こんにちは。京都グルメタクシードライバーの岩間孝志です。車に乗るだけで、あなたにとっての「おいしい京都」をご案内いたします。さて、この季節になると山々の緑も黄色から紅色になり、四季の移り変わりをもっとも感じる時期でもありますね。京都市内中心部だけでなく美食の楽しみは山々の中にも存在します。その点タクシーはその距離感をなくす絶好の乗り物かもしれませんね。それでは、本日のグルメ観光は山奥の名店に向かって車を走らせることにいたします!「京都の山奥にある美食を求めて」をテーマに、グルメツアー出発です!
その目的のお店に行くには1時間ほどかかります。出発点の京都駅から鴨川に沿っている川端通りを北上、窓越しに京都の風景が見えてまいります。川の対岸にある人気のカフェ、三十三間堂や清水寺に向うバスの列、鴨川の分岐点の出町柳、みたらし団子発祥の地と言われる下鴨神社、なからぎの道、優れたパンのお店がひしめく北区、植物園内のグルメなどをご紹介していると少し口がさびしくなってまいりますが・・・車内での「おいしいお話」はやはりお腹がすくわけでして、途中で栄養補給が必要になってまいりますので少し休憩場所をご案内(笑)
鞍馬街道を北へ車を進ませると、二ノ瀬という場所に「白龍園」という庭園があります。一日100人限定(詳しくは公式サイト)の期間限定の特別拝観ができる空間です。趣き深い庭は、オーナーの青野さんが社員家族と地元の手伝い衆で作り上げられました。庭園散歩のあとは四季の景色を見ながら「河鹿荘」というお休み処でお抹茶やぜんざいもいただけます。美食と四季の風景が共に楽しめるスポットですね。 ※白龍園 公式サイト http://hakuryuen.com/
さらに進むと鞍馬寺の門前に「多門堂(たもんどう)」があります。これから鞍馬寺へ向かう観光客や参拝者で混み合う食事もできる人気店で佃煮も売っています。そこでお客様におすすめするのが「名代牛若餅」「麦饅頭」「蓬(よもぎ)だんご」です。どのお菓子も個性的で上品な甘さ、そして柔らかさは理想的で鞍馬天狗もほしがる?!のではないかと思うぐらいです。地元の人も好んで買われるお店でもあるので観光シーズンでなくても、帰りに立ち寄ろうとしたら売り切れということもありますので念のため、往路、お早めに訪問されることおすすめいたします♪
「小一時間」という表現がいいでしょうね。今回の目的地の「美山荘」はその京都の奥座敷にあります。1895年に京都・鞍馬の奥にある大悲山「峰定寺」の宿坊として建てられたのが最初で、自然に恵まれ山狭深く、しっとりと、とけ込むようにこの地に佇んでいます。1日わずか4組のみをおもてなし。摘み取った季節の草花や旬の野菜に魚を取り入れた料理を堪能できるお店です。
私と美山荘の出会いは平成五年に最初に勤めた法人タクシーの、新人社員の小型車勤務から中型車観光課勤務になったころでした。その年、先代の中東吉次氏が亡くなられ、直後に美山荘送迎をお店を担当していた先輩乗務員から任されたわけです。お店のことが詳しく書かれてあった「雪峰花譜(せっぽうかふ)」(初版一九九二年 柴田書店)を読みながら日々食通の方々をご案内し、ほぼ五年間春夏秋冬、大雪の季節もお世話になったこと、今でも鮮明におぼえております。ある意味その貴重な時期が「京都グルメタクシー」の礎になったのではと感じています。
母屋は峰定寺の塔頭跡地に建てられ、数寄屋造りの巨匠中村外二の手によって改築されました。現在は廊下につづいて囲炉裏型カウンターもあり、宿泊されるかたに利用されています。そして向かいには川の棟があり、吉野窓のある部屋や月見台のある部屋も魅力的です。おいしいものに集中できる環境は風景もこうあるべきと語りかけてきます。耳をすませば川のせせらぎ、小鳥のさえずり、そして料理がはこばれてくるかすかな足音は期待感をさらに助長しますね。香ばしいあけび茶から美山荘の料理ははじまります。
「銀杏みそ」は秋一番に出てくる定番ともいえる料理で客人を目覚めさせるのでしょう。いわなのお造り、揚げ蒸した新米を白みそ仕立てで提供。アクセントに水からしが添えてあります。
「むかごの葛よせ」はほんのり甘く、野性味溢れる存在。「八寸」は丹波の枝豆共和え、湯がいて焼いた落花生、小豆のかるかん、地鶏の味噌漬け卵、揚げとち餅、鮎の一夜干し、焼き栗、川海老とそれぞれ個性ある野山の産物がお皿に込められています。秋色、その秋色の味をビジュアルでも表現しているのが「焼き松茸」木曽産の香り濃く五感に響き渡る演出です。
「鯖寿司」を二切れ。そして生姜と大徳寺納豆のつけ汁を添えていただきます。「土瓶蒸し」は出汁と具材の風味がちょうど半分つづ味わえるような印象。調和し、ひきあったという表現をしたくなります。趣ある土瓶の中をのぞきながら冷めないうちに頂くことにします。「子持ち鮎の杉焼き」は川魚の塩気を大切に、ちょうど中まで火が到達するぐらいに焼きすぎず、柔らかさを保っています。
「きのこの炊きあわせ」は、まいたけ こむそう茸 しめじ しいたけ なめこ、おろして揚げた加賀蓮根 をすこし濃いめの出汁で炊いてあります。フランス料理なら「猟師風」と名乗るべき一皿。それぞれのきのこ類のうまみを見事に集結させた料理でした。ご飯ものは「ぐじの炊き込みご飯」です。ふっくら、そしてやさしく染み込んだ魚の風味。この時点で満腹になっていますが、それをこじ開けるように、本能によって(笑)二杯目も頂くことになります。塩梅よく、潤いも適度にありますから癖になる味なのです。
あけび、さるなし、季節の果物、山葡萄のゼリーを、デザートに。あけびはまさに近くの採れたてそのものの味。枝からまだ栄養をもらっているかのような瑞々しさでした。最後に抹茶をいただきコースは終了。時の経つのも忘れて、時には笑い、時には興味深く、料理とにらめっこする時間もありました。(※ご紹介した料理は10月中旬のものです。)
距離感を大切にされる料理長
現在の中東久人料理長は先代の息子さんで、実は私とほぼ同時期にフランスのレストランで研修をなさっています。 ヴィヴァロア、ルイXV、ミッシェル・ゲラールなどそうそうたるお店。特にミッシェル・ゲラールさんのお店は当時ヌーベルの発祥的なお店で今の低カロリーフレンチの代表格、料理ジャンルは違いますが美山荘の料理と通じるところはあるのではないかと思います。しかも、サービス人としての修行がメインとも聞いています。フランス料理の物事、考え方、器具、機械にもご興味もたれていたようです。その後さらに金沢の日本料理店で料理修行されて26歳で美山荘の4代目となられました。
「野草一味」は最初においてある手ぬぐいに書かれてあります。美山荘に送迎するとき大悲山の細道を通っていきますが、途中山の茂みや、草むらを歩いている中東さんを見かけることがあります。何かを見つけられたらまたその先に・・・・その日常の目線が料理素材の吟味につながり、良質の食材を提供できる格好の手段として日々探し求めておられます。幼いころから遊びの一部として季節を体感されていたことは、唯一無二の食材調達のスキルが備わっているのでしょうね。
私と同世代の中東さんですが、先代の流れを継承されて、今まで歩まれた食への探求の結果を踏まえ、日本料理を論理的に説明するための努力も日々されておられます。久人さんの独自の論法で、古きを継承し、新しきを取り入れることも引き続き期待したいと思っています。
美山荘、もうお一人の尽力。女将の継承。存在感。
大女将の中東和子さんがよくお店におられるころから送迎をさせてもらっていました。とにかく気配りの素晴らしい方で、運転手にも優しく声をかけてくださったりして、お会いすれば長い距離を運転した緊張感から解放させてくれるような存在でした。現在は息子さんの奥様である中東佐知子さんが接客を継がれています。
まだ現在の若女将の佐知子さんが美山荘にこられたころ私は鞄職人時代で、その後法人タクシーに戻りましたが、当時の若女将と今とではかなり女将のオーラが変わったように思いました。さらに落ち着かれ、この店にこの人あるべきという存在に、この日伺ったときにさらに思いました。大女将の和子さんの存在と徐々に重なり、美山荘の新たな時代を担っていかれるのでしょう。
できるかぎり座敷にこられてご挨拶をされますが、特に食後に登場されるときの会話は美山荘の常連さんも楽しみにされていて、色々なお話しをなさいますし、お客様もいろいろな質問をされますが、快く丁寧にお答えされます。その女将さんとの出会いも美山荘のひとつの魅力でもあるわけですね。私の部屋の担当の女性は8月に入られたばかりの新人さんでしたが、言われなければ気がつかなかったぐらい優れていました。わずか2か月で一級の接客を身につけたわけですから、育てるお力も若女将はお持ちだなあと思いました。
「気遣いすれど、お構いなし」
料理長、女将さん、スタッフの皆さん、すべてがお客様との距離を大切にされています。世界的にも注目されている美山荘ですが、平常心で変わりなく親しみをもって接客されます。私個人の意見ですが、日本料理の味を極めて、求めていくと、いつかこの美山荘にたどり着くような気がいたします。日本の大切な食文化の原点、そして一つの到達点がここにあると思います。是非皆様も美山荘のすべてをご堪能頂けたらと思います。
お客様!美山荘とのお別れの時がまいりました!
車の姿が遠くに見えなくなるまで見送ってくださる女将さん、スタッフの皆さんに車内から手を振って・・・・いよいよ京都市内まで1時間かけてグルメタクシーで帰ります。なるべく美山荘のご馳走の余韻を残していただくため、揺らさず、飛ばさず、滑らかな運転で花背、鞍馬峠を快走いたします。眠気も一つのお客様にとっての「至福の時」なのです(笑)帰りも京都グルメタクシーはBGM、時には子守唄のように、京都の食をお伝えしながら帰るのでした。またのご乗車、お待ちしております!