料理人がオフに通う店
「旨い店は料理人に聞け!」食材を見る目や鋭い舌をもつ料理人が選ぶ店なら、決して外れがないことでしょう。 京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店とは?
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BLOG料理人がオフに通う店
2022.03.21
「イタリア料理 casa bianca」-「京料理・天ぷら 天㐂」の石川輝宗さんが通う店
推薦者の石川輝宗さん歴史ある西陣にて昭和8年創業の「京料理・天ぷら 天㐂」。三代目を継ぐ石川輝宗(てるむね)さんの祖父が、当時まだ他にはなかった「天ぷら会席」を日本で初めて発案。その後、石川さんの父(二代目主人、輝夫さん)が、表千家の直門になったことをきっかけに、数多くのお茶人の方との知己を得ることができ、その名を全国に広めた。 現在では敷地内には茶室を造り、数多くの茶会を催し、お茶人たちに愛される名店ともなっている。お茶の心を、おもてなしの根幹において、しかしながら敷居を低く、片肘張らず、くつろいで料理を楽しんでもらえる店にと言う思いは、この店の根幹であり、一筋に貫かれている。 「天ぷらは素材ありき」と姿勢のもと、鷹峯の提携農家の野菜、明石や山陰の漁場から直接仕入れる旬魚、米も低農薬栽培で育てたものを厳選。冬場の王様、柴山の蟹はなんと漁船を指定して、直接仕入れている。代々受け継がれる伝統の味、天ぷらを基本に、中華や洋食の要素を和と融合させた創作料理など、緩急を巧みに取り混ぜた味の数々は、遠く海外までファンを持つ。「とにかく何を頼んでも美味しくて、家族ともよく行かせていただいていますが、一人で仕事帰りにふらりと立ち寄ることも...(笑)。ワインとアラカルトの料理をよく楽しんでいますね。コースもありますが、おすすめはやはりアラカルトです。定番の料理はもちろん、季節ごとのスペシャリテもどんな料理がメニューに登場するのか、いつもワクワクします。洗練されたもてなしも心地よいですし、それでいて気を張ることなく、アットホームな雰囲気でほっと寛げる大切な一軒です」ヨーロッパの古い小さな教会を思わせる心地よい店内。 京都御所のすぐ東。今出川通から少し奥まったところに白壁が明るく映える一軒のレストランがある。オーナーシェフの那須 昇さんが、ピエモンテ州を中心に北イタリアで4年半修行し、1995年、生まれ育った御所近くに開いたリストランテだ。 京都でも、いや全国的にも、リストランテという言葉がまだ定着していなかった頃のことである。まさしく、この店はイタリア料理文化の草分け的存在といえる。「ちょうど阪神大震災のあった年にスタートでした。関西はどうなるのか?という不安の中でのスタートでしたが、生まれ育った地元に助けられました。昔の友人、知人がこぞって訪ねてきてくれて、お客さんを連れてきてくれたり、人に紹介したり、口コミでも広げてくれて、本当に感謝しています」地元の利ということだけでは、もちろんないだろう。やはりそこには、力あるシェフが作る、力ある美味なる味があったからだ。だから評判が評判を呼び、人が人を呼んで、瞬く間に京都にこの店あり!という存在になれたのだろう。 那須さんはイタリアの本場で学んだ調理法をきちんと守り、いわゆる"日本人向け"の味ではなく、現地の味わいをそのまま伝えたい、という強い思いを持って店を開いたという。以来、その思いを一貫して持ち続けている。「調理法はイタリアの技法をしっかりと受け継ぎながら、素材は地元で手に入る新鮮なものを使って、この店の味に仕立てていく、それが私のやり方です。その時々の、旬の一番美味しい魚介や野菜を吟味して、大切に丁寧に現地で身に付けたやり方で料理すること。それだけなんですが、とにかくイタリア人のお客様がうちの店に来られて、本当に美味しい!と言ってもらうのが何より嬉しいんです。その味を日本の方にも提供して、イタリアンの味を心ゆくまで楽しんでいただきたいと思っています」こんな小部屋もなかなか素敵だ。カップルや家族に人気の席だという。 そしてもう一つ、那須さんが大切にしているのは、地元の人たちとの関係だ。オープン時に、様々に店を引き立てて協力してくれた地元の人たちに長く愛される店になること。それが感謝をあらわす唯一の方法だったという。 そんなシェフの思いは、ぶ厚いメニューにぎっしりと詰まっている。ランチとディナーのコースをそれぞれ用意しているが、あくまで温・冷の前菜、パスタ、メインなどアラカルトが中心で構成されている。また、その品数も半端ない。 なぜこれだけメニューの数を揃えるのだろう?月に複数回訪れるという常連さんは、"いつもの定番"を頼むことが多いが、時に「今日はちょっと違った料理を楽しみたい」という"その日の気分"がある。そんな気分にもちゃんと応えたいという思いから、料理を考えるうちに「これだけの品数になってしまいました」。 グランドメニューが50種以上、旬のおすすめ料理は20種近くもあり、食材だけでも常時揃えるのは個人の店では並大抵のことではないだろう。でも那須さんはからりと笑う。「私自身がほかのお店に行く時は、その日の気分でアラカルトから自由に料理をあれこれ選んで楽しみたいタイプなんです。とくに行きつけの店だとさらにその思いが強くなるので、お客様もおそらく同じ思いで来ていただいているだろうなと思っていて...。リクエストにもあれこれお応えしているうちに、グランドメニューがこんなにぶ厚くなってしまいました(笑)」 地元のお客のために日々、丹精込めて料理を作り、それが口コミで広がって、遠方からもたくさんのお客が訪れるだけでなく、イタリアの外務大臣をはじめ、国内外から数多くのVIPがこの店の料理を堪能してきた。長年にわたってイタリア料理の文化を広く知らしめた功績が認められ、なんとカヴァリエーレ(イタリア共和国功労勲章)が授与された。名実ともに唯一無二のシェフが率いるリストランテは、まさしく観光都市・京都を代表するリストランテとなったのだ。ゆったりとしたソファは、心地良いウエイティングスペースになっている。 創業当時から変わらぬ情熱を注ぐ那須さんに、おすすめの料理を作っていただいた。最初に登場したのは、温前菜のホワイトアスパラのミラノ風だ。フレッシュな白アスパラをさっとボイルして、バターソテーし、ポーチドエッグをふわりとのせて、パルミジャーノチーズをたっぷりとすり下ろす。まずはそのままでアスパラのさっくりとした食感を楽しんで、その後、玉子をつぶして、とろりと絡めていただく。スパークリングや白ワインにピタリと合いそうだ。小雪?花吹雪?美しい景色と物語が一皿の上に展開するホワイトアスパラのミラノ風1800円〜。フランス産を使うので仕入れによって価格が若干変動するという。※価格は全て税込目をみはるような鮮やかな色彩のホタルイカと菜の花のキターラ 2100円。 菜の花の緑、ホタルイカの紫、ドライトマトの赤がなんとも華やかでどこか小粋なパスタは、まさに春の訪れを待つよろこびを表現する一皿。手打ち麺のキターラを春の味わいとともにオイルベースでいただく。菜の花の青味、ホタルイカのほろ苦さが、イタリアンにおけるまさに出会いの妙を実感させてくれる。パスタは手打ち麺が中心。今でこそ手打ち麺も定着しているが、1995年のオープン当初に、那須さんが手打ち麺をいち早く取り入れたことも記しておきたい。説明不要の王道の一皿。「鴨のロース バルサミコソース」3300円。 ロマネスコや赤万願寺、カリフラワーなどの野菜がバランスよく添えられて、その中心にましますのが、しっとりしたロゼ色の断面...!見るだけで思わず食欲を誘うのは、メイン料理の中でも人気の「鴨のロース バルサミコソース」。鴨ロースをソテーして、バルサミコを煮詰めた甘酸っぱいソースでいただく。シンプルゆえに火入れが肝心。絶妙の火入れで、肉はあくまで柔らかく、口の中にジューシーな鴨肉の旨味が、じんわりと広がる。ついつい、ボディのある赤ワインを欲してしまいそうになる。ここにきたら必ずこの料理を注文するという常連ファンの気持ちが本当によくわかる。ワインはイタリア各地のものを常時100種、取り揃えている。グラスワインは700円〜、ボトルワインは4000円から〜。「これからやりたいことですか?そうだなあ、やはり自分も大好きなアラカルトをもっといろいろ考えて、きわめていきたいですね。お客様が食べたいものを食べたい時に食べたいだけ、きちんと提供できる店でありたいです。外食する時間はやはり普段とはちがう、ちょっと特別な時間でしょう?少しぐらい我がままな気分があっていいんです。それにしっかりと応えるのが僕たちプロなんですから(笑)」 確かな味はもちろんのこと、素材の組み合わせにも、一皿ひと皿の盛り付けにも、那須さんの瑞々しい感性が息づいて、器と料理の色のコントラストや立体的なフォルムの面白さなど、そこには豊かなストーリーが存在する。 前菜、パスタ、メイン料理としっかりフルで楽しむもよし、アラカルトをいくつか頼んでゆっくりワインを楽しむもよし。那須さんが彩るストーリーにすっかり浸ってしまう幸福な時間がここにはゆったりと流れている。 那須さんが料理の話をするとき、本当に楽しそうに笑顔が満ちてきてふわっとこぼれる。ああ、この人は本当に料理を、イタリアを愛しているのだなあと思う。人を惹きつけてやまないものには、料理、空間、もてなしなど様々な要因があるけれど、やはり人、那須シェフの魅力がこの店の大いなる磁力になっているのだ。懐の深さ、イタリア料理への愛、京都への思い。いろいろな思いが込められて、この包み込むような笑顔になるのだろう。■イタリア料理 casa bianca京都市上京区今出川寺町西入南側075-241-3023営業時間 11:30〜14:00(LO)、17:00〜21:30(LO)定休日 月曜 ※サービス料はなし。アラカルト注文の時のみ、コペルト(席料)一人350円あり。撮影/ハリー中西 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG料理人がオフに通う店
2022.02.28
「京料理・天ぷら 天㐂」-「樽八」の平松昌峯さんが通う店
推薦者の「樽八」店主、平松昌峯さん 百万遍に程近い場所にある「樽八」。初代の父、水賀(みのり)さんが、友禅の染職人から大きく方向変換をして、友禅工房だった建物を改装し、昭和54年、居酒屋を開いた。た。18歳の時から父の下で働いていた長男の平松さんは、15〜6年前に、店の方針をリフレッシュし、「料理人が丁寧に手間をかけた料理を大切にお出したい」という希望をかたちにして、大人がゆっくり料理と酒を楽しめる店へと舵を切った。 食材をさらに吟味して厳選し、レシピも一から見直し、価格は庶民の財布に優しい設定を心がけた。昔から馴染みの大学関係者をはじめ、サラリーマン、カップル、ファミリーなど、幅広い層のファンが店に通っている。 若い時は料理の勉強として、母と一緒によく通わせて頂いていました。最近は「天㐂」さんのマスターに紹介して頂いたお客様にお呼ばれして、伺うことが多くなりました。お昼のランチタイムに行く事が多いですが、お昼も夜と同じお料理を出していただけます。カウンターで会席料理をよく楽しませていただいていますが、前菜から八寸、造りなどから天ぷらに入っていくコースで、多種多様な天種で毎回、感動の連続です。先日は、新茶の時期限定の「新茶にしん蕎麦」を出していただきましたが、素晴らしく美味しかったです。「鱧の焼霜の千枚落とし造り」も斬新で印象に深く残っています。 京都はお高い金額のお店も多いですが、まっとうな金額で、お料理を最初から最後まで楽しめて、お腹いっぱいになります。敷居が高く見えがちなお店ですが、皆さん気さくで本当にゆっくり出来るお店です。やはり代名詞の天ぷらが素晴らしく、食材により揚げ方を変えて、温度まで毎回調整してここまで変わるのか...と、驚きの連続ですね。基本中の基本、海老の天ぷらは、香ばしくてお菓子のような特筆すべき旨さです。ご主人の経験値と手抜かりの無い丁寧な仕込みがあっての味だと思います。何度でも通える素晴らしいお店だと思います。お茶の心そのままに、全ての客室において、丁寧にしつらいが調えられている。 鎌倉時代から機織りの町として時を刻んできた歴史ある西陣。「京料理・天ぷら 天㐂」はその一角に昭和8年に創業した。三代目を継ぐ石川輝宗(てるむね)さんの祖父が、当時まだ、他では例を見なかった「天ぷら会席」を日本で初めて発案し、店の柱として打ち出した。「当時はね、京都の料理に天ぷらやなんて...とおっしゃる方もおられたようです」と石川さんは言うが、天ぷらと京料理を融合させた、他にはない妙味が人々に喜ばれ、次第に「天ぷらの天㐂」として、全国にその名を馳せることになった。「うちとこの店がたくさんの方に受け入れられるようになったのは父(二代目主人、輝夫さん)が、表千家の直門にさせていただいたことが大きかったようです。お家元について全国を廻らせていただき、お茶を通じて、多くのお茶人の方との知己を得ることができました。お茶人の皆様に店の味を認めていただくようになりまして、それが私どもの自信にもなりました」 敷地内には茶室を造り、数多くの茶会を催し、お茶人たちに愛される名店ともなっている。お茶の心を、おもてなしの根幹において、しかしながら敷居を低く、片肘張らず、くつろいで料理を楽しんでもらえる店にと言う思いは、この店の根幹であり、一筋に貫かれている。数寄の心が息づく室内。大切な人たちとの時間をゆったりと心地よく過ごすことができる。 石川さんが大切にしているのは、何よりも地元に根付いた店、地元の人々を大切にした店でありたいということだという。「地元の皆さんが、祖父の代から、通ってくださってこの店を育ててくださいました。ですから、恩返しの気持ちを込めて、日々、仕事をさせていただいています」 お客さんには親子三代で通う人や、60年以上通い続ける常連さんもいる。近所のおばあさんが、よく一人でお昼のミニコース(椅子席3850円・税込、サなし)を食べにくるなど、まさしく地元にしっかり根付いた店だといえるだろう。取材をした1月の天ぷらは車海老、琵琶湖産のわかさぎ、和歌山のふきのとう、なると金時、太ゴボウの含め煮など。その時々の旬味を美しい天ぷらにして供する。 夜の「天ぷら京会席」は1万1000円〜(夜は全て税込、サ15%別途)から用意されている。先付け、八寸、煮物椀、造り、天ぷら、焼き物、酢の物、炊き合わせ、香の物、ご飯、水物で構成される。中でも、やはり、誰もが期待に胸を弾ませるのが天ぷらだろう。 天ぷらの盛り合わせは、どこまでも気品に満ちて、実に美しい景色を見せ、さすが京の美意識が隅々まで息づいている。「天ぷらは素材ありき」と石川さんは言い切る。鷹峯の提携農家から日々取り寄せる新鮮野菜のほか、魚介は中央市場への日々の買い付けのほか、明石、山陰の漁場から季節の魚貝類を直接仕入れている。米も低農薬栽培で育てたものを厳選し、自然の恵みそのままを味わってもらうために、栽培方法や品質管理までしっかり目を届かせているという。 冬場の素材の王様、柴山の蟹はなんと漁船を指定して、直接仕入れると言うから驚く。「素材を揚げると言うシンプルな調理法だからこそ、天ぷらは素材が生命線。最高の素材を探すことに、代々が心血を注いできたんです」 天ぷらの油は、素材の良さをそのまま引き出す「大豆の白締」を使用する。素材の味わいを衣にしっかりと包み、それでいて重たさがない。天つゆ、または塩をお好みで食すが、揚げたてはもちろん、時間が経ってもサクサクと歯ごたえが増し、美味しくいただくことができる。すっぽんとフカヒレの茶碗蒸しは、13,200円のコースから。 伝統を守りながらも新しい味わいの探求も怠ることがない。冬にはこれがないと納得しないというファンが多いのが、二代目が考案したすっぽんとフカヒレの茶碗蒸しだ。 すっぽんの身を炊いたのスープとXO醬でフカヒレを煮含めて、すっぽんの身、フカヒレを入れた茶碗蒸しは、和と中華が見事に融合した一品である。サクサクの食パンと叩いた車海老のしっとりした食感の対比がたまらないパン天2200円。 二代目は長崎の卓袱料理からインスパイアされた料理が得意で、エビトースト揚げからヒントを得た一品料理にパン天もその一つ。車海老を叩いて塩と合わせただけの具を大正製パンの食パンに挟んで、からりと揚げる。噛み締めるほどにじんわりと海老の旨味と香りが広がって、なんとも幸せな心持ちにしてくれる味わいだ。 石川さん自身もブルーチーズとセロリ、アワビを合わせた前菜や、春巻きの皮にトマト、うに、バジルを巻いて揚げた「マルゲリータの天ぷら」など、様々な新味を打ち出して、お客様を喜ばせている。「これ何?美味しいなあ...!と言っていただくのが、何より楽しみです。お客様の笑顔が見たくて、仕入れから料理まで、日々の仕事をしていると言っても過言ではないですね」 サクサクと薄衣で軽やか、京都らしく上品な天ぷらには、ワインもよく合う。最初にシャンパーニュで乾杯する人も多く、ワインも取り揃えているが、ワインを担当するのは、ソムリエールの資格を持つ、石川さんの妹であり女将の橋本静代さんだ。内外からVIPを迎えることも多く、料理だけでなく、それに合わせるワインまで、しっかりと見届けるあたりに、何ごとにも妥協しないこの店の姿勢が見て取れる。ワインセラーには女将が吟味したプレミアムなワインが静かに出番を待っている。京都の料理人や女将とサドヤワイナリーがコラボして、造りあげた京の料理に合う白「セミヨン3331」(左)は希少なワイン。シャンパーニュや赤、白と厳選ワインを揃える。日本酒は地元の金鳩正宗をはじめ、主人のめがねにかなった各地の地酒がそろう。独特の造りの母屋。建築の専門家が訪ねてきた時、とても個性的な意匠と設計だと言われたそうだ。手前の中庭が四季折々の自然を感じさせる。すっきりと清々しいカウンター席。お昼のミニ会席もこちらでいただける。網代天井や聚落の壁など、隅々まで数寄の精神が息づく美空間。 店内は鰻の寝床そのまま、入り口から奥が驚くほど広く、長く続いている。茶室を設けた伝統的な数寄屋造りはどこまでも清々しく、心がすっと落ち着くような空間となっている。 中庭を経て、大小さまざまな座敷が展開し、家族の集まりや大切な人との食事、ハレの日の宴会、法要後のひとときまで様々なTPOに応えることができる。また、カウンター席やテーブル席は気軽に立ち寄って食事をすることも可能だ。 実は若い頃は教師を目指し、教員資格を持つ石川さんは、英語が堪能なことでも知られる。海外の和食シンポジウムなどにも参画し、流暢な英語で和食文化の紹介を行っているそうだ。また、海外からのお客様も巧みな英語でお迎えし、天ぷらや和食の説明をフレンドリーに行って、リラックスしてもらうという。「初めての和食で緊張気味の方もそれで打ち解けていただいて、お食事を楽しんでいただけるんです。海を越えて、たくさんの方にうちの料理を美味しいと思ってもらえる。料理をする者にとっては、これ以上の幸福はないと思います」 もてなしの心がここまで行き届くには、相当な労力が必要とされるだろう。しかし石川さんは、「こだわりと言うのは私ども店側が持つものではなく、お客様が持たれるべきものやと思っているんです」とさらりと、しかしきっぱりと言う。 お客様がこだわって、こんな味を楽しみたい、こんなもてなしをして欲しいというその希望にできる限り、応えていくこと。それが「天㐂」の商いの根本だという。 料理と空間だけでは、店の文化は成り立たない。そこに人がいてこそ、なのだ。「お茶の心とおもてなしを礎に、素晴らしい空間で料理を堪能してもらって、できるかぎり、敷居を低くして、寛いでいただきたい。そして皆さんに喜んでいただく。それでこそ、うちとこの店の名に恥じないことでしょう?(笑)」 まさしく。「天が喜ぶ」。 石川さんの言葉と暖かな笑顔に、その意味をしかと実感した。■京料理・天ぷら 天㐂京都市上京区千本今出川上ル上善寺町89075-721-8080営業時間 17:00〜23:00定休日 月曜(祝祭日の前日は営業)撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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2022.01.14
「樽八」-「HANA(ハナ)」の岩崎出さんが通う店
推薦者の「HANA(ハナ)」のオーナシェフ、岩崎さん(左)岩崎出さんは、京都・元田中のフレンチの名店、ベルクールで松井知之シェフのもと、4年半、修業し、その後、2号店となるLe Bouchon(ル ブション 寺町二条)を任され、ここで4年半、研鑽を積んだのち、2000年に独立して、オーナーシェフとして「HANA」をオープンさせた。岩崎さんのような料理人が、深夜、仕事を終えてから集まって、美味しい料理とワインを飲めるような店を、という思いをかたちにして、自身の店をオープンさせた。カクテルやワインが飲めて、ベルクール仕込みのフレンチ・アラカルトが揃う、ビストロの先駆けのような店をオープンさせたところ、評判を呼んで、大人が深夜までゆるりと楽しめる一軒として、多くのファンを掴む店に。今も多くのファンが集まる一軒となっている。「新鮮な海鮮料理からお肉料理まで、とにかくメニューが豊富で、子供から年配の方まで楽しめる、安くて美味しいお店です。カップル、家族、グループなどいつ行っても、いろいろな方が料理とお酒を楽しんでいます。僕は、結婚前は沢山の友達と通っていましたが、今は家族で行くことがほとんどで、カウンターに座って、店主の昌くんと料理の話をしながらいつも楽しんでいます。妻も娘も大好きなお店なんですよ。寛げる空間やし、料理も美味いし、料理関係の方々も沢山見えているみたいです。僕がいつもオーダーするのは、お造り盛り合わせ、季節の天ぷら、グリーンサラダ、自家製餃子、ノドグロ塩焼きなどなど。特に魚介は本日のおすすめを聞きながら頼んでいます。お酒類も日本酒、焼酎、ワインなんでも揃っていて、財布に優しい値段設定です。僕のお気に入りは、夏は焼酎ソーダ、冬は熱燗ですね。冬場は蟹コースとか、ふぐコースなどのスペシャルコースもありますし、〆の樽八ラーメンも有名ですよ」(岩崎さん)「ご家族でよく来ていただいています。知り合ったのは僕がまだ料理人の道に入りたてで、岩崎さんの店には仕事帰りにしょっちゅう行っていました。若い頃からいろいろ相談に乗ってもらってきましたが、今は家族連れでお互いの店を行き来して、また料理の話で盛り上がっています」(平松さん)見よ、この立派なカウンター!ここに陣取って、思わず「とりあえずビール!」と言いたくなる。 百万遍に程近い場所にある「樽八」。一歩、店内に足を踏み入れるとそのスケール感に圧倒され、「ああ、懐かしい」という感覚に包まれる。広い店内の中央にコの字の木のカウンターがでんと座し、その真ん中で、店主の平松昌峯(まさたか)さんがキビキビと料理をしている。小上がりに座敷、石畳、大きな手書きの本日の品書き、座布団...などなど、昭和の良き時代の居酒屋の空気が満ちみちているのだ。 それもそのはず、平松さんは二代目。初代の父、水賀(みのり)さんが、友禅の染職人から大きく方向変換をして、友禅工房だった建物を改装し、昭和54年、ここに居酒屋を開いたのだ。場所は京大エリア。京大の学生相手の安くて美味い居酒屋として、多くの常連が通い詰めた。 18歳の時から父の下で働いていた長男の平松さんだが、15〜6年前に、店の方針をリフレッシュし、大人来てゆっくり料理と酒を楽しめる店へと舵を切った。 「居酒屋はどうしてもスピードが求められますが、僕は料理人が丁寧に手間をかけた料理を大切にお出したいとずっと考えていました」 食材をさらに吟味して厳選し、レシピも一から見直し、それでいて価格は庶民の財布に優しい設定を心がけた。平松さんの思いはそのまま、店の評判に繋がり、新たな店のかたちが少しずつ、浸透していった。今では京大関係者はもちろん、学生時代にここに通っていた人が社会人になって訪れてくれたり、サラリーマン、カップルやファミリーなど、多くのファンが店に通っている。酒好きにはたまらない景色。 読み切れないほどの豊富なメニューは見ているだけでも楽しくなってくる。その中からおすすめ料理をいくつか紹介してもらった。 まず、ここに来たら食べて欲しいのが海鮮だ。「HANA(ハナ)」の岩崎さんからの紹介で知己を得た七条の山定商店から日々届く鮮魚を、まずは造りで。今日の黒板には「天然アナゴ刺身」、「白グジ造り」、「寒サワラ造り」「活松葉ガニ」など、今が旬の魚がずらりと書かれている。見ているだけで美味い酒を欲してしまう。本日の造り盛り合わせ。金目鯛、マグロ、明石のたこ、アオリイカ、さわら、鯛、カンパチ、天然ヒラメなど旬魚がたっぷりと盛られている。一人前1760円〜。写真は二人前。 ご自慢は魚介だけではない。野菜料理の多さにも驚くが、シンプルなグリーンサラダは「今日、仕入れた野菜はほぼ全部のせる勢いで(笑)」という平松さんの言葉通り、瑞々しい野菜がぎっしりと盛られている。オニオンとガーリックのすり下ろしをベースにした自家製ドレッシングの旨味が広がって、たっぷり過ぎると思った野菜もすんなり胃におさまってしまう。もう、ぎっしりと詰め込まれたカラフルな野菜たち。一皿で何品目もいただけるのが魅力のグリーンサラダ880円。 見るからにおしゃれな一品は、店の名物の一つ、マグロのネギトロをサラダ仕立てにした一品で、相性の良いマグロとアボガドを自家製のタルタルソースでいただく。ワインにも合う味わいだ。こちらにも野菜がこれでもかというくらい盛られて、見ているだけでテンションが上がってくる。姿も美しいアボガドマグロタルタル 935円。キリッと冷えた白ワインに合いそう。 創業当初から唯一残っているオリジナルメニューもある。なんと鶏の半身をどんと使った、その名も「名物半身揚げ」だ。初代が考案した赤塩と呼ばれる秘伝のスパイスソルトで味付けした鶏をじっくり揚げたボリューム満点の一皿。ここにくればぜひ、試して欲しい、こちらも名物料理の代表格である。オリジナルの赤塩をたっぷり振りかけたボリューミーな名物半身揚げ1430円。ここに来たら一度は試して欲しい初代公安の逸品。 魚介だけでなく、肉料理もおすすめだ。「和牛焼き」のA5サーロインステーキだ。200gほどのボリューミーなステーキを、切り口をロゼ色に焼き上げて醤油ベースの自家製タレ、または塩でいただくのだが、こちらも人気が高い。肉汁たっぷり!ジューシーなサーロインの極上の風味を堪能できるA5サーロインステーキ4180円。 吟味した素材を造り、焼く、煮る、揚げるなど様々なバリエーションで楽しんで、さらに中華そばや、マグロユッケどんぶり、たらこバターごはん、雑炊など〆のメニューも大充実。酒もビール、日本酒、ワイン、焼酎、サワーなど多彩に揃う。 割烹と居酒屋の楽しみを併せ持ったような店は、懐かしさと寛ぎを感じさせ、いつも活気に溢れて、和やかに"食べて飲む"よろこびに満ちている。ガラスケースの中には日々、旬の魚介が並べられる。今日はミルキーな北海道の仙鳳趾(せんぽうし)牡蠣がお目見え。 「うちに来れば、何かしら美味しい!と思っていただけるお好みの味にきっと出会ってもらえると自負しています。厨房内は僕が信頼できる調理スタッフと二人で対応しているので、料理にどうしても時間がかかってしまう時があるんです。タイミング的にちょっと待っていただくこともあるかもしれませんが、お待ちいただいた分、美味しい料理を提供させていただけると思っています」いつもキビキビと笑顔で出迎えてくれる平松さん。今日のおすすめをいろいろと相談してみて欲しい。 おひとり様から家族連れ、グループまで、どんなシチュエーションにも心地よく応えてくれる一軒。夕暮れになるとぽっと明かりが灯り、一人、また一人と温かな空間へ吸い込まれていく。美味いものを食べて、飲んで、笑って、明日へのエネルギーをしっかりチャージできるこんな場所は、なにものにも変えがたい。座敷もどこか懐かしさに満ちて、心からほっと寛げる空間だ。温かな明るい色合いの暖簾が出迎えてくれる。■「樽八」京都市左京区田中門前町67075-721-8080営業時間 17:00〜23:00定休日 月曜(祝祭日の前日は営業)撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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2021.12.22
「HANA (ハナ)」-「太郎屋」の杉本悠子さんと前川瑠衣子さんが通う店
「太郎屋」の前川瑠衣子さんと杉本悠子さん姉妹 四条烏丸西入ル、路地酒場が集まるエリアにある「太郎屋」。女将の杉本雪枝さんは料理上手で、夫の「太郎さん」(ニックネーム)がお酒好き。雪枝さんの手料理で美味しいお酒が飲める理想の居酒屋をして欲しいと太郎さんのたっての希望で30年前にこの店を始めた。暖簾を守っているのは、店主の杉本雪枝さん、長女の悠子さん、次女の瑠衣子さん姉妹。母娘3人で切り盛りして、アットホームな店はいつも常連客を中心に賑わっている。 雪枝さんのお姑さんが料理の名手で、雪枝さんはおばんざいをはじめ、京の家庭料理をしっかりと受け継ぎ、それを姉妹がさらに受け継いでいる。サラリーマンの懐に優しいプライスで、くつろいで美味しい料理とお酒をゆっくり楽しんでほしい。創業当初の思いは今もしっかりと繋がり、働く人たちの癒しの場所となっている。「『HANA」さんの店主、岩崎さんとは古くからの友人で、当時、岩崎さんはフレンチレストランの店長をされていました。その後独立され、HANAを開かれたのですが、私たちの自宅から近かったこともあり。家族3代(父母、私と姉の家族)でいつも大勢で伺います。お店の雰囲気はとてもカジュアルなのですが、お料理はとても本格的。なのに、どこかホッとするような味で、子供達はガツガツ、大人はワインがガブガブ進んでしまう、レストランとバールのいいとこ取りのようなお店です。堅苦しくなく、でも砕けすぎてもいない、とても素敵なお店。過去にミシュランのビブグルマンにも選ばれておられます。岩崎さんのことをずっと「トーマスさん」と呼んでいますが、そのスマートな接客とシャイな照れ笑いがいつも場を和ませてくれます。トーマスさんもお料理はされるのですが、寡黙な料理長「平木さん」というパートナーとともに、メニュー構成を考えていて、2人の温かい接客とお料理がとてもいい感じです。お料理はいつも旬の食材を使ったメニューがたくさん並んでいるのでその時の気分で頼むのですが、必ず頼むのが「ニース風サラダ」です。とってもシンプルなメニューなのに基本のドレッシングがきっちりと作られていてこのサラダを食べるだけで他の全部のお料理への信頼と期待が高まります!どのお料理も塩の塩梅が絶妙で、本当に何を食べても美味しいですよ!」全面ガラスから望むこの眺望が、この店の"らしさ"であり、魅力になっている。 オーナーシェフの岩崎 出(いずる)さんは、京都・元田中のフレンチの名店、ベルクールで松井知之シェフのもと、4年半、修業し、その後、2号店となるLe Bouchon(ル ブション 寺町二条)を任されて、さらに4年半、研鑽を積み、2000年に独立して、オーナーシェフとして「HANA」をオープンさせた。「あのころ、ぼくらのような料理人が夜、仕事を終えてから、集まって飲み食べするような店が本当に少なくて...、とくに洋食系がなかったんです。ワインをゆっくり楽しみながら、美味しいフレンチが楽しめる店があったらいいなあとずっと思っていて、その思いをそのままかたちにしました」 それまで京都にはほとんどないスタイルの店。夜遅くまで開いていて、料理とお酒が楽しめる店、ということで、カクテルやワインが飲めて、ベルクール仕込みのフレンチ・アラカルトが揃う、ビストロの先駆けのような店をオープンさせたところ、料理人だけでなく多くの人が待ち望んでいたのだろう、評判が評判を呼んで、大人が深夜までゆるりと楽しめる一軒として、多くのファンを掴む店に成長していった。 桝形商店街の入り口すぐそばの細い階段を登っていくと2階は厨房、3〜4階がダイニングフロアとなっている。螺旋階段の上に、広々とした空間が広がり、窓からの景色は鴨川から東山へ、京の風景が惜しげもなく広がる。 これほどの眺望が楽しめる店は京都では貴重で、この景色もまたごちそうの一つだろう。刻々と景色を眺めつつ、夕暮れワインなどつい楽しみたくなってしまシチュエーションだ。 眺望を眼前に楽しみつつ、小粋な空間で、さて、ワインとご自慢の料理をいただいてみよう。現在、この店では岩崎さんとベルクールの時の後輩シェフ、平木泰史さんとダブルシェフで料理を提供してくれる。料理はアラカルトのみ。オードブルだけでも、目移りするような旬菜が並び、思わずボトルを欲するメニュー構成になっている。オードブル、パスタ、メインと60種ほどの魅惑のメニューは、季節を追いながら、次々と変わっていくそうで、次はあれも食べたい、これは旬のうちに絶対食べにこなくちゃ...!と、リピーターが増えるのもわかる。 料理はどれもたっぷりと盛られ、ワインもグラス、ボトルともにリーズナブルな価格から揃えている。推薦者の前川さんがいうところの、まさしく「レストランとバールのいいとこ取り」をしている店なのだ。前川さんファミリーの大のお気に入り、ニース風サラダ1320円。 アンチョビ、茹で卵、オリーブ、トマト、三度豆、玉ねぎ、セロリ、ピーマン、サニーレタス、ロメインレタス、トレビス、ルッコラなどなど数えきれない素材をたっぷりと使った贅沢な「ニース風サラダ」はこれだけで立派な一品。赤ワインヴィネガーと最高級ランクのオリーブオイルの味わい豊かなドレッシングに仕上げの自家製ツナ天盛り。ツナは生のカツオから丁寧に作っている。ズワイガニとウニのアメリカンリングイネ 1650円 パスタも食材の仕入れによって季節を反映し、少しずつ変わっていく。15種類以上は揃うパスタメニューはどれも本当に魅力的。甲殻類をベースにしてミルポワと合わせた濃厚なアメリケーヌソースに、さらにズワイガニやウニの海の旨味をまとったリングイネは、海の芳香が素晴らしく食べ応えも十分だ。「魚介の仕入れは、七条通七本松の山定商店さんに全面お任せしています。ご主人がほんまに旬魚の目利きで、全幅の信頼を寄せています」 カルパッチョや魚料理は、素材次第で味が決まる。そこにベルクール仕込みの技を惜しげもなく駆使して仕上げる1品1品に、岩崎さんと平木さんの思いが込められている。「フォンドヴォーもフュメドポワソンも、ツナもベーコンもソースもドレッシングもパンもグリッシーニも...(笑)、基本、全て自家製です。どの料理もご家庭ではなかなか食べられない味を目指しています。それでこそわざわざ外に食べにきていただく意味があるんですから...」見よ、この圧倒されるボリューム!ハモカツ1650円 ここにくれば、これはマスト!というのが名物のハモカツ。前出の山定商店さんからいつも良いハモが届くので、料理のバリエーションを広げたいとあれこれ考えて辿り着いた味だ。大ぶりにカットしたハモに小麦粉、卵、パン粉の衣をつけて、じっくりと揚げ焼きにする。仕上げにパルミジャーノをたっぷりのせて、タルタルソースとともにいただく。上品なハモの風味とカリッサクッとした衣が見事な調和をみせ、チーズとタルタルソースが濃厚さを加えて、味、ボリュームともに大満足。キリッと冷えた白ワインが進んでしまう一皿だ。ワインは岩崎さんにいろいろ尋ねてベストセレクトしてもらおう。 ワインはいつもおおよそ200本常備している。ワインリストはなく、お好みと予算を伝えると、岩崎さんがその時々の料理を見て、ボトルを4〜5種類、並べてくれる。それぞれのテイストを丁寧に説明してくれるので、ワイン談議を楽しみつつ、セレクトしてもらうのがいいだろう。グラスワイン660円からもあるが、なんとってもワイン好きにたまらないのが、がぶ飲みできるハウスワインだ。 デカンタ2/1リットル、2200円で、なんと1リットルが3300円!ともにイタリアワインで赤がサンジョベーゼ、白がトレビアーノ、いずれも飲みやすく、料理によく合う。「ご家族やグループで軽く3リットルいってしまうツワモノもおられますよ(笑)」しかし、この、ワインを誘う料理構成なら、いってしまうのはうなずける。岩崎さん(左)と平木さん(右)のコンビネーションもぴったり。 何よりもこの店の引力となっているのが岩崎さんと平木さんの人柄、そしてホスピタリティだろう。ベルクール以来の信頼関係で結ばれた息のあったもてなしが、料理やワインの質と相まって、お客を心から寛がせてくれる。 オープンして21年目。長い年月の間に世の中も変動し、リーマンショックもあれば、今は、まさコロナ禍に直面している。東に大文字山が真正面に見える絶好のポジションということで、夏には毎年、多くの人が参加する五山の送り火を楽しむ会を店で開いていたが、ここ2年はストップしている。「ここ2年ぐらいは大変な思いをしましたが、ようやく少しずつ店に活気も戻ってきています。なかなかすぐには以前のようにとはいきませんが、他の飲食店もそこは同じですから、頑張るほかないですね。五山の送り火の会も、来年の夏にはぜひ開催したいものです」 人生とおなじく、店にも山あり谷あり。しかし、「HANA」は、この地にしっかりと根付いている。来年の夏には、この店でワイングラスを片手に五山の送り火を楽しむ多くの人で賑わっていて欲しい。店も人も暮らしも、希望を持って、前に進みたいと願うばかりだ。■「HANA」京都市上京区河原町通今出川上る青龍町234075-231-0606営業時間 17:00〜23:00(LO)定休日 月曜予約ベター※営業時間については事前に電話で問い合わせを。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.11.10
「太郎屋」-「焼肉 文屋」岩村文植さんが通う店
「焼肉 文屋」岩村文植さん(右)梅小路公園の七条通に面した「焼肉 文屋」は2009年11月オープン。実家の料理店の手伝ったことから料理の道を目指した主人の岩村さんは、有名ホテルの名門中国料理店で修業し、四川・北京・香港料理など、中国料理を幅広く習得した。独立を考えた時、まず自分が大好きな料理を提供したいということで、「焼肉店を開きました(笑)」。家族や友人同士、みんなでワイワイとリラックスして旨い肉を楽しんで欲しいと日々、仕入れから調理まで力を尽くしている。気取りがなくて、賑やかな店はいつも笑顔で溢れている。今は新展開として、得意の中華料理の新しいスタイルのレストランの開店を企画進行中だという。「裏路地にあるいい店があると信頼できる知人から聞いて『太郎屋』さんに伺うようになりました。忙しく喧騒な日々から少し抜け出したい時や、日常とギャップを感じたい時に気のおけない友人と一緒に行きます。女将の人柄、優しさが醸し出される手料理と、落ち着いた空間ながらも、心地よい躍動感があって、ほっとするんです。程よい距離感のある接客も寛げますし、つい長居してしまいます」いかにも居心地の良さそうなカウンター席。お一人様客も多い。 四条烏丸西入ル、さらに北側に上がったあたりに路地酒場が集まるエリアがある。最初の頃はポツンポツンと点在したいたが、いつのまにか飲食店が増えて、人気の食ゾーンに。その一角に、「太郎屋」と染め抜いた白い暖簾が掛かる。 暖簾を守っているのは、店主の杉本雪枝さん、長女の悠子さん、次女の瑠衣子さん姉妹だ。母娘3人がてきぱきと切り盛りして、アットホームな店はいつも常連客を中心に賑わっている。 「母がとても料理上手で、父がお酒好き。母の手料理で美味しいお酒は飲める理想の居酒屋をして欲しいと、父のたっての希望で30年前にこのお店を始めたんです。店名は父のニックネームからつけました」と姉妹は笑う。 父の母、つまり雪枝さんのお姑さんが料理の名手で、雪枝さんはおばんざいをはじめ、京の家庭料理をしっかりと受け継いだという。次女の瑠衣子さん(左)、長女の悠子さん(右)の笑顔ともてなしにほっとする。 リーズナブルな一品料理とお酒を気軽に楽しむ「サラリーマンの味方」というのが、創業以来のモットー。観光客の層も増えたが、その思いは今も変わらない。 素材選びも主婦目線。その時々の旬でお安くて美味しいものをたっぶり仕入れて、炊く、焼く、蒸す、揚げるなどさまざまな味わいに仕上げる。 「素材同士の出会いや組み合わせも大切。家庭料理がベースですが、そこはプラスα、うちの店らしさを一味添えるようにしています」 一品料理は500円〜でとてもリーズナブル。定番メニューのほか、日替わり料理を加えると60〜70種ほどの料理が揃う。 「らしさ」を大切にしているとのことだが、それをよく感じさせるのが、不動の人気を誇るのがポテトサラダだ。これは女将オリジナルの味わいで、何と玉ねぎを飴色に炒めることからはじめ、くったりと甘くなった飴色玉ねぎ、お芋さん、ハムを具材として合わせている。マヨネーズ2種を合わせるのも「太郎屋」らしさだろう。ポテトサラダ500円。まず頼みたい一品だ。こちらも定番のにしんなす。600円。なすは一度揚げておく。にしんは戻した出汁で炊き、なすも別で炊いておいて最後に合わせる。この一手間を惜しまない。 女将ゆずりの料理センスは季節感にも現れる。秋らしい一品、小かぶとカシューナッツと柿の和えものはまさに、今が旬の食材をピタリと合わせている。鉄錆を思わせる色合いの器に、秋の夕日を思わせる華やかな橙色がよく映えて、見るだけでもお酒を欲する仕立てはさすがだ。 「旬はすぐに過ぎてしまうので、短い間だからこそ、その季節を愛でながら味わっていただきたいと思います」小かぶとカシューナッツと柿の和えもの630円。色彩も素晴らしい。 出張で京都に来る人など一人客も多く、お一人さま用の5種盛り900円〜を用意してくれているのも嬉しい。料理のセレクトは基本お任せだが、苦手や好みなどきいて、上手に組み合わせてくれる。女性ならではの心づくしのサービスは、ほんとうにお母さんのいる家に帰ってきたような寛ぎを感じる。 日本酒1合900円〜(半合もある)。セレクトされた日本酒と季節の一品。仕事帰りに芯から癒されるひととき。日本酒は熱燗、冷酒、生のままなどお好みで。京都や灘をはじめ、全国の地酒をセレクト。 あれこれ一品を頼んで、お酒をちびりちびり楽しんだり、ご飯ものまでしっかり食べるのもよし。4950円〜で、飲み放題付きのお任せコース料理も用意してくれる。仕事帰りの一杯や懐かしい友との語らい、家族で食事会など、カウンター、テーブル、座敷など人数やTPOに合わせて、太郎屋のひとときを自由に楽しんで欲しい。 美しい器たちはほとんどが女将の雪枝さんの作品というから驚く。長年、作陶を続けてきたそうだが、今やプロ級の腕前といっていいだろう。女将手作りの器と京の家庭料理とお酒をゆったり楽しむとは、なんと贅沢なひとときだろう。 庭を眺める座敷席もゆったりとした寛ぎを感じさせる。 コロナ以前は大鉢料理をカウンターにずらりと並べて、お客が選べるようにしていたが、今は残念なことにそれはできない。世の中が落ち着けばそのスタイルを再開したいという。もちろん今も品数は変わらず、たっぷりの品書きから料理を選ぶことができる。 そうは言っても、自慢のずらりと並んだ大鉢料理の向こうに、女将さんと姉妹の笑顔が見える...。そんな日が待ち遠しい。 看板の文字に惹かれてふらり。暖簾をくぐればいつもの笑顔が迎えてくれる。■「太郎屋」京都市中京区新町通四条上ル東入ル観音堂町473075-213-3987営業時間 17:00〜23:00(LO 22:00)※現在はコロナ禍にてディナーは休業中。定休日 日曜・祝日(日曜は祝日の場合は営業、翌月曜休)予約ベター※営業については事前に必ず電話で問い合わせを。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.10.18
「京旬いちえ」-「焼肉 文屋」岩村文植さんが通う店
「焼肉 文屋」岩村文植さん(右)梅小路公園の七条通に面した「焼肉 文屋」は2009年11月オープン。実家の料理店の手伝ったことから料理の道を目指した主人の岩村さんは、有名ホテルの名門中国料理店で修業し、四川・北京・香港料理など、中国料理を幅広く習得した。独立を考えた時、まず自分が大好きな料理を提供したいということで、「焼肉店を開きました(笑)」。家族や友人同士、みんなでワイワイとリラックスして旨い肉を楽しんで欲しいと日々、仕入れから調理まで力を尽くしている。気取りがなくて、賑やかな店はいつも笑顔で溢れている。今は新展開として、得意の中華料理の新しいスタイルのレストランの開店を企画進行中だという。「『京旬いちえ』の主人の小谷さんとは、昔の仕事関係で知り合って長い付き合いになります。今では家族同士で互いの店を訪れ合う仲です。よく食材を吟味していて、いつ行っても、何を頼んでも美味しい。肉も魚も野菜もメニューが豊富なので、家族それぞれが好きなものを存分に楽しめます。料理を通じて、いつも旬を感じさせてくれる場所です」「一期一会。人も食材も空間も全て"出会い"があります。一つひとつの出会いを大切にしたいです」と話す「京旬いちえ」の小谷昇平さん。 御所南の閑静な町の一角、ビルの一階の少し奥まったところに静かに佇む和食の店「京旬いちえ」。主人の京都出身の小谷昇平さんは調理師学校を卒後後、和食の道を目指して祇園の割烹で修業した。その後、2003年に独立したが、「最初から広い店は資金的にも難しかったので、料理も楽しめるような小さなバーからスタートしました」。その後、居酒屋、和食店と店舗を広げ、いまは、目指していた和食一本に絞りこんで、日々、和食の世界を研鑽している。 店名は「一期一会」から取ったのだという。「食材との出会い、お客様との出会い、店という空間との出会い。僕の料理を通じて、様々な出会いをつなげていきたい、一期一会の心を一品ひと品の料理に大切に表現していきたいと思っています」 料理への思いは食材のまず、吟味から始まる。たとえば魚介。九州、四国、日本海など各地の、今が一番旬の美味しい魚介類を、馴染みの鮮魚専門店からセレクト。肉類は九州を中心とした黒毛和牛や大分の錦雲豚、丹波あじわい鶏など、肉そのものの風味が濃く旨味豊かなものを厳選。さらに京の露地野菜から、各地の野菜まで、これも今一番旬!という野菜たちをどっさりと仕入れる。品書きにない料理でも、ケースをのぞいて「この食材をこんなふうに食べてみたい」というわがままなリクエストにも応えてくれるそうだ。 カウンター席の前に設えられたガラスケースには、本日の旬菜がずらり。今日は、ぐじ、黒毛和牛、丹波黒豆、賀茂の朝採りトマト、万願寺とうがらしなどが並んでいる。バラエティに富んだ食材を駆使して、品書きは魚介の造りから焼き物や揚げ物の一品、さらに〆の料理まで、見ているだけでワクワクしてきそうな料理名が並ぶ。 しかし、基本はあくまで和。吟味した食材に、丁寧に大切に引いた黄金色の澄んだだしをベースにして、小谷さんがそっと遊び心を添えた料理を提供している。「だしや野菜をふんだんに使って、化学調味料は一切使わず、ポン酢、たれ、ソースにいたるまですべて手作り。素材本来の味を丁寧に引き出しながら、旬を存分に味わっていただきたいと思っています」早速、目移りしそうなほど心惹かれる品書きから、いくつかおすすめを作ってもらった。九条ねぎのシャキシャキ感を残しつつ、丹波しめじ、京のお揚げさんとともにさっと炊いた「九条ねぎと丹波しめじの煮浸し」900円。柚子の香りがほんのりと爽やかさを添える。「賀茂トマト カマンベール 餡かけ」1200円。品書きから想像できない姿で供される人気の一品。 賀茂トマトを丸ごと使って、カマンベールとパルミジャーノの2種のチーズをたっぷりとのせ、銀あんをとろりとかけて、石鍋で焼いた熱々の一品。スプーンでほぐしながら全ての素材を混ぜて、ふうふうといただけば、お腹もじんわりと温まってくる。最初は和の風味を感じつつ、だんだんとイタリアンの美味しさがあらわれ、途中でタバスコをかけると、テイストが進化する...という驚きの一品に小谷さんの創意工夫を感じる。 さらにひと捻りを感じるのが、錦雲豚を使った一皿。野菜ベースの甘味のある醤油だれに錦雲豚をじっくり漬け込んでオーブンでこんがりと焼く。これだけでも十分美味しいのに、さらに、この肉を北京ダックの生地、烤鴨餅(カオヤーピン)に香味野菜やナッツとともに巻いていただく。プロが美味しさを追求するとこういう味にたどり着くのだ...とちょっと感動する。創意工夫に満ちた一皿。「錦雲豚のクレープ包み」(ハーフサイズ)800円は、老若男女に愛される味だ。通常1600円でもう一皿がついてくる。 〆の料理もなかなかの充実ぶりで、中でも特筆すべきは自家製のスパイスカレーだろう。なんとこの店では、昼間はカレー店「ココハイチエ」として、カレーを提供している。ご主人は割烹着からエプロン姿に変わり、これもまた、玉ねぎをじっくりいため、野菜をコトコト煮るところから、オール手作りのスパイスカレーを作る。海老バターカレーやキーマカレーなど4種のカレーから選ぶ「あいがけ」がおすすめだ。カレーあいがけ(2種かけ)1200円〜。写真は海老バターとキーマカレー。海老バターにのっているエビフライのカダイフ衣がパリパリっとした食感。 お気に入りの一品に軽く白ワインを一杯飲んで、あるいは夜カレーを食べに来たり、もちろんコースで存分に味わったり、家族でさまざまな味をシェアしたり...。「お客様には、使い勝手よく、自由に楽しんでいただいています」という主人の言葉どおり、その時々で様々な対応してくれるのが嬉しい。 一見、奥まった場所で入りにくそうに感じるが、中に入れば敷居は高すぎず、和やかな雰囲気の中、芯からリラックスできる。こんな居心地のよい隠れ家こそ、大切な誰かを連れてきたくなる。お酒はワイン、日本酒、焼酎などが揃う。多彩な料理はどんなお酒とのペアリングもできそう。 コロナの自粛期間中、知人の店で握り寿司の勉強をしていたというご主人。和食にカレー、そしてまた新たな世界をその視線は見つめている。いつ訪ねても、「おっ」と唸ってしまうような、ちょっと心憎い美味いものを食べさせてくれる場所。今日はなにかおいしいものを食べたいな、と思った時は、迷わず選びたい一軒だ。昼はカレー店、夜は和食店を切り盛りする小谷さん。料理が好きで好きで、一日中厨房にいても苦にならないという、まさに料理の申し子だ。■「京旬いちえ」京都市中京区夷川通高倉東入百足屋町146-1F075-231-1122営業時間 カレーランチ【ココハイチエ】11:00〜14:00(平日のみ)、ディナー17:30〜23:00(LO 22:00)※現在はコロナ禍にてディナーは休業中定休日・日曜(祝前日は営業)要予約※営業については事前に必ず電話で問い合わせを。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.09.22
「焼肉 文屋」-「ぎおん 佐藤」佐藤龍幸さんが通う店
「ぎおん佐藤」の主人、佐藤龍幸さん 祇園で長年親しまれている【ぎおん 佐藤】。築150年の町家を改装した情緒ある空間で、ゆったりとくつろいで食事が楽しめる。「寿司割烹」でよく知られており、旬の食材をふんだんに使った割烹料理のあとは、丁寧な仕事を施した寿司を堪能する。主人の佐藤龍幸さんは熊本県出身。九州の和食店で料理人としてスタートし、その後、京都や大阪のホテル、和食店などで修業を積む。京都ホテルオークラで寿司カウンターを13年経験したのち、独立して「ぎおん 佐藤」をオープン。割烹と寿司のどちらも専門的に学んだという独自の経験を活かした「寿司割烹」を打ち出し、季節感溢れる割烹料理とともに多くのファンの舌と心を掴んでいる。木目が温かく、広々とした店内。BGMのジャズが耳に心地よく響く。 梅小路公園のすぐ近く、車の往来が賑やかな七条通に面した「焼肉 文屋」。テーブルの上にはロースターがずらりと並び、いかにも町の焼肉屋さんらしい雰囲気に、BGMのジャズが不思議とよくマッチしている。 主人の岩村文植(ぶんしょく)さんは、京都の出身。実家の料理店を手伝っていたことから料理の道を目指した。有名ホテルの名門中国料理店で修業し、四川・北京・香港料理など、中国料理を幅広く習得した。独立を考えたとき、まず自分が大好きな焼肉店を出したかったと笑う。「みんなでワイワイと食べる焼肉が好きで、気取りがなくて、家族や友人同士、寛いで楽しんでいただき、その喜ぶお顔に直接触れることができる、そんな店にしたいと思いました」と2009年11月にこの店をオープンした。「まず素材の肉がいいので誰を連れて行っても喜んでもらえる自信がありますよ。私のお勧めは、上タン塩と、あっさりして旨味があるハラミの安い方(笑)と、あとはホルモンです。焼肉といえば、ここ!と決めています」と推薦者の佐藤さん。休日などに家族で焼肉を楽しみにいくという。佐藤さんおすすめの赤身のハラミ1,280円は、切り口さえも瑞々しく美しい(価格はすべて税込)。あっさりしながらも肉の旨味が満ちている。焼肉の生命線である肉は、それこそ岩村さんが各地の和牛を試して、吟味に吟味を重ねたもので、今は九州の鹿児島や宮崎を中心とした黒毛和牛を「おいしい肉をたっぷりと、安心な価格で楽しんで欲しい」と一頭買いして、提供している。岩村さんがおいしいと思う肉は、「ロースやカルビは、脂にあっさりとした甘みがあって、肉の旨味とコクがぎゅっと詰まっているもの。ハラミなどの赤身は肉々しい旨味に満ちているもの」だという。 品書きにはタンやロースなど「厚切りメニュー」も多彩に揃う。良い肉だからこその自信がそこにあるのだろう。上タン1,380円。サシが細やかに入って、見るからに食欲をそそる。ザブトン、ランプ、カルビ、ロースの各部位2カットの四種盛りや、クラシタ、特選カルビ、焼きしゃぶサーロイン、厚切りカルビなど特選四種盛り、厚切りタン盛りなど、自慢の肉は「肉盛り」として、好きな部位をカット×人数分で注文もできる。迷った時は、ここから注文すると良い。長年の付き合いのある大阪の肉屋さんから黒毛和牛を「どーんと仕入れしているので(笑)」、希少部位もたっぷりと用意できるそうだ。果物や野菜をたっぷりと使った醤油ベースの2種のタレを用意している。さらりとした洗いダレと濃厚なタレ。肉の種類やお好みで使い分けていただく。タレに自家製調味料のヤンニンやネギ油などを混ぜ合わせるのも楽しい。人気のホルモン。写真は上ミノ980円、テッチャン980円、ホソ780円を盛り合わせている。新鮮で艶々としている。肉を待つ間にビールとともに楽しみたいアテも豊富。もやし、ゼンマイ、小松菜のナムルは母、津康子(つやこ)さんのお手製で家庭的な旨さには定評がある。ユッケも人気だ。自家製タレ2種。あっさりとした「洗いダレ」と濃厚ダレはお好みでどうぞ。旨い肉とアットホームなもてなしで、リピーターもどんどん増え、2軒目となる「西大路八条店」をオープン。こちらもいつも賑わっている。岩村さんはなんと11月頃に梅小路のレトロビルに、ちょっと洒落たチャイニーズレストランを開業する予定だという。「もともとが中国料理出身ですし、その経験を生かして、新しい食空間を創ってみたいと考えています。街場の中華店とは少し違って、女性同士でも来やすくて、いろいろな種類の料理をリラックスして楽しめるような店を企画中です」 京都の食シーンにまた楽しい変化が生まれる予感。岩村さんの新たな構想も目が離せない。従業員の小島亘さんと母、津康子(つやこ)さんと。息のあった仕事でもてなしてくれる。■「焼肉文屋」京都市下京区朱雀内畑町2-3075-311-2915営業時間17:00~23:00定休日・木曜日予約・ベター撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.08.27
「季節料理と天ぷらのお店 LovA」-「創作料理と京野菜のびすとろKIZANO」野崎雅也さんが通う店
「創作料理と京野菜のびすとろKIZANO」オーナーシェフ野崎雅也さん からすま京都ホテルで仕事をスタート。その間に、ホテルと東京銀座のレストラン「KIHACHI」のコラボレート企画に関わるチャンスに恵まれ、創作フレンチの第一人者とされる熊谷喜八さんのもとで様々な料理や素材、技法に出会う。「ジャンルレスで常識にとらわれることなく、国境を超えて自在な料理の融合や発想ができることに本当に衝撃を受けた」そうで、知らない世界でもっとチャレンジしたいと、ホテルを退職し、新たな道へと進んだ「H.Splendideアッシュ・スプランディード g旬風庵」やその他の店で腕を磨き、2010年、東本願寺の東の真向かいに「創作料理と京野菜のびすとろKIZANO」をオープンさせた。季節の食材にいろいろな国のスパイスや独自の調味材を使いこなして、素材の味を最大に引き出しつつ、酸味、苦味(にがみ)、甘味、辛味、鹹味(かんみ)、淡味(たんみ)の六味をバラエティ豊かに創造している。 平等院にも近く、風光明媚な宇治の中心にある宇治橋商店街。若い世代が新しく店を開くなど、元気な商店街としても知られている。その一角に建つ築80年の古民家をリノベートしたのが、「季節料理と天ぷらのお店 LovA」だ。 「ロバさんにはオープンした時期などもほぼ同じタイミングでオープン当初から行かせてもらってました。夫婦でランチに行くときなどに利用しています。私たちが暮らす宇治では当時はまだ珍しかった古民家を改装したお店で、興味があって行ってみたら、お料理も美味しく雰囲気も良かったので、今では家族ぐるみで仲良くさせて頂いています。ご主人の荻田さんとは、同世代ということもあり、毎回、いろいろな刺激をもらっています。いつ行っても心地よく、知り合いの家に招かれたように落ち着けるところが好きですね。妻とよくランチタイムに伺うのですが、薄味ながらもしっかり手をかけた季節感抜群のランチのプレートがおすすめです」と野崎さん。庭の緑を眺めつつ、滋養に満ちた料理をいただく幸せ。リピーターが多いのもうなずける。 主人の荻田貴之さんは、美術大学の彫刻科を卒業後、さまざまな飲食店で働いてきた。「なかなか彫刻の仕事で食べていけるものではありませんから(笑)、あちこちの店で料理の仕事をするうちに、いろいろな創意工夫ができる料理の世界に面白さを感じるようになったんです」 飲食の世界でやっていくことを決め、創作料理カフェやダイニングバーなど、さまざまなジャンルの飲食店で経験を積んだ荻田さんは、2009年、縁があってこの地に店を開くことにした。店名は「ロバの歩みのようにゆっくりでも着実に歩んでいけるように」という思いを込めたそうだ。 店内はどこか懐かしい和のくつろぎに満ちて、坪庭を眺めながら、ゆっくりと過ごすことができる。古いダイニングテーブルや床の間の掛軸がしっくりと馴染んで、いつまでも滞在したくなるような心地よさだ。農家さんが丹精込めて作った野菜たち。荻田さんは、最も美味しく食べてほしいと日々、真剣に向き合っている。 当初から大切にしていたことは、良い食材を使って、無添加、手作りの味を提供するということ。お客さんや知り合いの紹介で、宇治や奈良の農家さんと知り合い、また山城産の新鮮な野菜を扱ううちに、野菜の豊富なバリエーションや季節感、旬の野菜が持つ滋養などに心惹かれ、「とにかく野菜を美味しく食べてほしい」と、今年から天ぷらを主体にした料理構成に一新した。「野菜を美味しく食べる料理として天ぷらは、最もシンプルで、野菜本来の味わいをそのまま食べていただけるということが大きな理由ですね。それと日本人には食べ慣れた味わいであり、みんなが大好きな御馳走でもありますから」天ぷらは手際が大切。温度、時間など見極めて常にベストな揚げ具合を求める。 ランチタイムにもディナータイムにも人気が高いのが、「LovAの天ぷら膳」だ。 メインの天ぷらは旬の野菜8:魚介2という割合で、8〜9種の揚げたて天ぷらを味わえる。 油は米油100%。衣は天ぷら粉に玄米米粉、卵を用いて、からり軽やかに食感よく揚げる。天つゆは、醤油、砂糖、少量の酢で作った返しに一番だしを合わせたもので、ほんのり甘・旨な味わいで、飽きがこない。お好みで焼塩をつけてもいい。からりと薄衣の天ぷらが美しい「LovAの天ぷら膳」。島根の穴子、海老の他は全て、野菜や生麩、海藻を使う。ベジタリアン仕様で全て野菜に変更するのもOK。写真は昼の膳で1650円(税込)。天ぷら、旬のサラダ、小鉢、具沢山の味噌汁、黒米のご飯がついてかなりのお値打ちだ。 ディナータイムにはおばんざいなど、こちらも野菜をふんだんに使った一品料理が揃う。天ぷらを頼んでおいて、お酒を一品とともにゆっくり味わい、最後に締めで天丼を頼むもよし、京田辺のヒノヒカリの白ごはんと具沢山の味噌汁で終わるもよよし。地元ファンが多いそうだが、全体にゆっくりと時間が流れるようで、初めて行っても親戚の家に来たような寛ぎを感じることができる。トマト、なす、じゃがいも、インゲン、コーン、玉ねぎなど野菜をたっぷり使った夏の定番、夏野菜のトマト煮700円。自家製トマトソースに塩、バルサミコ、隠し味にココナツミルクを加えてまろやかさを添える。ほろっと柔らかく仕上げた牛ホホ肉の宇治ほうじ茶煮込み1500円。甘辛い味付けにほうじ茶の香ばしさがさっぱりとした後口を添える。重すぎず、香りの良い赤ワインがよく合いそう。ほうじ茶は宇治の利招園茶舗のプレミアムな茶葉を惜しげもなく使う。お酒も天ぷらと和食によくあう日本ワインや日本酒などを厳選。「醍醐のしずく」は古式醸造で作られた自然酒。 妻の真紀子さんは実はパン作りの名手。千葉で、古式醸造で自然酒を作る寺田本家の酒粕で酵母を作り、パンを焼いている。今は子育てに忙しいため、毎週、金曜だけ店の一角で販売しているが、卵や乳製品を使わず、奈良の竹炭塩や国産小麦、沖縄のきび糖など、体に優しい素材を厳選して焼き上げるパンは、地元の若い母親や女性ファンに評判がよく、すぐに売り切れてしまう。仲の良い素敵な荻田さん夫妻。二人の人柄が和やかで心地よい店を作っている。「これからは揚げ方も素材も日々、研鑚、研究して、さまざまな素材を組み合わせて揚げてみたり、うちらしい味わいを探しながら、天ぷらをもっときわめていきたいです」夫婦で自然体で切り盛りする店には、どこか空気も自然に、ゆるやかに流れていく感じがする。古色ゆかしい空間で季節の恵みを美味しくいただいて、自然に、農家さんに、料理をする人に心から感謝する。今こそ、こんな幸せな時間を持つことを大切にしていきたい。そんなことをふと思わせる一軒だ。■「季節料理と天ぷらのお店 LovA」宇治市宇治壱番830774-24-5966営業時間昼 11:30~14:00 LO、夜 17:30~20:30 LO休 月曜日 / 火曜日撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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