長野県に本社を置く株式会社サンクゼールが全国展開する食の専門店「久世福(くぜふく)商店」は今年、1号店のオープンから10周年を迎えました。だしや、ご飯のおともなど、和のオリジナル商品を揃える久世福商店ですが、開店当時から販売している人気商品の一つが、『久世福のなかなか減らないやみつき柿の種』という商品だといいます。

千葉県にある米菓メーカーで昔ながらの製法を使って製造しているという柿の種ですが、気になるのは一見矛盾したようにも思えるそのネーミングです。

 “なかなか減らない”というなら、「不味いから減らない」と解釈することもできますし、美味しいなら“すぐに減っちゃう柿の種”が正しい表現ではないか?とも思ってしまうところです。そこで“なかなか減らない”のネーミングの由来について、久世福商店を運営するサンクゼール(長野県)の広報であり、柿の種の名付け親でもある高岡舞さんを直撃、話を聞きました。

「なかなか減らない」は却下されるだろうと思った

(画像提供:株式会社サンクゼール)

 現在、同社の広報である高岡さんは、久世福商店オープン前の当時、日々、大量にある商品のネーミングに追われていたそうです。資料を元に次々と商品の名前を考えていくなかで、高岡さんを悩ませたのが「柿の種」でした。

 すでに世の中には似たような商品があり、「昔ながらの製法にこだわっている」という特徴はあるものの、そこを押し出しても手を取る人に伝わるのだろうか…。などと悩んだ末に、高岡さんが考えついたのが「なかなか減らない」という文言でした。「大容量なので“なかなか減らない”」という、味のことではなく、360グラムある柿の種の「量」を表現するネーミングだったそうです。

 高岡さんは、「ブランドのイメージに合わないから却下されるだろう」と考えていたそうですが、なぜかそのまま採用されることに。結果として売れ行きは好調で反響も大きく、柿の種の他にも「なかなか減らない」のネーミングが冠された別商品も販売されています。

会長に聞くネーミングの歴史「ネーミング界隈で衝撃的だった商品がある」

 ネーミングの「専門家」にも話を聞きました。“なかなか減らない”という押し出し方について、日本ネーミング協会の岩永嘉弘会長は歴史をひもときながら、こう話します。

「本来、商品はまず商品名があり、その宣伝の際に、キャッチフレーズをつけられるのが通例だったのですが、商品名自体をキャッチフレーズにすることで、宣伝を省くネーミングが増えてきました。」

そして、岩永会長らにとって、“まさに歴史が動いた”商品がありました。

「『じっくりコトコト煮込んだスープ』(ポッカサッポロ)が登場した時は、ネーミング界隈では衝撃的だったのです。」

世の中に長い名前の商品が増えていき、さらにキャッチフレーズ化した商品名は宣伝を必要とせず、なおかつ競合商品よりも目立つことができるため、増えていった歴史があるといいます。

今回の商品について岩永会長は、「一見よくわからない『なかなか減らない』というネーミングは、キャッチフレーズ化する商品名の中で、結果的により目立つネーミングになっていますね。」と、その効果のほどを評価していました。