大阪・住之江区にあるチャイ専門店。ここでは“働きづらさ”を抱える人たちに『新しい働き方』『自分の体調に合った働き方』を提案しています。「自分ができると思う日に来られるのが一番大きい」ここで働くスタッフはそう話します。

「シフトが苦手で働きづらい人」が働きやすい環境

 大阪市住之江区にあるチャイ専門店『Talk with_(トークウィズ)』。店ではカフェやオリジナルブレンドの茶葉の販売が行われています。
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 茶葉には、『ここから、再出発。』『ちょっとだけ、冒険。』『スーッと、かろやか。』『ゆっくり、のんびり。』…といった個性的な名前が付けられています。
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 店のコンセプトは「すこし、休もう。話をしよう。」トークウィズにはスタッフの働き方にも特徴があります。それは“働きづらさ”を抱える若者が自信を持つための様々な仕掛けです。

 (トークウィズ 代表・古市邦人さん)「シフトが苦手で働けない方がいて、決められた時間に行けなくても自分を責めずに働けるというか」

 トークウィズの代表・古市邦人さん(37)。店では、いつ来ても、いつ帰ってもいい“シフトフリー”を採用しています。茶葉をブレンドする仕事は納期だけが決められていて、自分の体調に合わせて働くことができます。

 (古市邦人さん)「1か月に2、3回ベッドから起きられない日があるみたいな。月のうち28日は全然働けるし、でもこの人が働けていない、0か100になっているのはすごくおかしいなと思っていて」

 古市さんは3年前まで就労支援を行うNPO法人で勤務。その中で様々な働きづらさを抱える人に出会いました。

過去には『仕事で空回りになりパニックに』…働きづらさを抱えた1人のスタッフ

 茶葉の製造を担当するのは3人。中でも、真剣なまなざしでスパイスを調合するのは吉田涼風さん(仮名・20代後半)。働きづらさを抱えていた1人です。

 (吉田涼風さん)「覚えなきゃ、知らなきゃっていうことが空回りみたいになっちゃって。自分だけが置いてけぼりじゃないですけど、相手に迷惑をかけてしまっていると思った瞬間にドキドキし始めて、気付かないうちにパンクというか。(Qその時の記憶は?)ないですね」

 大学を卒業後、入社できても働き続けることができず、複数の会社を退職せざるを得ませんでした。

 (吉田涼風さん)「こんな思いまでして働く意味があるのかなとか。働くことの楽しさだったり働いて達成感を得るというよりも、仕事をしたらまたパニックになってしまうんじゃないかなとか」

 そんな中、吉田さんが出会ったのが、トークウィズの古市さんでした。
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 (古市邦人さん)「障がいまでいくくらい重たくなると障がい福祉サービスが受けられるんですけど、診断名がつかないような、ちょっとうつ傾向とか、そういうのだと自分でなんとかするしかないということもあって。そこが今、国の支援の中ではまだ足りていないんじゃないかなと思っているので」
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 ある日、吉田さんたちは大阪府和泉市にある工房に来ていました。チャイの出がらしを使ってお店で着る制服を染めに来たといいます。

 (古市邦人さん)「みんな働くという一歩をこれから踏み出そうとしていて、時間はあるとか、その時間の中で面白いなとか楽しかったなという機会になってくれたらいいなと思います。そうゆう経験から一歩踏み出していくということは起こりうるかなと思っている」

 (吉田涼風さん)「自分で作ったやつなんだなって着るたびに思い返しそうな気がします。(Qモチベーションは?)高まりそうですね」

 最初は不安そうだった吉田さんの表情も徐々に柔らかくなってきました。
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 お店のチャイの出がらしから制服がきれいなグレーに染まりました。

アルビノの女性は“アバター店員”として憧れの接客業にチャレンジ

 好きなスパイスを調合してオリジナルチャイを作るワークショップがトークウィズで開催されていました。レクチャーしているのは“アバターの店員”です。こちらにも吉田さんと同じように働きづらさを抱える人がいました。
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 アバターの中の人を務めるのは薮本舞さん。アルビノで生まれたときから体の色素が少なく、視力も弱いそうです。就職活動でも苦労することが多かったと言います。

 (薮本舞さん)「なかなか見た目が故に理解されなくて。最初のハードルとして採用の時点でお断りされてしまうとか、自分の希望に近い職種になかなかチャレンジできない」  

 今回、初めて憧れていた接客業にチャレンジすることができました。

「自分のペースで働くことができる環境」の中で自分自身と向き合う

 吉田さんも店に出勤してきました。シフトはありません。

 (吉田涼風さん)「午前中は時間があったので、体調もよかったし、ちょっと働いてみようかなという気持ちがあったので、きょう来させてもらいました。自分ができると思う日に来られるのが一番大きいですね。行く行かないとか、きょうは何をするとか、きょうはこれをしようとか、自分で決められるので、そこら辺の働き方もすごくやりやすい」

 自分で作った制服に腕を通します。

 (吉田涼風さん)「(Qステキに仕上がりましたね?)そうですね、思ったよりも色がきれいに残っていて。匂いもまだあるんですよ。お茶っぽい、ちょっとスパイスの匂いがして」

 古市さんにティーバッグを作るコツを教わります。

 (古市さん)「縁、右に合わせた?」
 (吉田さん)「合わせました」
 (古市さん)「それでいったらちょうどいいんじゃない?」
 (吉田さん)「もう1個作ってみていいですか?」

 さらに、オーダーシートを見て仕事の内容を確認して作業に入ります。

 (吉田涼風さん)「いまは依頼書というかオーダーのあるスパイスをはかりで量っているところです。『ここから、再出発。』というチャイのスパイスで、50個分を量るところです」

 これまで自分自身と向き合い、いくつもの葛藤を乗り越えてきた吉田さん。“ここから、再出発”がはじまります。