オーストラリア議会で今年2月、労働者に新たな権利が認められました。それは「つながらない権利」で、勤務時間外に雇用主が労働者に連絡することを禁止する、といった内容です。

 オーストラリアより前に、2017年からフランスやイタリアでは、オーストラリアのように連絡を禁止するものではないのですが、法律で繋がらない権利が存在することを確認しているということで、実際の運用は企業と労働者に任されているといった内容です。

――青山学院大学法学部の細川良教授にうかがいます。外国ではこういった流れが進んでいるということですか。

(青山学院大学法学部の細川良教授)フランスで初めて立法化されたんですが、ヨーロッパで大体2010年代ぐらいからこうした議論が始まっていて、フランス、イタリアが認めた後、ポルトガル、スペインで既に立法されてますし、EU全体でも、繋がらない権利についての共通のルールを作ろうという議論が今進められているところだと聞いています。

「通信技術の発達で、気が休まる暇がなくなった」

――こうした動きが活発化したきっかけは何かあるのでしょうか?

(青山学院大学法学部の細川良教授)一つは通信技術の発達です。昔は、職場を離れたら電話でしか連絡できなかったので、職場を離れれば仕事から解放されるということになりましたけども、今はメールやチャットツール、いつでもどこでも連絡できるようになってしまった、気が休まる暇がなくなったことが一つの大きな背景だと思います。

 フランスとかイタリアが、繋がることを禁止をするのではなく、実際にどういう運用するのかを、企業と労働者で協議してやり方を決めてくださいとしたのは、結局、現場の実情に応じたルールを作らないと、全く機能しないことが予想されるからです。

 フランスの調査では、管理職の7割ぐらいがバカンス中にもメールなど業務上の連絡を取っているというデータが出ています。ただ同調査で、休み中に仕事の連絡を取ることで、家庭の関係が悪くなったと回答している人も7割ぐらいいるというデータもあるんです。

休日に「全員CC、一斉メール」していませんか

――日本の現状です。「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡が来ることがある」と答えたのは72.4%、コロナ前より8.2ポイントアップしているということです。そして、「繋がらない権利によって、勤務時間外の連絡を拒否できるのであれば、そうしたいと思う人」が72.6%と高い水準です。

――では、繋がらない権利を実現するためにはどうすれば。細川教授に聞きますと、そもそも「権利の目的は、『労働者の健康』、『生産性の向上』で、これを果たすためには法律がなくても、他にできることがあるのではないか」と。まずは企業側・労働者側とも意識改革が必要だということです。

 例えば休日なのにCCに全員を入れたりしていませんか?「無駄なメールをやめましょう」「一斉送信してませんか?」「連絡して大丈夫な休日」、「絶対にしないで欲しい休日」を設定するのはどうかというお話です。そして、「生産性の向上」は、自分の仕事に集中するために勤務時間内でも繋がらない時間を作るべきだです。

仕事が滞ってしまう可能性は?細川教授「日本の方がうまくいく可能性」

(青山学院大学法学部の細川良教授)フランスで繋がらない権利が議論されたときに、一番大事なのは『意識改革』で、啓発とか教育が一番大事だと言われていました。やはりどうしても仕事が優先で、ついついやってしまうということがあるので。

 そういう考え方をまず変えていくのが大事だということ、もう一つ大事なことは、フランスでは技術が発達して便利になったはずが、そっちに振り回されて、かえって効率がおかしくなっていることはよくあるので、技術の革新に向き合って、より良い働き方を目指しましょうという考え方を持つことが大事なのかなと思っています。

――仕事が滞ってしまう可能性もあるのではないかという指摘に関して細川教授は、「欧米より日本の方がうまくいく可能性がある」ということです。欧米は個人個人で仕事をきっちり分ける、日本は同僚の仕事をフォローする感覚が根強い。こういう国民性もあって滞ってしまう可能性はちょっと低いんじゃないかということです。

(青山学院大学法学部の細川良教授)日本の方がそういう意味ではフォローの仕組みさえ作ってしまえば、うまくいくと思います。それからやっぱりルールを作らないと、『声を上げた人だけ得をする』ということになってしまいがちなので、公平感を確保するためにも、法律である必要は必ずしもないと思いますが、各企業内でのルールを作って、同じように行き渡るようにする発想が大事だと思いますし、消費者も含めた意識改革が大事だというのも、全くおっしゃる通りだと思います。(2024年3月5日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

 ◎細川良:青山学院大学法学部教授 労働法が専門で「つながらない権利」に詳しい