長年、人々に親しまれている「奈良のシカ」。しかしいま、夜間にもエサをやる人が増え、シカの生態に影響を与えているということです。

 (MBS前田春香アナウンサー 10月3日)「奈良市の職員が特別柵の中にいるシカの様子を撮影しています」

 10月3日、奈良市保健所などが「奈良の鹿愛護会」が管理する特別柵のシカを調査しました。

 その理由が、肋骨がくっきりとわかるほど痩せていたり、毛が薄くなっていたりする特別柵の中のシカたちです。ここには、農作物に被害を出すなどしたシカが保護されていますが、10月に獣医師が「このシカたちに十分なエサが与えられておらず虐待にあたる」と市に通報したことが発覚。愛護会は「エサの予算は確保していて不足しておらず、虐待行為にはあたらない」と反論しています。
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 長年、人々に親しまれてきた奈良のシカ。そんなシカの動向を観察して調査を行っているのが、北海道大学の立澤史郎特任助教です。30年以上シカの研究を続けてきました。
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 立澤先生は定期的に市民と一緒に奈良のシカの動向を調査しています。

 (立澤史郎特任助教)「人とシカとのトラブルが増えてきた。昔と比べてどれぐらいシカが野生じゃなくなっているかということをちゃんとデータにして検討してみようと」
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 この日、調査したのは奈良公園一帯。頭数などをメモしていきます。生息地は広範囲にわたるので、立澤先生は自転車をこぎながらの調査です。立澤先生たちの調査は昼だけでなく夜も行われます。

 (立澤史郎特任助教)「奈良のシカは野生のシカなんですけど、特に夜に餌付けする人が増えてくるとあまり山に帰らなくなるので、それは問題だということで、夜どれぐらい公園をうろうろしているシカがいるのかを調べるために調査しています」
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 市民や観光客らによる過剰なエサやり。本来、鹿せんべい以外の食べ物を与えることは禁止されているにもかかわらず、弁当のおかずや食パンをやる人たちが後を絶ちません。

 (エサをあげている人 2020年)「コロナで全然お客さんが来なかったでしょ。痩せてガリガリでしょ。みんなやっているのを見て…」

 こうしたルール違反は夜間も行われているといいます。
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 真っ暗な奈良公園周辺を懐中電灯で照らしながら調査する立澤先生。すると、突如路上に50頭近いシカの群れが現れました。そして、横には1台の車。

 (立澤史郎特任助教)「めっちゃエサやっている人がいます。車できて…いつも来ている人だと思いますけど」

 市民調査をはじめた30年前には、夕方になるとシカは森に帰っていましたが、夜のエサやりの影響で多くのシカが夜になっても公園内に留まるようになったと指摘します。

 (立澤史郎特任助教)「夜は普通これからしばらく休息するんですけど、人が多くてエサをやる人がいたりすると休息しないでずっと活動しているというのも見えてきます」
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 その結果、秋はシカにとって繁殖のシーズンで子ども連れのメスは巻き込まれないように夜間は森の奥で休息するのが本来の姿ですが、この日も母シカと小シカの姿を夜の公園で確認することができました。
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 立澤先生はいま、シカと人間のいびつな関係について考え直さなければならない時がきていると感じています。

 (立澤史郎特任助教)「人間からエサをもらうことに慣れてしまうと平気で人里にでてきて、そのうち畑とかで作物を食べることになると考えると、人とシカの関係を歪めていくのではないかと思っています」