愛するペットの死。これは、ペットを飼う人の多くが向き合うことになります。ペットを失ったことによる悲しみや喪失感を感じることを“ペットロス”と言い、こうした状態に苦しむ人も多くいます。ペットロスに向き合う人々と、ペット供養の新たな取り組みを取材しました。
飼っていた「モル」の死でペットロス 手製の祭壇で今も近くに
大阪府に住む奥田さん。犬や猫、ウサギやリクガメなど計9匹を自宅で飼っています。
キッチンのすぐそばにはケージがありますが、中にペットの姿はありません。
(奥田さん)「これ元はモルちゃんのケージで、今は仏壇になっています」
モルモットの「モル」。5年ほど前に飼い始めましたが、去年の末に胃拡張という致死率の高い病気が原因で死にました。
(奥田さん)「すごく優しくて誰にも何も攻撃しない子だったので、誰にでも仲良くできる子でした。ものすごく食べる子だったんですよ。冷蔵庫とか開けたら『くれくれ』って。結構大きな声で叫んだりとか」
奥田さんはモルが死んでしまった後、しばらくモルの亡骸と離れられず火葬もできないなど、ペットを失ったことにより強く喪失感を感じる“ペットロス”になったといいます。
(奥田さん)「最後は、酸素の吸入みたいなので吸入してもらったんですけど、やっぱりちょっとだめで、亡くなってしまって…。最後はちょっと苦しそうで、それが心残りだなとは思うんですけど…」
ペットが死ぬとペット霊園などで火葬をしてそのまま合同で埋葬するのが一般的ですが、奥田さんの場合はモルを火葬した後、その遺骨をケージに納め、手製の祭壇を作り、今もモルを近くに感じています。
保険会社「アイペット損害保険」の「ペットロスに関する調査」によりますと、ペットが死んでしまった後、飼い主の6割以上がペットロスを経験したという結果が出ています。
「どっちの子も思い出したら涙が出る」2匹の犬との別れ…その悲しみは今も
和歌山県の寺ではペットロスから飼い主を救うため、ある取り組みが始まりました。真言密教の聖地・高野山にある「遍照尊院」。僧侶が念仏を唱えているのは、人ではなく犬の供養のためです。
ヨークシャーテリアの「ペロ」とその子どもの「ゆめ」。ペロは10年ほど前、ゆめは7年ほど前に死にました。
飼い主の堀木さんは2匹について次のように話します。
(堀木さん)「ペロは賢い子でした、本当に。人の悲しんでる顔とかを見てすぐ寄ってきて、ずっとそばにいてくれる子でした。ゆめはもうめちゃくちゃ甘えん坊で、(この写真は)私が行ってきますと言った後ずっと見送っている顔です」
堀木さんはペロが死んだ時には、ゆめがいたことで気持ちは紛れたといいますが、ゆめが死んだ後、堀木さん一家は心に穴が開いたような気持ちになったといいます。
(堀木さん)「何日かたったときに主人の母が、朝起きたらぼーっと立っているんですよ。どうしたんと聞いたら、『ゆめちゃんのご飯作ってしまった』って言って。うわーって思って。やっぱりどっちの子も思い出したらいつでも涙が出ます、本当に。会いたいと思いますし」
飼い主とペットが一緒に入れる納骨堂「ありがとうという気持ちでいっぱい」
堀木さんは2匹の遺骨を家に置いていましたが、遍照尊院の取り組みを聞き、今回、2匹の納骨のために訪れました。それは、飼い主とペットが一緒に入れる納骨堂です。
(堀木さん)「私が亡くなった後、この子たちが一緒に入れるわけなので。『やっと落ち着くね』という感じがします」
そもそも仏教では、犬などのペットは「畜生」というカテゴリーに入れられます。「畜生道」は「人道」よりも2つ下に位置し、飼い主とペットは同時に極楽浄土に行くことができないという考えが通説です。しかし、遍照尊院は今年、死んだペットが飼い主と一緒に入ることができる納骨堂を作りました。
(高野山「遍照尊院」 住職)「弘法大師の教えというのは昔から生きとし生けるものすべてのご供養をするという気持ち。現在はペットというより家族と同様であるというところから、一緒に入ることができる納骨堂を造らせていただきました」
約30分かけて納骨式が終わると、遍照尊院の地下にある納骨堂に、堀木さんの手でペロとゆめの骨や写真を納めました。
(堀木さん)「ちょっといろいろ思い出して。お経を上げてもらっている間はいろいろなことを思い出して、ちょっと涙が出ちゃったんですけど、良いところに来たねっていう感じがします、すごく。(Qどういったことを思い出されていた?)本当に感謝ですね。いろんなことを支えてもらったというか、癒やしてもらったというか…もらったものしかない。なので、ありがとうという気持ちでいっぱいです」
もうすぐ20歳になる猫の納骨を予約「私が元気なうちにしておいたほうがいいと」
遍照尊院はこれまでに犬32匹・猫11匹の納骨をしてきました。この納骨堂にはペットが死ぬ前から予約をしている人もいます。神戸市に住む田中さん。すでに2人の子どもは自立し、夫は2年前に亡くなり、今はもうじき20歳になる猫の「ココア」と一緒に暮らしています。田中さんはココアが死んだときに備えて納骨の予約をしました。
(田中さん)「そういうところ(納骨堂)があるんだったら、私がまだ元気なうちにちゃんとしておいたほうがいいかなと思って」
専業主婦だった田中さんは約20年もの間、ココアと同じ時間を過ごしてきました。
(田中さん)「最初はね、(痩せていて)骨みたいな感じで。どちらかといえば人懐っこかったのかな。たぶんこの子と過ごす時間が私の人生の大半。年でいえば20年ですけど、時間でいうとすごい時間を過ごしているので」
ココアももうすぐ20歳。人間であれば96歳です。もう飛び上がったり跳ねたりすることはできません。ココアに残された時間、田中さんはできる限りの愛情を注いでいるといいます。
(田中さん)「ペットロスで泣き暮らしたりするかもわかんないし、どうなるかはわからない。ただ言えるのは、後悔はないんですよ、あの子に対して。いつ何時、何があっても私は後悔はない。ただ寂しいのは寂しいと思います。言葉として言えないけれど、本当に大事ですね。大切というか」
ペットの死は、家族の死。いつか迎えるその時を、それぞれの形で受け止めようとしていました。