食欲がそそられる匂い。甘辛いタレがたっぷりかかったホルモン焼き。大阪の下町西成で1日40kgを売る人情ホルモン焼き店の一日に密着取材しました。
(お客さん)「そのまま食べるのもいいんですけど、ビールとやると本当に最高なんです。ほんとそれがたまんないです」
(お客さん)「うち夫も4歳の娘も好きやから買いに来て。大体1000円分と言って買う」
豚のホルモン100g230円。約半世紀、変わらぬ味を守り続けています。
(大江さん)「タレのベースは醤油やけど、それ以上は入っているものは秘密」
大阪市西成区、南海電鉄・西天下茶屋駅から歩いて2分ほどのところにある『丸八精肉店』。人情あふれる下町のホルモン焼きの人気店です。
午前10時:朝から秘密のタレで焼くホルモン
店主の大江秀一さん(57)。店に着くとすぐに開店準備に取り掛かります。
(大江さん)「おはようございます。しゃべらんほうがいい?しゃべったほうがいい?黙っとったら息苦しくなってくるわ」
大江さん、ちょっとカメラに緊張している様子。一日お付き合いよろしくお願いします。朝一番の仕事はホルモンを焼くこと。
(大江さん)「これから乗っけて約30分、焼き上がるまでね、かかります。平均35kg~40kgくらいは焼いてると思うねん。土日はもっと売ってると思うよ」
ホルモン焼きの匂いが漂う精肉店。そのショーケースに並ぶお肉にはちょっと珍しいものもあります。西成区には沖縄にルーツを持つ人が多く暮らしていて、豚のタンや豚足なども人気なのです。
(大江さん)「大正区ほどじゃないけど、けっこういてる」
準備をしていると1人目のお客さんがやってきました。近くに住む顔なじみの客です。
(大江さん)「この人も沖縄の人やねん」
(仲村渠さん)「連れ合い(夫)が沖縄。夫の両親が沖縄から出てきて、こっちで連れ合いは生まれて、二世なんですよ」
仲村渠砂絵子さん。毎年沖縄の風習にならってお盆を迎えていて、この日はその食材を買いに来たそうです。
(仲村渠さん)「ラフテー(豚肉の角煮)をみんなが楽しみにしている。皮付きの豚を使ってね、泡盛と醤油と黒砂糖で炊くんですよ。3日がかりで作るんです。評判ですよ」
とろっとろになるまで煮込んだ自家製のラフテー。今年のお盆も親族が集まり、仲村渠さん手作りの沖縄料理をみんなで堪能したそうです。
大江さんはお客さんがいない時間はホルモンをひたすら焼きます。猛暑が続く今年の夏、鉄板の前は…
(大江さん)「ここおったらね、外の気温よりかはたぶん2℃高いと思うねん。今で見てこの温度計39℃指している。昼過ぎたら40℃くらいになると思うで今日も。それでも痩せへんねん、どない思う。こんなけ汗だくでやってるのに痩せへんねんで」
そうは言っても鉄板の前から離れられません。
午前11時半:お昼のおかずの一品に
お昼前、おかずの一品にとホルモン焼きを買い求める人が訪れます。自転車で颯爽とやってきた男性。
(男性)「200gちょうだい。お昼のアテでちょっとご飯のアテで。ちょうどいいんですよ味が。最後に下に汁があるねん。その汁をかけるねんお米に。美味しいねん。また来ます~」
西成は有名なホルモン店が多い激戦区。そんな中、自前の容器を持って買いにくる熱烈なファンも。
「間違いないですね。西成のほうよりも酒呑みが好きな味付けなんです。シンプルにいうと西成のほうは甘さが強いんです。こっちは旨さが強いんです」
西成との味の違いを熱く語りますがここも西成。でもそれだけ美味しいってことですよね。
丸八精肉店は大江さんの父親が46年前に開きました。大江さんは子どものころから店を手伝い、親子でホルモンを焼いていました。父親が高齢となり仕事を辞めた後は、妻・陽子さんと二人三脚で店を営んでいます。
(陽子さん)「(Qどんな夫?)よくしゃべるからうるさいのはうるさいです。見たまんまです。こんな感じです。家でもこんな感じです」
おしゃべりが好きな大江さんは店に立ち接客。市場に仕入れに行くのは陽子さんの仕事と役割分担しています。
(大江さん)「助かってるよ。僕一人やったら到底商売できないもん。仕入れ行って帰ってきて、そこから店開けて、焼いて切ってといったら、到底じゃないけどできない。助かってます」
午後3時:遠方からの人も 遠方に送る人も
大きなカメラを持った男性がやってきました。仕事の休みを利用して撮影の旅に来ていた石方晋平さん。都会を走る電車を撮るのが今回の目的です。
(石方さん)「岡山からです。ちょっと写真を撮りたくて。写真を普段撮っているんで」
ここで一体どんな写真を撮ろうとしているのでしょうか?店の目の前にある踏切の遮断機が下りるとカメラを構えてスタンバイ。電車が通ると素早くシャッターを切り、撮った写真を確認します。丸八精肉店とその真横を走る電車。満足のいく写真が撮れたようです。
(石方さん)「いい感じです。ええ写真撮れましたわ」
(大江さん)「あーほんまやね」
(石方さん)「ありがとうございます。今日一番の収穫です」
(大江さん)「プロやわ!」
(石方さん)「いやーありがとうございます」
西日が強くなってくる時間。夕食のおかずやお酒のアテにしようと立ち寄る人がいます。そんな中で少し多めの量を買う人が。
「1000円分を3つ。孫が愛媛県にいてるねん。凍らして持って行く。(孫は)1か月に1回か2回は食べててんけど、愛媛行ってからは食べられないから、懐かしいから」
店の近くに住む女性。今年4月に大阪を離れて愛媛県の高校に入学したお孫さんのために時々家族が持って行くそうです。この日は愛媛から帰省中というお孫さんのもとへ届けます。孫の玲央さんは夏休みを利用して愛媛から遊びに来た高校の友人と一緒に食べました。
(玲央さん)「めっちゃ美味しいです。最高です」
(玲央さんの父)「大阪帰ってきたらこの味がいいですか?」
(玲央さん)「うん」
(玲央さんの友達)「美味しい。何か鶏皮みたい」
初めて口にする友人も大阪の味に大満足です。
午後6時:晩ご飯前にぷらっと駄菓子屋さん感覚で
仕事帰りにちょっと立ち寄りその場で食べる人もいます。
「時々来るんですけど晩ご飯までのつなぎで食べていく。家が自転車で15分くらいかかるから、ここで食べさせてもらって雑談しながらいろいろと情報交換して。こうやって帰りにぷらっと寄ってね。子どもの時やったら駄菓子屋さん寄ったりとか、そんな感覚で食べていけるので、すごくありがたいなと」
午後7時:最後なんでようけ入れときます
店を閉める作業をしていると最後のお客さんが来ました。
(大江さん)「最後なんでようけ入れときます」
(お客さん)「ありがとうございます。めっちゃ大好きなんです」
(大江さん)「ありがとうございます」
この日の営業が終わりました。鉄板には何も残っていません。用意したホルモンは約40kg。全て売れました。
(大江さん)「やれやれですわ。帰ってこれこれ(お酒)笑」
西成で愛されるホルモン焼き。人々を笑顔にする下町の味です。