不登校の子どもが急増しています。2021年度に小中学校の不登校の子どもは過去最多の約24万5000人になったと文部科学省は発表しています。また、教室の代わりに保健室へ登校して過ごす「保健室登校」も増加傾向にあります。そんな中で不登校の子どもがいる母親たちの悩みに寄り添う親子関係改善コーディネーターの女性を取材しました。

不登校児の母親が抱える悩み『自分が何とかしなくちゃと思って…』

 滋賀県内の自宅のリビングでパソコンに向かう親子関係改善コーディネーターの大西りつ子さん(49)です。彼女が主催するリモートの相談に集まってくるのは不登校児を抱える母親たちです。
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 この日も『子どもに上手く気持ちを伝えられない』という母親から相談がありました。

 (相談する母親)「本当は自分はどうしたいかっていうのはあるのに、間違えちゃいけないとか不安とか恐れで、やりたいを採用できなかったりとか、そういうところにつながるのかなって思って。私は何がアウトプットしたいんだろうって考えて」
 (大西りつ子さん)「考えすぎじゃない。いろいろ。めっちゃ考えている気がする。考えすぎてお母さんがピリピリしていたりするのを見ると、子どもは自分のせいかなって絶対思うと思うんだよね。何を選んでも間違いでもないし正解でもないし、それを自分で正解にしていったらいい」
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 別の母親は『子どもからのメッセージ』について悩んでいるといいます。

 (相談する母親)「子どもから『ママがやってくれたあのことなんだけど、これこれこういう気持ちになるし、これこれこうだからやめてほしいんだ、ごめんね』みたいなLINEが初めて来て。自分が何とかしなくちゃと思って空回りしちゃって」
 (大西りつ子さん)「娘さんがそうやって『そういうのを言われるとストレス』みたいなことを口に出してくるようになったんですか。それは親としてもそうやって言ってもらえる自分になれたんだなみたいな。信頼してくれているんやなと思えるし」

『保健室で子どもが話す内容ってお母さんのことが多いんですよね』

 3年間で不登校児の母親200人以上から育児の悩みを聞いてきたりつ子さん。不登校児の問題について取り組むようになったのは、滋賀県内の小学校で勤めていた3年程前のことでした。

 (大西りつ子さん)
 「保健室だったら来られるお子さんだったり、保健室に来るのも大変だったり。学校に行きにくいっていうお子さんはたくさんいらっしゃいました」
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 学校保健支援員として保健室の先生を勤めていたりつ子さんは、そこで保健室登校の生徒から話を聞くうちに、あることに気づきました。

 (大西りつ子さん)
 「保健室で子どもが話す内容ってお母さんのことが多いんですよね。でもお家でもちょっと我慢している部分があったりとか、本当は大好きなお母さんに大好きって言えない自分がいる。何かその奥ですれ違いが起こっているような感覚っていうのもすごく感じていて」
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 不登校児の問題を考える上で、ケアが必要なのは『子どもだけではなく母親』だという事に気づいたのです。りつ子さんは不登校児の母親のための保健室の先生になる決意をしました。母親との育児相談で最も大切にしていることは?

 (大西りつ子さん)
 「お母さんとはこうあるべきだとか、世間からのしつけがどうだとか、そういう周りの目っていうのを親が気にしないわけがないと思うんですよね。そこで本来のその人自身の持ち味やパフォーマンスが発揮できなくて、そこから解放されると本当の意味で『この子かわいいな』とか『このままでいいな』とか、その子のそのままを見られる」

相談きっかけに関係改善できた親子

 りつ子さんとの相談によって実際に子どもとの関係が改善できたという親子を訪ねました。栃木県で中学1年・小学5年・小学3年の3人の子どもを育てるかず子さん(仮名)です。りつ子さんに相談したのは3年ほど前。当時小学4年だった長女の不登校がきっかけでした。

 (かず子さん(仮名))
 「泣いているのを学校に置いてくるとか、引きずって連れていくとか。でも、すごく苦しかったです。本当にここまでするべきなのか、でもみんな学校に行っているしこうしなくちゃいけないよね、ここで学校を休んでいいよと言うのは甘えなんじゃないか、とか。そういう思いで、私も苦しかったけど、長女も苦しかったしつらかったと思います」
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 さらに、次女も去年に学校に行きにくくなり、ランドセルを背負ったまま動けなくなってしまうことも。そんな娘2人を受け止められるようになったのは、りつ子さんへの相談がきっかけでした。

 (かず子さん(仮名))
 「学校の先生から、他の保護者から、近所の人から、どう見られているのかがすごく気になっていました、前はね。今は人と違うなんて全然、むしろどんどん違っていいんじゃないかと思える。相手を変えよう、子どもに何々させようというのが今は全くなくなって。この子はどういうふうに思っているのかなとか、どういうふうに感じているのかなって思えるようになった」
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 長女は現在も不登校ですが、以前よりも会話が増えました。次女は行きたいときに学校へ行けるよう学校側に相談。フリースクールも活用しながら、次女のやりたいことは何かを見守りました。すると、去年は校舎から見るだけだった運動会に今年は参加するなど、ほぼ毎日学校へ通うように。
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 (かず子さん(仮名))
 「学校に行こうって言ったことがうれしいんじゃなくて、本人の中からこうしたいが出てきたことがうれしくて。本人の中から『また行ってみよう』って思えて初めて学校に行くことが良かったんだなって改めて思いました」

 (かず子さんの次女)
 「(Q今は楽になった?)うん」
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 子どもたち自身を見つめ、子どものやりたい選択肢を応援できるようになることこそ、りつ子さんが目指す母親の姿だと言います。

 (大西りつ子さん)
 「感じ取るんでしょうね、子どもも。そのまま見てもらえているみたいな、信頼してもらえているなと子どもが感じとるので、どんどんお母さんにもいろんなことを話してくる」

全国から集まる悩める母親…りつ子さん『どこにでも相談に行きたい』

 7月5日、りつ子さんが訪れたのは大阪のとある会議室。りつ子さんと直接話ができる不定期の対面相談会は遠方からの予約も多いといいます。

 (相談会にやってきた人)
 「北海道から参りました」
 「私は名古屋から来まして、貴重な機会だったので是非にと思って来させていただきました」

 『こうあるべき』の縛りに気づけるかどうか。それだけで変えられる不登校児と母親の親子関係。この日、相談に来た母親も。

 (北海道から来た母親)「この子もきっと今、自分の中と向き合っているのかなと思えるようになったし。自分への厳しさが少し和らぎました。だいぶ楽です」
 (りつ子さん)「お母さんが疲れると全部子どもに影響する。一番は自分がどう思いたいか、どう思ったら自分が幸せな気持ちになって子どもの前にいられるか、が私は一番大事だと思います」
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 育児に悩む母親にとっての保健室のドアはいつでも開いています。

 (大西りつ子さん)
 「私はお母さんを変えようとかも思っていなくて、子どもを変えようとかも思っていなくて。来てって言われたらどこにでも行きたいというくらいの、隣に座りに行きたい。どうしたん、ちょっとコーヒー飲む?くらいの感じで話を始められたら」