「キャンプでわいせつ行為をするのが『日常』だったとしか思えない」娘が被害を受けた母親は、こう憤りを露わにした。現職の市議会議員が、自ら主催のイベントで、子どもにわいせつ行為を繰り返していたとして逮捕・起訴された前代未聞の事件。10月30日の判決を前に、被害を受けた女の子の4人の母親(以下A~D)が、MBSの単独取材に応じ、現在の心境などを語った。

「けんちゃんキャンプ」に参加の女の子らにわいせつ行為

安心して預けたはずの宿泊イベントで起きた、卑劣なわいせつ事件。被害を受けた女の子の母親のひとり・Aさんは、いまも憤りが収まらない。

Aさん「娘は『いま思ったら、あの時何をされてたかわかってへんかった』って言ったんですね。小学校の高学年って、性に対する認識ってまだそれぐらいなんですよ。『なんか気持ち悪いけど、何されてるかわからない』みたいな…。そこを被告は突いていたと思うんです」

元・大阪狭山市議の井上健太郎被告(55)は、子どものリーダーシップ養成を目的とした「けんちゃんキャンプ」という宿泊イベントを主催していたが、そこで女の子にわいせつ行為を繰り返していたとして、強制わいせつの罪に問われている。

(起訴内容)
▽ 2020年9月に大阪府で開催した同イベントで、就寝中の女の子4人(当時10~11)に対し、体を触るなどした
▽ 2020年4月に兵庫県で開催した同イベントで、女の子1人(当時13)をベッドに引き倒し、抱きしめたり、自分の頬付近を生徒の顔にこすりつけたりするなどした
▽ 2021年8月に福井県で開催した同イベントで、女の子1人(当時11)を無人の部屋に連れ込み、体を触ったりキスしたりするなどした

井上被告は今年4月に議員を辞職。同じ月の初公判で「とてもひどいことをした。反省している」と起訴内容を認めた。これまでの裁判で、2015年の同様のイベントでもわいせつ行為をしていたことを認める供述もしていて、起訴分以外にも被害者がいるとみられる。

“アウトドアのおっちゃん” 地域からの長年の信頼の裏で…

子ども向けのイベントを、日帰りも含めれば毎月のように開催していた井上被告。本格的にアウトドアやスポーツを体験できるなど、内容はかなり充実していたといい、口コミでも評判だったという。被告が、時に厳しく子どもたちを指導することでも有名だった。

Aさん「老舗のキャンプみたいな感じでした。大阪狭山に長年根付いている、“アウトドアのおっちゃん”っていう感じだったし」

Bさん「娘は『(被告は)確かによく怒るけど、理不尽な怒り方はせえへん』と言ってて。指導とかが子どもたちにちゃんと伝わってるんだなと思って、信じてたんですけど…」

プログラムの裏で起きていた、非道な犯行が発覚する端緒となったのは、被害者同士の会話だった。

学校で「あれ、気持ち悪かったよね」「え、私もやねん」という形で、被害についての話が持ち上がり、女の子らはそれぞれの保護者に伝えた。

保護者とその代理人弁護士の相談を受け、大阪府警と大阪地検堺支部が連携。被害を受けた女の子ひとりひとりに、司法面接(子どもから正確な情報を聴き取ることを目的に、誘導的な質問を排し、かつ心理的負担も少ない形で行われる面接)が実施された。警察と検察の執念が実り、今年2月、井上被告の逮捕に至る。

逮捕前も平然と被害者宅を訪問「後ろめたさをみじんも感じさせない態度」

市議としての立場上、学校行事に出席することも多かった井上被告。逮捕前、ある参観行事で被害者らが在籍する学校を訪れていたという。

Cさん「娘が遠目に井上被告の姿を見て…。事件のことを検察庁で話していた時期だったし、フラッシュバックや、“楽しく過ごしている学校に、なんで入ってくるの?”という思いが起きて、取り乱して保健室で休んだんです」

さらに井上被告は、犯行後も被害者らの自宅を訪れ、イベントの年間スケジュールを記した手帳やカレンダーを渡したり、ポスティングしたりしていた。

Aさん「後ろめたさなんて、みじんも感じさせない態度で活動していたんで…。当たり前に犯行に及んできたから、あの人にとっては“日常”。キャンプに行ったらそれ(わいせつ行為)をするという日常でしかなかったと思わざるを得ないですよね。まったく申し訳なさそうな顔もしていなかったんで…」

現在、女の子らは学校にも通えていて、表面上は事件を引きずってはいないという。しかし保護者らは、フラッシュバックや “外から見えない心の傷” について不安を隠せない。

Aさん「いまは大丈夫です。ただ、今後どのタイミングで、どんな感じで影響が出てくるかは誰にも分からないんで、そこが心配です。将来彼氏ができて、手をつなぐときにフラッシュバックするとか、何がきっかけで“バンッ”ってなるか分からないし…。被告のせいで、普通に恋愛ができなくなる可能性もゼロじゃない」

Bさん「先日、娘が部屋を片付けていた時に、『キャンプの資料、全部捨てるわ』と言って出してきて…。そういうのを見ると、すごくせつなくなったというか…。子どもなりに色々思い出してるんやろなと思うと、せつないし悲しくなった。本当に許せない…」

Dさんは、性犯罪に苦しんでいる被害者やその関係者に伝えたいことがあるという。

Dさん「裁判ができる所まで来られると思ってなかったので…。あきらめてしまう可能性も十分ありました。悩んで、迷って、弁護士を探して、警察や検察に相談して…。物証がない中で “この人を立件するなんて、ほぼ無理だろう” と思いながらスタートしたし…。本当に闘ってよかったと思っています、ここまで。被害に遭われている人やその周りの人たちには、自分だけ、自分たちだけで抱え込まず、誰かに相談してほしいと伝えたいです」

「未来ある子どもたちの魂を殺したことを一生忘れないで」涙こらえ陳述

Aさんの意見陳述
「たった数年、刑務所で刑期をつとめただけで、罪を償ったなんて思わないでほしいです。あなたが刑期を終えても、被害者は心の傷を一生背負っていくのです」
「性犯罪は魂の殺人と言われます。大切な未来ある子どもたちの魂を殺したことを、一生忘れないでください」

検察官は「イベントの主催者という絶対的な上下関係を利用した犯行で、被害者の健全な発育に影響を与えたのは間違いない」「犯行態様や常習性からも、強制わいせつ事案の中でも最も悪質」として、懲役7年を求刑。 弁護人は、被告が更生を強く決意しているとして寛大な判決を求めた。

最終陳述で井上被告は次のように述べた。

井上健太郎被告
「改めて自分が犯したことの重さが、どう言ったらいいのか……(心の)中に入ったというか、まだそれぐらいの反省しかできていないんだなと感じて、恥ずかしくなっています」

大阪地裁堺支部は10月30日の判決で、「親元を離れて被害者らが自らの監督下にある環境を悪用した犯行で、極めて卑劣で狡猾」と糾弾。

「1年半足らずの間に3件のイベントで6人の女の子に加害し、常習性が顕著。被害者らの尊厳をないがしろにする態度は強い非難に値する」として、井上健太郎被告に懲役6年の実刑を言い渡した。

判決を受け、Aさんは次のようにコメントした。

Aさん
「やっとこの日が来たと安堵しています。物証のない中、ここまで私たちに寄り添い続けて下さった刑事さん・検事さん・弁護士さん、そして協力して下さった全ての方々に感謝します」

「被害者にとってこの問題には終わりがないことを理解して欲しいです。刑務所でただ刑期を終えても、なんの意味もありません。 被告には本当の意味で猛省し、二度と自分がやった卑劣な行為を忘れないで欲しいです」

(MBS司法担当 松本陸)