荒井勝喜前総理秘書官のLGBTQ差別発言。岸田総理の「社会が変わってしまう」答弁に端を発し、LGBTQの人たちに対する政府の姿勢に関心が高まっています。国会内でも2月14日に「LGBTQ+緊急国会」、15日に超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」の総会が開かれました。

 与党・公明党の山口代表もLGBTQの人たちと意見交換の場を設け、岸田総理も17日に官邸で関係団体に面会する予定で、当事者の声を政治家が聞く機会が次々持たれています。この流れを、LGBTQ当事者たちは《これまでで最大の動き》だと感じています。

 しかし、当事者たちが「差別禁止」や「同性婚」の法制化を求めているのに対し、議員連盟は、「LGBT理解増進法案」を今年5月に広島で行われるG7までに通すことを目標としていて、『目指す方向性にズレが生じている』というのです。

 議連総会のヒアリングに参加した、一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんは、「実際にトランスジェンダーであることを理由に採用を拒否されたり、同性カップルが入居を拒否されるなどの差別が起きたときに、理解増進法では対処できない」と懸念を示し、「理解増進」というアプローチでは「差別に苦しむ人々を守れない」と訴えます。

LGBT議連 会長と幹事長はこう話す

 そもそも、「LGBT理解増進法案」は、2021年に国会提出を目前に、自民党3役預かりとなった経緯があり、岩屋毅(自民)LGBT議連会長は15日、今後のプロセスについて「現在党の中で、いつ頃、どういう形で、どこから議論をスタートさせることが適切かということを検討していただいている」段階と説明しました。

 西村智奈美(立憲)LGBT議連幹事長も「党としては差別解消法案、これを何とか成立させたいという思いがある」と前置きしながらも、理解増進法案が「他党の皆さんにもいろんな思いを飲み込んでいただいてまとまった」と話しました。現実的には「理解増進法」の成立を目指すのがやっとという現状です。

 今回あらためて話を聞いたのは、議員たちへの働きかけに参加している「Rainbow Tokyo 北区」代表の時枝穂(ときえだ みのり)さん。時枝さんは「自治体のパートナーシップ制度も広がってきているのに、『(国がこれから取り組むのが)理解増進』というタイミングではない」と指摘します。

 また、LGBTQの人たちを『理解してあげる存在』と位置付けることは「一般の人たちと別のカテゴリー」として語られているようで、違和感があると話します。そして、多くのLGBTQの人たちが訴えるように、差別は「命にかかわる問題」だと断言しました。自死を選ぶ人も多いというのです。

差別的な扱いを受けていても、「自分が悪い」と思ってしまいがち

 「尊厳の問題なんです。自分が法的に結婚できないとか、理解してもらわなきゃいけない存在なんだ、ということは、やっぱり苦しいですよね」。時枝さんによれば、性的マイノリティの人たちは差別的な扱いを受けていても、「自分が悪い」と思ってしまいがちだといいます。

 こう生まれてしまったから仕方がないと諦めつつも、就職がうまくいかない、好きな人ができても結婚できない、長年連れ添ったパートナーの遺産を相続できない、などの壁にぶつかれば、どうしても自分を肯定できない気持ちになってしまうそうです。結果、追い詰められる人も少なくありません。

「性自認も性的指向も自分では選べないんです」

 制度や法律で守られないということは、社会的に非常に脆弱な存在になってしまうようです。実際、G7で法整備がされていないのは日本だけで、差別の解消を「もう待てない」というのがLGBTQ当事者にとっての切実な思いです。

 2021年の札幌地裁。同性婚を認めることを求めた訴訟の判決で、「(性的指向は)人の意思によって、選択・変更しうるものではない」と認定しました。性的指向、性自認は自分の意思や医療的な対処で変えられるものではない、という前提を理解しなければ、LGBTQ当事者の苦悩を想像することは難しいかもしれません。

 時枝さんは「性的マイノリティに生まれていなかったら違った人生を歩いていたはず。でも、性自認も性的指向も自分では選べないんです」と胸の内を明かしました。

 一連の会合で聞かれたLGBTQ当事者の声からは、荒井元秘書官の発言や岸田総理の答弁に深く傷ついていることと、自分たちの置かれている状況を理解されないことへの悲痛な思いが感じられました。まず差別を禁じて、それに並行して世の中の理解を得ていく、という道のりをLGBTQ当事者たちは望んでいます。


東京報道部  石田敦子