いま、じわじわと活躍の場を広げている「ロボット」。我々の身の回りでも“お掃除ロボット”や“受付ロボット”のほか“配膳を手伝うロボット”など、自律して働くロボットを目にする機会が増えてきています。今回、MBSの大吉洋平アナウンサーが取材したロボットは非常に個性的で、ある意味“人間のような”ロボットです。仕事場は「ベーカリー」と「鉄道現場」。一体どんなロボットなのでしょうか。
流暢なトークにびっくり!接客上手なロボット「Sota」君
大阪府豊中市にある「SOLVIVA BAKERY」。ここで「パンをたくさん売るロボットがいる」という情報を聞き、大吉アナウンサーが訪れました。
(ロボット)「こんにちは~。いらっしゃいませ」
(大吉アナ)「あ、これ?」
(ロボット)「お兄さん、すてきなスーツ姿ですねぇ。ねぇねぇ、もっと僕によく顔を見せて。お兄さんかっこいいねぇ」
戸惑う大吉アナウンサーにどんどん話しかけてくるロボット。その名も「Sota」君です。かわいらしい見た目と流暢なトークでパンを勧めてきます。
(Sota君)「どんなパンが好き?甘いの?辛いの?」
(大吉アナ)「私はおかず系のパンが好きです」
(Sota君)「じゃあ、僕のおすすめは…『PUJAカレーパン』。ちょっとお値段高めなんだけど、とってもおいしいパンなんだ。ちょっと振り返って探してみて」
(大吉アナ)「すごくない!?その位置の説明の仕方も…。なんでこんなに賢いの?」
(Sota君)「それはね…企業秘密!」
ロボット離れした働きぶりは、桝田佳明オーナーのハートも射止めているようです。
(SOLVIVA BAKERY 桝田佳明オーナー)
「もう大活躍ですね。本当にお客さんを楽しませる会話をすぐしてくれるんですね。『きょうこれおいしいですよ!買って行って!』とかね。なかなか僕ら人間が直接だと言いにくいことも、本当に楽しく話してくれる」
「Sota」君の秘密を探りに大阪大学へ…一室には“演劇の研究をする学生”の姿
なぜこんなに接客上手なのか。秘密に迫るべく「大阪大学」の研究室を訪れました。
(大吉アナ)「こんにちは。Sota君の秘密がここに隠されていると聞いたんですが、どういうことですか?」
(女性)「さっき大吉アナウンサーと話をしていたのは、私です」
(大吉アナ)「えっ、お姉さん?」
なんと、Sota君の声の主は大阪大学で演劇の研究をする大学院生だったのです。カメラやマイクで客の情報を得て、ベーカリーから離れた研究室で声や身振り手振りを遠隔操作しているのです。
いま、大阪大学と「CyberAgent」はロボットの効果的な活用方法を見出すため、全国で“遠隔操作”を使った実証実験を行っています。アドリブを生かしたトークを武器に、人だけで接客した場合に比べて売り上げが倍になった例もあるといいます。将来は、どんなビジネスモデルが広がっているのでしょうか。
(CyberAgent AI Lab 馬場惇さん)
「できるところから(実験を)やろうということで、まずは接客業、特に販売促進。それとはちょっと毛色は違うんですけど相性がいいだろうということで、保育と教育の部分にも入れさせていただいて」
(大吉アナウンサー)
「ロボットなんだけれどもその向こう側には人がいるという、ロボットと人の中間みたいな存在じゃないですか。この形式にたどり着いた理由はあるんですか?」
(CyberAgent AI Lab 馬場惇さん)
「現状のAI技術でいくと、今回のような流暢な音声対話はまだまだできるレベルではないんですね。これがどれだけ進むかというところは、“AIの進化”と“人とAIの連動”みたいな技術の進化の両方にかかってくる。そのあたりを僕らが開発して社会に普及できる形にやっていけたらなと思っていますね」
まさに“人機一体”の動き…「人型重機ロボット」の驚くべき性能とは
一方、滋賀県草津市にある「『人機一体』秘密基地」にも“人との融合が実現したロボット”がいるということで会いに行きました。ロボット研究20年以上、「人機一体」の社長・金岡博士らが開発したのが『零式人機ver2.0』というロボットです。
クレーン車の先端に搭載された巨大な人型重機ロボット『零式人機ver2.0』。左肩には「JR西日本」の文字があります。
(大吉アナ)「こんな巨大なロボットだと思っていなかったのでビックリしました。ターミネーターみたい」
(開発者の野村さん)「頭の動きは、実際に操作している人間の頭の動きと連動しています」
今回、ロボットの操縦を特別に体験させていただきました。クレーン車の運転席は改造されてコックピットのようになっています。
VRゴーグルを装着すると…。
(大吉アナ)「うわ!自分がすごく巨大化したみたいな感覚になります」
(開発者のソンさん)「特に下とか見ていただくと、自分がどれくらい高い場所にいるのかとか。あと、下を向くとロボットの体が見えていますよね」
そして、恐る恐るロボットの腕につながる操縦桿を動かしてみます。
(大吉アナウンサー)
「うーわ!なんて表現したらいいんだろう。ほんの少し力を加えただけでロボットの腕が動いているんですけど、感覚としては本当に自分の腕みたい。機械を操縦しているというよりかは、自分の体の一部が動いている感覚」
研究員さんの上手なアドバイスで、初心者の大吉アナウンサーでもわずか10分で細かい操縦ができるようになりました。
(開発者のソンさん)「では、もうちょっとだけ難しいことをやってみましょうか。棒を持って私の肩をたたいてください」
(大吉アナ)「できるかな…」
(開発者のソンさん)「肩をたたいて、もう片方の肩もたたいてください。いいですね、かなり細かい操縦ができていますね」
(大吉アナ)「なんかロボットと一心同体って感じ。まさに人機一体ですね」
この一体感こそ「零式人機」の強みです。操作に慣れればブロック同士をはめるような器用なこともできます。2本の大きなアームの間に人と同じ視線となる「頭」を設置することで、難しい操作は一切なしで誰でも直感的に操作できるのです。
『人が苦役に従事しない、労災に遭うことがないような社会をつくりたい』
この操作性の高さに目を付けたJR西日本は、2024年の春に『零式人機ver2・0』を鉄道の架線点検などの高所作業に導入する準備を進めています。ロボットに代替させることで作業にかかる人員の数を約3割削減できるうえ、労災のリスクも減らせる可能性があります。
(人機一体 社長・金岡博士)
「単純なコストだけを考えたら、普通に人に働かせておく方がたぶん安いです。でも、そこで労災が起きる、人の命が失われるということを考えれば、多少のコストはかけてもいいと思う。ロボットを導入して人が苦役(つらい肉体労働)に従事しない、労災の被害に遭うことがないような社会を作りたいと思っています。(Q人型ロボットの課題は?)基本的な技術はそろっていると思っています。なので、あとは作るだけなんですけれども、その作るところがハードルが高くて、時間・お金・人がかかる」
人とロボットの融合が進めば、共に働くことが当たり前の社会になるかもしれません。