8月6日に開幕する夏の甲子園。出場を目指し、各地方大会では熱戦が繰り広げられました。一方、高校の中には野球部員が9人集まらないという学校もあります。そんな部員が少ない学校同士が組んで公式戦に出場できるのが「連合チーム」制度。連合チームで最後の大会に挑んだ高校球児に密着しました。

5つの高校が結束!「試合できるのがうれしい」「練習の幅が増える」

 夏の甲子園をかけて汗を流す球児たち。よく見ると…ユニフォームの色はばらばら。彼らは、狭山・藤井寺工科・農芸・成美・八尾北の5つの高校14人から構成される連合チームのメンバーです。
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 (大阪府立農芸高校・野球部 井脇航也くん 2年)
 「日頃やったら2人なのでキャッチボールとかしかできないんですけど、いっぱいおったら試合もできるし、そこがうれしいですね」
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 (大阪府立八尾北高校・野球部 田原佑磨くん 3年)
 「他の高校と交流ができるということが一番いいですね。普段は3人で練習しています」
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 連合チームを束ねるのが大阪府立成美高校野球部の西礼恩くん(3年)。4番・キャプテンを務めます。

 (大阪府立成美高校・野球部 西礼恩くん)
 「とりあえず一番は楽しいですね、やっぱり。みんなですると練習の幅も増えるし、野球って本来9人でやるスポーツじゃないですか」

入学した高校は部員ゼロ…でも「中学時代のメンバーの活躍を知り、もう1回野球を」

 普段の彼の練習をのぞいてみると、広いグラウンドでただ1人、練習に打ち込んでいました。

 (成美高校・野球部 西礼恩くん)
 「周りの人に見られていないという面で言えば逃げやすいというのもあるので、そこは気を付けてやっています」

 たった1人の野球部員なんです。
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 (成美高校・野球部 西礼恩くん)
 「(Qボール拾いも1人で?)そうですね。先生がいないときはずっと1人でやっていますね。ボール拾いは人おった方が楽です」

 小学3年生の頃に野球を始めた西くん。持ち味はバッティング。中学時代には硬式クラブチームの主軸を務めました。しかし、入学した成美高校には野球部はあるものの部員はゼロ。西くんは野球をあきらめようとしていました。

 (成美高校・野球部 西礼恩くん)
 「中学校のとき同じチームで野球やっていた子たちが2年生になって活躍している情報が入ってきて、周りのみんながあんなに頑張っているのに自分だけせえへんっていうのは悔しくて、もう1回野球をやってみんなに追いつこうという思いで野球をやりたくなって入りました」

西くんを野球部に誘った監督「部員1人で頑張っているので、最後の大会で打ってほしい」

 西くんを野球部に誘ったのが、去年の春、成美高校に赴任した大石雅人監督(30)です。

 (成美高校・野球部 大石雅人監督)
 「部員ゼロと聞いて、何とかして野球部の活動を復活させたいなと最初に思っていました。西くんに10回以上は声掛けさせてもらったかなと思います」
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 去年の夏、野球部に入部した西くん。大石監督との二人三脚の日々が始まりました。残業も多く、毎日練習に付きっきりとはいかない大石監督ですが、時間のある日はとことん西くんの練習をサポートします。

 (成美高校・野球部 大石雅人監督)
 「多い日は彼、300球ぐらい1人で打つので、去年の夏は僕が熱中症になりました。部員1人で頑張って続けているので、最後の大会で打ってほしいなという思いでやっています」

大会を前に意気込み「ホームランを1本打ちます」

 最後の夏の大会、初戦まで約1週間に迫った7月9日。連合チームが全員そろって練習できるのは週末のみ。ときおり中断して話し合うことも。連合チームにコミュニケーションは欠かせません。
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 いよいよ大会を前に背番号が渡されました。

 (連合チーム 友田哲平監督)「5番、西」
 (西礼恩くん)「はい」
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 (成美高校・野球部 西礼恩くん)
 「とりあえず勝ちます。個人的にはランナーをかえすのが打順的にもそういう役目かなと思っているので、出たランナーをしっかりかえせたらいいなと思っています。ホームランを1本、とりあえず1本打ちます」

4番に座った西くん コールドゲームが近づく中でなんと…

 7月17日、試合当日。久宝寺緑地球場(大阪府八尾市)で行われた全国高校野球記念大阪大会、初戦の相手は大阪星光学院です。西くんは4番に座りました。
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 連合チームは、試合序盤から相手の勢いを止めることができません。6回を終えて0対9。
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 7回表は無得点に抑え、迎えた7回裏。9点差で、このままだとコールドゲームとなってしまいますが…連合チームが反撃します。この回、3得点でコールドゲームを回避。成美高校の大石監督も思わず立ち上がって拍手します。
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 しかし、8回表に8点取られ、点差は14点に。コールドゲームが近づく中、8回裏、2アウト2塁で西くんに打席が回ってきました。大石監督が見つめる中、西くんはフルスイング。なんと、ランニングホームランを放ちました。
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 監督との二人三脚でつかみとったランニングホームラン。その後も得点チャンスは続きますが、試合は5対17で敗退(※8回コールド)。西くんの高校野球生活が終わりました。

「野球やっていて良かった。あきらめないことの大切さを一番学んだ」

 試合後、込み上げる涙を拭う西くん。

 (西礼恩くん)「(Qいまの気持ちは?)野球やっていて良かったと思いました」
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 (大石雅人監督)「最初はなかなかね、練習が続かない日もあったんですけど、ひとつのことを最後までやり続けるというところを間近で1年間、見させてもらって、こっちもやる気にさせてもらったので。彼の姿を見てこういう生徒が1人でも多く増えていったらいいなと思っています」
 (西礼恩くん)「(Q大石監督はどんな存在?)1回辞めた野球をもう1回野球の世界に引き戻してくれたんで、感謝しかないですね。何があっても自分1人でやってきて、あきらめなかったら続くので、あきらめないことの大切さを一番学んで。何事もあきらめずにやっていこうと思いました、この先」