国は子育て支援として、子ども2人以上の世帯に「保育料の負担軽減」を行っています。しかし、この制度が“あまりに複雑”。行政側にミスがあり、追加で保育料約60万円の支払いを求められている家庭があります。憤りを感じている保護者の声を聞きました。

共働きで小学生の娘2人・4歳の息子・0歳の末っ子を育てる

 大阪市に住む山本さん(仮名・30代)。夫と子ども4人の6人家族です。平日の朝は大忙し。学校へ行く子どもたちの世話をしながら、生後11か月の末っ子にご飯を食べさせます。

 (末っ子にご飯を食べさせる山本さん)「まだ食べる?もういい?まだ食べるんか?」

 (山本さん)「もう早く準備して(学校に)行きな。時間やで、もう8時やで、行って。気を付けてね、いってらっしゃい」
  (子ども)「バイバーイ」
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 小学生の娘2人を送り出した後は、4歳の息子をインターナショナルスクールに連れていきます。

 (山本さん)「(Qなぜ通わせる?)いろんな経験をさせて、いろんな世界を見てもらって、自分に一番合うところに進むときに困らないような環境を提供してあげたいと思っているので」
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 夫婦ともに働いても子どもたちにしっかりとした教育を受けさせたいという山本さん。この日は、末っ子の世話をしながら在宅での勤務です。

 (山本さん)「(Q子どもと一緒に仕事は大変ですよね?)そうですね。やっぱり思っていた3分の1くらいしか進まないですよね。3倍時間がかかるというか。0歳児なので慣れていないと長時間の預かりもお断りされてしまう現状でして、行き場がない感じです」

 まだ言葉を話せないため、思い通りにならないとぐずりだします。仕方なくおんぶをしますが、ぐずりだし、子どもから片時も手を離すことができません。実は、この末っ子も今年8月までは認可の保育園に通っていました。ところが、辞めざるを得ない事情があったというのです。

末っ子は「第2子扱い」となり保育料は半額のはずが…『全額負担』に

 山本さんのように2人以上の子どもを育てる家庭は「多子世帯」と呼ばれ、国が子育ての負担軽減のため支援を行っています。2歳までの保育料については、第1子は全額負担となりますが、第2子は半額、第3子以降は無償となっています。
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 ただ、この制度では未就学児から数えることになっていて、山本さん家族の場合は1人目と2人目は小学生のためカウントされず、未就学児の3人目の息子が第1子の扱い、4人目の末っ子が第2子の扱いとなり保育料が半額となるというものです。
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 しかし、今年5月、ある事実を知ります。

 (山本さん)「(末っ子は)多子軽減にはなっていなくて、『第1子扱いなので全額負担してください』っていう内容が来ましたね」

 半額だと思っていた末っ子の保育料が、実際は全額負担だったというのです。一体どういうことなのでしょうか。

『頭が真っ白に…』制度の適用対象施設だと思っていたが実際は対象外の施設

 実はこの制度、適用には条件があるといいます。それは「認可保育など対象となる施設に通っている」ということ。山本さんの場合は、第1子扱いになるはずの3人目が“対象ではない認可外の保育施設”に通っているためカウントされず、4人目が第1子の扱いとなり、保育料は全額負担だったというのです。

 半額であれば1年間で42万円あまりのところ、全額となると約84万円。共働きであっても支払い続けることは難しいと考えた山本さんは、今年8月、泣く泣く末っ子を保育園から退園させたといいます。
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 (山本さん)「予定にない2倍の保育料がかかるとわかったので、これは生活が成り立たないなと思って。また1から探して、仕事も休んで…。もう仕事復帰してるのにどうしようという。頭が真っ白になってしまっていて途方に暮れています」
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 4人目の子どもが制度の対象になると山本さんが思っていたのには理由がありました。実は、上のきょうだいも同じインターナショナルスクールに通っていましたが、制度が適用されていたのです。しかし、今回の件で、これまでも本当は適用外だったことが判明。その結果…
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 (山本さん)「『差額の約60万を払ってくれ』と言われていますね。これがかかるってわかっていたら違う保育施設を検討してたはずので」

 3人目の保育料も半額ではなく全額負担だったことがわかり、2年経ったいまになって、区役所から差額の約59万円を追加で支払うことを求められているのです。

 (山本さん)「怒りですね。気付けたところは何回もあったのに全部見落として、このタイミングなので」

『担当が誤入力をし、その誤りに次にチェックした人も気付かなかった』

 一体、なぜこんなことになってしまったのか。取材班は区役所の担当者を直撃しました。

 (大阪市西区役所・子育て支援担当課長 吉岡範行さん)「(区役所の担当が)認可外施設であるにもかかわらず『認可保育所』という入力をしてしまって、その誤りにその次にチェックした人間も気付かずにいってしまったということでございます」

 区はミスを認めたうえで、制度の対象施設かどうか確認が不十分だったと話しました。では、どの施設が対象になるのか保護者が判断できるかというと…区役所から送られてきた資料には次のように記されています。
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 【大阪市西区からの資料】「保護者様において対象施設かをご確認いただくことは困難と考えております」

 (大阪市西区役所・子育て支援担当課長 吉岡範行さん)「(Q保護者は判断が難しいのであれば行政が把握するべきでは?)おっしゃるとおりでございます。我々が申し上げるのはちょっとあれなんですけど、ちょっと複雑でわかりにくいと言えばわかりにくい制度となっています」

 大阪市によりますと、この制度での誤りは過去3年で19件あったということです。
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 4人の子どもを育てる山本さん。末っ子を世話しながらの仕事は難しいと、認可よりも安い認可外の保育園をなんとか自力で見つけました。しかし、これまでの行政の対応に気分は晴れません。

 (山本さん)「第3子の時にわかっていたら違う選択肢があって、この保育料のミスの件でうちはむちゃくちゃにされたなと思うんですけど。なんだったんだろうという虚しさと残念感が半端ないですね」