BLOG京のほっこり菜時記2020.06.25

「白ずいき」

By中井シノブ

飲食店取材1万軒を超える京都在住のライターが、時々の「うまいもの」を歳時記的につづる【京のほっこり菜時記】。 今回は、初夏の爽やかな味わい「白ずいき」をご紹介します。

ずいきは、芋がらともよばれ、八ツ頭や唐の芋、赤芽芋など里芋の葉柄を栽培したもの。表面の皮色によって赤・白・青(緑)の三種類に分けられる。

赤ずいきは主に八頭の葉がらで、柔らかなピンク色。青ずいき(緑)は蓮芋の葉がらで、切り口に穴が開いて蓮根に似ていることからハス芋と呼ばれる。

そして、白ずいき(白ダツ)。京都の料理屋で一番よく見かけるのが、この白ずいきだ。

白ずいきは海老芋や里芋などの葉がらで、日が当たらないよう軟白栽培する。えぐみが無くて淡泊な味付けに適しているから、和え物、酢の物、煮物などにしてシャキシャキとした食感と淡麗な味を楽しむのだ。

京都の家庭では、ずいきの炊いたんや酢の物がよく食べられるが、母も、夏になるとずいきと油揚げの煮物をよく作ってくれた。おそらく赤ずいきか青ずいきだったのだと思う。

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奈良の日本料理店「白(つくも)」さんでいただいた、「白ずいきの一品」

奈良の伝統野菜「軟白ずいき」などは、丈の低いうちから新聞紙等で包んで光を遮り栽培する手間のかかるもの。その分、ほかのずいきに比べて高級だから、なかなか一般のスーパーなどには出回らないのだ。

淡泊でカロリーも低そうな白ずいきは、栄養価的にはどうなのだろう?

調べてみると、思った通りというか、カロリーは100gで12calとわずか。

そのほとんどは水分なのだが、次に多いのが不溶性食物繊維。そう、腸を調えてくれる食物繊維が豊富なのだ。免疫力をアップするには、腸を調えることが一番ともいわれているから、夏バテなどで体が弱りそうな時にこそ食べたい食材なのである!

ちなみに、京都の北野天満宮で催される「ずいき祭」をみなさんは、ご存知だろうか?

1年の五穀豊穣を感謝する祭で神前に新穀、野菜、果実などを供えたのが始まりだという。

このお祭りは毎年10月に執り行われるが、白ずいきが出回るのは6月~9月の夏の間なのだ。

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さて、そんな栄養効果もある白ずいきを、どんな料理で食べたいかと問われると、

私は迷わず「胡麻和え」と答えるだろう。

もちろん、白ずいき自体をちゃんと食べるようになったのは、大人になってから。というか、家のおかずではなく日本料理として美味しいと思うようになったのは、自分で料理屋に行けるようになってから。

そんななかで、大好物になったのが、この「胡麻和え」なのだ。

とりわけ、「食堂おがわ」の「白ずいきの胡麻和え」は、いつ食べても、何度食べても感動のある一品。

はんなりとしながらもシャクッとした白ずいきに濃厚なクリームのような胡麻ペーストがとろりとかかっている。胡麻ペーストのほのかな甘みや香ばしい風味がからまる贅沢な味。

家庭では決して食べられない極上料理だ。

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「食堂おがわ」は、言わずと知れた京都の人気店。予約がとりづらいと言われる店でもある。

私も、運よく予約がとれたなら、「あれも食べよう、これも食べよう」と思い浮かべ、その日が来るのを心待ちにしてしまう。

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だから、必ず注文する料理も多い。とりの唐揚げ、だし巻、夏なら毛蟹、鱧のつくり、鯖寿司...。

壁にかかった黒板メニューも見るが、行く前から頭の中に食べたいものをたくさんメモっているから、迷うこともほとんどない。

あとは、何人でいくか、誰といくかなのだが...。

この店なら全く知らない人と行っても絶対に愉しめるだろうと思ってしまう。

料理が目の前でできあがっていくライブ感はもちろんのこと、心弾む料理の味やコストパフォーマンスの高さなど、ここだけでしか味わえない幸福感が満ちる稀少な一軒なのである。

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■食堂おがわ

京都市下京区西木屋町四条下る船頭町204 1F
17:30~23:30(L.O.22:30)
定休日 水曜、月最後の火曜

中井シノブ

京都の情報誌編集長を経てライターに。飲食店取材1万軒。外飯、外酒がライフワーク。著書に『京都女子酒場』(青幻舎)、『京の一生もん』(紫紅社)などがある。