兵庫県芦屋市の閑静な住宅街に、事故が相次ぐ「危険な坂道」があります。今年6月にはカーブを曲がり切れなかったトラックが横転する事故も起きました。近くには小学校があり、通学路にもなっているということで、不安を抱える周辺住民たちが対策を求めて活動しています。

カーブを曲がり切れずトラック横転 衝撃で電柱が折れて停電も

 兵庫県芦屋市の県道。近くに住む大高歩美さんは、不安を抱えています。

 「ここは本当はバス停があったんですけど、バス停を倒して、あそこにあった2つのベンチが壊れている状態。そこに突っ込んで」
3.jpg
 「ここのガードレールが新しくなっているんですけど、ここが6月に起きた事故の現場です」
4.jpg
 六甲山から閑静な住宅街を通り芦屋市の中心部に続く県道奥山精道線。ここで立て続けに事故が起きているというのです。
5.jpg
 今年5月には、県道の坂から下ってきたトラックが交差点を越えて歩道に突っ込み、荷台に積んでいた重機が落下し、ベンチやバス停を破壊しました。
6.jpg
 その1か月後には、4トントラックがカーブを曲がり切れず横転。衝撃で電柱2本が折れて、周辺の住宅では一時、停電しました。

「『まただ』という印象。子どもがいなかったことが奇跡的」

 県道沿いに住む人に話を聞きました。

 「『まただ』というような印象で。家の中にいると本当に爆弾が落ちたような音がするんですね。電線が引きちぎられるわけで」

 歩行者などにケガをした人はいませんでしたが、現場の近くには小学校があり、県道は通学路になっていることから、住民たちの心配が尽きません。

 (大高歩美さん)「子どもたちが通る道なので、ひとつ間違えば子どもたちが巻き込まれる」

 (県道沿いに住む人)「本当に子どもがいなかったことが奇跡的というか。いつ誰が犠牲になっても…」

事故多発の原因は『フェード現象』

 県道沿いにはアメリカの建築家、フランク・ロイド・ライト氏が手がけた建築物「ヨドコウ迎賓館」があり、地元では「ライト坂」と呼ばれています。
11.jpg
 事故は小学校に近いカーブや坂の下の交差点に集中。警察によりますと、2020年以降、今年5月まで同じ原因では6件もの事故が起きています。

 ライト坂の交通量はさほど多くなく、見通しも悪いとは言えません。原因は…『フェード現象』です。フェード現象は、坂道でフットブレーキを踏み続けるなどするとブレーキが高温になり利かなくなる現象です。去年10月、静岡県小山町で観光バスが横転し29人が死傷した事故がありました。現場はカーブ続く急こう配の道路で、この事故もフェード現象が原因でした。

実際に起点から車を走らせてみると…急なカーブが13か所も

 一方、事故が多発するライト坂はどうなっているのか?起点の芦有ドライブウェイの料金所から車を走らせると…すぐにカーブが。バスも車体を傾けながら走行するほどの急なカーブです。
14.jpg
 山の中を通る険しい道で、坂の下までの高低差は約340m。急なカーブは13か所もあります。
15.jpg
 それらを抜けると待ち構えているのが1km以上の長い下り坂。そして、坂の終着点に近い緩やかなカーブ付近が事故多発地点です。
16.jpg
 フェード現象の恐ろしさについて、兵庫県トラック協会の西宮支部長は次のように話します。   

 (西宮支部 中島輝夫支部長)「徐々にブレーキが利かなくなって最後は全く利かなくなります。一度フェード現象が起こるとほとんどブレーキが利きませんので、本人もパニック状態になって、あとは事故につながってしまうんじゃないかなと思います」

「ブレーキ過熱事故多発!!」県は注意喚起の看板を増やすなど対策

 いつ事故が起こるかわからない…。不安が募る中、大高さんら住民は、今年6月に「ライト坂の交通安全対策を求める会」を結成しました。

 (大高歩美さん)「犠牲者が出ないと何もしてもらえないのかという思いがあったんです。何かできることがないかとみんながそれぞれ思っていたら、まず署名活動するという声を上げてくださった方がいて、そこですぐ集結した」
19.jpg
 活動を始めてわずか2週間あまりで事故防止の対策を求める4892もの署名が集まり、7月には県に陳情書を提出しました。
21.jpg
 こうした署名活動やこれまでの住民からの要望などを受け、県は早速、スピードが出やすいカーブの手前に「ブレーキ過熱事故多発!!」などと書かれた注意喚起の看板を増やすことや、低速ギヤの使用を促す路面標示などの対策を行いました。

「まだまだ足りない。途中であきらめたらダメ」

 ただ、会のメンバーは敏速な整備を歓迎しつつも不十分だと訴えます。

 (ライト坂の交通安全対策を求める会 小森成樹さん)「ガードレールなどは対症療法なんです。まだまだ足りないし、皆さんが途中であきらめたらダメだ」
24.jpg
 では、ほかの対策は考えられないのか。県道を管理する兵庫県の斎藤元彦知事に話を聞くと…。

 (兵庫県 斎藤元彦知事)「(Q交通規制などさらなる対応の検討は?)啓発やハード面の支援をしながら、地元の皆さんの声をしっかり聞きながらどのようなことができるかをきちんと検討して、皆さんが納得して住み続けられるような状況を作っていくために努力していきたいと思っています」

“フェード現象を起こさせないルール作り”を目標に動き出す住民たち

 住民たちは行政の対応を待っているだけではありません。9月6日、事故をなくす抜本的な対策を考えるため、会のメンバーが集まりました。

 【話し合いの様子】
 「ドライブウェイのところに一定の場所を設けて、そこでブレーキの点検義務を課すことができないかと。県が真剣に動いてくれれば全国でも先駆的なモデルの条例ができる」

 法律の改正や条例などでブレーキの過熱状態の確認を義務づけることや、ブレーキの温度計が車に搭載できないかなど、時間がかかってでも“フェード現象を起こさせないルール作り”を目標に動き出しました。

 (小森成樹さん)「車の整備士に聞くとなかなかそれは難しいと。トラックのブレーキの温度をどこで測るかという問題とか。でも最初からあきらめてしまっていたら何にも物事はよくならない」

 絶対に犠牲者は出さない。行政側に粘り強く対策を求める住民たちの活動は続きます。