食知新ブログ
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2021.04.17
京都 いと「甲いかのお造り サラダ香草仕立て」
奇想の一皿「甲いかのお造り サラダ香草仕立て」料理学校を卒業後、猪突猛進の勢いで憧れの『京都吉兆』へ入社。「一念岩をも通す」熱意が通じ、嵐山本店に配属される。サミット会場となった『ザ・ウィンザーホテル洞爺 』内の『あらし山吉兆 洞爺湖店』では料理長を任され、吉兆での料理人生活は20年にも。現在は東本願寺南『京都 いと』の料理長として、和食と他ジャンルを自由に往来する"これからの料理"を提案。その活動は厨房内に留まらず、食材の流通や後進の育成、新たな料理人像の構築など、旧来の料理人のイメージを覆す活躍が注目を集める。発想秘話うちは椀物の吸い地がコンソメだったり、12品のコースのうち3~4皿はフレンチ出身の野口翔平シェフが担当したりと、いわゆる和食の本流からは少し離れた料理を提供しています。どのお皿も僕ら2人がアイデアを出し合い、お互いの引き出しの中身をすり合わせて作り上げたもの。ですから「奇想の一皿」のコンセプト自体は、僕らが普段やっていることとそんなに違わないのかな、と思います。今日の料理の主役は和歌山で獲れた紋甲イカです。極端な話、うちではこのイカが入った時しかイカ料理は作りません。それくらい惚れ込んだ食材です。獲れたてはもちろん、少し寝かせてねっとりさせてもおいしいのですが、今日は新鮮な紋甲イカをサラダ仕立てにしようと思います。うちでは普段からお造りに普通の醤油は合わせません。「蕗の薹の醤油」だったり、「あん肝醤油」だったり、「うに醤油」だったりと、季節や食材によっていろんな醤油を使い分けます。イカに合わせる定番はカリフラワーのピュレ。今日の料理にももちろん使います。イカの甘みとカリフラワーの味がよく合うのに加え、テクスチャーや香りのニュアンスなど、共通点が多いんです。もともとフレンチでは、同じ色同士の食材を掛け合わせることが多いのですが、そういう意味でもイカとカリフラワーは相性がいいんじゃないでしょうか。掃除した紋甲イカに飾り包丁を入れます。食感の違いが楽しめるよう半分は生で、もう半分はバーナーで焼き目を付けます。鹿の子に包丁を入れたイカの身に串を打ち、表面にオリーブオイルを塗ってからバーナーで炙ります。生の身は新鮮なイカ特有の食感が生きるよう、蛇腹に包丁を入れます。「蛇腹」と「鹿の子」、包丁の入れ方を変え、それぞれの食感の違いを楽しんでもらいます。次にカリフラワーのピュレを用意します。強火でカリフラワーを茹で、オリーブオイル、ひまわり油、出汁と一緒にミキサーにかけます。ここで出汁を少し加えることで、不思議と「和」の味わいに寄っていくんですよ。うまみが底上げされるイメージですね。これでピュレも完成です。あとは盛り付けるだけ。今日はアスパラガスを盛るために作られたバカラのお皿を使います。ハーブ、茗荷、生姜、カリフラワーのピュレ、土佐酢のジュレとともに盛り付けて、一口一口、いろんな味を楽しんでもらえるとうれしいですね。フランス料理って一枚のお皿の上に何種類ものソースが乗るでしょう? そんな感覚で、味変(あじへん)しながら召し上がってみてください。シャンパーニュ、白ワイン、日本酒...どれを合わせてもおいしいと思います。仕上げにパルミジャーノを振ってもよかったかな。繊細でふくよかな味わいのイカに、なめらかなピュレがよく合うでしょう? しっかり和えたり、ジュレを付けたり...好きなように楽しんでください。北海道時代にいろんな生産者の方々と交流し、食材に対する考え方が大きく変わりました。「おいしい食材をおいしく調理する」のではなく、「食材の持ち味を生かすにはどうしたらいいか」「どうすれば一番おいしく食べられるか」を第一に考えるようになりました。彼らとの交流は今も続いていて、越冬百合根やホワイトアスパラガスなど、いろんな道産野菜使っています。「野菜がおいしい店」でありたいし、そう言われるとうれしいですね。「おしゃれ」で「きれい」で「かわいい」。これからの料理にはそういう要素も必要だと思います。伝統を受け継いでいくことも大切ですが、新しい料理にも挑戦し続けたい。料理人同士、料理人とお客さん、お客さん同士が「繋がる」ことで、新しいものを生みだしていく......そんな「繋がる」場でありたいと思って、この店を作りました。フレンチ出身の野口シェフとお互いの経験や技術、アイデアをぶつけ合いながら、「明日は今日よりもっとおいしいものを」という気持ちで、日々ブラッシュアップしていきたいですね。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■京都 いと京都市下京区中居町112‐1075-371-223818:00~19:00最終入店日曜、第2・4水曜定休
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BLOG京の会長&社長めし
2021.04.15
有限会社月ヶ瀬の社長が通う店「よこ林」
■平栗 由貴(ひらぐり ゆき)さん 1975年 京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業在学中 タイ国立タマサート大学へ交換留学現地にて タイ旭電機株式会社、タイ国三井物産株式会社入社2005年 有限会社月ヶ瀬入社2015年 4代目として代表取締役就任四条河原町にて昭和元年創業の甘味処。京都で初めてあんみつをお出しし、以来「あんみつの『月ヶ瀬』」と親しまれている。現在は、京都市内に祇園店、堺町店、高島屋店の3店舗。https://tsukigase.jp 最後の晩餐は、お母様お手製のちりめん山椒をかけたおじゃこご飯と生麩の揚げ出し。四季折々の味覚と大将との会話をご馳走に、祇園の風情を感じながら過ごす路地裏の割烹京都の街中にはいたるところに小路や路地があり、そこで魅力的な店に出合うことも少なくない。賑やかな四条通から大和大路通を南へ進んだ一筋目。つい見過ごしそうな細い路地の中に今回紹介する「よこ林」がある。旬の食材を好みの調理法で食べさせてくれる昔ながらの割烹。1988年に創業し、芸舞妓や地元の旦那衆などに親しまれている。平栗さんは、高校生の頃から家族ぐるみでこの店を利用しているという。「会長である父が昔からなじみで、家族の祝いごとや姉たちが帰省した時など、節目の時に皆で利用する大事なお店です。大将がとても気さくな方で、気軽に行ける雰囲気のお店でありながら、しっかりとした割烹のお料理を味わえます。他府県の方に京都のお店を紹介してと言われたら、いつもこちらをお薦めしています」(平栗さん)店は一軒家の一階部分に、掘りごたつのカウンター6席(通常7席)と小上がり8席のこぢんまりとした造り。坪庭や壁に飾られた舞妓の絵などが京都らしい風情を醸し出している。「もう30年くらいになるかな。平栗さんのお父さんが紹介で来店されて、それからのお付き合いです。よく家族でお見えになっていました」そう話す店主の横林勉さんは、神奈川県川崎市出身。中学の頃から何か手に職をつけたいと考えていた横林さんは、高校3年の時、東京の寿司店に勤めていた先輩から京都の割烹を紹介され、料理の道へ。この店を開くまで、京都の和食店や料理旅館などで腕を磨いてきたという。メニューはおまかせコースと多彩な一品があり、品書きにないその時々のお薦めも登場する。平栗さんは、いつもお決まりの品々に季節のものをプラスして楽しむそうだ。「ぐじの塩焼き、ゆば万十、鱧の焼霜など、これぞ京都のお料理というものが味わえます。今時の華やかなものではないけれど、季節感があって、素材の味がシンプルに出ていておいしいです。今は子供が小さいこともありなかなか行けませんが、以前は季節のものが食べたくなると、『そろそろ筍の季節やし』という感じで行っていました」(平栗さん)魚や野菜などの食材は主に錦市場へ赴き、吟味して調達する。例えば鱧はできる限り韓国産を用い、横林さんが京都で一番好きな食材という筍は、根元をかじって味や食感を確かめながら選ぶという。「いい材料を用意してシンプルに出すのが一番いいと、私は思っているんです。素材を生かして素直に召し上がってもらう。いいものを持ってきたら、お塩だけで十分おいしいんですよ」と、横林さん。丁寧な仕事で素材の持ち味を引き出した料理には、かぶら蒸しやなす田楽、あら煮、丸鍋などのおなじみの味に加え、お薦めの鮑の唐揚げや銀杏の醤油炒りなど他店では見られないメニューもあり、好評だ。平栗さんたち常連には締めに食べるうにいくらご飯も人気だという。平栗さんがいつも欠かさず頼むという大好物の「ゆば万十」1100円(税込)。百合根ときくらげを湯葉で包んで油で揚げ、熱湯で油抜きしたあと、だしと醤油、砂糖で炊いていく。「あんかけのお料理で、やさしいお味が気に入っています。おだしがやっぱりおいしい。タイに住んでいた時、よくこの味を思い出していました」(平栗さん)なめらかな口当たりの百合根の甘味をだしの風味が包み込む、ほっとする一品。素材のうま味をシンプルに味わう店のお薦めの一つ「笹カレイの唐揚げ」1980円(税込)は、ポン酢と塩を添えて。身の部分はふっくらとして、骨せんべいは香ばしく、しみじみとおいしい。カレイは中骨を包丁で叩いて厚みを均一にし、ムラなく揚がるようにしている。いい素材をよりおいしくするためにこうした一手間は欠かせない。「お酒は日本酒、焼酎、ワイン、ビールなど一通りありますが、種類は置かず、お客さんが飲みたいと言われたものをご用意したりします」と、横林さん。「お酒で儲ける気はないので」と、どれも驚くほどリーズナブルに楽しめるのがうれしい。写真は福知山の酒蔵が造ったオリジナルの冷酒「よこ林」。純米吟醸で飲みやすく、人気だ。四季折々の心尽くしの料理と、話好きの横林さんや共に切り盛りする奥さんが作る和やかな雰囲気に、安心して食事のひと時を過ごせるのだろう。ここでは平栗さんのように家族連れの常連も少なくないという。ちなみに、平栗さんは独身の頃、両親と今のご主人の4人で訪れたことがあったそうだ。「まだ結婚を迷っていた時だったんですが、そこで『結婚しとけばいいやんか』と言われ、じゃあ結婚しますとなって(笑)。それで父と一緒に大将が万歳三唱してくれました」この時のことは横林さんも記憶に残っていると話す。「万歳三唱したことまでは覚えていませんが(笑)、いい彼氏さんができたなあと思って見ていましたね」平栗さんが「うちの家族全員よくわかってもらっている」と話すように、長年の信頼関係が窺えるエピソード。ここでの食事の記憶は、そうした家族の思い出ともリンクしているのだ。予算はおまかせが10000円~、一品とお酒で12000円程度。これからは、筍料理、ホタルイカ、白魚の唐揚げといった春のメニューも楽しみだ。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■よこ林京都市東山区大和大路四条下ル一筋目西入ル075-541-2462営業時間 17時~22時 ※要予約定休日 日曜
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BLOGうつわ知新
2021.04.02
現代陶芸3
今回のテーマは「現代陶芸」です。第1回では現代陶芸の魅力について、2回目には今回使用したものをふくめ、代表的な現代陶芸について解説いただきます。そして、3回目は、京都を代表するイタリアン・イルギオットーネの笹島保弘シェフとのコラボレーションです。笹島シェフがうつわを選び、渾身の料理を盛りつけます。知っているようで知らなかった「現代陶芸の世界」をお楽しみください。梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。現代陶芸3この器は丹波焼の市野雅彦氏の作品です。丹波焼は本来、釉薬を掛けずに自然な灰被りに身を委ね焼き上げる、所謂「焼き締め」が基本です。この作品は赤黒い焼き上がりの作品も多い中、際立って鮮やかで艶のあるオレンジ色に焼き上がった秀作だと思います。取り立てて奇抜な意匠を施したわけではありませんが、たっぷりとした大きさと存在感ある厚みだけで他を圧倒する力を持っているようです。私はこの作品がこれ以上に見所を持っていたとしたら、料理より作品の主張が勝ってしまって、うつわとしての魅力を欠いたと思います。料理との調和を考えれば、作者の作為の止めどころが絶妙に良いのだと思います。仕事をやり過ぎないことも作者の力量だと評価しています。現代陶芸2より子羊のローストとキャベツいろいろ「うつわのことは、それほど詳しくないので、パッと見た時のインスピレーションでこのうつわを使わせていただくことにしました。 イタリア料理は色の組み合わせを大切にする料理です。たとえば、このうつわをみたときに閃いたのは、茶色のジャケットに緑のネクタイを合わせるというファッション的な盛付けでした。オレンジがかった茶色の皿色には、緑のアクセントが似合うと思ったんです。 仔羊のローストに、春に美味しくなるキャベツを添えた一皿。乾燥させて旨味を凝縮した緑のキャベツとプチヴェール、揚げた黒キャベツは、それぞれに味わいも食感も違います。春の苦味や清々しい香りを感じていただけます。菊芋のピュレと仔羊のだしを煮詰めたソースが仔羊の味わいをふくらませてくれます。春の味と彩をこのコラボから感じていただければうれしいですね。」笹島シェフこれは藤平寧氏の作品です。家庭での一般的な使いやすさを考えれば、もっと小さなサイズのうつわが良いのかもしれません。しかし家庭で使われるうつわは、そのサイズの割に盛られている料理の量が多いと思います。料理も見せながらうつわの表情も見せるならば、料理のサイズはもっともっと小さくて良いと思います。藤平氏は京都市立芸大名誉教授の藤平伸氏の血を受け継ぎ、うつわのフォルムも色もとても繊細で、どこか甘い感性を持っています。陶器では表現の難しい色や形への挑戦は、時には自己陶酔的と思えるほどで、いつも驚かされます。個性あふれる作品でありながら、その主張が他に強要するような圧もなく、料理との相性も難しくないのだと思います。現代陶芸2よりあわびと筍の一皿「春が旬の海のものと山のものを盛り合わせた一皿です。和食店などで出される若竹がイタリアンになったらという発想で、筍に揚げたわかめを添えました。 ニュアンスのある淡色のこの鉢を見たとき、ビビッドな色目の料理ではなく、自然の色を合わせたいと思いました。自然な海の色と山の色。春という季節を考え、あわびと筍にしようと決めました。 あわびの肝に青のりを加えたソース、黄の芽とわかめの濃い緑のグラデーションが、うつわに馴染みます。 中央のみに料理を盛らず、うつわの余白も使って、デザイン性のある盛付けを試みました。」笹島シェフ笹島保弘ローマへ渡伊後、京都「ラヴィータ」、「イル・パッパラルド」両店でシェフを務め、2002年に独立し、「イル・ギオットーネ」をオープン。東京丸の内店や大阪グランフロント店のほか、ワインやイタリア食材のショップ「オフィチーナ イル・ギオットーネ」も展開。テレビ、雑誌などメディアでも活躍している。イル・ギオットーネ関西イタリアンの名店として人気を誇るレストラン。笹島保弘シェフは、京都の素材を活かした京イタリアンの先駆者としても知られる存在。上賀茂の農家でとれた伝統の京野菜や鱧など、厳選した食材を巧みに融合させたイタリア料理は、これまでにない素材の組み合わせの妙を存分に楽しめる。■イル・ギオットーネ京都本店京都市東山区下河原町塔ノ前下ル八坂上町388-1電話:075-532-2550営業時間:12時~14時、17時~19時半(いずれもL.O.)定休日:火曜、水曜
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BLOG京のとろみ
2021.04.01
「龍鳳」の天津麺
この連載の6回目に登場した京中華の鳳舞系。何軒かある鳳舞系の中で私が一番よく行くのがこちらの龍鳳さんで、最も町中華っぽい庶民的なお店である。11時半から19時半までの通し営業が本当にありがたく新京極に来たら素通りはできない。なんなら食後でもお店に吸い込まれる(笑)カラシそばを目当てに来るお客が多いが、私はこちらでは天津麺の一択。私の友人はチャンポンばかり食べているし、ここのヤキメシが大好きな奴もいた。焼きそばや酢豚も旨い。天津麺も天津飯と同じく日本で生まれた中華料理で中国には存在しない。とろみのある中華スープが美味しいから、天津飯ではなく天津麺がいい。こちらの天津麺の卵は、硬めにしっかり焼かれていて私の好み。細く切られたタケノコの食感もいい。とろみのあるスープは食べ進めるとサラサラになり最後は一滴残さず飲み干せる。今日も旨かった。赤いカウンターは裏切らない。
ハリー中西
料理カメラマン
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BLOGうつわ知新
2021.03.28
現代陶芸2
今回のテーマは「現代陶芸」です。第1回では現代陶芸の魅力について、2回目には今回使用したものをふくめ、代表的な現代陶芸について解説いただきます。そして、3回目は、京都を代表するイタリアン・イルギオットーネの笹島保弘シェフとのコラボレーションです。笹島シェフがうつわを選び、渾身の料理を盛りつけます。知っているようで知らなかった「現代陶芸の世界」をお楽しみください。梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。現代陶芸2 この器は丹波焼の市野雅彦氏の作品です。丹波焼は本来、釉薬を掛けずに自然な灰被りに身を委ね焼き上げる、所謂「焼き締め」が基本です。しかし備前のように土の粒子が細かくない丹波焼は、時には水漏れが発生します。それを予防するために、この作品のように、赤ドベと呼ばれる鉄分を多く含んだ泥に灰などを混ぜた、化粧土と釉薬の中間的なものを表面に塗ったのです。 しかしその赤い発色の面白さが人気になったため、水止めの用途というよりも、より装飾的な使われ方がされるようになったようです。この作品は赤黒い焼き上がりの作品も多い中、際立って鮮やかで艶のあるオレンジ色に焼き上がった秀作だと思います。取り立てて奇抜な意匠を施したわけではありませんが、たっぷりとした大きさと存在感ある厚みだけで他を圧倒する力を持っているようです。 私はこの作品がこれ以上に見所を持っていたとしたら、料理より作品の主張が勝ってしまって、うつわとしての魅力を欠いたと思います。料理との調和を考えれば、作者の作為の止めどころが絶妙に良いのだと思います。仕事をやり過ぎないことも作者の力量だと評価しています。 これは藤平寧氏の作品です。家庭での一般的な使いやすさを考えれば、もっと小さなサイズのうつわが良いのかもしれません。しかし家庭で使われるうつわは、そのサイズの割に盛られている料理の量が多いと思います。料理も見せながらうつわの表情も見せるならば、料理のサイズはもっともっと小さくて良いと思います。 藤平氏は京都市立芸大名誉教授の藤平伸氏の血を受け継ぎ、うつわのフォルムも色もとても繊細で、どこか甘い感性を持っています。陶器では表現の難しい色や形への挑戦は、時には自己陶酔的と思えるほどで、いつも驚かされます。個性あふれる作品でありながら、その主張が他に強要するような圧もなく、料理との相性も難しくないのだと思います。 12時方向のビビットな赤いうつわは山田晶の作品です。彼の父は走泥社の中心人物の山田光なので、作風にはどこかその力を受け継いでいます。金属やプラスティックで成形されたような無機質感が漂ううつわです。料理を盛り付ける役目を持たさなくても、置かれた空間に磁場を作る花のような存在感を持ったうつわです。形にも色にも料理に媚びない存在感があります。 このように一見、料理と相容れないように思われるうつわですが、実際に盛り付けてみると面白い化学反応が生まれます。明らかに洋食器的な見かけとは裏腹に和食器として用いる方が面白いと思う人が多いのか、和食の料理人からの支持も多くあります。 次に左下の細長い銀色の作品は先ほどご紹介した藤平寧氏の手によるものです。レンガが長くなったような形に銀で装飾を施し、陶磁器でありながら、一見無機質で冷たい表情を見せています。しかし陶磁器で直線的な造形物を作ろうとしても焼成時に形がゆるんで、緩やかな曲線になってしまいます。その変形が我々にやわらかなイメージを抱かせ、作品の見所となっていきます。誰もが「エッ!うつわ?」と尋ねたくなるのですが、使ってみるとなかなか愉快な表情を見せてくれます。 最後に右方向に見えるライムグリーンの佐々木彩子氏の作品です。彼女は先に紹介した藤平寧氏の奥様です。ご夫婦なので互いに影響し合っているのか、共通する香りもするのですが、ご主人のスイートさとは異なりシャープなイメージ作品も見受けられます。この作品は陶磁器にはなかった挑戦的な色使いです。このうつわに和食を盛るなら、和食はどのような変化が必要なのでしょうか。想像するだけでも楽しみですね。 市野雅彦氏は先にご紹介したうつわ以外にも、今回の取材に合わせてうつわを提供してくださいました。料理を乗せてみて、これらのうつわが美しいかどうかを見極めるためには、陶芸家も様々な料理を食べて学ぶ必要がありますし、料理人も、実際に盛り付けてその感想や好みを陶芸家にどんどん伝えていく必要があります。 日本の現代陶芸は、想像を絶する可能性を持っていると思います。どうぞ皆さんもこだわりを持ってうつわを買い求め、現代陶芸の大きな飛躍に、貢献してくださることをお願い致します。 2年前、私のお客様から「自分も人生の晩年を迎えつつあるので、その日々を楽しむご飯茶碗を作って欲しい。人生最後になっても良いご飯茶碗を。。。。」と依頼されました。そしてその茶碗を市野雅彦氏に依頼しました。彼は期待に応えて、実に素晴らしい茶碗を届けてくれました。私も、お客様に大きな顔をして納品させていただいたことを覚えています。 でもいま思い返すと、作品としては素晴らしいものだったけれど、日常のご飯茶碗としては過ぎたものだったと反省することもあるのです。 この上質でありながら、さりげない作品に仕上げるということは、市野雅彦氏の腕をもってしても簡単ではなかったのですが、そのあたりは私自身も今後勉強していかなければならないと思っています。上質な作品でありながら、料理よりも作品が目立ってしまわないこと。料理と共存できる「うつわ」としてのわきまえを持つこと。作品の個性が前面に主張され過ぎず、「うつわ」という道具の背後に作品の個性が隠れていること。このようなことを頭の中に置いて現代陶芸と料理の融合を目指したいと思っています。さらにその先のモダンアートな食卓を実現させてみたいものです。現代陶芸3につづく
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BLOGうつわ知新
2021.03.27
現代陶芸1
今回のテーマは「現代陶芸」です。第1回では現代陶芸の魅力について、2回目には今回使用したものをふくめ、代表的な現代陶芸について解説いただきます。そして、3回目は、イルギオットーネの笹島保弘シェフとのコラボレーションです。笹島シェフがこのうつわに料理を盛りたいと思ううつわを選び、渾身の料理を盛りつけます。知っているようで知らなかった「現代陶芸の世界」をお楽しみください。梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。現代陶芸 古美術商の私が「現代陶芸」についてお話しすると、「ついにネタが切れたか」と思われるでしょうか。 私は20年以上にわたって美術鑑賞レクチャーを開講しており、今では京都に限らず、毎月、広島や東京でもお話をさせていただいている経験がありますので、この「うつわ知新」の原稿の回数くらいでネタが尽きることはありません。 それでも「現代陶芸」についてお話をする理由はと申しますと、古い時代のうつわも、近代の名工の作品も、やがて枯渇してしまうのではないか、という危機感を感じ始めたからなのです。そしてそれに代わる存在が「現代陶芸」のうつわだと思うのです。 日本人は茶の湯に親しんできたおかげで、茶碗・花生・水指など茶道具のみでなく、茶懐石のうつわに至るまで鑑賞の幅を広げ、美と愉しみを追求してきました。 もしこの強い追求心がなかったら、今頃私たち日本人は、アジアの他の国々と同じようにプラスティックやアルミ製の食器を使って日々暮らす民族になっていたのではないでしょうか。これらのうつわは、薄くて軽いだけでなく、割れない、欠けない、吸水性もないから清潔を保ちやすい、といった多くの面で陶磁器のうつわに対して優位であります。 しかしながら、唯一、「美」という鑑賞的な方面でだけは陶磁器のうつわが圧倒的に勝っていると思うのです。日本人はこの「美」にこだわって、文化としてそれを育てて、利便性を排除してでも使い続けて来たのではないでしょうか。 和食を世界遺産に登録するのに大きな役目を果たした、日本料理アカデミーという組織があります。私は料理人ではありませんが、その末席に名を連ねています。日本料理アカデミーは以前、海外から一流シェフを招いて和食を学ぶ機会を数回にわたって提供しておりました。参加していたのは、世界中のスターシェフたちでした。十日間ぐらいのプログラムだったでしょうか、一人ひとり異なる和食店で働きながら和食の技を学ぶのです。さらにその合間に包丁などの和の調理器具、茶道、和菓子、うつわについての研修も受ける、盛りだくさんのプログラムでした。 最終日には料理関係者のみならず、多くの観客の前で、学んだ技術で調理を行い、研修の成果を発表することになってました。そして、実はその時に使用するうつわを、私どもが提供をしておりました。家内が営む南禅寺の「うつわやあ花音(あかね)」で取り扱う、現代の陶芸家・漆器作家の皆さんにもお声がけして、優に100を超える数のうつわを提供していただいておりました。もちろん私の専門分野の古陶磁器からも、うつわを選べるようにしていましたので、それこそ広間に足の踏み場もないほどに敷き詰めた現代陶のうつわだけに留まらず、私どもの店内すべてのうつわからシェフたちが好きに選べるようにしたのです。 多くのシェフたちは日本のうつわを使った経験があるので、特に大きな期待もなく、平然とした面持ちでうつわの前に立つのですが、直後、彼らは驚愕の表情に変わるのです。彼らの言う日本のうつわは「ノリタケ」や「ナルミ」製の洋食器を意味し、私たちが用意したうつわは彼らのイメージとはまったく異なるものだったのです。やがて彼らは興奮し、「このうつわは一体どこから持ってきたのですか?」「日本人にこのようなうつわを作るセンスがあるのですか?」としきりに尋ね始めるのです。その驚きは、中国や日本の伝統的な古陶磁器ではなく、「現代陶芸」のうつわに向けられたものでした。実は海外の料理人も観光客も、さらに言えば日本人でさえ「日本はうつわの超先進国」であることを知らないのです。それを知っているのは海外で日本美術を扱うギャラリーや、美術館関係者くらいなのです。 恥ずかしながら私も、これを経験するまでそんな事情を知りませんでした。そう言えば、オーストラリアの美術館から美術品の購入担当者が幾度か私の店を訪ねてきたとき「日本の近代の陶芸作品は世界の宝だ」と話してくれたなあ、というようなことが、かすかに頭に残っていたくらいでした。 「現代陶芸」のうつわの中には、日本で大人気の作家の作品や、「これは海外のシェフにも気に入ってもらえるであろう」と私たちが自信満々の作品も多数並べていたのですが、その自信はあっさりと打ち砕かれてしまいます。私たちはうつわとしての本当の「美」を間違って理解していたのです。私がうつわを評価していた基準は、作家の人気度や、うつわの陶磁器としての完成度といった観点で、「美」を扱う人間でありながら、その実、日本人的な目でしか見ていない狭い価値観で測っていたことを思い知らされました。シェフたちは初めて目にする日本のうつわに感激しながらも、ことごとく私たちが自信を持っていたうつわを選ばなかったのです。 いまになって思えば当然のことです。海外から来た彼らにとって、作者の名前は聞いたこともないから知名度など意味があるはずもなく、焼物の産地も、聞いたこともない地名だし、うつわの形の由来などにもまったく興味なく、作品としての質の高さも私たちの基準とは異なっていたわけです。彼らは目の前のうつわを自分の料理の入れ物だとのみ考えて、食材を選ぶ時のように自由度の高い目線で眺めていたわけです。しかも欧米人の習慣では、陶器と呼んでいる、いわゆる土物のうつわは、盛り鉢としては使用されますが、そこから直接口へ運ぶうつわとしては、あまり使用しないのです。ですから、欧米のうつわ、つまり洋食器は磁器製だという大原則に気付かされたのです。 このようにして私は、日本の現代陶芸の素晴らしさと可能性を知ると同時に、日本の陶芸が乗り越えなければならない課題も見つけることができたのです。 近年の和食文化の世界的な広がりは、「UMAMI(うまみ)」や「WAGYU(和牛)」などを海外のメニューで見かけるようになっただけでなく、料理のジャンルを問わず、日本の食材が海外で使われるようになったことからも明らかです。それと同じく、私たちの扱っていた現代陶芸のうつわもパリやニューヨークの超有名店から注文をいただくようになりました。まさに和食文化の輸出は、日本文化の輸出の絶好の機会なのです。 そこで、足元の現代陶芸の置かれている環境を改めて見てみると、売れっ子の陶芸家ですら、急速に縮小している茶道市場に向けた作品展開がまだまだ主流になっているように見られ、最も市場規模の大きいはずの食のうつわへの取り組みは、どうも格下の仕事のように軽んじられているようなのです。うつわを多く発表し続けている陶芸家も、その販売先をうつわ好きの一般主婦に置いているかのような売り方をしているように見えます。和食が世界に広がっていくこの機会に、その波に乗っかっていけば、日本のうつわの文化は世界に向けて輸出されていく可能性を秘めていると思うのですが、もったいないなと思うのです。 日本の皆様には、食べること、調理することが、服を着ておしゃれを楽しむようなファッショナブルなことだと気づいて欲しいと思います。そしてうつわの存在は日本人が世界に向けて提案できる文化なのだと知って欲しいのです。ハンバーガーはうつわさえも使わず、包み紙で食べます。京都の錦市場や大阪の黒門市場での食べ歩きや、簡易なイートインなどは、楽しくはあっても、日本文化から考えればいかがなものかと思えます。 現代のAIやITで日本が遅れをとっていても、美しい文化の中で暮らす国民性は捨ててはならないと思います。どうか、世界の最先端にあるうつわの存在に気付いて、現代陶芸を応援して育てていくために、あなたの食器棚の棚卸をして、美しいうつわで満たしてみませんか。「日本の現代陶芸は世界の宝なのです。」現代陶芸2につづく
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BLOG京都美酒知新
2021.03.26
カクテルが飲みたくなる話「ソルティドッグ」
■西田稔(にしだみのる) 京都木屋町二条「Bar K6」、「cave de K」、「keller」のマスターバーテンダー。2020年開業の「ザ・ホテル青龍 京都清水」内の「Bar K36」を監修。自らもカウンターに立つ。京都生まれ、同志社大学卒業後、東京のバーで経験を積み、1994年に「Bar K6」を開業した。シャンパーニュの将校、グラッパの騎士、クリュッグアンバサダー、ウイスキーコンテスト審査員ソルティドッグカクテル言葉「寡黙」「ソルティドッグ」の名前の由来は、イギリス海軍で使われる「甲板員」を意味するスラング。甲板員は、潮風や波浪を浴びながら仕事をすることから"塩辛い野郎"と呼ばれていたそうです。イギリスで生まれた当時の「ソルティドッグ」は、現在とはずいぶん違ったレシピでつくられていました。ベースはジンで、そこにグレープフルーツジュースを加え、塩をひとつまみ加えてやわらかにシェイクし、カクテルグラスに注ぐというもの。これが塩辛い野郎です。現在のように、ウォッカをベースにしてグラスの縁に塩をつけるようになったのは、アメリカに渡ってからだといわれています。うちのソルティドッグは、原型ともいえるクラシックなレシピでおつくりしています。今回ベースにするのは、ジャパニーズクラフトジンです。「六(ROKU)」などジャパニーズクラフトジンの多くは、ボタニカルのひとつに抹茶を使っています。抹茶が放つ出汁のようなニュアンスとカクテル内に潜ませた塩が響き合い、スムースでいて個性ある最高のカクテルに仕上がるのです。速いリズムではなく、ゆるーくシェイクするのが美味しさの秘訣です。カクテルレシピ六 45mlフレッシュグレープフルーツジュース 90ml塩 ひとつまみ3月のウイスキースプリングバンク10年のロックスプリングバンク10年はキャンベルタウンで唯一安定したウイスキーづくりを行うスプリングバンク蒸留所のメイン商品です。ウイスキー愛好家の間では、「モルトの香水」と称されるほど薫り高く、港町独特の気候環境から「塩辛い(Briny)」味わいを帯びたシングルモルトに仕上がります。爽やかな柑橘系のフルーティさやシロップのような甘い香りもあり、そのユニークな複雑味が魅力です。芳醇で個性的な味わいをあますことなく堪能できるロックでどうぞ。スプリングバンク蒸留所スプリングバンク蒸留所は、スコットランドの南西にあるキャンベルタウンにあります。キャンベルタウンには、かつて30以上の蒸留所があり、ウイスキーの都と呼ばれていましたが、現在では3つの蒸留所が残るだけになりました。3つのうちのひとつがスプリングバンク蒸留所で、1828年にレイド家が創設してまもなく財政難に陥り、現在のオーナーであるミッチェル家に買収されました。生麦からボトリングまでを蒸留所内で管理し、全ての麦芽をフロアモルティングでまかなう貴重な蒸留所です。19世紀にアーガイル公キャンベルが、ウイスキー蒸留のために作った人口の貯水池「クロスヒル湖」の水と敷地内の井戸水を用いて醸します。■Bar K6京都市中京区木屋町二条東入ル ヴァルズビル2F075-255-5009撮影:ハリー中西
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2021.03.24
即今 藤本「白子パスタ かぶらのソース」
奇想の一皿「白子パスタ かぶらのソース」店主の藤本宏和さんは多くの料理人を輩出した名割烹『桜田』出身。京都ホテルオークラ『粟田山荘』では8年にわたり料理長として活躍し、2018年、寺町二条に自身の店を構えました。挑戦的な食材選びや料理構成、「お客さんを楽しませたい」という思いが言葉の端々からあふれ出るような接客......訪れるたびに新たな驚きや発見がある、今注目の一軒です。発想秘話この時期、魚介類は選び放題なのですが、野菜の選択肢が少ないんですね。どうしても根菜中心になってしまう。かぶらも使い始めて4か月目となると、僕自身が飽きてくるんです。かぶら蒸しとか、すりおろして和え物にするとか、どれも普通でおもしろくないでしょ? そこで今月(3月)はかぶらをポタージュ風にアレンジして、ソースとして使っています。味を含ませた海老芋を油で揚げて、あつあつのかぶらソースで召し上がっていただく。これがなかなか好評だったので、今回はその「かぶらのポタージュ」に手を加えて、ちょっと変わったパスタ料理に仕立てたいと思います。ポイントはソースを軽く、あっさりと仕上げること。味の濃いソースに頼るのではなく、魚介のコクやうまみがソース代わりになる......そんなパスタを目指します。そのために重要なのが、丁寧に下味をつけること。今日は麺そのものに下味をつけて、さらに魚介のうまみをまとわせます。それでは早速作っていきましょう。これが今回の料理に使う食材です。かぶらと海老芋、玉ねぎはかぶらのポタージュ(ソース)に。ソースがあっさりしている分、具材にはふぐの白子や雲丹といったうまみの強い食材を用い、最後にからすみをたっぷりかけて仕上げます。からすみは毎年11月に一年分、約20キロを仕込みます。うちのからすみは塩辛くないので、大根などを添える必要がありません。うまみをしっかり乗せていく「うまじお」仕立てなので、そのまま食べても美味しいし、青りんごや柑橘類、クリームチーズなどに合わせてワインと楽しんでもらうこともあります。白子は二通りの使い方をします。具材として使う白子は大きめにカットし、串を打って炭火焼に。残りの白子は日本酒で軽く煮てから裏ごしし、茹で上がった麺に絡めます。食べた時にお酒の風味がしっかり感じられると思います。これが今回の料理の核となるかぶらのポタージュです。かぶらと玉ねぎは細かく切って牛乳で炊き、出汁で炊いた海老芋と合わせてペースト状にします。雲丹も白子も口当たりがなめらかな食材なので、それらと調和するようソースもできるだけなめらかに仕上げています。味付けは塩と少量の薄口醤油でごくごく控えめに。使用するのは讃岐で作っている小麦粉100%の生パスタです。これを今日はお湯ではなく、牛乳にお酒と水、塩を加えたもので茹でます。こうすることで麺に下味が付き、素材そのもののおいしさがより引き立ちます。湯がいた麺に太白の胡麻油をまぶし、先ほど裏ごした白子のペーストで和えたら麺の準備はOKです。麺をお皿に盛り、ソースに見立てたかぶらのポタージュをたっぷりかけ、その上に焼き目を付けた白子と雲丹、うぐいす豆を乗せます。最後に穂紫蘇と自家製のからすみをたっぷりかけて完成です。焼いた白子も箸で崩しながら、ソースのように麺に絡めて食べてみてください。野菜そのもののソースと濃厚な魚介のうまみが相まって......痛風の人は見ただけで発作を起こすんじゃないでしょうか(笑)。お皿に残ったソースをアテに、日本酒をちびちび飲むのも最高でしょうね。独立一年目はとにかくしんどかったです。やはり一料理人と経営者では、見える世界が違うことを痛感しました。それでも、最初の年に来てくれたお客さんが二年、三年と途切れず通ってくださるのがめちゃくちゃうれしくて......。今年で4年目になりますが、いつも足を運んでくださるお客さんをどうにかして楽しませたい。「こんなのできるんや」と思ってもらえるよう、常に新しいものをアウトプットしていきたい―常にそういう気持ちでやっています。料理屋の料理がおいしいのはある意味当たり前だと思っているので、それに加えて「おいしくて、楽しかった」と言ってもらえるよう、目の前の課題にしっかり取り組んでいきたいですね。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■即今 藤本京都市中京区二条通寺町東入ル 榎木町92‐12075-708-285112:00~13:30(L.O.) 17:00~19:30(L.O)水曜休
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