SNSを見ているとこんな文字が目に飛び込んできた。「筑波大学ラグビー部にウエイト場を作りたい!」投稿者は、筑波大学ラグビー部OBで現在はNECグリーンロケッツ所属の吉廣広征選手。いったいどのような活動なのだろうか?吉廣選手と筑波大学の松永主将に早速、お話を伺うとコロナ禍における筑波大学ラグビー部の選手たちの苦悩。そして、「現役トップリーガーの今だからこそ動くべき」という吉廣選手の信念が見えた。
「親への負担が増えてしまう・・・」
新型コロナの影響で筑波大学のウエイト場は去年4月から全面使用禁止になっている。ラグビー部専用のウエイト場はなく他のクラブと共用のため、様々なクラブの選手が出入りすると感染リスクが高まるからという理由だ。しかし、ラグビーにおいてウエイトトレーニングは重要な要素。そこで筑波大学の選手はどうしているのか?実は、下宿近くにある月額制で24時間営業のジムと各々が契約を結び、個人でトレーニングをしているという。大学ラグビーの強豪校ではあまり聞かない話であろう...。
「筑波大学は寮がなく全員が1人暮らしです。その中でジム代もとなると親の負担が増えてしまうと率直に思いました。でも、トレーニングをするためにはしょうがないです。」(松永)
松永は筑波の強みとして、自炊・洗濯・掃除など1人暮らしを通じた自立した人間形成を挙げる。例えば、食事面では4年生から1年生で班を作り、食事メニューを共有し指摘しあうことで、選手自身で栄養管理を行っている。ちなみに松永の得意料理は、魚を1匹さばいて作る海鮮丼だ。限られた環境でどう日本一を目指してチーム作りをするのか。創意工夫こそが、筑波のアイデンティティーを生んでいる。しかし、現役選手にとってウエイト場は最低限必要な環境。そこで動いたのがOBの吉廣だった。
(松永主将 力作の海鮮丼)
クラウドファンディングで新しいウエイト場を建設したい
「自分が学生の時からウエイト場は共用で、使い勝手も効率も悪かったです(笑)でも、今の選手はジムに通うために自分たちで契約してお金を払っている状態。そこで、部からOB会にジム代を補填できませんか?と連絡がきたのが始まりでした。」(吉廣)
ジム代の補填をするなら、このタイミングで簡単なプレハブでもラグビー部専用のウエイト場を作る方が良い。それが吉廣の判断だった。しかし、OB会だけでは資金が到底足りない。そこで、クラウドファンディングで資金を集め、返礼品として新設するウエイト場内にネームプレート設置すること。他にも、福岡堅樹などトップリーグに所属する筑波大学OBのユニフォームを返礼品とすることに決めたという。
「クラウドファンディングで大学の施設を建てるのは、前例のない話なので、最初は大学側も厳しい反応でした。また、返礼品のユニフォームについても転売の可能性があるという理由で、提供するのが難しいチームもありました。そこは、1つ1つ交渉しながらクリアをしていきました。ネームプレートは、まもなく筑波大学ラグビー部が創部100年を迎えます。伝統校のように、筑波大学を今後も応援して頂き、チームが大きく成長して欲しい。そんな願いを込めています。」
4月中旬に開始したクラウドファンディングだが、わずか8日で目標金額の400万円を達成。しかし、400万円は最低限必要な資金だったため、より環境を充実させるために5月28日までに期間を延長した。ではなぜ、吉廣は現役中に苦労してまで行動を起こしたのか?
「現在36歳。チーム最年長なので毎年引退を考えるのですが、現役中にしか出来ないことは何かと考えるんです。その時に、長く選手を続けられたのも筑波のおかげもあります。現役OBの最年長として、トップリーグの選手をまとめて、筑波を応援してもらう。行動を起こせるのは今しかないとおもいました。」
「本当に感謝の気持ちしかありません。」
4月末に吉廣は建設予定地に足を運び、嶋﨑監督・松永主将・髙田副将と打ち合わせを行ったという。5月末には基礎工事などが始まる予定だ。
「学生たちが思ったより、仰々しくお礼を言ってくれました。本当にこの環境を必要としているんだなと感じました。」(吉廣)
「本当にウエイトできる機会が増えるのは嬉しいです。感謝の気持ちしかありません。日本一を目指して、練習中からプレーと声でチームを引っ張りたいです。」(松永)
今シーズンの筑波のスローガンは「LINK」。学生だけなく、OBやファンとLINKして日本一を目指すチームの姿に注目だ。また、ぜひクラウドファンディングのページを一度覗いてもらいたい。
文:進藤佑基
写真提供:JunTsukida
NECグリーンロケッツ
筑波大学ラグビー部