日本の救急救助技術をブラジルに持ち帰りたい!今年10月、日本の救急救助技術を開発途上国に伝える「JICA救急救助技術研修」が大阪市消防局で行われました。今回で24回目の実施で、これまで66か国223人が受講しました。今回ブラジルから参加した唯一の女性研修員に密着。約2か月間行われた訓練の様子を取材しました。
「日本の救急技術」を学びにやってきた海外の研修員6人
今年10月12日、大阪市消防局とJICA(国際協力機構)が行う研修が始まりました。この研修の目的は「開発途上国の救急隊員に日本の救急救助の技術を学んでもらうこと」。24回目となる今年は、ブラジル、フィジー、ガーナ、パレスチナ、パプアニューギニアの5か国から6人の研修員が参加しました。
その中で唯一の女性参加者であるクラーラさん。2017年からブラジルの消防訓練学校に勤め、現在、指導員をしています。
ブラジルでは豪雨や地滑りなどの自然災害が多いことから、今回、日本の救急救助技術を学びに来ました。
(クラーラさん)「今は特に心配なことはありません。とにかくすべてを吸収して学びたいです。この研修での経験を最大限生かしてブラジルに持ち帰りたいです」
クラーラさんの2か月間の研修に密着しました。
10月17日、最初に学ぶのは救急救助において基礎となる「ロープの結び方」です。
(クラーラさん)「くくり結び、よし」
(消防隊員)「よし、ベリーグッド」
クラーラさん、どんな結び方も何を結んでもスムーズにこなしていきます。
(通訳)「簡単?」
(クラーラさん)「簡単です」
(消防隊員)「簡単!?」
(クラーラさん)「もうわかっていることですので」
統率に苦戦するクラーラさん…技術以外にも「組織の動き方」も学ぶ
10月23日。この日は学んだ基礎を使って、建物の2階ほどの高さから担架を降ろし、けが人を地上に運ぶ訓練です。
(消防隊員)「リーダーはクラーラ?」
(クラーラさん)「はい」
リーダーに選ばれたクラーラさん。チームの連携力が試されるのですが…
(クラーラさん)「(研修員の)アタコラ、聞いて。それはひと結びにしないと」
何度声をかけても指摘に気づかない研修員に思わずこんな本音が…
(クラーラさん)「次は聞いてね。彼、聞く耳を持ってくれなかった。私は彼にそうしないでって言ったのに…」
頑張って指示を出すものの、組織としての統率は難しいようで…
(研修員のジョセファさん)「1、2、3」
(クラーラさん)「待って待って、コミュニケーションとって」
(消防隊員)「クラーラの指揮でみんな動く、ちゃんと」
(クラーラさん)「担架を降ろすよ。準備はいい?」
クラーラさん、なかなかうまくリーダーシップを発揮できず、訓練を見ていた消防隊員は組織としての動き方について指摘します。
(消防隊員)「各々がバラバラに動くと一人ひとりの動きになってしまいます。今から自分が何をするのかということをリーダーに伝えて、クオリティーの高い活動を実施してください」
研修期間中に迎えた誕生日
10月25日はクラーラさん、32歳の誕生日でした。みんなでお祝いします。パレスチナの研修員からはストラップのプレゼントも。
(クラーラさん)「最高のチーム・コーディネーターに恵まれてとても幸せです。最高の誕生日になりました。ありがとうございます」
山岳救助や水難救助など様々なことを学ぶ研修員たち
11月2日。研修開始から約1か月。大阪府と奈良県にまたがる二上山に研修員らの姿がありました。山で負傷した人の救助を学びます。負傷者のもとへ担架を降ろし、安全な場所へと移動させます。
(クラーラさん)「心配しないで。すぐ家族に会えますよ」
(消防隊員)「めっちゃ励まされてる…」
救助を終えると、ロープの引き方について、クラーラさんを中心に話し合う様子も。
(クラーラさん)「お互い前に立って引くべきじゃない?こんな感じで」
(研修員のルアさん)「いや、彼ら(消防隊員)はああやって…」
(クラーラさん)「彼らはそう言ってたよ。今あなたがやっていたのは1!2!って勢いよく引くから担架がすごい揺れていたの」
リーダーではないときでも気になったことはみんなで共有するようになりました。
(大阪市消防局 本土淳一郎さん)「慣れない日本という国に来て、チームビルディングから始まって1か月経つというところなんですけど、その辺がやっぱりちょっと慣れてきて、チームとしてまとまってきたところなのかなと」
訓練はほかにも、プールでは「顔を水につけず要救助者から目を離さない訓練」や、車を使って「車内にいる要救助者を救出する訓練」など、クラーラさんたち研修員は様々なことを学びました。
迎えた最終日…最後は「震度7の地震発生」を想定した救助訓練
そして、ついに研修最終日の12月8日。国や消防局の幹部などが見守る中、この2か月の集大成を披露します。訓練は「震度7の地震が発生し、立体駐車場の3階から車両が転落。地上からは近づけない」という想定です。
(ロドリゴさん)「車が事故に遭い車内に要救助者が2人!すぐに体系を作って下に降り、要救助者を上に引き上げる!二手に分かれて動こう!やるべきことはわかってるな!いくぞ!」
クラーラさんは最初に地上に降り、救助へと向かいます。
(クラーラさん)「私の声、聞こえますか?」
負傷者に声をかけることも、コミュニケーションをとることも忘れません。
けがの様子を確認した後、病院への搬送などに備えて負傷者を安全な3階へ。無事、救助完了です。
そして2か月間の研修が終わりを迎えます。
(クラーラさん)「祖国に帰れるのはうれしいですが、日本の友達と離れるのは寂しいです。日本で学んだ技術や考え方をすべて祖国に持ち帰りたいと思います」
クラーラさんは帰国後、今回の経験をブラジルに合う形にして取り入れるということです。