呉須赤絵」です。400年以上も前に中国で生み出された歴史あるうつわについて、梶さんに解説いただきました。1回目は呉須と呉須赤絵の歴史やなりたち。そして2回目はそれぞれの器の見方や解説。そして、3回目は、イルギオットーネの笹島保弘シェフとのコラボレーションです。笹島シェフが歴史あるこの中国のうつわに現代的なイタリアンを盛り付けてくださいます。「呉須と呉須赤絵の世界」をお楽しみください。梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。呉須と呉須赤絵中国の陶磁器の一大産地の景徳鎮(けいとくちん)については皆様も話をお聞きになったことがあるでしょう。今月はそこから400 km くらい南へ下ったところの漳州窯(しょうしゅうよう)という別の産地をご案内いたします。景徳鎮で生産された古染付についてはすでにお話をいたしましたが、それと同時代の約400年前の中国の明末期に生産された焼物のお話です。ここ漳州窯製品は、刺繍のハンカチで有名な汕頭(スワトウ)の港から出荷されたことから、別名スワトウウェアとも呼ばれました。様々な種類の焼物が生産されましたが、その主な輸出先は日本でした。桃山時代末期から江戸初期に我が国に到来した漳州窯陶磁器の中で、染付の絵付けの製品は「呉須(ごす)または呉須手(ごすで)」と呼ばれ、色絵のものは「呉須赤絵(ごすあかえ)」と呼ばれています。名前だけではイメージが湧いてこない人も、実物を見れば、「なんだ。これか。」というくらいに見慣れたうつわだ思います。私たち日本人の日常にすっかり溶け込んでいて、日本人によって今でも作り続けられているうつわです。そのため、特に「呉須赤絵」のうつわは「有田焼じゃないのか。」「清水焼でしょ。」と思い違いをされていても仕方ないようなうつわです。また「呉須または呉須手」のうつわは、他の染付磁器と混ざり合っていて、骨董好きの方でなければ明確に区別もできず、単に「染付」と理解されているのが現状でしょうか。まず「呉須赤絵」の名前を「呉須」と「赤絵」に分解して、その意味からお話を始めて参ります。「赤絵」というのは、赤い色だけを使って描いた陶磁器ではなく、一般的には赤・青・黄色・緑・紫などの色釉(いろぐすり)を用いて「上絵(うわえ)」を描いた陶磁器を意味します。つまり「赤絵」は「色絵」と同じ意味なのです。漳州窯の陶磁器も他の多くの陶磁器と同じく「うわぐすり」と呼ばれる透明、または不透明の釉薬をかけて、窯で焼成されます。そうすると素地の表面をガラス状の皮膜で覆った、ホテルで使われる白いお皿と同じような姿に焼きあがります。「上絵」とはその表面上に色釉で描いた絵のことです。染付のようにガラス被膜の下に描かれた絵とは別のものと理解しておいてください。さて次に「呉須」と言う言葉ですが、これには2つの意味があります。一番多く使われる意味の「呉須」は、染付の絵を描くのに用いる染料(酸化コバルトまたはその鉱物)のことを指します。陶磁器の釉薬(ガラス状の皮膜)の下に描かれている青色の絵付け材料(染付)です。他方、漳州窯で生産された染付のうつわのことも「呉須または呉須手」と呼ぶのです。ひとつの言葉で染付の絵付け材料と、同時に、染付製品のことも指しているので実に紛らわしいことです。さらに、「呉須」という言葉の表記が「呉州(ごす)」や「昴子(ごす)」等もあるために生じる混乱をスッキリさせましょう。一番目は、「呉州(ごす)」という表現です。「呉須と呉須赤絵」の作られた漳州窯が、昔、中国南方に存在した「呉」と言う国と関係があるから「呉州」と書くのだと言われています。二番目は、「昴子(ごす)」という表現です。京都で代々続く永楽家では、江戸後期〜大正期の頃は、「昴子(ごす)赤絵」と多くの作品に記していました。この「昴子」と言うのは、中国元代の文人画家の「趙子昴(ちょうすごう)」に由来するのではないかと言われています。高名な「趙子昴」は達者な絵を描いたのですが、「呉須」の絵付けは幼稚なので、「子昴(すごう)」の名前の文字順を逆にして、「昴子(ごす)」と呼んでからかったのだと言うのです。もしかすると、永楽家は自ら手がけた作品の出来栄えを、へりくだった意味で「昴子赤絵」と記していたのかも知れません。ここまで「呉須」についてお話させていただきましたが、不器用な私はこの言葉の解釈にずいぶん混乱させられた経験があるので、皆様が同じ罠に落ちないように解説をさせていただきました。漳州窯の陶磁器には、「呉須」「呉須赤絵」だけでなく、「赤呉須」「青呉須」「胆礬(たんぱん)呉須」「呉須青」などの表現が用いられる製品もありますが、混乱する恐れがあるので、いまはお話を控えさせていただきます。漳州窯の「呉須と呉須赤絵」は景徳鎮で焼かれた磁器とは様子が異なります。ぽってりと肉厚で、窯の中で多少変形していても気にせず出荷されていたおおらかさが見受けられます。絵付けは早く、強い筆致が面白いのですが、ここが理解できないと、単に乱雑な絵付けのうつわと言う印象を持たれるかもしれません。染付の呉須は暗い色合が多いです。万年筆のブルーブラックの色合いですね。景徳鎮のうつわの素地は白くて上質、呉須赤絵の素地は異なり、例れえば、白い雑巾をそこそこ使い込んで汚れたような色をしています。「呉須赤絵」はそれを白いうつわするため、透明度の低い白濁した釉薬を用いて、本来の素地の色を覆い隠して白く見せています。もし素地の色に強いクスミがあった場合や、白濁した釉薬のかかり方が薄かった場合は、素地の色が表面に透けて見えて、うつわ全体が黒みを帯びた白色になります。そのことは、釉薬の上に重ねて焼き付けられる色絵の色鮮やかさを失わせてしまいます。そうなると、せっかくのうつわも、高い評価を得ることがでず、つまり「あがりが悪い」と言われるのです。呉須赤絵の白濁した釉薬は例えるなら、イチゴにかけるコンデンスミルクのような感じで、薄くかけるとイチゴの色が透けて見え、濃くかけると完全にイチゴの赤を覆い隠して白くなるのと同じ理屈です。「呉須または呉須手」では、ガラス質の釉薬の下に染付の絵が描かれています。染付の絵の上に、「呉須赤絵」同じような白濁した釉薬をかけたのでは絵が隠れてしまいます。しかし透明度の高い釉薬を使うと、薄黒い素地の色が表面に出てしまいます。ですから、「呉須または呉須手」を焼く場合はなるだけ白い素地を用いているようですし、時には素地に白化粧を施している場合もあるようにも見られます。最後に、景徳鎮の焼き物と漳州窯の焼き物の大きな違いをひとつお話ししましょう。それは釉薬と生地の収縮率の違いによって生じる、虫喰いという景色が、景徳鎮の焼物には普通に見られますが、漳州窯には基本的には見られないということです。たまに勉強を不足の陶芸家が、漳州窯の写しにも虫喰いを発生させて、写しを台無しにしてしまっているものを見かけることがあります。この点一つ押さえておきたい知識ですね。呉須と呉須赤絵2につづく
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BLOG京のとろみ
2021.04.29
「篠田屋」の皿盛
カツカレーに見えるけどこれはカツカレーではない。117年続く食堂「篠田屋」の皿盛という料理だ。皿盛とはごはんの上に絶妙な薄さのトンカツが乗り、とろとろでプルプルのカレー風味の餡がかかったものである。出汁の効いた餡には牛肉と九条ネギがたっぷり。硬めに仕上がった餡は食べ終わるまで熱々をキープしてくれる。ラードで揚げたカツはサクサクで餡との相性が素晴らしくこれ以上分厚くても薄くてもバランスが悪くなるであろう完璧な厚み。店内の雰囲気はほんまもんのレトロで落ち着く。こあがりのテーブルがあるのもいい。壁や床、厨房、おばちゃんの接客、すべてが昭和の食堂のまんまである。餡にはたっぷりの七味、カツにはドボドボとウスターソース。これが私の食べ方だ。是非一度、試してみて欲しい。
ハリー中西
料理カメラマン
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BLOG京都美酒知新
2021.04.28
カクテルが飲みたくなる話「ジントニック」
■西田稔(にしだみのる) 京都木屋町二条「Bar K6」、「cave de K」、「keller」のマスターバーテンダー。2020年開業の「ザ・ホテル青龍 京都清水」内の「Bar K36」を監修。自らもカウンターに立つ。京都生まれ、同志社大学卒業後、東京のバーで経験を積み、1994年に「Bar K6」を開業した。シャンパーニュの将校、グラッパの騎士、クリュッグアンバサダー、ウイスキーコンテスト審査員ジントニックカクテル言葉「強い意志」「ジントニック」を飲めば、そのバーのお酒に対する姿勢がわかると言われます。世界中で愛されるカクテル「ジントニック」は、最も多く飲まれるカクテルと言っても過言ではありません。ジンとトニックでつくられるこのカクテルは、家庭でも飲めるものでありながら、シンプルがゆえに、バーデンダーにとっては難しいカクテルでもあります。そういう意味では、バーデンダーの力量が試されるものなのです。「BAR K6」をはじめ、これまで手がけてきたバーそれぞれで、「ジントニック」は、レシピを変えてお出ししています。なぜなら、「あのジントニックを飲みたい」とお客様の記憶に残していただきたいからです。「BAR K6」のジントニックのレシピは開店から25年以上変えていません。昨年オープンした「BAR K36」のレシピとももちろん違います。それぞれの味があるからこそ、その店に行く楽しみがあるのです。カクテルレシピタンカレーNO10 40mlライム 2カットトニックウォーター 80mlソーダ 40mlヒルドタンブラーライムスライス4月のウイスキーザ・グレンリベット12年の水割りザ・グレンリベットはシングルモルト初心者の方におすすめのウイスキーです。スコットランドで生まれ、今では世界中で飲まれています。シングルモルトでありながら優美な味わい。マイルドで飲みやすいのが特徴です。グレンリベットは、ゲール語で「静かな谷」という意味、グレンフィディックに次いで、世界で2番目に売れているシングルモルトウイスキーです。バーテンダーが水割りの練習をする際に好んで用いられるウイスキーでもあります。ザ・グレンリベット蒸留所ザ・グレンリベット蒸留所はリベット渓谷の山岳部に位置しています。1824年、創業者ジョージ・スミスは、ザ・グレンリベット蒸留所をスコットランド初の政府公認蒸留所としてスタートしました。ザ・グレンリベットの歴史そのものがスコッチ・ウイスキーの歴史といえるでしょう。ザ・グレンリベットは、花のようなエレガントな香りがあり、バランスがとれた深みのある味とシャープな切れ上がりがなんともいえない一本。創業時から変わらぬ伝統の製法と風土、選び抜かれた原材料と200年変わらぬマザーウォーター、そして熟練した職人たち、どれ一つ欠けてもザ・グレンリベットは生み出されません。ザ・グレンリベットHPより■Bar K6京都市中京区木屋町二条東入ル ヴァルズビル2F075-255-5009撮影:ハリー中西
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.04.28
「祇園ゆやま」-「先斗町 ふじ田」田中正一さんが通う店
『先斗町ふじ田』の料理長の田中正一さん愛知県の一宮の出身。実家が寿司屋を営んでいたこともあって、自然に日本料理の道へ進んだ。日本料理をするのなら京都で、という考えで、京都の老舗料亭で修業をスタート。3年後に『先斗町ふじ田』に移り、『祇園ゆやま』の主人、湯山猛さんのもとで経験を積み、平成17年に料理長に就任した。「基本はオーソドックスな懐石料理ですが、季節ごとの素材の取り合わせ、器との相性などを考えつつ、歳時記などに合わせた色々なストーリーを考えて、盛り付けや色合いにちょっとしたサプライズを添えて、工夫を凝らすようにしています」。お客さんとの会話を大事にすることも、湯山さんからの大切な教えだという。シンプルな店内に入ると、よく磨き上げられた美しいカウンター席がまず目に入る。とても気持ちの良い空間。 華やかな祇園の一角に佇む端正な一軒。暖簾をくぐって中に入ると、店内に入ると、まっすぐに伸びた、磨き上げられた木のカウンターが目に入る。店主の湯山猛さんは、推薦者である『先斗町ふじ田』の料理長・田中正一さんの師匠である。田中さんは湯山さんのもとで長年修業に励み、現在、湯山さんのあとを継いで、料理長を勤めている。「うちの店もまずカウンター席があって、お客様との会話を大切にしていますが、そのことを教えてくれたのが師匠の湯山さんです。プロが作る料理は美味しくて当たり前、そこに雰囲気、人、おもてなしがきちんと寄り添ってこそ、本当に満足していただけるということを肝に銘じています」と田中さん。「田中くんがそのことをよく覚えていてくれて、嬉しいですね。『先斗町ふじ田』時代から私自身も大切にしていることで、自分の店を持った時も、まずそのことを第一に考えました」と話す湯山さんは、日本料理一筋38年のベテランだ。明るい接客を心がける湯山さん。調理の際に一瞬見せる、凛とした表情にプロ意識を感じさせる。 湯山さんは熊本県の出身で修業のスタートは大阪の寿司店だった。親しくしていた先輩から「日本料理をするなら割烹が面白いぞ」と誘われてある割烹店に食事に連れて行ってもらった。「その時に出てきた八寸が、それはもう美しくて華やかでびっくりしました。こんな素晴らしい世界があるんだ!と感動しまして、日本料理をしっかり極めようと京都に行くことを決心しました」。その後、今はなくなってしまった京都の名料亭「伊勢長」や「河富」で修業し、34歳で「先斗町ふじ田」の料理長に就任した。 その頃から、湯山さんのモットーは「料理屋は料理だけでは成り立たない。料理、雰囲気、そして何よりも人」ということ。この3つが揃って初めて、お客様にとって良い店となりうると考えて、ここまでやってきたという。 提供する料理は、おまかせのコースのみ。料理はまず季節感が大事ということで、毎日、中央市場に自ら仕入れに出かけて、その日その日の旬の素材を手に入れる。そこから献立、器の取り合わせなどを考えて、コース料理を組み立てていくそうだ。 女性に大人気なのがお昼の3800円(税込)のコース。自家製の名物料理、ごま豆腐から始まり、旬味をたっぷりと提供する。 ごま豆腐は、ごまと吉野葛を練り合わせて作るのだが、葛をやや少なめにして、とろとろに仕上げる。なめらかなごま豆腐に、醤油の風味が香ばしいべっこうあんをかけて食べると、お酒好きなら、もうここから日本酒が欲しくなるはずだ。 伊万里の猪口に入ったとろりなめらかな、ごま豆腐。スプーンですくっていただく。この味を求めて通うファンがいるのもうなずける。女性のリピーターが多いお昼のコースの中で、「わあ。綺麗!」といつも歓声が上がるのがこの縁高。ぎっしりと季節の味が詰め込まれている。 ごま豆腐に続いて出てくるのが、旬味旬菜があふれんばかりの縁高だ。めかぶと汲み上げ湯葉、春キャベツとエリンギの胡麻和え、山クラゲとしらす、菜種の辛子漬け、筍などの旬の味に、明太子チーズとぶぶあられ、手毬寿司、サワラの幽庵焼、淡路の天然鯛とゆばこんにゃくの造りなど、創意工夫を凝らした料理がぎっしり。彩りも味わいもバラエティ豊かで、大満足すること間違いないお値打ちのコースだ。 夜のコースは8000円〜(税サ別)。さらに、華やかに贅沢に旬の味わいをたっぷりと楽しめる。 椀ものはため息が出るような美しさ...!漆黒にこごみや木の芽の緑、艶やかな筍がとてもよく映える。白身の魚のすり身に岩のりを合わせた真丈が、鮮やかな海の香りと運び、山の幸の筍と素晴らしい相性を見せる。春の喜びが伝わってくるような美しい椀もの。たったひと椀に日本料理の美学と真髄を感じさせる。料理は全て10,000円のコースから抜粋。 湯山さん自身が若い頃に感動したという八寸は、まさしく、深い感動に満ちている。甘鯛のうろこ焼、菊芋の煎餅、筍姫皮のきゃら煮、鯛の松風、花わさびの醤油漬け、きんぴら、めかぶ、白菜菜のお浸し、のし梅の博多揚げ、餅麩と菜の花の辛子和えなど、とりどりの味わいが互いにハーモニーを奏でる。 湯山さん自身も好きだという全国の地酒も、よく吟味されている。瑞々しい青竹の酒器でゆっくりとおすすめの地酒を楽しむのもいい。「お客様はお酒を飲まれる方が多いので、特に八寸ではお酒に合う味わいを、少量でたくさんの種類で楽しんでいただきたいと思っています。締めには、鯛茶漬けやいわし茶漬などが喜ばれますね」絵巻物を見るように、うっとりする美しさの八寸。写真は2人前。青竹の酒器は、酒をまろやかにしてくれるという。お酒がついつい進んでしまいそう。奥の座敷は4名まで。家族や友人と寛いでゆっくりと過ごしたい。「春は桜鯛を造りや蒸しで、夏は鱧の炭火焼、秋は焼き松茸に栗の渋皮煮、冬はかぶら蒸しに、ふぐや白子など、四季の恵みをふんだんに取り入れてご提供しています。祇園だからといって敷居が高すぎず、肩の力を抜いてリラックスして楽しんでいただけるよう心がけています」 カウンターで湯山さんとの会話を楽しむのも、また奥の座敷でプライベートな食のひとときを味わうのもよし。季節の移ろいを感じながら、ゆるりと京の旬を味わい尽くしてみたい。ほっとリラックスさせてくれるような湯山さんのこの笑顔。「料理のこと、お酒のことなどなんでも聞いてくださいね」。ここでは、楽しく弾む会話もまた、ごちそうの一つだ。■祇園ゆやま京都市東山区 花見小路東入ルアートハイツ 1F075-551-2688営業時間 11:30~14:00、17:00~23:00おまかせのコース料理は、昼3800円〜、夜8000円〜。月曜定休予約がベター撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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