大阪・北新地のクリニックで26人が犠牲となった放火殺人事件から6月17日で半年です。800人以上の患者を診ていた院長の遺志を継ごうと、遺族の女性が新たな一歩を踏み出しました。

「兄は患者に心のこもった診療をしていたと思う」

 「これを着ていたとは思うんですけれども…」

 白衣を示しながらこう話すのは、放火事件のあった心療内科クリニックの院長で亡くなった西澤弘太郎さん(当時49)の妹・伸子さん(45)です。悩みを親身に聞いてくれる優しい兄だったといいます。
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 (西澤院長の妹・伸子さん)
 「忙しいけれども、家族に対してすごく思ってくれていた部分はあると思っていて、(患者に対しても)心のこもった診療をしていたんじゃないかなって思いました」
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 半年前の去年12月17日に起きた放火事件では、西澤院長を含め患者やスタッフら26人が犠牲となりました。大阪府警によりますと、元患者で事件後に死亡した谷本盛雄容疑者(当時61)は、治療に取り組むほかの患者に一方的に劣等感を募らせたとみられています。
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 クリニックには800人以上が通っていたとみられ、事件後、西澤院長を信頼して通院していた多くの人が行き場を失いました。

 (献花に訪れた元患者 去年12月)
 「合う先生ならしゃべれますが、合わない先生だとしゃべっても一緒かと思うとしゃべれない。そこを探すのが大変だなと」

「オンラインでの集い」で感じたもどかしさ…訪ねた先は兄の“恩師”

 兄を失い悲嘆にくれていた伸子さんですが、兄の患者のことが心配になり、3か月前から始めたことがあります。元患者や支援者らが立ち上げた「オンラインでの集い」に院長の妹として参加しているのです。

 【オンラインでの集いの様子】
 (発言する伸子さん)
 「近々でもちょっと遠くてもいいんですけど、やりたいことってありますか?」

 この日、患者3人の話を2時間にわたって聞いた伸子さんですが、体調や心境を聞くくらいしかできず、もどかしさを感じていました。
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 兄が大切にしてきた患者たちとどう向き合えばいいのか。今年4月、伸子さんは公認心理師の土田くみさん(50)のもとを訪れました。20年以上、心理カウンセラーを養成する講座を開いている土田さん。実は、14年前に西澤院長にカウンセリングを教えていた、いわば恩師です。
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 (伸子さん)「素人の私が患者さんに寄り添うことってしていいのか…」
 (土田さん)「西澤先生の妹さんとしていらっしゃるだけで皆さん救われると思いますよ。自分たちの中に入ってくれたというだけで、それが誠意」
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 少しでも兄の力になりたい。土田さんからの提案で、伸子さんは本格的にカウンセリングを学ぶことにしました。心理学の基礎を学び始めたところですが、ゆくゆくは資格を取り、兄の患者たちに寄り添っていきたいと考えています。

 (西澤院長の妹・伸子さん)
 「人が喜んでいる姿を見るのが私の喜びなので、その人が少しでも気が楽になったって言っていただけたら、自分としての存在価値があったのかなというふうには感じます」