ふるさと納税の返礼品といえば、お肉・海産物・その地の名産品などが人気ですが…兵庫県・多可町に変わった返礼品があります。それは「1年間ニュースキャスターになれる券」です。寄付額はなんと100万円!今回この返礼品でキャスターになった76歳の女性を取材しました。

驚きの返礼品で誕生した「76歳の新米キャスター」

 兵庫県の山間部に位置する人口2万人足らずの多可町。バスに乗って小さな町にやってきたのは…

 (松村二美さん)「こんにちは、どうもお世話になります」
 (町職員)「お疲れさまでした」
 (松村二美さん)「1か月早いですね、あっと言う間に1か月が経ったという感じで」

 町の職員に出迎えられたのは松村二美さん(76)。2023年10月から月1回、多可町に通っています。
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 向かったのは役場の会議室。吉田一四町長がわざわざ挨拶に訪れるなど特別な扱いを受けていました。
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 そしてカメラの前に立つ松村さん。すると…

 (松村二美さん)「みなさん、こんにちは。1か月のご無沙汰です。まつうら…松村二美、自分の名前間違ってどうすんのね。ふーみんです」
 (カメラマン)「もう一度いきましょうか」

 始まったのは地元・多可町のケーブルテレビ「たかテレビ」の収録。松村さんは“新米のニュースキャスター”なんです。

 (たかテレビで話す松村さん)「松村二美、ふーみんです。はじめの話題はヘチマから学ぶSDGsです」
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 (松村二美さん)「(Q今日はどうでしたか?)原稿があるから、それを忠実に読むのは苦しいわね。本当は笑いを誘うようなことを言いたい。そういうのは『多可町には合わない』と局長さんに言われているので笑」

 率直な言葉で話す松村さん。いつも練習なし、ぶっつけ本番で、毎月地域の話題や行事などを伝えます。
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 話すことは大好きですが、これまでキャスターの経験はありません。なぜニュースキャスターになろうと思ったのでしょうか?

 (松村二美さん)「いままでは肉とか魚とか、ウナギ、ホタテ、そういうものをふるさと納税の返礼品としてもらって食べて、おいしかったなで終わりじゃないですか。これは『こと』なので、やったこととか、そこで携わった人との絆とか、ハートというか心が残るじゃないですか」
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 多可町のふるさと納税の返礼品にはなんと「1年間ニュースキャスターになれる券」があるんです。寄付額は100万円。寄付を募って10年目にしてやっと返礼品のキャスター第1号が誕生しました。

 松村さん、これまで多可町に縁はありませんが、少しずつですが町民にも顔を知られるようになってきました。

考案者『返礼品で夢を実現できることをアピールしたかった』

 この返礼品を考えた担当者は次のように話します。

 (多可町・税務課 笹倉敏弘さん)「ほかの自治体にないような返礼品を、と思いまして。子どものころ、テレビをつけたらニュースキャスターは憧れだと思うので、夢を実現できるということをふるさと納税の返礼品でできるんですよ、というのをアピールしたかった」
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 職員たちが知恵を絞って考えた返礼品。松村さん、アイデアに感銘を受けて寄付を決めました。

 (多可町・税務課 笹倉敏弘さん)「熱意があるというか、100万円なんか惜しくないと言われたので、すごい方やなと思いました」
 (松村二美さん)「(寄付前に)最初に来た時はお茶も出ないコーヒーの1杯も出ない。でも100万円を納めてから初めて来た時はずらっと職員が両側に並んでね。それにも感動してね、すばらしいと思いましたね」

奈良県などで40年以上教師をしていた松村さん

 そんな松村さんが住むのは多可町から直線距離で約500km離れた千葉県いすみ市。毎回、電車やバスを乗り継ぎ、片道8時間以上かけて多可町まで足を運んでいるのです。

 (松村二美さん)「料理好きよ。自分の簡単レシピで短時間でちょこちょことやる」
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 松村さんは奈良県桜井市出身。40年以上、奈良や東京で小学校の教師をしていました。退職後は千葉で夫の哲夫さんと2人暮らし。おしゃべりで飾らない性格の松村さんと対照的に物静かな夫もキャスターになることは陰ながら応援してくれていて、夫婦で家庭菜園や料理作りを楽しむ充実した生活を送っています。

『教師時代の出来事を綴ったエッセーを朗読するコーナーを作りたい』

 松村さん、ぜひやりたいことがあるそうです。

 (松村二美さん)「多可町の人たちに自分の書いた本を読んで聞いていただきたい。ニュースキャスターだけではつまらないなと思いましたね」
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 松村さんは教師時代の児童や保護者との出来事を綴ったエッセーを4冊出版しています。近くの小学校や福祉施設で著書「学級愉快」を朗読することがライフワーク。ケーブルテレビでも朗読のコーナーを作りたいと申し出たところ、町は快諾してくれたそうです。
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 この日の朗読は40分間、一度も休むことなく読み続けるエッセー。先生に反抗的な態度をとる児童の卒業までの心の移ろいを描いたものです。感情豊かに読む姿に職員も耳を傾けます。
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 (多可町たかテレビ 安藤純一局長)「詳しく説明しなくてもちゃんとわかってらっしゃる。間を開けるところは間を開けたり、さすが長年教壇に立たれていたご経験はだてではないなと感じています」
 (松村二美さん)「ありがとうございます。どうもどうも。恐縮です」
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 月1回の収録は9月まで続きます。松村さん、ニュースキャスターは生きがいだと話します。

 (松村二美さん)「(キャスターを)2、3回しかやっていないのにすごく感動したというお手紙をいただいて。いままで知らなかった人からそのように声をかけていただけるというのは人生最高の喜びじゃないですかね。本当に価値ある良いふるさと納税だなと思っています」