10月に入り、また4600品目以上が値上がりしました。物価高騰が続いて、ほとんどの人が家計への影響に頭を痛めていますが、中でも経済的に困窮している家庭への打撃は想像以上の大きさとなっています。この夏、困窮子育て家庭への食糧支援を行ったNPO法人『キッズドア』が、「夏休み緊急支援」の実施報告会を9月27日に開きました。

1食当たり110円以下の家庭が4割超

支援を受けた家庭に対するアンケート調査によりますと、物価高騰によって「とても厳しくなった」が80%、「やや厳しくなった」が19%、計99%(ほとんどの家庭)が、厳しいと回答しています。

家族全員の一か月の食費も2人家族で2万円未満が42%、3人家族で3万円未満が53%と、一人1食当たり110円以下の家庭が4割を超えています。モノの値段が上がり続ける中、「もともと最低限で暮らしていたので、これ以上削れるところがない」といった悲鳴も届いています。

支援家庭の暮らしは「100円上がって、もう手が出ない」

(写真:支援を受けたある家庭からの手紙)

 食糧支援を受けた家庭はどんな暮らしぶりなのでしょうか?地方都市在住の藤原美子さん(仮名)は、8歳の娘と二人暮らしで、月々の手取りは18万円ほどです。一か月の食費予算は25000円で、一日当たり800円ちょっとの計算になります。物価高騰は確実に家計を圧迫していて、藤原さんは毎回食費を記録していますが「以前買えていた値段より100円上がっていたりして、もう手が出なくなったものも多い」とため息をつきます。

 献立も値下げ品などを選んでやりくりしていて、栄養バランスも心配です。もともと肉はあまり買っていませんでしたが、魚も高くなり、納豆や豆腐、卵などでおかずを作っています。子どもの食事量は死守していますが、お母さんは仕事の疲れなどもあって晩御飯をヨーグルトだけで済ませることもあるそうです。ヨーグルトも値段が上がっているので、最近は子どもに食べさせるために我慢することも増えたといいます。

(写真:支援された食品)

 電気代の値上がりも響いています。これまでも節約して、冷暖房を使わない時期は月1500円くらいに抑えていましたが、この夏は2000円をはるかに超えました。とはいえエアコンをなるべく使わないよう休みの日は、午前中は暑さを我慢し、日中は出かけて時間をつぶして節約した結果です。しかし、それではゆっくり休むことができず、日々の仕事疲れを取ることができませんでした。冬の暖房費は夏より負担が大きいため、毎年子どもの部屋だけ暖めて、お母さんはカイロで寒さをしのいでいます。政府の電気代補助は12月分まで延長されましたが、年明けの厳しい寒さが今から心配です。

どうしようと悩む親を見て…子どもは「お母さんを困らせたくないと我慢する」

 生育過程の子どもにとって体験も重要です。しかし遊園地も値上がりして、計画を立てようとした時点で「もう無理だ」と諦めてしまったそうです。また常に、「自分が病気になっても休めない」という不安を抱え続けています。藤原さんを物質的にも精神的にも支えているのは、食糧支援や子ども食堂、子どもの体験イベントなど、民間のひとり親援助です。

 キッズドアの渡辺由美子理事長は支援を通して、「お金は、本当に無い時は無い、本当に買えない」家庭を見てきました。実際この夏の食糧支援アンケートでは「子どもに栄養バランスの良い食事を与えられない」という回答が88%、「子どもに十分な食事を与えられない」という回答も60%ありました。キッズドアでは、この冬も間違いなく物価高騰は続き、クリスマスやお正月など楽しいはずのイベントがむしろ困窮家庭には辛く厳しいものになるであろうと予測して、冬の食糧支援の準備も進めています。

渡辺理事長は「お母さんは、子どもに食べさせるものがなくてどうしようと思っていると、子どもはお母さんを困らせたくないと我慢をします。子どもが必要な栄養が取れていないという状況は最優先で取り組む課題ではないでしょうか」と訴えます。政府はこの課題についてどう捉えているのでしょうか。

困窮家庭の声は届くか…「こども大綱」意見募集はじまる

 9月29日に「こども大綱」中間整理案が公表されました。「こども大綱」は幅広いこども施策に関する今後5年程度を見据えた中⾧期の基本的な方針や重要事項を一元的に定めるもので、政府は年末に策定するとしています。今年4月1日に施行されたこども基本法では、健やかに成長することは子どもの「権利」であり、子どもは社会全体で育んでいくべきことを基本理念としています。「こども大綱」はその理念に基づいて策定されるものです。

「こども大綱」中間整理案では子どもの貧困対策についても言及しています。「地域や社会全体で課題を解決するという認識の下、教育の支援、生活の安定に資するための支援、保護者の就労の支援、経済的支援を進める」とし、「子育て当事者の日々の生活を安定させる観点から、様々な支援を組み合わせて経済的支援の効果を高めるとともに、必要な世帯へ支援の利用を促していく」とあります。ただ実際のところ、困窮子育て家庭の親は、仕事や子育て、日々のやりくりで時間的にも精神的にも余裕がなく、複雑な支援の仕組みに『リーチすること自体』が難しいケースが多いとされます。行政から情報が届く、いわゆるプッシュ型支援など、わかりやすさは必須です。

(写真:支援家庭からキッズドアへの手紙)

こども家庭庁は現在、「こども大綱」策定に向けて、子どもや若者、親などからの意見をホームページで募集しています。困窮する家庭の子どもや、その親から受け取ったメッセージにも耳を傾け、厳しい冬にお腹を空かせて寒さに耐えることがないよう、素早い対応が求められます。