東京オリンピック・パラリンピックをめぐる汚職事件で、東京地検特捜部は9月14日、出版大手「KADOKAWA」の角川歴彦会長(79)を贈賄容疑で逮捕しました。大会スポンサー契約をめぐって賄賂を渡したとする容疑ですが、元JOC参事の春日良一氏は「そもそもスポンサー選定に仲介の必要などなかった」として収賄側の大会組織委員会元理事・高橋治之容疑者(78)の仲介者としての役割を否定しました。またオリンピックスポンサーは基本として「1業種1社」でしたが、1業種に複数社に門戸を開いたのが高橋容疑者だったといいます。さらに「出版・雑誌」という新たなカテゴリーを設けてそこにKADOKAWAが収まっています。そして春日氏は非公表情報のスポンサー金額を参考として紹介。三段階あって「ゴールドパートナー」「オフィシャルパートナー」「オフィシャルサポーター」で、上から50億円、25億円、15億円ということです。(2022年9月15日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)
仲介不要のビジネスに「仲介の存在」
―――春日良一さんは長年オリンピックに関わってこられましたが、一連の事件をどのようにご覧になっていますか?
東京オリンピックは新型コロナによる賛成反対の激論の中、開催されましたが、選手の頑張りでオリンピックのイメージがアップしました。その1年後にこういう事件が起きたということで、オリンピックにとってはとても痛い事です。
―――高橋容疑者は、みなし公務員という立場を理解していたのかどうか、組織委員会から説明はあったのかどうか?
東京オリンピックという非常に公共性の高いイベントですから、その理事になる事はどういう事かは、組織委員会から当然説明がありますし、委任状が来た段階で、その事も意識されると思うんです。さらに、みなし公務員うんぬんより、五輪倫理規定っていうのがあるわけです。これがとても厳しいもので、オリンピック競技大会に関わる関係者については、一切の金品物品を受け取ってはいけないという大前提があります。こちらの方がすごく厳しいものです。当然、高橋氏はオリンピックに携わっていたわけですから、こういうことを認識しなければいけない立場だったというふうに思います。
―――春日さんは「仲介の存在に問題があったのではないか」といいますが、これはどういうことなんでしょう?
スポンサーシップを取るオリンピックマーケティングというのは正常なビジネスとして機能すれば問題ないわけです。組織委員会の中に、マーケティング部ができて、そこがスポンサーを探して交渉を繰り返していく中で決めていきます。これは組織委員会の仕事としてやっていれば問題ないわけですが、そこに「何らかの仲介をすることによって自分の利益を得る」というような行為があることが問題です。仲介の必要のないビジネスの中に仲介が入るということが問題だと言わざるを得ません。
1業種1社 高橋容疑者が開放・新設
―――スポンサーの構造は、ピラミッド型で4段階に分かれています。ワールドワイドオリンピックパートナーは、コカ・コーラ、トヨタ、パナソニックなどですね。ゴールドパートナーになりますとアサヒビール、キヤノン、明治など。そしてオフィシャルパートナーにKADOKAWAやAOKIなどが入っていたということです。スポンサー選定の基準は春日さんによると「すべて交渉次第」ということです。
当然ビジネスモデルとしては、ワールドワイドはIOCが直接やる形で、それ以下のティア1からティア3はドメスティック=ローカルスポンサーといって、開催地の組織委員会が自由にスポンサーシップを集めるというところです。オリンピックはお金がかかりますけれども、このお金をなるべく公的資金を使わないで、スポーツが生み出すお金だけでやっていこうとすると、ここにやっぱり集中的な努力をしなければいけないところなんです。
ティア1からティア3は、金額によって変わっていきますけれども、これは公表されていません。公表されないことに批判があるんですけれども、一方で金額がはっきりわかってしまうと交渉事にならないので、オリンピックのスポンサーシップ全体の金額を増やすっていうところにちょっと問題が出てきます。私が思うに、ゴールドパートナーで50億円とか、ティア2が25億円とか、ティア3が15億円とか、そういう話も出ていますが、あくまでも参考として申し上げます。
交渉事って申し上げましたが、契約期間によっても金額は違いますね。それから、スポンサーになればどういう権利が与えられるかっていうのも、全部違います。業種によってこういうサービスができるとか、こういう貢献ができるってことで、また交渉事になり、そこでも変わってきます。とはいえ、全くの無法地帯ということではありません。
―――KADOKAWAに関しては、高橋容疑者が新設した出版雑誌部門の2億8000万円で契約を結んでいます。
オリンピックマーケティングの一つの基本に、1業種1社というのがありました。例えば飲料カテゴリーだったら、そこは1つしかスポンサーできませんよ、このことによってオリンピック自身の威厳を保つということもあったんです。それを今回のオリンピックについては1業種1社以上でもいい、2社でも3社でも4社でもいいっていう形に開放したんですね。
このことは高橋容疑者自身が提案したということで自負している部分でもありまして、これによって大きな収益を上げる可能性を増やしたんですね。結果的に3700億円という金額が出てきているわけです。これは成功と言えるかもしれませんが、その一方で高橋容疑者が「出版・雑誌」っていうカテゴリーを新しく作ったんですね。
今まで出版・雑誌がなぜ無かったかって言いますと、今回KADOKAWAにあげたいわゆるオフィシャルガイドブックとか、オフィシャルインフォメーションとかについては、本来組織委員会が委員会の金で作らなきゃいけないものなんです。そこをビジネスに変えて、その権利を譲る代わりに、対価をスポンサー側が得てもいいけれど、その代わり本来組織委員会がお金を払って作らなきゃいけないものもタダで作れる、ということですから、組織委員会的にもメリットがあることなんですね。そこが新しく作ったことで、しかし新しい部門ですから余計金額の柔軟性が出てきますから、そこを高橋氏が2億8000万円というふうに変えてったというふうに思います。
捜査の行方・・・さらに権力のあったところへ?
―――もう一つ、大会組織委員会の森喜朗元会長です。AOKIの青木容疑者が現金を渡したとも話しています。特捜部によりますと参考人として複数回森元会長に任意の事情聴取を行いました。春日さんによりますと、「角川会長の逮捕で、さらに権力のあったところの逮捕も否定できない」ということですが、森元会長の逮捕も可能性として考えられるということなんですか?
いや。積極的に考えるって言っているわけじゃですけれども、これまでの捜査の感じを見ていますと、いわゆるティア3、スポンサーの料金が少ないところに集中しているわけですね。ですから、ティア1とかティア2のもっと大きなお金が動くところはちゃんとしたガバナンスができているところにもなります。従って、そこで仲介だとか、口利きが入る可能性が少ないわけです。
ティア3にはそれがあった、そこに目をつけられて、AOKIだとかKADOKAWAだとか出てきておりますから、そういうところから出して、情報を得て、その上のものを考えているのではないかなというふうに、ここまで来ると思わざるを得ないのです。それが高橋元理事より権力のあったところを目指している可能性があるのではないかなという意味で、否定できないと申し上げました。