料理人がオフに通う店
「旨い店は料理人に聞け!」食材を見る目や鋭い舌をもつ料理人が選ぶ店なら、決して外れがないことでしょう。 京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店とは?
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.07.26
「創作料理と京野菜のびすとろKIZANO」-「H.Splendideアッシュ・スプランディード g旬風庵」井手さんが通う店
「H.Splendideアッシュ・スプランディード g旬風庵」オーナーシェフ 井手 弘昭さん 旧京都ホテルを皮切りに、京都ホテルオークラ、リッツカールトン大阪などの有名ホテルで腕を磨き、2004年に、創作フレンチの店「旬風庵」をオープンした。町屋ブームの先駆けとして、また、和のテイストとフレンチのクロスオーバーを楽しめる店として、一躍人気店に育てた。2007年、一つの原点回帰として純然たるフレンチを目指して、1日限定4室のみ、個室フレンチのレストラン「アッシュス・プランディード」をスタートさせた。現在は、「旬風庵」を洋食店としてリスタートさせ、2店舗を切り盛りしている。「お客様の喜びのために」というモットーで、日々、丁寧な仕事を心がけている。家族的な雰囲気が温かくて心地よい店内。地元の根強いファンも多い。 東本願寺の東の真向かいにある心地よい一軒。ここはオーナーシェフの野崎雅也さんと真理子さんが営むビストロだ。野崎さんは、からすま京都ホテルで仕事をスタートさせた。その間に、ホテルと東京銀座のレストラン「KIHACHI」のコラボレート企画に関わるチャンスに恵まれ、1週間、銀座の店で、創業者であり、創作フレンチの第一人者とされる熊谷喜八さんのもとで様々な料理や素材、技法に出会うことができた。「ジャンルレスで常識にとらわれることなく、国境を超えて自在な料理の融合や発想ができることに本当に衝撃を受けました」と当時を振り返る。そのことが契機となり、知らない世界でもっとチャレンジしたいと、ホテルを退職し、新たな道へと進んだ。その時に知り合ったのが井手さんだった。「井手さんもちょうど、京都ではまだほとんどなかった創作料理への挑戦を始めた頃で...。京野菜など京都らしい素材の活かし方などを、勉強をさせていただきました」。一年ほどで、新しく声がかかり、別の店に移ったが、井手さんとは今も店を行き来するなどの交流を続けている。「野崎君がいたのは1年余りですが、当店を巣立たったのちは、お互い、一オーナー シェフとして切磋琢磨しながら、刺激を受けています。野崎君の料理は間違いないうえに、奥様の真理子さんの何とも言えぬほんわかしたキャラクターがええ感じで、ついつい通ってしまいます。うちのスタッフを連れて行っても、いつも喜んでもらえます」(井出さん) 京田辺で店を任されて、創作料理の腕を磨いた野崎さんは、2010年、いよいよ自分の店を持つことに。なかなか良い場所がなく悩んでいた時に、偶然、出会ったのが東本願寺の真向かいという絶好の場所。京都駅にもほど近く、観光客も多い場所で、妻の真理子さん共々、迷うことなくここに決めた。「しばらく使われていなかったのと、お金もなかったので、二人で毎日通って、DIYでリノベートして、なんとかレストランらしくすることができました(笑)」。若い夫婦のまさに、二人三脚のスタートだった。隠し味、利かせ味、王道の味。各国の様々な調味材を駆使して、独自の味わいを追求する。 井出さんの店や「KIHACHI」で学んだことは、何よりも素材の出会いの面白さだった。ナンプラーやタバスコなど多国籍な素材やスパイスを使って、そこに京都のおいしい野菜と、醤油や味噌など日本人に食べ慣れた味わいを巧みに組み合わせて、独自の味の世界を展開していく。隠し味という言葉だけでは表現しきれない面白さが一皿ひと皿に反映されていて、コースの中にリズムが生まれて、飽きさせることがない。その技ありのテイストを気軽に楽しめるのが、コースのスタートにふさわしい「旬の彩り前菜5種盛り合わせ」だ。和洋中、アジアンなど多彩な味わいが一皿にぎゅっと盛り込まれている。人気の夜の「びすとろコース」3850円から抜粋。 前菜5種は左から、黒豚の田舎風パテと自家製ピクルス、セセリのタイカレー煮込み モッツアレラチーズ焼き、野菜と魚介の春巻きスイートチリとサルサソース添え、鱧のバプール、 真鯛のカルパッチョ 上賀茂の柴漬けソース。魚介、肉、野菜のバランスが素晴らしく、チリソース、サルサソース、柚胡椒、グリーンカレーなど、多国籍な味わいとともに楽しむことができる。冷えたスパークリングワインがグイグイと進む。こんがり皮目を焼いて、絶妙の火入れで仕上げたたっぷりの野菜とともにいただく、ヨコシマフエフキ鯛のポアレ。 「びすとろコース」では、メインを魚、肉の3品からチョイスする。今日の魚料理はヨコシマフエフキ鯛のポアレ。白味噌と大葉のまろやかなソースと香ばしいバルサミコのソースでいただく。シコシコとした白身と、和ベースのソースの相性がたまらなくいい。添えられた野菜にも注目。カリフラワー、ブロッコリー、アスパラ、モロヘイヤ、ズッキーニ、ニンジン、サツマイモ、ハクサイ菜、ヒメタケなど、超絶アルデンテで、本来の旨味と食感を生き生きと味わえる仕上がりになっている。高さのある盛り付けが印象的な鴨肉のロースと賀茂茄子の田楽 肉料理は、鴨肉の胸ロースと賀茂茄子の田楽。とろりと焼き上げた賀茂茄子の甘やかな味噌味に、鴨肉のロースと、野菜やフォンドヴォーを合わせたシャリアピンソースの濃厚な味わいが一つにぴたりと重なり、まさに、味の出会いの妙を演出している。鴨肉の美しいロゼ色が食欲をそそる。 いろいろな国のスパイスや独自の調味材を見事に使いこなして、それらの組み合わせやバランスもまたお見事。野菜、魚、肉などメイン素材の味を最大に引き出しつつ、酸味、苦味(にがみ)、甘味、辛味、鹹味(かんみ)、淡味(たんみ)の六味をバラエティ豊かに創造していく。「今でもKIHACHIさんの店での1週間の興奮と感動をよく覚えています。人生であれほどの刺激を若いうちに受けることができて幸運だったと思います」 「お客様を飽きさせないこと。それを最も意識しています。濃い、薄い、インパクトのある味、どこか懐かしい味、スパイシーな味、柔らかな味など、メリハリをつけながら、コース料理を飽きることなく召し上がっていただいて、それらが一つのまとまりとして幸せで深い印象を残すことができれば、嬉しいですね」 締めには小さなお茶碗のごはん、お漬物、ほうじ茶をお出しする。お客さんはみな、ほっとした顔で喜んでくれるそうだ。窓からは東本願寺の緑がすぐ目の前に見えて、春の桜、夏の緑を楽しみ、秋には大銀杏が黄金色に輝く。京都の四季を身近に感じたい時は、ぜひ訪れて、目で舌で京の食時間を堪能してほしい。京都のワインも揃う。野崎シェフの味わいは、ジャパニーズワインの清らかな味にもよく合う。■創作料理と京野菜のびすとろKIZANO京都市下京区卓屋町66-1 ベルセゾン京都駅前1F075-708-2454営業時間11:30~15:00(L.O 14:00)、18:00~21:00(最終入店20:00)※現在は新型コロナに関連して、クローズ時間に変動あり、コース料理のみ。 昼プレートランチ1,540円〜 コース2,530円、夜3,850円〜※全て税込、サなし月曜定休(その他に不定休あり)※予約がベター撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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2021.06.17
「H.Splendideアッシュ・スプランディード g旬風庵」-「Osteria S.Puro」徳江聡さんが通う店
「Osteria S.Puro」(オステリア・エスプーロ)徳江聡さん福島県生まれ。若い頃、故郷のスパゲティ店でアルバイトをしていた頃から、「料理は面白い!」とこの世界へ入った。24歳の時に縁あって京都へ。イタリアン・リストランテやフレンチの名店で修行を積み、2018年、42歳の時に自宅から自分の店を開いた。「イタリアンとフレンチの両方の世界を知っているので、自分らしく融合させた料理をお出ししたいです。リラックスしていただきながらも、きちんとしたレストランの味とおもてなしを提供したいと思っています」。素材を何より大切に、日々、心を込めて、素材を生かした料理を提供している。長いアプローチの向こうにようやくドアが見えてくる。 下京区新町通り高辻上ルの細い路地。奥へ奥へと導かれて行くとようやく店の入り口にたどり着く。オーナーシェフの井手 弘昭さんは、旧京都ホテルを皮切りに、京都ホテルオークラ、リッツカールトン大阪などの有名ホテルで腕を磨き、2004年に、まず、創作フレンチの店「旬風庵」をオープンした。町屋ブームの先駆けとして、また、和のテイストとフレンチのクロスオーバーを楽しめる店として、一躍人気店に。 その3年後の2007年、一つの原点回帰として純然たるフレンチを目指して、1日限定4室のみ、個室フレンチのレストランをオープン「アッシュス・プランディード」もスタートさせた。その後、あまりの多忙さに、「旬風庵」は知人のシェフに任せたが、数年後、そのシェフが独立したのちは、自分も大好きだという洋食店として、「旬風庵」をリスタートさせ、現在は、2店舗を切り盛りしている。 紹介者の「オステリア・エスプーロ」徳江聡さんは、実は、井手さんのもとで料理を学んだ。「素材ありき、素材を大切にするという基本姿勢は、井手さんから学んだものです。一つひとつの素材を大切に発掘して、旬一番の美味しさをいかに引き出すか。いつ訪ねても、ブレない料理をいただけるし、今も勉強させていただいています」(徳江さん)。今も、互いの店を行き来しながら、親しい交流を続けている。「オーソドックスなフレンチをベースにしていますが、たとえば昔の調理法だと肉や魚を高温で外側を固くこんがり焼いて旨味を閉じ込めるというのが主流でした。今は、低温調理など、少し低温でじっくりと火入れをする方が、素材がふっくらと美味しく仕上がったり、瑞々しい食感を生かせたりするので、新しい時代の調理法も柔軟にとりいれて、素材のポテンシャルを最大限に引き出す料理を心がけています」と井手さんは話す。 全ての料理の基礎となる素材は、20年以上付き合いのある、信頼できる仲買や店から仕入れている。野菜は滋賀県や京都府下で、無農薬、低農薬野菜を作る農家と提携する八百屋さん、魚介は現地の漁港に赴いて直接産地とつながる魚の仲買さん、肉は昔ながらのやり方で肉の熟成をしっかりと行う肉屋さんなど、それぞれ、目利きの店主が強い想いを持って食材を取り扱っている店からのみ、食材を仕入れているという。店内は全て個室。大切な人との大切な時間を、気兼ねなくリラックスして過ごしてほしいという思いからこのスタイルにしたそうだ。空間やおもてなしもレストランを彩る重要な要素となる。 料理は、昼・夜ともに、全てシェフお任せのコース。アミューズから始まり、デザートに至るまで、ご自慢の素材のオールスターが楽しめるような、ワクワクする構成になっている。 はじまりにふさわしい前菜の一皿は、『天然クロマグロ 彦根の福原さんのグリーンアスパラアボカドのダンバル仕立て』。「その後に続くメインディッシュまでしっかり楽しんでいただくために、前菜では野菜のソースを使ったり、ハーブで爽やかさを添えたり、スタートに相応しく、軽やかな味わいを意識しています」 絵画のような美しさの一皿は、シェフが惚れ込んだ野菜たちが、ハミングしているような瑞々しさで盛り合わされている。それぞれの野菜に最適な温度帯で、皮一枚ほどの絶妙なところで火入れを止め、甘みを引き出しつつ、アルデンテな食感をのこす。弾むようが味わいに、ビーツやパセリといったフレッシュなピュレをつかったソースがからんで鮮やかなアクセントに。タンバルの隠し味には、醤油とタバスコをほんの少し利かせて、味の深みや重なりの面白さを実感させてくれる。お花畑のように華やかな前菜。マグロやアボカドのトロみのある食感と、野菜のサクッ、シャッとした歯触り、レモンの香りを生かした、じゃがいもフレークのパリパリ感など、食感のハーモニーもまた素晴らしい。 目に染みるような緑は、グリンピースの冷製スープ。旬のグリーンピースをピュレにして、新生姜のソルベをふわりと浮かせている。スープが甘い!力みなぎるグリーンピース本来の甘みが最大限に引き出されて、冷たく、青い香りとともに、口の中に満ちてくる。その甘さにちょうど、新生姜のピリッとした辛味が絶妙の相性を見せる。 おもわずおかわりをしたくなるほど、魅力的な味わいだ。鮮やかな冷製スープ。食欲を刺激するだけでなく、これからのどんな美味しい料理に出会えるのか?コース料理への幸せな予感を運んでくれる一皿。本日の魚料理はオマール海老と、オオモンハタのポアレ。オマール海老は80℃ぐらいの温度でゆっくりとボイルして、ふっくら仕上げて甲殻類のソースを、また香ばしくポアレしたハタには、香気豊かな九条ネギのソースを加えて、バターをモンテしたソースで、二つの味わいをまろやかにつなげている。魚料理にも旬の野菜がたっぷりと使われている。盛り付けのセンスも心憎い。フランスだけでなくジャパニーズワインも多彩に取り揃えている。山梨や、長野の優れたワイナリーを訪ねて、質が高く、コスパがよいワインを常に探し求めている。ボトルワイン3850円〜、グラスワイン690円〜 料理の素材にせよ、ワインにせよ、自分が納得のいく素材を仕入れて、素材本来の味を生かしきることに日々、心を砕く。そんな井出さんの姿勢に惚れ込み、その審美感にかなうよう、素材を提供する仲買などの店側も努力を惜しまないのだろう。「良い素材に出会えてこそ、僕の仕事はまっとうできると思っています。本当にいろいろな人の努力に支えられて、僕自身が料理をさせていただいていると思っています。これからも丁寧にきちんと仕事をして、それがお客様の喜びにつながっていけるようにしていきたいですね」 静かな個室でゆったりと寛いで、井出さんの思いがこもる美しい料理を、ひと皿ずつ、愛でながら、じっくりと味わいたい。■H.Splendideアッシュ・スプランディード g旬風庵京都市下京区新町通り高辻上ル岩戸山町430-1 075-353-6185営業時間 12:00 ~ 14:30(LO13:00)、夜 18:00 ~ 21:30(LO20:00) おまかせコース料理のみ。昼4180円〜、夜11000円〜(税・サ込み)水曜・木曜定休※要予約撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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2021.05.21
「Osteria S.Puro」-「祇園ゆやま」の湯山猛さんが通う店
「祇園ゆやま」 湯山猛さん熊本県出身。大阪の寿司店を皮切りに、京都の名料亭「伊勢長」や「河富」で修業し、34歳で「先斗町ふじ田」の料理長に就任した。モットーは「料理屋は料理だけでは成り立たない。料理、雰囲気、そして何よりも人」ということ。この3つが揃って初めて、お客様にとって本当に良い店となりうるという湯山さんは、自身の店にもその考えを大切に貫いている。今も仕入れは自分の目利きで行い、季節の彩りを豊かに表現する日本料理38年のベテラン。 五条通西大路をさらに西へ。巨大ショッピングモールのすぐ近くのビルの2階に店を構えるオーナーシェフ徳江聡さんと友香さん夫妻は、自分たちの店をオープンして4年目を迎えたばかり。 徳江さんは福島県生まれ。若い頃、故郷のスパゲティ店でアルバイトをしていた頃から、「料理って面白い!」とのめり込んでいったそうだ。24歳の時に縁あって京都へ。イタリアン・リストランテやフレンチの名店で修業を積み、2018年、42歳の時に自宅から程近い、この地に店を開いた。「イタリアンとフレンチの両方の世界を知っているので、自分らしく融合させた料理をお出ししたいと考えています。あとは場所柄、あまり気取りなく、リラックスしていただきながらも、きちんとしたレストランの雰囲気とおもてなしを提供したいと思っています」と徳江さん。「最初はうちの近所で洋食でも食べようかとすごく気軽な感じで家族で訪ねたのですが、まず前菜を食べてそのおいしさに驚いて、コース料理を食べるほどに、どんどん徳江シェフの味にハマっていきました。グラスワインでいいかなと思っていたけれど、これはちゃんとボトルの良いのを頼んで、しっかり味わわないともったないぞと...(笑)。今では、記念日とか大切な集まり、といえば、必ず寄せていただいています。いつも期待以上の素晴らしい料理を出してもらっています」と湯山さんは絶賛する。「湯山さんにそんなことを言っていただくと照れます...」と、はにかむ徳江シェフ。その表情に実直な性格が窺い知れる。 料理はまず食材ありき、と徳江シェフは考えている。野菜にしても魚介にしても肉にしても自分自身がしっかり素材を見て、信頼できて納得いく食材を揃えることがこの仕事の第一歩だという。 野菜は亀岡の農家から、肉は亀岡牛や丹波牛のメス肉のみ、さらに京都ポーク、そして、魚介は家からも店からも近い中央市場の馴染みの魚屋から仕入れる。 特に亀岡の農家、栗山大(ひろし)さんとは、親交も深く、いつ行っても「今が最高に美味しい野菜」をたっぷり譲ってもらうそうだ。「とにかく、鮮度抜群で、甘い、香りがいい、濃いの三拍子の野菜たちで、大地の力が漲っていて...。しなやかでふくよかで、どんな料理にしようか、いつもワクワクするんです」盛り付けの一つひとつ、細やかなところまで心を砕く徳江シェフ。妥協は絶対にしたくないという。 ランチもディナーもシェフのお任せコースのみ。ディナーはアミューズ、前菜盛り合わせ、季節のパスタ、メイン(コースによって肉、魚からチョイス、または両方)、自家製パン、デザートで構成。料理だけでなく、パン、ソースやドレッシング、デザートまで、全てシェフ自身が手がける。「何かと思い入れが強くて、頑固で、結構、大変、なんですよ」と妻の友香さんが微笑みながら見守る視線の向こうで、シェフが真剣な眼差しで料理に取り組む。そんな夫婦のあり方もとても好ましい。本日のディナーコース(5830円)から料理を抜粋。この前菜盛り合わせだけでも十分ワインが飲めてしまう。 本日のディナーコースから、おすすめ料理をいくつか作ってもらった。 ガラスの長皿で出された前菜盛り合わせにまずびっくりする。美しい!そしてそのボリュームも半端ない。「お料理をチマチマお出しするのが性に合わなくて...。たっぷりと存分に召し上がって欲しいんです」 富山産のホタルイカにプッタネスカを添えたものには、下にオレンジと新玉葱が隠されていて、重層的な深い味わい。福井県産のサワラのミキュイは梅肉と紫蘇の実を加えたトマトソースを合わせ、その隣の長崎産のキンメダイのムース仕立てに青々としたスナップエンドウを添えて。前菜の4つ目は、京都ポークのテリーヌと同じく京都ポークのリエットをシュー詰めにしたもの。どの一品も、野菜を巧みに使って味を忍ばせて、単一ではなく、複雑な妙味に満ちて、それでいて一つの力ある料理に仕上がっているのは、まさに見事!というほかはない。 ワイン好きの集まりなら、この前菜だけで、スパークリングのボトルが軽く空いてしまいそうになるはずだ。ひと際華やかな魚料理の一皿。どこまでも海の旨味を引き出して、濃厚に、香り芳しく、豊かな味わいに仕立てていく。 深い黒の丸皿に、花が一輪、ぱっと咲いたような一皿は、本日の魚料理、明石真鯛のタンバル仕立て、桜海老と白魚のガレット、鯛の白子添え。明石真鯛の上品な味わいに香ばしいガレット、魚介の旨味に満ちたブールブランソース、栗山さんの春ほうれん草が素晴らしいコンビネーション、重なり具合を見せて、最初のひと口でうっとりとしてしまう。春から初夏にかけて、旬菜たちの弾むような美味しさが溢れるメイン料理。肉本来の持ち味がしっかりと感じられる。 真っ白な皿をキャンバスに見立てた絵画のように美しい一皿は、本日の肉料理、丹波牛のステーキだ。カイノミという希少部位に、綿密に計算をして最適な火入れをして、ロゼ色に仕上げたステーキには、西洋ワサビを利かせたレフォールソースをかけて。キレがありながら、濃厚なソースを、肉らしい滋味に満ちたステーキに絡めていただけば、ボリューミーな一皿もぺろりと平らげてしまえる。添えられた赤米と筍の焼きリゾットの軽やかな食感を楽しみつつ、春キャベツとアスパラが秘めた春から初夏にかけての滋養を存分にいただく幸せ。 どの料理にも本当にたっぷりと、いろいろな種類の野菜が、姿を変え、味を変えて登場し、料理を食べるほどに、からだの中が綺麗になって、元気の「気」が満ちてくるよう...。「素材ありき」というシェフの思いが、素材の持ち味をここまで引き出し、最高のかたちに仕立てていることを実感する。常連さんに人気のシェフ手作りのパン(フォカッチャ)。北海道産小麦粉を使って焼いたもっちりとした食感が自慢。予約すればテイクアウトもできる。 愛情と熱意を込めた料理の数々は、ゆったりとしたテーブル席でいただける。店内は3つの部屋に分かれており、どの席もプライベート感が高く、家族で安心して食事ができる。 木の優しさと深いブルーを基調にした店内には、「くつろいで、気兼ねなく、レストランの味わいを提供したい」というシェフ夫妻の思いが隅々まで息づいている。広々とした店内。密になることなく、家族や大切な友人と落ち着いて食事ができる。奥の部屋もテーブルがゆったり配置されている。美しい花々が出迎えてくれる。 「京都は食の文化が古くから発展した土地なので、もともと良い食材が集まる場所。さらに少し足を延ばせば、亀岡のように豊かな農業地帯があって、自分が暮らす近くで、これだけの豊富な食材を手に入れられるというのは、料理人にとって本当に幸せなことだと思います。これからも良い食材をたっぷりと惜しみなく使って、喜んでいただける料理を提供していきたいですね」と徳江シェフ。優しい笑顔と、旬の恵みに満ちた料理にほっと癒されたくて、またすぐに行きたくなる、そんな一軒だ。 店名には「初心を忘れるべからず」という思いが込められているという。天性の優れた感覚と、真摯に料理に取り組む姿勢からこの店ならではの美味が生み出される。■「Osteria S.Puro」(オステリア・エスプーロ)京都市右京区西院西寿町32−2 2F075-748-9187営業時間 11:30~14:30、ディナーに関しては店舗に問い合わせを。おまかせコース料理は、昼2200円〜、夜4300円〜。水曜定休ランチは予約がベター、ディナーは要予約撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.04.28
「祇園ゆやま」-「先斗町 ふじ田」田中正一さんが通う店
『先斗町ふじ田』の料理長の田中正一さん愛知県の一宮の出身。実家が寿司屋を営んでいたこともあって、自然に日本料理の道へ進んだ。日本料理をするのなら京都で、という考えで、京都の老舗料亭で修業をスタート。3年後に『先斗町ふじ田』に移り、『祇園ゆやま』の主人、湯山猛さんのもとで経験を積み、平成17年に料理長に就任した。「基本はオーソドックスな懐石料理ですが、季節ごとの素材の取り合わせ、器との相性などを考えつつ、歳時記などに合わせた色々なストーリーを考えて、盛り付けや色合いにちょっとしたサプライズを添えて、工夫を凝らすようにしています」。お客さんとの会話を大事にすることも、湯山さんからの大切な教えだという。シンプルな店内に入ると、よく磨き上げられた美しいカウンター席がまず目に入る。とても気持ちの良い空間。 華やかな祇園の一角に佇む端正な一軒。暖簾をくぐって中に入ると、店内に入ると、まっすぐに伸びた、磨き上げられた木のカウンターが目に入る。店主の湯山猛さんは、推薦者である『先斗町ふじ田』の料理長・田中正一さんの師匠である。田中さんは湯山さんのもとで長年修業に励み、現在、湯山さんのあとを継いで、料理長を勤めている。「うちの店もまずカウンター席があって、お客様との会話を大切にしていますが、そのことを教えてくれたのが師匠の湯山さんです。プロが作る料理は美味しくて当たり前、そこに雰囲気、人、おもてなしがきちんと寄り添ってこそ、本当に満足していただけるということを肝に銘じています」と田中さん。「田中くんがそのことをよく覚えていてくれて、嬉しいですね。『先斗町ふじ田』時代から私自身も大切にしていることで、自分の店を持った時も、まずそのことを第一に考えました」と話す湯山さんは、日本料理一筋38年のベテランだ。明るい接客を心がける湯山さん。調理の際に一瞬見せる、凛とした表情にプロ意識を感じさせる。 湯山さんは熊本県の出身で修業のスタートは大阪の寿司店だった。親しくしていた先輩から「日本料理をするなら割烹が面白いぞ」と誘われてある割烹店に食事に連れて行ってもらった。「その時に出てきた八寸が、それはもう美しくて華やかでびっくりしました。こんな素晴らしい世界があるんだ!と感動しまして、日本料理をしっかり極めようと京都に行くことを決心しました」。その後、今はなくなってしまった京都の名料亭「伊勢長」や「河富」で修業し、34歳で「先斗町ふじ田」の料理長に就任した。 その頃から、湯山さんのモットーは「料理屋は料理だけでは成り立たない。料理、雰囲気、そして何よりも人」ということ。この3つが揃って初めて、お客様にとって良い店となりうると考えて、ここまでやってきたという。 提供する料理は、おまかせのコースのみ。料理はまず季節感が大事ということで、毎日、中央市場に自ら仕入れに出かけて、その日その日の旬の素材を手に入れる。そこから献立、器の取り合わせなどを考えて、コース料理を組み立てていくそうだ。 女性に大人気なのがお昼の3800円(税込)のコース。自家製の名物料理、ごま豆腐から始まり、旬味をたっぷりと提供する。 ごま豆腐は、ごまと吉野葛を練り合わせて作るのだが、葛をやや少なめにして、とろとろに仕上げる。なめらかなごま豆腐に、醤油の風味が香ばしいべっこうあんをかけて食べると、お酒好きなら、もうここから日本酒が欲しくなるはずだ。 伊万里の猪口に入ったとろりなめらかな、ごま豆腐。スプーンですくっていただく。この味を求めて通うファンがいるのもうなずける。女性のリピーターが多いお昼のコースの中で、「わあ。綺麗!」といつも歓声が上がるのがこの縁高。ぎっしりと季節の味が詰め込まれている。 ごま豆腐に続いて出てくるのが、旬味旬菜があふれんばかりの縁高だ。めかぶと汲み上げ湯葉、春キャベツとエリンギの胡麻和え、山クラゲとしらす、菜種の辛子漬け、筍などの旬の味に、明太子チーズとぶぶあられ、手毬寿司、サワラの幽庵焼、淡路の天然鯛とゆばこんにゃくの造りなど、創意工夫を凝らした料理がぎっしり。彩りも味わいもバラエティ豊かで、大満足すること間違いないお値打ちのコースだ。 夜のコースは8000円〜(税サ別)。さらに、華やかに贅沢に旬の味わいをたっぷりと楽しめる。 椀ものはため息が出るような美しさ...!漆黒にこごみや木の芽の緑、艶やかな筍がとてもよく映える。白身の魚のすり身に岩のりを合わせた真丈が、鮮やかな海の香りと運び、山の幸の筍と素晴らしい相性を見せる。春の喜びが伝わってくるような美しい椀もの。たったひと椀に日本料理の美学と真髄を感じさせる。料理は全て10,000円のコースから抜粋。 湯山さん自身が若い頃に感動したという八寸は、まさしく、深い感動に満ちている。甘鯛のうろこ焼、菊芋の煎餅、筍姫皮のきゃら煮、鯛の松風、花わさびの醤油漬け、きんぴら、めかぶ、白菜菜のお浸し、のし梅の博多揚げ、餅麩と菜の花の辛子和えなど、とりどりの味わいが互いにハーモニーを奏でる。 湯山さん自身も好きだという全国の地酒も、よく吟味されている。瑞々しい青竹の酒器でゆっくりとおすすめの地酒を楽しむのもいい。「お客様はお酒を飲まれる方が多いので、特に八寸ではお酒に合う味わいを、少量でたくさんの種類で楽しんでいただきたいと思っています。締めには、鯛茶漬けやいわし茶漬などが喜ばれますね」絵巻物を見るように、うっとりする美しさの八寸。写真は2人前。青竹の酒器は、酒をまろやかにしてくれるという。お酒がついつい進んでしまいそう。奥の座敷は4名まで。家族や友人と寛いでゆっくりと過ごしたい。「春は桜鯛を造りや蒸しで、夏は鱧の炭火焼、秋は焼き松茸に栗の渋皮煮、冬はかぶら蒸しに、ふぐや白子など、四季の恵みをふんだんに取り入れてご提供しています。祇園だからといって敷居が高すぎず、肩の力を抜いてリラックスして楽しんでいただけるよう心がけています」 カウンターで湯山さんとの会話を楽しむのも、また奥の座敷でプライベートな食のひとときを味わうのもよし。季節の移ろいを感じながら、ゆるりと京の旬を味わい尽くしてみたい。ほっとリラックスさせてくれるような湯山さんのこの笑顔。「料理のこと、お酒のことなどなんでも聞いてくださいね」。ここでは、楽しく弾む会話もまた、ごちそうの一つだ。■祇園ゆやま京都市東山区 花見小路東入ルアートハイツ 1F075-551-2688営業時間 11:30~14:00、17:00~23:00おまかせのコース料理は、昼3800円〜、夜8000円〜。月曜定休予約がベター撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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2021.03.22
「先斗町 ふじ田」-「すし・一品料理 すし昌」の松本敏昌さんが通う店
「すし・一品料理 すし昌」の松本敏昌さん主人の松本敏昌さんは香川県の出身。大阪の専門学校に通っていた頃、寿司店でアルバイトをしたのをきっかけに飲食の世界へ。うなぎの店や喫茶店のマスターなどを歴任し、平成17年に、「すし・一品料理 すし昌」をオープン。「とにかく美味い魚を食べていただきたい」という思いで、毎朝、中央市場に自ら出向いて新鮮な魚介を吟味し、仕入れている。近鉄京都駅すぐの『近鉄名店街みやこみち』で、美味い魚介とお酒を提供している。よく手入れされた清々しい木のカウンター席が、ゆったりと配置されている。 先斗町・歌舞練場の真向かいに、静かに暖簾が揺れる一軒。店内に入ると、まっすぐに伸びた、磨き上げられたカウンターが目に入る。その向こうで、料理長の田中正一(しょういち)さんが、出迎えてくれる。「松本さんとは、仕入れ先の中央市場で顔見知りになったんです。お会いするうちに、互いに話すようになりました。市場でお会いすると、『どない?』と聞いてこられて、僕が『ふつうです』と応えるのがいつものことです(笑)。うちの店には、お休みの日に奥さんと一緒に来ていただいたりしています。今年は、おせち料理を注文してくださいました」と田中さん。「お店では、お任せのコースを頼みますが、ほんまに何をいただいても美味しいんです。特に今年は、おせち料理がどれもとても丁寧に作りこんであって、お願いして正解でした」と松本さん。美味しいものを追い求める者同士、リスペクトとシンパシーを感じる。テキパキと作業をしながら、カウンターを挟んでお客さんとの会話も大切にしている田中料理長。 田中料理長は、愛知県の一宮の出身。実家が寿司屋を営んでいたこともあって、自然に日本料理の道へ進んだ。 日本料理を学ぶなら京都で、という考えで、京都の老舗料亭で修業をスタート。3年後に「ふじ田」に移り、それ以来、一筋で仕事を続け、平成17年に料理長に就任した。「うちの店の料理の基本は、オーソドックスな懐石料理です。季節ごとの素材の取り合わせ、器との相性などを考えつつ、歳時記などに合わせた色々なストーリーに沿って、盛り付けや色合いに工夫を凝らすようにしています」。 コース料理は月替りで変わっていく。しかし、田中さんが作る料理は、単に、「正統派の懐石料理」というだけではない。例えば、和物にチーズを使ってみたり、肉料理を組み合わせたり、モダンな感性でひと工夫加え、変化と緩急を楽しめるコースに仕立てている。「いつ来ていただいても、ちょっとしたサプライズを楽しんでいただきたいと思っています」。 今回は、コースの「馳走一」から、おすすめの料理を抜粋してもらった。節分にふさわしい一椀。鮮やかな色彩が美しい。料理は全て「馳走一」15,000円(税サ込)から抜粋。 朱の折敷に、漆黒の塗りの椀が冴えざえとしたコントラストを見せる蛤の真丈の吸い物。酒蒸しにした蛤を、白身魚のすり身と卵黄を合わせた真丈で包み込み、蛤で引いたエキスたっぷりの出汁を張って供する。取材時はちょうど節分の時期だったので、大根を升に見立てて、そこに大豆をのせ、季節のストーリーが鮮やかに表現されている。愛らしい梅人参や緑のセリ、柚子皮を添えた一椀は、豊かな春の色彩に溢れ、春到来を待つ気持ちが伝わってくる。だしに満ちる蛤の濃厚なコクと、ふわりとした食感の真丈がじつによくマッチしている。海の青、白い砂を連想させる盛り付けが食欲をそそる蒸し鮑のステーキ。 この店の名物料理の一つが、この蒸し鮑のステーキだ。鮑を3時間、じっくり酒蒸しにして、さらに2時間、だしで味を含ませるように煮る。下ごしらえにじっくりと手間をかけることで、柔らかさもありつつ、弾力に満ちた海の恵みの美味しさを余すことなく、堪能できる。添えてあるソースは、鮑の肝を煮詰めてバターを加えたもの。ほろ苦さがバターのまろやかさを纏い、感動的な味わいを生み出す。和の味が続く中で、インパクトのあるアクセントとなって、舌に忘れがたい印象を刻みつける。ほくほく、さっくり、カリっ、と様々な食感と風味が楽しめる、季節の野菜の炊き合わせ。 季節の野菜の炊き合わせにも、田中料理長の創意工夫が生き生きと息づいている。ゆで汁と一番だしを合わせて、味を含ませた近江かぶは、なんと甘やかな味わいだろう...!八方だしで煮含めた京人参もまた、素材本来の甘みをしっかりと引き出している。小松菜はだしでさっと湯がいて青味も生き生きと、小芋は浸透圧でだしの旨みをゆっくりと含ませて、しっかりとした味わいをそれぞれ楽しむ。 さらに、玄米粉をまぶしてカラッと揚げた太刀魚を添え、とろりとした濃厚な白味噌だしとともに食すのは、まさにここならではの味。まったりと甘やかな白味噌に野菜や太刀魚をからめて食すとまさしく「滋味」そのものの味だ。滋味深い味を堪能するうちに、"美味しい料理は人を幸せにしてくれるのだなあ"としみじみと思う。いつもにこやかな田中料理長。この笑顔で出迎えてもらうとほっとする。「僕の師匠でもある前の料理長の時代から"会話もごちそう"というのが、うちの店のモットーで、僕もそれを大切にしています」という料理長。一階はカウンター席のみなので、お客さんに、調理法や素材のことをなど、丁寧に、ユーモアを交えて、時に英語も使って、説明するのだという。笑顔溢れる楽しい会話は、料理の美味しさをさらに引き立てて、食時間を心豊かなものにしてくれる。 春にはたけのこや山菜、桜鯛が登場して、味も見た目も、春爛漫の華やかなコースに仕立ててくれるに違いない。寛ぎの空間で、肩の力を抜いて、リラックスしながら、京の粋なる料理の数々を楽しんでほしい。帰りは、胃の腑も心も満ち足りて、春の先斗町をそぞろ歩きして帰りたくなるはずだ。二階は個室、三階は大広間とさまざまなTPOに対応してくれる。■先斗町 ふじ田京都市中京区先斗町三条下ル 先斗町歌舞練場前075-255-0500木曜〜日曜 11:30~14:00、17:00~22:00※火曜・水曜は予約のみ。コース料理は昼3800円〜、夜8000円〜。月曜定休撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.02.19
「すし・一品料理 すし昌」-「Gori's Kitchen ゴリーズ キッチン」の足立充憲さんが通う店
Gori's Kitchen ゴリーズ キッチン 足立充憲さん大阪の「Ristorante e Pizzeria SANTA LUCIA」で4年半、修業して、その後、さらに腕を磨くために南イタリアに渡る。現地のトラットリアで働き、帰国後は、大阪の「asse(アッセ)」で5年、さらに腕を磨いた。地元の京都に戻るが、資金を稼ぐのと、他の世界もみておこうということで3年ほど不動産営業の仕事に就いたのち、2016年に自分の店をオープンさせた。窯で焼き上げるナポリピッツァを中心に、足立さん自身が食べたいものをオリジナル料理としてメニューに反映させて、ナポリピッツアの他、前菜、メイン、パスタ、デザートなど多彩な料理を提供している。気取らない店主の人柄そのもの、アットホームな雰囲気の店には、家族連れや仲間同士が集い、いつも賑やかな空気が流れている。「すし昌」の店舗は、観光客でいつも賑わう『みやこみち』の中ほどに位置する。 モダンな店が立ち並ぶ『近鉄名店街みやこみち』は、もともと、昭和39年、新幹線開通と同時に京都駅八条口に近鉄名店街として開業した。現在は、東西約200メートルの間にみやげ店、飲食店、書店など約40店舗の店が立ち並び、京都の南玄関を代表する施設となっている。その中ほどにある「すし・一品料理 すし昌」は、美味い魚と寿司を食べさせる店として、地元京都人をはじめ、観光客や出張ビジネスマンなども数多く訪れる。 主人の松本敏昌さんは香川県の出身。大阪で「専門学校に通っていた頃、寿司店でアルバイトをしたのをきっかけに飲食の世界に入った。その後、うなぎの店や喫茶店のマスターなどを歴任し、平成17年にこの店をオープンさせた。毎朝、中央市場に自ら出向いて、新鮮な魚介を吟味し、仕入れによって品書きを毎日変える。「とにかく美味い魚を食べていただきたいです。うちのお客さんは大体、本日の造りや魚介系の一品料理をいくつか注文されて、締めに寿司、という感じで楽しんでおられます」と松本さん。 Gori's Kitchenの足立さんとはたまたま知り合って、年齢は違うが気があったそうだ。「面白い子でね。イタリアンの店で働いているのに、魚のことや捌き方を勉強したい言うて、頼んできたんですわ。なかなか真面目にちゃんとやってましたよ。一度、携帯に電話したら、眠そうな声で出て、今、イタリアやというからびっくりしました(笑)」。「魚のことを教えてください!と松本さんに頼み込んで、ええよ!と言ってもらって。割に長い間、通わせてもらっていました。若いからこんなことできたんやと思いますけど(笑)、松本さんにはほんまにお世話になりました。でも魚を見る目と捌く技術を教えてもらったのは、僕にとってほんまに大きなことでした」と足立さん。 現在は、互いの店を行き来して、変わらぬ交流を続けているという。店内は座敷、テーブル席、カウンター席がゆったりと配置されている。 足立さんは、この店に来ると、いつも大体、おまかせにするそうだ。「ここではとにかく何をお願いしても美味しいので、造りや焼き物、揚げ物など旬の魚をたっぷりと味わわせていただいています。こちらの好みもよく把握してもらっているので、味はもちろんですが、いつもちょうど良い量で、大満足して帰ります」 初めて来店した人におすすめなのが、お造り、寿司、椀ものがセットになった桶御膳だ。一人前でこのボリュームがあり、「すし昌」ご自慢の魚介料理が一度に楽しめる。今日の造りは、サザエ、甘海老、マグロ、鯛、サーモン。これでお酒をゆっくり楽しんで、その後に、握り9カンを食せば、満腹になってしまうという、かなりのお値打ちだ。 近州米を独自ブレンドしたすし飯は、しっかりとした味わいながら、甘さ控えめで、すっきりと爽やかな江戸前の味。魚との相性がよく、食べ飽きない。寿司や造りにつけて食べる醤油は、故郷、香川県は小豆島の、マルキン醤油の濃口とさしみ醤油を独自ブレンドしたもの。これもキリッとした味わいで魚介によく合う。人気「桶御膳」は、このボリュームで3700円(消費税込み)!すし飯がさっぱりとした江戸前なので、9カン、ペロリとお腹に収まってしまった。魚介の種類は当日の仕入れによって変わる。 松本さんは、すし店を開業する前は、うなぎ店をしていたことから、うなぎ料理も定評がある。国産のうなぎをふっくらと焼き上げ、丸ごと一尾、贅沢にいただけるのが特上うな重だ。真っ白なごはんに、しんなりと重く、艶めくうなぎがどっしりと乗って、それだけで胃の腑が唸る。香ばしい最上の焼き具合、脂が程よく乗って、ほろっフワッととろけるようなうなぎの身、ごはんにタレとうなぎの旨味が染み込んで、これはもう、ただただ、うっとりとなってしまう味わいだ。古くからの常連さんで、注文するのはいつもこれ、という人もいるというのがうなずける。特上うな重4300円。椀物と香の物がついている。本日の新鮮魚介たち。本マグロ、ぐじ、あわび、はまぐり、つぶ貝、香住の柴山港の松葉蟹などの旬魚が、松本さんの手で美味しい料理に仕立てられていく。 「うちは駅近で、地元の企業の方や観光客、外国の方などがよく来られますね。ワイワイしすぎず、大人の方が美味しい魚とお酒と寿司で、ゆっくりと食事を楽しんでいただける店です。これから春にかけて、美味い魚がたくさん出てきますので、ぜひ、御賞味ください」。 今朝、仕入れてきたばかりの魚介を見せてもらうと、キラキラ輝いて、今がまさに食べ頃。駅を降りてすぐという便利な場所に、美味い魚を食べさせてくれる寛ぎの一軒があるとは...!美味しいもの好きには、何とも幸せなことである。主人の松本さんの笑顔に誘われて、こちらもほっこり温かな気持ちになってくる。■すし・一品料理 すし昌京都市下京区東塩小路釜殿町37-7 近鉄名店街みやこみち075-661-6899平日11:00~ 22:00(21:30 LO)無休予約がベター撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.01.27
「ユキフラン佐藤」-「ワインとワショク ツネオ」の岸名裕彦さんが通う店
【ワインとワショク ツネオ】店主の岸名裕彦さん。岸名裕彦さんは兵庫県丹波市出身。祇園のイタリアンの名店「イル ギオットーネ」で経験を積み、同店の東京丸の内店のオープニングマネージャーとして活躍。都内のイタリアンレストランなどの仕事を経て、2013年5月、自らの店である【ワインとワショク ツネオ】をオープン。季節ごとの感性、素材と素材の出合いを大切に、オリジナリティ溢れる料理を日々、創造している。 白川沿い町屋が立ち並ぶ、風情ある祇園新橋にほど近いビルの奥。白い暖簾の向こうに静かに佇む「ユキフラン佐藤」の店主、佐藤功一さんは、東京の大学で建築を学んでいたが、卒業後、日本料理の世界へと進んだ。 その理由の一つが、茶の湯の世界との出会いだった。大学構内にあった「待庵」の写しの茶室で行われていた茶道の稽古に参加することになり、月1〜2回の稽古に通ううちに、茶の湯の世界に強く惹かれるようになったという。 「茶室独特のあの背筋がピンと伸びるような心地よい緊張感や、静かで澄み切った空気など、心に響くものがあったんです。建築も空間に関わる世界ですが、何か茶の湯のこの心地よさや素晴らしさとつながるような仕事をしたいと思うようになりました。漠然とですが、それは宿泊施設のような空間を将来作り、そこで仕事をすることかな?と考えるようになり、それなら、まずは宿泊に深く関わる料理から始めようと思ったんです」。 2年ほど東京の店で修業したのち、親しくしていた京都出身の先輩からの声がけがあり、京都へと移り住む。京都の割烹店で6年、さらに修業を積んで、2013年8月に自身の店をオープンした。店内はカウンター9席のみ。完全予約制で1日、1〜2組の予約を受け入れている。「ワインとワショク ツネオ」の岸名さんは3〜4年前、人づてに祇園に良い店があると聞いて、佐藤さんの店を訪ねたという。「おまかせのコースのみのお店ですが、佐藤さんの素材の持ち味を引き出す料理のどれもが素晴らしく、衝撃を受けました。シンプルな料理なのに、奥行きがあり、その料理も驚くような味わいに仕上がっていて、まさに天才肌の料理人だと思います。その上で、料理にかける情熱を持って、常に美味しい味を追求し続ける人。料理人として、その姿勢を心からリスペクトしています」開店当初の思いを持ち続けつつ、日々、料理に向き合う佐藤さん。「心の奥底に響くような料理を作っていきたいというのが、当時からの思いです。なかなかできることではないですが、コース料理の中でたった一つでも、心に響く味が提供できれば、その方はまたきっと来てくださると信じて、日々、料理に向き合いたいと考えています」と佐藤さん。 食材は自らが毎日、市場や時に遠く大原あたりまで出かけて、納得するものを手に入れる。季節や旬を考えながら、素材の取り合わせを考え、献立を決めていく。器も骨董を中心に、自分の感性に沿う品々を少しずつ蒐集している。その道具箱がぎっしりと店奥に並んでいる。 「顔見知りになってからは市場などで出会った時、よく話すようになって、食材の情報交換もしています」と岸名さん。佐藤さんの料理にすっかり惚れ込んでいて、「何か美味しいものが食べたい」という時は、迷わず、佐藤さんの店を訪ねるそうだ。桐箱には、一つひとつ、佐藤さんが吟味して集めた器が大切にしまわれている。 まだ寒さの残る新春の候に合わせて、佐藤さんに料理を何品か作ってもらった。 軍配を象った繊細な美しさの古九谷の器で登場したのは「たたきごぼうと小鯛の玉露煮」。小鯛を一尾ごと素焼きして、玉露で半日〜1日、じっくりと炊き、骨も柔らかくなったところを甘辛く甘露煮に仕上げる。身も骨もホロホロと柔らかく、添えられた玉露の茶葉とともにいただくと、じんわりと素材の滋味が溢れてくる。たたきごぼうは、サクッとした食感を残しつつ、粗く擦った白ごまを纏って、どこまでも香ばしい。素材本来の持ち味を生かし、どこまでも味わい深い料理。日本酒とともにじっくりと堪能したい。 椀ものは季節に相応しく、ふぐの白味噌仕立てのお雑煮。ふぐのアラから引いただしと白味噌のふくよかな風味、玄米餅はもっちりした中に玄米の粒々が生き生きと立って、微かな野趣を感じさせる。こんもりと盛られた緑は、ふきのとう。ほろ苦さと爽やかさが口中に広がって、まだ少し遠い春を呼ぶような心持ちになる。さらに、アラをカリッと揚げたふぐあられが弾むような食感と香ばしさを添えて、新春を寿ぐにふさわしい一椀に、深く、心打たれる。鶴の金彩を施したおめでたい椀に、そっと貼られた白味噌とふきのとうの緑の対比が実に美しい。春を呼ぶ一椀だ。 割山椒という柔らかな曲線を描く備前の古い器に盛られた、色彩豊かな一品は、牡蠣とセリのおからである。しっとりとした真っ白いおからにセリの青を瑞々しく和えて、セリの根を添える。春先の青味と大地の味を舌に感じつつ、香ばしく焼き上げたどっしりと量感のある牡蠣をいただく。潮の香りとまろやかな旨み、濃厚なコクが一気に喉元を通り過ぎ、胃の腑にしっかりと収まる。大地の恵みと海の恵みが身の内に充溢してくるようで、まさに贅を尽くした味わいとは、こうことをいうのだろう。春の芽吹きを感じさせるような一品。セリの葉と根が土の力強さを、釧路・仙鳳趾産の牡蠣が海の匂いを運んでくれる。 一品ひと品に、岸名さんのいう「衝撃」を確かに感じ、料理を味わうほどにその驚きが喜びに変わっていくのがわかる。素材の取り合わせ、調理、仕上げに至るまで凄みさえ帯びて、こちらは佐藤さんの世界にただただ、うっとりと浸ってしまう。 しかしご本人はいたってストイックな姿勢を崩さない。 「茶の湯にも通じることで、料理における真・行・草についてよく考えるのですが、草は日常の食事、行は外食や宴会なハレの食事、真は何だろう?と、まだそこは考えている最中です。その答えも含めて、まずこの料理の世界でしっかりとやっていくことが今、一番の目標です」 そう話す佐藤さんは、昨年、結婚したばかり。奥様は洋菓子のプロで、現在は洋菓子や料理の教室を京都市内で開いているそうだ。良きパートナーを得て、最終目標に据えていた宿泊の仕事も含めて、今後は二人で、互いにやりたいこと、やっていけることを相談しながら、歩んでいきたいという。 新たな境地に立つ佐藤さんの料理が、これからどんな広がりを持って、どんな驚きを見せていってくれるのか、ファンならずとも楽しみにしたい。店名のユキフランは、母、幸子(ゆきこ)さんの名前から、「幸」の一文字をもらって、"この庵(店)に、幸多く降らんことを"という願いを込めて決めたという。美味しいものには人を幸せにする力があるということを、実感させてくれる。■ユキフラン佐藤京都市東山区新橋通花見小路東入ル2軒目南側八百平ビル1階奥075-531-3778※電話による完全予約制。料理はおまかせのコース(料金はその時の材料などの都合で15,000〜20,000円の間)のみ。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.12.25
「ELTESORO」(エルテソロ)-「Cantina ROSSI」の中川浩さん・美弥子さん夫婦が通う店
「Cantina ROSSI」のオーナーシェフの中川浩さんと妻の美弥子さん。 オーナーシェフの中川浩さんは、建築士として新しい町づくりなど、いくつもの都市開発のプロジェクトを手掛けてきた人。仕事で訪れたイタリアにすっかり魅了され、39歳のときに思い切って建築士をやめて、妻の美弥子さんと共にイタリアンレストランをオープンさせた。当時、たまたま親しくしていた「レストラン・フクムラ」の福村賢一オーナーシェフや、金沢の「イル・ガッビアーノ」の金山貴永オーナーシェフのアドバイスを得て、当時、まだ日本では先駆けともいえる生パスタを食べられる店として、口コミで多くのファンを獲得していった。パスタと並んでこちらもファンが多いドルチェは、美弥子さんが担当。夫婦の息のあったもてなしで、和やかな食のひとときを楽しめる。 祇園、縄手通に面したモダンなビル一階の奥深くに佇むオーセンティックなバー。ふと見ると艶やかなカウンターの上にいくつも美味しそうな焼き菓子が並んでいる。実はこれ、オーナーバーテンダーの大塚祐也さんの手作りだというから驚いてしまう。「カクテルもお菓子も大好きなんですが、この二つはよく似ているんですよ」どちらも素材の組み合わせや配合でさまざまな味のバリエーションが作れることや、クリームをどこまで泡立てるか、どこで止めるかといった呼吸は、カクテルのシェイクやステアに通じるというのだ。 もともとは静岡県で車の整備士をしていたが、ある時、バーで手伝いをした時にカウンター越しの接客の面白さを発見したという。縁がつながり、京都のバー「K6」に入り、8年間修業をしたのち、2006年に念願の自分の店をオープンした。昔からお菓子作りは好きで、その時にすでにお菓子教室にも通い続けており、自分が好きなお菓子とカクテルを楽しめるバーにしたいと、店のコンセプトを定めたという。鮮やかな手つきでカクテルを作る大塚さん。その手から、未知なる甘やかで美味しいカクテルが生み出される。 「とにかくカクテルがまるでドルチェみたいなんです!カクテルだけでももちろん美味しいのですが、カクテルにマッチングするドルチェを添えて出してくれるのも楽しいですね。いつも大体カクテルの種類はお任せですが、本当に美味しくて、その日の気分にぴったりくる味を作ってくれるんです」と話す中川さんは、妻の美弥子さんと二人でよくここに飲みにくるという。「僕も中川さんの料理が大好きで、妻と一緒によく伺うんですよ。お気に入りはアマトリチャーナ。あと奥さんのドルチェが、センスがとても良くて美味しくて、いつもすごく勉強になります」と大塚さん。 現在は、妻の寿弥さんも共に店に立って、夫をサポートしている。夫婦でお客さんとの会話を楽しみながら、息のあったもてなしがとても心地よい。 さっそく、その"ドルチェのような"カクテルをお願いしたてみた。最初に出てきたのは、エスプレッソ・マティーニとシナモンのパウンドケーキ。エスプレッソ・マティーニは、ウオッカをベースに、エチオピア・モカの豆を粗挽きにしてラムで漬け込んだ自家製コーヒーリキュールを合わせた、甘・苦のバランスが絶妙のカクテル。どこまでも濃く、深く、コーヒーの香りがずっと余韻となって染み込んでくる。その濃厚な味わいと添えられたシナモンケーキのよく合うこと...!パウンド生地はバターの代わりにオリーブオイルで軽やかに仕上げており、くるみと、なんと粗くおろした生のズッキーニが入っていて、しっとりした感と歯触りを生み出し、一口頬張るとたっぷりのラムレーズンとシナモンの香気ふわりと立つ。エスプレッソ・マティーニ ドルチェ付き 1300円。大人向けの濃厚な組み合わせ。ドルチェ単体は全て300円。 次に出てきたのは薄緑がかった美しいカクテル、サンジェルマンとクリームチーズのテリーヌのペアリング。シャルトリューズをベースに、グレープフルーツとレモン果汁の柑橘系を効かせて、泡立てた卵白を合わせて仕上げる。口に含んだとき、薬草と柑橘の香りが満ちて、高原の風が吹き抜けるような爽快感が広がっていく。そのあとにクリームチーズのテリーヌを食べるとクリームチーズの甘酸っぱさと生地の粒つぶ感がさらにフレッシュさを添えて、美味しさの連鎖が止まらない。カクテルとドルチェの爽やかさの相乗効果はクセになる!サンジェルマン ドルチェ付き1300円。クリームチーズにサワークリームを合わせて、ラストにコーンスターチを加えて仕上げるテリーヌは、滑らかでクリーミーな生地の中の粒つぶ感がたまらない。 ラストに登場したカクテルには、さらに驚かされた。その名も、イチゴのhフローズン。ぱっと見ただけでは完全にパフェ、なのに、口に入れるとちゃんとお酒が入っているのはわかる。 ゴディバのチョコレートリキュール、ブランデー、クランベリージュース、バニラアイスをブレンドし、大きめのカクテルグラスに入れて、フレッシュなイチゴを添える。「お酒の入ったドルチェとしても、カクテルとしても楽しんでいただけます」カクテルドレスを纏った貴婦人のような雰囲気のイチゴのフローズン、1300円。 お酒が弱い人には、お菓子だけでもオーダーできるのも嬉しい。ココアシフォンケーキはシフォンケーキの中でも人気の一品。オリーブオイルを使ってしっとりしながらも軽やかな味わいで、和三盆を加えて泡だてた生クリームはどこまでもなめらかで、ケーキにとてもよく合う。ホールでリクエストされることもあるというシフォンケーキ。ただ軽いだけでなくしっとり感が素晴らしい。300円。「ケーキをホールで欲しいというお客様もおられますよ(笑)」その気持ち、とてもよくわかる...!筆者もバースデイケーキをお願いしたいと思わず、考えてしまったほど。 材料を吟味し、丁寧に作ったドルチェと、同じように大切に作ったカクテル。二つの極上の味は、まさしく、幸せな出会いに他ならない。 もちろん、マンハッタンやギムレットなどのクラシックカクテルも、マスターはとても大切にしている。オーセンティックなバーとして楽しむもよし、ちょっと甘いものが食べたいなあと思う時に、ドルチェとカクテルのペアリングを楽しむもよし。「祇園のバーだからと言って、緊張などされずに、肩の力を抜いて、楽しくお酒を飲んでいただきたいです」(寿弥さん)。 カウンターの向こうで笑顔の二人が暖かく出迎えてくれるバー。そこには、甘いお菓子とお菓子のような素敵なカクテルが待っている。うっとりするような幸せな組み合わせを、大切な人とゆっくり満喫してほしい。仲の良い素敵な夫婦の会話に、こちらもすっかり打ち解けてしまう。寿弥さんは長年、呉服関係の仕事をしていた和風美人。キリリとしたバーテンドレスの服装もとてもよく似合う。■ELTESORO京都市東山区弁財天町19 大和ビル1F075-541-177016:00~翌3:00水・木曜休席料 500円、価格は税別、サービス料なし撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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