食べ物や日用品とジオラマ人形を組み合わせた独特な世界観のミニチュアアートを作り、8年前から自身のSNSで毎日欠かさず投稿を続けるミニチュア写真家、田中達也が今注目を集めている。インスタグラムのフォロワー数は170万人を超え、アジアで個展を開催すれば12万人が来場。テレビドラマやCMにも起用され活躍の場を広げる37歳だ。ユーモアたっぷりでとびきりお洒落、思わず「いいね!」と言いたくなる作品制作の舞台裏にドキュメンタリー番組「情熱大陸」が密着し、その着想のヒントを探った。
「真面目にバカバカしいことをするのが大事」
インターネットで世界と繋がることが出来る時代。鹿児島で暮らす田中の日課は、毎日必ず1つ作品を作り上げては撮影し自身のSNSに投稿することだ。アトリエにしている実家の1室には食品サンプルや雑貨など無数の小道具が用意されている。それと約1.5㎝大のドイツ製ジオラマ人形が約2万体。これらをどう配置するかで物語が生まれる。
例えば蚊取り線香もミクロな視点で見れば西洋の庭園に。
作品のタイトルがまた粋だ。
「デートはキンチョウする」
洗濯バサミを飛び込み台に、タオルをプールに見立てたこちらの作品のタイトルは・・
「干されないように頑張れ!」
日常に溢れる「何か」を「別の何か」に見立てて作った作品はこれまで3000点。田中は、自身の職業を"見立て作家"とも語る。
(田中)「真面目にバカバカしいことをするというのが大事です」
日めくりカレンダーのごとく、毎日インスタグラムに投稿し続けたところ口コミで人気が広がり、最近ではテレビドラマのタイトルバックやCM、ベストセラー作家の装丁にも起用されるなど活躍の場を広げている。
"ミニチュアの神"と呼ばれる男の仕事現場
この日、田中が手に取ったのは白いスニーカー。これを雪山に見立て雪化粧した木々やソリで遊ぶ子供を配し楽しい世界観を生み出していく。
ところが完成していざ写真撮影に臨むと手が止まった。別のアイデアが浮かんだからだ。
スニーカーの縫い目はよく見てみると雪山に残る何かの「足跡」に見えないだろうか?
最終的な完成形はこちら。足跡の主は鹿で、麓のハンターがその姿を探して躍起になっているという"見立て"だ。
タイトルは「獲物は一足先を行っている」。全部でほぼ2時間の工程だった。
ところが後日、田中は浮かない顔をしていた...。
(田中)「良いとこ見せられたと思ったら「いいね!」の数が全然少なくて・・・(笑)」
「いいね」が4万8000件というのは本人の感覚としては低評価なのだそうだ。曰く「考えすぎて、作りこみ過ぎると伝わらない」。
(田中)「(僕の作品は)分かってもらえないと成立しないアート。誰もわからなくて良いというのは絶対ありえない」
ちなみにこれまでで最も「いいね」が多かったのは28万件。
SNSへの投稿は自分から相手への「分かりますか?」の確認作業でもあるという。
家族との日常生活で得るインスピレーション
子ども時代から鉄道模型やレゴが大好きだった田中は大学で美術を学び、地元のデザイン会社に就職。サラリーマン時代に趣味でジオラマ人形を使った作品のSNS投稿を始め、後にミニチュア写真家として独立した。当時まだ結婚したばかりだったが新妻は快く「いいね!」と言ってくれた。
現在は、幼い男の子2人の父親だ。出張の日以外は、夕方から子供達が眠るまでの時間は仕事を入れず、子供たちの相手をすることに決めている。田中の自由な発想は、子供との遊びの中から生まれているのかも知れない。
本物のスーパーマーケットを舞台にした作品展
昨年末、田中はスーパーマーケットに作品を展示して個展を開くという初の挑戦をした。
鮮魚売り場には魚の醤油入れをマグロに見立てた魚市場を、精肉売り場には、肉の上で日焼けをするビキニギャルを、パンコーナーにはクロワッサンの雲の上で人々が憩う作品を展示した。
(田中)「スーパーマーケットで展示するなんてありえないと一瞬思うけど、そこは逆に絶対にやった方がいい。"日常に即しているものをいかに崇高に持ち上げるか"が見立ての面白さ」
ところが、そんな思いとは裏腹に、展示に気づくお客が少ない。なぜか。
誰もが買い物を目的に来ているからだ。その上、特に大きな告知もしていない。企画に難があったか...作品の存在に気づかれもしない状況に、その表情から笑みが消えた。
それでもしぶとく田中は現場を離れない...その時だった。
1人の客がスマホで作品を撮り始めた。別の場所ではクスクス笑う客もいる。スーパーマーケットのそこかしこから小さく聞こえ始めた「いいね!」の声に、田中も安堵の表情を浮かべた。
「今の自分」をミニチュア作品に見立てると...
番組では今回、「今の田中自身をミニチュア作品に見立てて表現して欲しい」と依頼をした。田中が取り出したのはスキージャンパーの人形。そして完成したのは、携帯のスクリーンを雪山の斜面に見立て、その上で飛距離を伸ばしていくスキージャンパーの姿だった。スクリーンには、これまで自身が投稿してきた作品が過去から未来へ流れるように再生されている。
題して「K点越えというより携帯越え」。
飛び続けるジャンパーは田中の決意表明だ。
(田中)
「どこまで着陸せずに飛び続けるかということが今後の目標ですかね」
8年間休まずに続けてきた日課の投稿を、これからもまだまだ続けるつもりだ。
「情熱大陸」はスポーツ・芸能・文化・医療などジャンルを問わず各分野で第一線を走る人物に密着したドキュメンタリー番組。MBS/TBS系で毎週日曜よる11時放送。
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