ダイドーグループ 日本の祭り 息吹く夏〜尼崎・貴布禰神社だんじり祭〜

エンタメMBS

2023/09/27 18:00

 来場者5万人。およそ300年前、江戸時代中期から受け継がれている兵庫県尼崎市の夏の風物詩「貴布禰神社夏季大祭(尼崎だんじり祭)」。だんじりが正面からぶつかりあう「山合わせ」で、勝ち負けを競う、勇壮な祭だ。コロナ禍での中止を余儀なくされ、今年、4年ぶりに開催された。

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 大阪から阪神電車でおよそ10分。兵庫県尼崎市。海沿いは阪神工業地帯の要として発展し、近年は大阪から近いことや再開発の影響でベッドタウンと工業都市、2つの顔を持つ町となった。この地に「尼のきふねさん」として地元で親しまれている貴布禰神社がある。この神社で毎年8月1日、2日に行われる貴不禰神社夏季大祭は、尼崎を代表する夏祭りだ。祭りには尼崎城の城下町にある8つの地域(西町・南出・北出・新三和・西櫻木・東櫻木・中在家・御園町)からだんじりが出る。それぞれのだんじりが個性を放ち、地域の伝統と誇りを受け継いでいる。

      この町に生まれ育ち、祭りと共に生きる人たちがいる。
 6月25日、祭り本番に向け本格的な準備が始まった。東櫻木町の曳き手たちを率いるのは東櫻木地車保存会 副責任者 福家正也さん(35歳)、次世代の東櫻木を担うリーダーだ。
「地元にだんじりがあるだけで、子供のころは『楽しいなぁ』くらいの気持ち。大人になった今では『だんじりを守っていく、そして自分たちの後の世代にバトンをつないでいく』そんな強い意志がある」と福家さんは語る。

 この日は、肩背棒と呼ばれる前方に突き出た肩を入れて担ぐための丸材にロープを取り付ける作業。丸材だけの状態では滑りやすく、だんじりを曳くときに力が込められない。速度や方向も操作できない。このロープが自分たちの命を守るということを知ってもらい、準備の大切さを理解してもらうために、16歳から27歳までが所属する若手衆の集まり「青年会」がその責務にあたる。彼らを指示するのは山下泰生さん(28歳)。若手をまとめる青年会の会長だ。

 祭の運営を取り仕切るのは、貴布禰太皷地車保存会。メンバーは、だんじりを保有する各町のベテラン衆。祭のすべてを熟知している。事故なく進行するために月に1回、会合が行われ、祭が近づくにつれて白熱した議論が夜遅くまで交わされる。

 地元だからと言って地域の子どもたちが、みんなだんじりに親しんでいるとは言えないのが現状だ。だが、大人たちに混じって、自分たちの町の寄り合いにも顔を出す小学生がいる。新三和の小学4年生・小林想生(こばやし・そう)くんと、小学5年生・不老一颯(ふろう・いぶき)くん。北出の小学6年生・柳澤利一(やなぎさわ・りいち)くんは、「(いぶきは)大人になったら絶対に保存会会長になれる男。それぐらい期待高い」と一目置く。

 7月23日、東櫻木町では、祭りの時期になると町内に御神灯が設置される。そんな御神灯に一つの名があった。サッカー日本代表の堂安律選手だ。堂安選手の父が東櫻木町出身で堂安選手も小さいころ、だんじりを曳いていたという。今年の御神灯は全部で230灯。東櫻木の関係者や出身者の協賛によって支えられている。我が町の祭りを受け継いでいく。その決意を、この灯りは教えてくれる。

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 8月1日、尼崎の町に貴不禰のだんじりが帰ってきた。この日は、だんじりで町を練り歩き、ご祝儀を集める宵宮。コロナ化で祭が開催できない期間に引っ越して来られた方も多く、初めての方には一軒一軒挨拶と共に説明しながら、ご祝儀を集める。だんじり祭を運行するための大事な資金となる。東櫻木のだんじりは、28年ぶりの修復を控え、およそ1700万円がかかるという。だんじり祭を維持するためには、必要不可欠なのだ。
 午後6時過ぎ。阪神尼崎駅前に、全8町のだんじりが集結。隊列を組み、そろって貴布禰神社に宮入りするのだ。通常開催ーーーここに戻るまで4年待った。阪神電車の高架下すれすれを、猛スピードでだんじりが駆け抜ける。祭が帰って来た喜びを、だんじりに乗せて、夏の尼崎をより熱くさせる。

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 8月2日、本宮。だんじりを激しくぶつけ合う「山合わせ」が行われる日だ。4年ぶりに復活した「山合わせ」が見られると見物客の期待も高まる。元々、宮入の順番を争ったことから始まった。だんじりを担ぐ肩背棒を、相手のだんじりに乗せれば勝ちだ。
 会場を支配する緊張感。受け継いだ誇り。沿道に詰めかけただんじりファンも、固唾をのんで見守る。各町のだんじりは、この日のために整備や修復など、入念に準備をしてきた。だんじりに魅せられた人たちが、町の誇りをかけて、だんじりをぶつけ合う。小学生のいぶきくんたちはまだ「山合わせ」には参加できない。道路脇から声を上げる。頼もしい、未来の曳き手たちだ。

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 全8町が総当たりで、およそ2時間。熱い夜に、熱い男たちの、熱い戦いが繰り広げられた。熱き祭り人が、息吹(いぶ)く町。尼崎の人たちは言う。
「やっぱ祭りは、貴布禰のだんじりやな」「4年ぶりの開催ありがとう」
未来永劫、この祭りを受け継いで行く。だんじりには多くの人たちの、そんな願いが込められている。

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