大阪の西成を守る“精鋭部隊”を知っていますか?西成警察署長の直轄部隊、通称「マルタイ」です。大阪府警のほかの警察署にも署長直轄の部隊がありますが、西成署は最大規模。街の治安を守る活動に密着しました。
定期的に暴動対策の訓練を行う『マルタイ』
大阪市西成区の「あいりん地区」。最盛期には2万5000人もの人で賑わった「日雇い労働者の街」として知られています。同時に、高齢化や貧困といった問題を抱える場所でもあります。
あいりん地区では、1960年代以降、労働者らによる暴動が何度も起きました。鬱積した労働者の怒りの矛先は警察に向けられ、動員された警察官からも多くの負傷者が出る事態となりました。
西成警察署は、あいりん地区の真ん中にあります。屋上では、定期的に暴動対策訓練が行われています。暴徒に扮する男らに、隊列を組んで毅然と立ち向かう警察官たち。署長直轄の精鋭部隊、通称「マルタイ」です。
大阪府警のほかの警察署にも署長直轄の部隊はありますが、マルタイは最大規模です。そのマルタイにとっても、今年は例年とは“少し違う”といいます。
(大阪府西成警察署 西平隆署長)「大阪・関西万博が開催され、西成にも多くの観光客が来られると思います。そういった方に安心して楽しんでもらえるように、あいりん地域の治安対策を後戻りさせないために、西成警察が一丸となって警戒に取り組んでいるところです」
万博の開幕まで2か月を切った大阪。訪れる外国人観光客は増えていて、去年は過去最多となりました(※大阪観光局の推計)。西成区は立地の良さや宿泊料金の安さが人気を呼び、今や外国人観光客を目にすることが多いエリアです。
(カナダからの観光客)「地下鉄で街の中心部に行くことができて(価格も)高くなくてすばらしい場所です」
(ホテルの広報担当者)「60%以上が外国人のお客様です」
パトロール中に路上で倒れている男性を発見
マルタイの活動の基本は、パトロール。安全を守るため、街を練り歩き、目を光らせます。警戒中、路上で倒れている男性がいました。
(隊員)「どないしたん?こんな寝方してたら危ないよ」
(隊員)「血出てるやん」
(隊員)「救急呼ぶで?」
(男性)「おおきに」
(隊員)「救急呼ぶで?」
(男性)「呼ばんでもええて」
酒に酔い、頭に軽いけがをしていた男性。救急隊が処置をしたあと、警察署で保護されました。
(隊員)「休憩するだけ、逮捕ちゃうから。安心して、大丈夫」
「薬物関連の事犯は、この地域ではまだまだ後を絶たない」
パトロール中、隊員の様子を気にする女が目に留まり、声をかけます。
(隊員)「持ってるもの全部確認させてもらってもよろしいですか?ここら辺に住んでいるんですか?」
(女)「すぐそこですね」
隊員との会話に笑顔で応じる女。腕を確認すると、いくつかの傷が見つかりました。
(隊員)「(腕に)線いってません?プツーって」
(女)「ひっかいて治すときに、赤くなるじゃないですか。その傷です」
(隊員)「これ?」
(女)「うん」
隊員が不審を抱き、さらに追及します。
(隊員)「尿検査とか協力してもらったことない?」
(女)「ないです」
(隊員)「今までに薬物とかで捕まったことはありますか?」
(女)「ないです」
(隊員)「もし何もなかったらすぐ終わるから」
(女)「え、私何もやってない」
女は任意同行に応じようとせず、自宅へと歩き始めました。職務質問を始めてから約3時間、女は自宅を出て西成署へ。任意での尿検査の結果、覚醒剤の陽性反応が出たため、緊急逮捕となりました。
(大阪府西成警察署 澤田崇志直轄警察隊長)「やはり薬物関連の事犯というのは、この地域ではまだまだ後を絶たないので取締り強化しているところです」
西成署管内では『不法残留』の事案が増加傾向に
マルタイが次に声をかけたのは、街を歩いていた20代の外国人の男です。西成署管内ではここ数年、不法残留の事案が増加傾向にあり、警戒しているといいます。
(隊員)「在留カードを持っておかないといけないというのは知ってる?」
(男)「はい」
(隊員)「家にあるの?家にはないの?」
(男)「家?ない」
(隊員)「会社に在留カードがあるの?」
(男)「はいはい」
(隊員)「会社にあるの?」
(男)「はい」
男の話が二転三転したことなどから、警察署で詳しく事情を聞くことにしました。
(隊員)「西成署にきてくれる?」
(男)「なに?」
(隊員)「西成署、西成ポリス、きてくれる?」
(男)「はい」
結局、男は在留カードを所持しておらず、捜査を進めた結果、不法残留の疑いで逮捕されました。
来たる万博を前に、さらに警戒を強める大阪府警最大の署長直轄隊「マルタイ」。いまや世界中から人が集まる街の治安を守るため、きょうも回り続けています。