会場建設費や運営費の上振れなど、さまざまな課題が指摘されている大阪・関西万博。来年4月開幕となっていますが、「間に合うのか」「延期するべきなのでは」といった後ろ向きな声も聞かれます。そんな万博の“現在地”とは…。現場作業に携わる人たちの本音を聞きました。

 来年に開幕を控えた大阪・関西万博。膨大に膨れ上がった費用が課題となる中、能登半島地震の復興を優先すべきだとして経済安全保障担当大臣の高市早苗氏が“万博の延期や縮小”を岸田文雄総理に進言しました。その矢先…

 (林芳正官房長官 1月28日)「万博関連の資材調達等によって能登の復興に具体的に支障が生じるという情報に接していない」

 林官房長官が「万博の開会を遅らせる必要がない」との考えを述べ、足並みが乱れる一幕も。そしてここにきて万博アンバサダーのダウンタウン・松本人志さんの活動休止と、順風満帆とは決して言えない状況が続きます。

パナソニックグループのパビリオン 進捗率は4割ほど

 1月16日、万博のシンボル「大屋根リング」の上からパビリオンの進捗を確認していたのは、パナソニックHDの小川理子万博担当です。
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 パナソニックグループは、子どもたちが新しいものを作り出す創造力を養うパビリオン「ノモの国」を建設中で、進捗率は4割ほど。順調に進んでいるといいます。パビリオンはもちろん、小川さんが任されている大仕事が、入場券の販売です。チケット売り上げが運営費の大半を担うことになるため、関西の財界総出で今、販売に力を入れています。

 (パナソニックHD・万博推進担当 小川理子参与)「万博は来年ですから。社員にもがんばってチケットを売っています。(Q何枚?)20万枚です」

ブラジルは“簡易タイプ”へ移行「時間が一番大きな原因」

 国内パビリオンが概ね計画通りに進む一方で、遅れが懸念されているのが海外パビリオン。現段階で工事に取り掛かっているのは中国やシンガポールなど5か国のみで、自前でのパビリオン建設を予定する約3割がまだ施工業者が決まっていない状態です。
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 すでに自前での建設は断念し、万博協会が建物の建設を代行する“簡易タイプ”への移行を決めた国も出てきました。そのひとつがブラジルです。

 (ブラジルの万博担当)「時間が一番大きな原因です。コストの問題ではなく、計画を時間内に完了させることができないと判断しました」

 あるゼネコン幹部は、今回の万博の工事現場は“異例ずくめ”だといいます。

 (ゼネコン幹部)「これほどの規模の工事で、水や電気のインフラが整っていない現場はこれまで経験したことがない。さまざまな制約もあり、現場にも負担がかかっている」

「資材が調達できるか」「シンプルに工期が遅れている」現場の声

 では、現場で働く作業員はどう感じでいるのでしょうか?

 (関東から来た建設会社)「作業員がまず集まるかとか、資材が調達できるかとか、けっこう大変」
 (「大屋根リング」関連を担当)「どこの作業員さんに聞いても手が足りてないということなので、結構作業員さんは負担は負担やと思います」
 (インフラ工事を担当)「めっちゃせかされます。急に『きょう中にこの範囲を終わらせてくれ』と朝に言われたりとか。(Q1日で終えられる作業量?)いや、1日でできないので残業して…」
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 業界の慢性的な人手不足に加え、工期の遅れから残業せざるを得ない状況もあり「万博工事は請け負いたくない」と敬遠する実態もあるといいます。

 (インフラ工事を担当)「来たがらない人もいる。『万博はちょっと…』と。シンプルに工期が遅れているので、その分を取り戻さないとダメなので、来たがらないっていうのは大きいと思います」

開催期間中は夢洲に『1日最大6000台の車両』の可能性 コンテナを運ぶドライバー「渋滞が心配」

 そしてこの先、深刻な課題になると懸念されているのが会場へのアクセスです。夢洲は大阪湾を埋め立ててつくられた人工島で、会場へのアクセスは、現時点では舞洲(夢舞大橋)または咲洲(夢咲トンネル)の2つのルートに限られます(※大阪メトロ中央線が夢洲まで延伸工事中)。博覧会協会は、開催期間中には来場者を運ぶシャトルバスなど1日最大4000台が夢洲に入ると想定しています。さらに…

 (公明党 今田信行市議 1月31日)「IRの工事車両が上乗せするとなれば、状態はさらに悪化すると考えます」
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 万博の期間中にはIR=カジノを含む統合型リゾートの工事が本格化しているとみられ、IRの工事車両と合わせて6000台が1日に夢洲に殺到する可能性があり、対応を迫られている状況です。それだけではありません。

 (記者リポート)「万博関連の工事車両だけではなく、コンテナを積んだいわゆる物流車両も多く見られます」
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 夢洲の約2割を占めているのが「コンテナターミナル」。これらのコンテナを運ぶドライバーたちからは次のような声が聞かれました。
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 「渋滞が心配やな。車両が増えるから、万博が始まったら。渋滞で(夢洲へアクセスする)トンネルとか橋とか混むと思うんですよ。仕事やりにくくなると思うわ」
 「渋滞は絶対出てくると思うから、仕事にはならんと思う。時間の勝負やから、こっちも。早くコンテナを返して、早く取って、またどこかに配達に行きたいから。たぶん給料も減ってくると思う」

 大阪市はコンテナターミナルの一時移転も検討していますが、ドライバーにとっては死活問題と言えます。

北海道から夢洲を見に…「大屋根リング」を見た感想は?

 1月20日、あるバスツアーが実施されました。目的地は夢洲。万博会場の予定地です。ジャーナリストらの呼びかけで企画された見学ツアーで、全国から約70人がこのために足を運びました。

 (北海道中標津町から)「北海道にいると本当に田舎の方なのでこういう情報が全く入らなくて、自分の目で見てみたいなと思って」
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 敷地内には入れないため、参加者はフェンスの外から中の様子をうかがいます。みな興味津々。遠くには、あの大屋根リングも見えます。参加者の目にはどう映ったのでしょうか。

 (福岡市博多区から)「(Q写真を撮りたくなる?)そうですね、だだっ広いなという感じ。まだほとんど建っていない状況ですね。(Q大屋根リングは?)思っていたより木材が細い気がして、ちょっと安モノに見えた感じがします。そんなこと言ったら怒られるかもしれないけど」

 北海道からはるばるやってきた参加者は…

 (北海道中標津町から)「大屋根リングに350億円かけるとは聞いていますが、それほどのものではなかったのかなと。震災もあったので、そちら(復興)に人手や機械とか、まず向けて、万博は1、2年遅らせても。子どもたちに夢のある万博なので、それはやってほしいですけど、今やらなきゃいけないこととは感じなかったです」

 開幕まで430日。万博実現までの道のりは課題山積と言えそうです。