去年10月に大きなニュースとなった、和歌山市の紀の川にかかる六十谷水管橋の崩落。この影響で、和歌山市内では1週間ほど断水が続きました。今回の断水で休業を余儀なくされた事業者向けに『助成金制度』が設けられましたが、市内で飲食店を経営する男性は「ハードルが高すぎる」と憤っています。一体どういうことなのでしょうか。
約6万世帯で断水…和歌山市での水管橋崩落
去年10月3日、和歌山市の紀の川にかかる六十谷水管橋が突然、崩落しました。この橋は紀の川の北側に繋がる唯一の水道管のため、市民の3分の1以上にあたる13万8000人、約6万世帯で断水が発生しました。
(断水した家の人 去年10月)
「見ていただいたらわかるように一滴も、濁った水すら出ないですね。お風呂とかどうしようかなと途方に暮れています」
周辺のコンビニエンスストアでは飲料水が品薄に。
断水した地域の小中学校は臨時の給水所となり、水を求める人の長蛇の列ができました。
(給水に来た人 去年10月)
「簡単に橋が壊れたと言っていましたけど、こんなに大層なことになるとは」
断水は約1週間続き、市民生活に大きな影響を与えたのです。
店が軌道にのりはじめた時期に断水で『8日間の休業』
取材班は今年5月、和歌山市内でバーを営む田中さん(仮名)を訪ねました。当時、断水の影響を受けたといいます。
(バーを経営する田中さん・仮名)
「(当時は)蛇口をあけると水はちょろちょろと。すぐなくなってしまうだろうなという、そんな感じで、ただただぼう然ですよね」
水が出なくなったことで田中さんの店は8日間の休業を余儀なくされました。店は去年4月にオープンしたばかり。やっと軌道にのりはじめたころの出来事でした。
(バーを経営する田中さん・仮名)
「売り上げが伸びてきているときにスタッフみんなで盛り上げてきて、やっと成果が出だした10月に(水を)いきなり止められたので、商売としては正直めちゃくちゃ痛いですね」
助成金申請も対象外の判断…売り上げの比較方法に憤り
一方で和歌山市は、休業を余儀なくされた飲食店などの事業者向けに助成金制度を設けました。
田中さんはすぐさま助成金を申請しました。ところが…。
(バーを経営する田中さん・仮名)
「封筒で送られてきまして、補償を申請したことへの答えをくれるということで、いくらかはもらえるのかなと、封筒の中身を見ると、『該当しないため』とか、答えが5行だけなんですよ」
なんと助成金は交付されなかったのです。助成金の対象は、水管橋が崩落した去年10月の売り上げが、おととしの同じ月より減少した事業者などに限られています。去年オープンした田中さんの店は、橋が崩落した直前3か月間の売り上げの平均額と比較され、その結果「売り上げが下がっていない」と判断されたのです。
去年の夏は新型コロナウイルスの感染拡大で営業日を減らしていたため、この比較方法はおかしいと田中さんは憤慨します。
(バーを経営する田中さん・仮名)
「(売り上げを)営業日数で割ると(比較結果は)もっと変わってくると思うんですけど。10月の売り上げが低かったら(助成金を)もらえていたということを言われるので、『え、なんの頑張りだったんだろう』と」
市の担当者「今から基準変更するのは難しい。受付期間は終わっている」
市の決定に納得のいかない田中さん。今年7月、和歌山市の担当者と直談判しました。
【田中さんと市の担当者のやりとり】
(田中さん)「コロナ禍というのは考慮されず、ただ単に7~9月の売り上げという見方?」
(市の担当者)「コロナ禍でどれだけ売り上げが下がって、10月になって実際にどれだけ上がっていたのかを数字で見られないと、こちらも助成金をどれだけお支払いするべきかをなかなか算定できない。今から(基準を)変更するのは正直難しいところで、もう受付期間はすべて終わっていますし」
市の担当者は、新型コロナウイルスによる売り上げへの影響を証明する必要があり、そもそもいまさら支給できないと話しました。
影響受けた約4200事業者のうち助成金支給は319件 店主「(市は)払う気がなかったのかな」
支給のハードルが高いという理由で助成金を受け取れなかった事業者は少なくありません。
(居酒屋店主)
「コロナでさんざん営業不振のなかで、またこれかと落胆しましたね。この方法しかなかったのかな。(市は)払う気がなかったのかなと」
(クリーニング店店主)
「(お金を)出す気がもともとないみたいやったもんな」
市によりますと、約4200の事業者が断水の影響を受けましたが、実際に助成金が支給されたのはその1割未満の319件に留まっているのです。
条例では“やむを得ない事情がある場合は市は責任を負う必要ない”
では、この助成金制度に問題はないのか?取材班は今年7月15日、和歌山市の担当者に話を聞きました。
(和歌山市の担当者)
「この制度ですべての方が満足していただけたかというのは、なかなか厳しいというのは実際にはございます」
一部の事業者から不満が出ていることは認めますが、ある条例を盾に「補償する必要はない」と主張します。
(和歌山市の担当者)
「市の水道事業給水条例の第18条におきましては、水道施設の損傷などにより生じた損害については、管理者はその責を負わないと規定されております」
市の水道事業給水条例では、災害などやむを得ない事情がある場合、市は責任を負う必要はないと定められているのです。
しかし、市の第三者委員会は、水管橋の崩落は鳥のフンなどにより腐食したことが原因と認定し、市の点検方法に不十分な部分があったとしています。
行政問題に詳しい弁護士「100%市に責任がないとは言えない」
この点について、奈良県生駒市長を9年間(2006年~2015年)務めた山下真弁護士は「市に過失がないとは言い切れない」と指摘します。
(行政問題に詳しい山下真弁護士)
「今回の給水停止がやむを得ないものだったのかどうか、それによって補償する責任の有無が変わってくるのではないかと。報告書に記載されたさまざまな指摘を見る限りは、100%市に責任がないとは言えない」
「橋の崩落はそもそも市の責任ではないのか」。補償を受けられない店主たちは、今も割り切れない思いを抱えています。