料亭「木乃婦」の三代目主人が考える精進料理とは?その進化や精進料理への思いについて語っていただく連載【精進料理知新】今回は、精進料理を作りだす技術力についてお話いただきました。
料亭「木乃婦」の三代目主人、高橋拓児さんは、2015年より京都料理芽生会創立60周年事業で同会が取り組んだ「精進料理の世界へ」をメンバーともに推進してきました。現在も自身の店で、お客さんの要望に応えるかたちで精進料理に取り組んでいます。高橋さん自身が考える精進料理とは?その進化や精進料理への思いはいかに?というテーマで5回にわたって、語っていただきます。
※「京都料理芽生会」/日本料理の発展と、伝統と格式のある京都の食文化を次世代へ継承するために1955年に設立。京の料亭の若主人たちが研鑽・研究を行い、様々な挑戦を行っている。
私たちプロの料理人が精進料理に取り組むとき、やはり当然、玄人としての仕事、お寺の典座さんとはちがう仕事をすると思うのです。典座さんはあくまで禅の修行が主眼ですから、私たちとは立ち位置がちがいますよね。
で、私が最初に考えたのは、やはり味のことです。玄人が作るだけの味、おいしさを忘れてはあかんのとちがうかなと思ったわけです。
そのキーワードはやはり「旨味」なんです。和食の基本のキは、鰹と昆布のおだしですよね。その両輪があって初めて、和食独自のあの「旨味」が生まれるんです。でも精進料理ではその片方の輪の鰹が使えないんですよ(笑)。最初の頃は、大豆を燻製させたとか、旨味を引き出すには?と随分、悩みましたね。
いろいろなことを試行錯誤したのですが、昆布だしの引き方を工夫することで、しっかりとした旨味を引き出す方法に落ちつくことができました。
普通、昆布だしは65度の温度帯で引くのが一般的なんです。でもそれを58度まで下げると、甘みが出てくるんです。甘みは旨味っていいますよね。
58度のお湯でおよそ1時間半ぐらいかな。ぬめりが出て、多粘糖類が出やすくなって甘みがより引き出せるんです。
粘りが出るということは味わい、旨味の余韻が長くなるんです。口の中で旨味と甘みの余韻が程よく続いて、それによって鰹でしか出せない旨味をうまく違う美味しさに変換できるようになったんです。
あとは小芋を炊くときには大豆の香味を少し加えるとか、青ものを炊くときやったら、青ものの食べられないところを乾燥させたものを、炊き上がりのときにちょっと入れるとかね。大根の葉っぱを乾燥させたものを風味付けに使ったりするんです。
なんのためにそういう手間をかけるのか?というと、私が一番意識したのは「風味の強化」なんです。香りと味わいの強化。本来のおいしさを引き出しつつ、風味の強化をすることで、昆布だしのみで調理する単調さをカバーしようと考えたんです。
精進料理のご注文をあえて私らたち料理人に頼んでくれはる、じゃあ、そこで玄人のスキルをどう生かせるか?ということなんです。
私たちはお寺さんと比べると料理の技術力は格段に高いです。何故ならそれしか日頃やってませんから。笑 実際、それ以外はからっきしダメで偏った人間す。ですから、私たちにしかできない技術を全面に出すことに重きをおいてます。
その一つが包丁のキレです。たとえば、かぶらを炊くときに、かぶらの断面が全面がぴかぴかになるように私たちは切れるんですね。面取りの技術ですよね。
そういうふうに切ったものを大根の含め煮なんかにしますと、味がよく染みて、柔らかくて、そして食感がものすごくいいんですよ。最後の最後にね、食感ってやっぱり大切な要素なんです。
それから見た目。面取りしてスカッと切られたかぶらがね、いい感じで炊かれて、塗りの器にピシッと盛り付けられている。もう、ほんまに綺麗やと思います。おいしさと見た目のすっきりとした美しさ、風味、食べやすさ、食感、そして余韻。私たち料理人にとって、精進料理と一般のお料理の技術についてはそんなに違いはないと思います。
しかし、何のために生きるのか、何故食べなくてはいけないのかということを頭に入れながら料理を作るときは、確実に料理人は素人になり、お寺さんが玄人になります。この素人と玄人を同時に兼ね備えることが大変重要だと思います。
次回は精進料理の発信、とくに海外へどう発信していくのか?その辺りをもう少し詳しく、お話したいと思います。
■ 木乃婦
京都市下京区新町通り仏光寺下ル岩戸山町416
075-352-0001
12:00~14:30(L.O.13:00)、18:00~21:30(L.O.19:00)
定休日 水曜