3年前に承認され、新たながん治療として注目されている『光免疫療法』。世界で初めて日本で承認された治療法です。光に反応する特殊な物質を利用してがん細胞を死滅させるというもので、将来的には患者の免疫活性化もできるのではと期待されています。

鎖骨から上にできる頭頸部がん 『光免疫療法』が新たな治療法に

 今年4月、神戸市兵庫区のノエビアスタジアム神戸で開かれたがん啓発イベント。日本であまり知られていない「頭頸部がん」について、早期発見の大切さを呼びかけました。

 (国立がん研究センター東病院 松浦一登医師)
 「皆さんは首から上にがんができることをご存じでしょうか。我々は皆さま方と共に、全力でがんと闘います」

 頭頸部がんは鼻・口・咽喉など鎖骨から上にできるがんのことで、日本では年間約1万5000人が発症しています。呼吸はもちろん、食べたり、話したり、日常生活に欠かせない機能と深く関わっています。
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 頭頸部のがん治療で有名な神戸大学医学部附属病院。

 【カンファレンスでの発言】
 (耳鼻咽喉科頭頸部外科 丹生健一教授)
 「頸部の瘻孔(ろうこう:穴)が腫瘍でふさがってしまっていて。急になったということで…」

 週に一度のカンファレンスで、医師たちは手術・抗がん剤・放射線といった従来の治療を組み合わせながら、患者のQOL(生活の質)を可能な限り守れる方法を探ります。
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 そこに3年前から新たに登場した治療法が『光免疫療法』。がんの治療として世界に先駆けて日本で承認された治療です。

 【カンファレンスでの発言】
 (耳鼻咽喉科頭頸部外科 丹生健一教授)
 「“光免疫”適応じゃないかと、セカンドオピニオンで来た」

手術で声帯を摘出した77歳のがん患者 光免疫療法での治療を提案される

 この治療を受ける77歳の患者の男性。15年前に下咽頭がんがわかり、放射線と抗がん剤治療を受け、手術で声帯も摘出。その後も何度もがんが見つかり、治療してきました。
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 (患者の男性※筆談)
 「今まで胃・喉・舌・前立腺、今回12月に咽頭、6回目の発症。僕から言わせれば口から胃までどこにがんができても不思議ではない」

 治療を繰り返してきた男性に医師から提案されたのが、新しい光免疫療法でした。どんな治療かというと、患者は入院してすぐ、光に反応する特殊な薬を投与されます。薬は特定のがん細胞に集まるようになっているそうです。
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 時間をかけて細胞に薬を付着させていきます。光に反応するため、外光の影響を受けないよう病室を暗くして約1日待機。
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 手術室に入る時も、光を避けて全身を布団で覆う念の入れようです。麻酔をかけて、光をあてる準備に入ります。
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 (男性の主治医 四宮弘隆医師)
 「これがレーザー。同時に4本光をあてることができる」
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 患者のがん細胞にはレーザー光に反応する薬が集まっていて、光をあてると破裂する仕組みです。がん細胞だけを狙い撃ちができ、将来、がんに対する免疫も高められるのではと期待されています。
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 男性は前に手術した口の中に新たにがんが見つかっていました。
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 患部がはっきりと映る内視鏡を使って、腫瘍の部分を確認しながら光をあてるための針を刺します。レーザー光をあてる前に全員、目を保護するためサングラスを着用。いよいよ光をあてていきます。
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 (四宮弘隆医師)
 「光をあてているので、薬と反応して腫瘍細胞が死んでいっている。光に反応する薬がくっついていなければ、(他の細胞に)何の害もないです」

 一見わかりませんが、投与された薬と光によってがん細胞が死滅しているのだそうです。手術は約1時間半で終了しました。

『楽天グループ会長』と『NIHの日本人医師』の出会い

 実はこの治療、2人の日本人の出会いから臨床開発まで進みました。楽天グループを率いる三木谷浩史会長とアメリカ国立衛生研究所(NIH)の主任研究員・小林久隆医師です。

 (三木谷浩史さん)
 「最終目標は患者さんが治ってなんぼというところがあると思いますので、まだまだ発展・進化しないといけないところとか。全く新しい薬というか新しい治療法なので」
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 (小林久隆医師)
 「こういうふうにもできますということを提示していくのが僕の仕事かなと思っています」

 小林医師は光免疫療法の開発者。動物実験で得られた手応えを臨床までどうやってもっていくことができるのか考えている時に、協力を申し出たのが三木谷さんでした。

 (小林久隆医師)
 「(当初)専門家は誰も信じてくれなかった。信じていただけたのは本当に幸運としか言いようがないと思っています」

 楽天が医療の世界に進出した一番の理由。実は、三木谷さんの父親がすい臓がんと闘っている時に出会ったのが小林医師でした。全く新しいこの治療法を知り、開発に賭ける決断をしたといいます。

 (三木谷浩史さん)
 「光免疫療法がすい臓がんにすぐ使えるとは思わなかったんですけど、非常に有望な技術だなと個人的に思いまして、そこからまず個人的な支援から始まったという感じですかね。最終的には、すい臓がんを克服することが個人的には一つの大きなゴールかなと思っています」
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 一方、小林医師はアメリカで研究を続ける傍ら、関西医科大学が立ち上げた光免疫医学研究所の初代所長に就任。治療の開発を今よりさらに加速させていく方針を打ち出しました。

 (小林久隆医師 去年4月の会見)
 「三木谷浩史さんが多額の出資をしていただいたおかげでここまでたどりついたわけです。今後は完治率をあげる。がんを壊すだけではなく、光免疫療法には免疫という背景もありますので、光でがんを壊し免疫を作ると。免疫を作れば完治する患者さんの数が増える」

光免疫療法を受けた患者…その後の経過は

 今年3月、神戸大学で光免疫療法を受けた男性の経過を確認する日がやってきました。

 (診察を行う四宮弘隆医師)
 「どうですか?大丈夫?痛みはそんなに感じませんか?」

 光免疫療法によって壊死した組織を取り除きます。

 (診察を行う四宮弘隆医師)
 「ほぼほぼ壊死した組織はこれで取れたかなと。今のところ目に見えて腫瘍が残っている感じはない」
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 患者の中には術後の痛みを訴える人もいるということですが…。

 (患者の男性※筆談)
 「予想外に痛みは少なかった。身体のダメージはほとんどなかった」

 経過は順調でした。

医師に聞く『今後の課題』は…

 始まって間もない光免疫療法。再発・進行した頭頸部がんの患者が治療の対象ですが、ほかの臓器のがん(胃・食道など)でも効果が認められないか臨床研究も進められています。そのための課題は…。

 (四宮弘隆医師)
 「薬が腫瘍にしっかり集まってくれないといけない。腫瘍自体の特性にも影響されるのと、光があてやすい場所であることも必要なので、腫瘍がおなかの中の見えない場所だとなかなか光をあてにくいですから、そういう意味で最初の承認対象として頭頸部が選ばれたんでしょうけれども、条件がどんどんそろってくれば、ほかのがん種にも(適用が)広がってくると思います」
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