「神経認知機能の強化トレーニング」という意味の英語を略して「コグトレ」。これは子どもの学びの土台を作る新トレーニング法だといいます。いったいどのような方法なのでしょうか、取材してきました。
認知機能を伸ばすトレーニング「コグトレ」とは?
大阪府吹田市にある「コグトレ塾」。勉強が苦手だったり、集中力がなかったりする児童らが集まっています。ただ、塾で教えているのは国語や算数などの勉強ではありません。
画面に並んだ数字を記憶して書き写したり、点と点をつなぎ合わせて図形を模写したりする課題など、一見遊びのようにも見えますが、去年1月に立ち上げてから、これまでに計88人が通いました。
(コグトレ塾・責任者 長谷川佳代子さん)
「すべてコグトレのシートを使っています。学習の土台を支える、鍛える塾」
学習の土台を築くという「コグトレ」。考案したのは立命館大学で発達障がいや精神医学などを研究する宮口幸治教授です。
(コグトレを考案した宮口幸治教授)
「記憶・言語理解・注意・知覚・推論判断。こういうところをトレーニングする」
学習能力は「見る力」「聞く力」「注意力」「記憶力」「想像力」の5つの認知機能が土台にあり、どれか1つでも欠けると学習に支障をきたすといいます。コグトレはこれらの認知機能を伸ばすトレーニングとして、考案されました。
「見る力」を養う問題。見本の図を点をつないでそのまま書き写すというものです。
(宮口幸治教授)
「簡単にできそうと思うんですけれども、できる子とできない子の差がすごく激しい。“できる”ということは漢字をしっかり見て覚えられる。これが“できない”のに漢字は覚えられない」
次は「注意力」。多数の記号の中から特定の記号にチェックを入れてその数を答える問題です。
(宮口幸治教授)
「正解は54個だが、数えられない子がかなり…半分くらいの子は正確に数えられません」
こうした課題は30種類以上あり、トレーニングを重ねることで認知機能の向上が期待できるというのです。
8か月の「コグトレ」 子どもの変化と母親の気づき
コグトレでどう変わるのか。吹田市の「コグトレ塾」に通う小学3年のしゅう君。2年ほど前に行った検査で軽度の知的障がいとわかりました。そこで、去年9月からコグトレを始めたところ…。
(母 ゆうこさん)
「複雑な図を最初は全くわからなかった。8か月後、最終的にはきちんとかけていて、これだけ書けるのはかなりの成長だと思っています」
「見る力」が身について、形を捉えることができるようになったからか、トレーニングを始める前はバランスが悪く、いびつだった漢字も、いまではキレイに書けるようになりました。
(母 ゆうこさん)
「だからこの子はこういうことができなかったのかなとか、だからこういうふうに言ってもわからなかったんだなとか、私たちの見え方でしか子どもを測れていないと思いました。こういう力(コグトレ)を借りたら、きっとうちの子もできることが増えるんじゃないかなという、自信というか、子どもを信じることができるようになった」
「医療少年院での勤務経験」が考案のきっかけ
宮口教授がコグトレを考案したきっかけは医療少年院での勤務経験でした。
(宮口幸治教授)
「簡単な図形も写せないとか、短い言葉を言っても復唱できない、聞き取れないとか、被害者の気持ちを想像することが全くできない子たちがいっぱいいまして。教育以前の子たち。非行の原因にもつながっている気がしたんですね」
宮口教授が書いたベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書刊)に出てくる丸いケーキを3等分する問題。少年たちが3等分できなかったのは『認知機能の歪み』が一因だと考えたのです。
(宮口幸治教授)
「(少年たちに)考える癖がついた。思いつくままに行動していた子たちが、『ちょっと待てよ』と考える。いままで親とか先生方に迷惑をかけてきたとふと気づくんですよ。考えたときに。それが大きいなと思いましたね」
「コグトレ」を取り入れる小学校 児童たちに変化は?
コグトレは小学校にも広がっています。大阪府和泉市の市立国府小学校。3年生のクラスでは授業のはじめに15分ほど使ってコグトレをします。点を繋いで図形を書き写すトレーニング以外にも…
(問題を読む先生)
「楽しそうにイチゴ狩りをしています」
先生が問題を読んでいる途中で、児童らが手を叩きました。これは、先生が読み上げる文章の最初の単語を記憶しつつ、文章のなかに「果物」が出てきたら手を叩く、というもの。これを繰り返して、「記憶力」などを鍛えていきます。
この学校では5年ほど前から全学年でコグトレを取り入れてきました。
(3年生の児童)「難しいけど、楽しいからずっとしたい」
(3年生の児童)「楽しいし勉強にもなる」
(国府小学校 井阪幸恵指導教諭)
「学習の元の力を整えてあげることで、学習の力を向上させてあげたいと思ったからです。当初は離席とか教室飛び出しとかもあった学校なんですけれども、いまは落ち着いてじっくり学習できる子ばかり」
“できない”の原因を見つけ可能性を広げる手段に
覚えられない、集中できないなど、子どもたちの“できない”の原因を見つけ、可能性を広げる手段になればと宮口教授は話します。
(宮口幸治教授)
「勉強できないということで周りの大人が『できなくてもいい』とか『そのままでもいい』とか、下手な慰めの言葉をかけて可能性をつぶしてしまうことがあるので、コグトレで弱いところ、伸ばせる可能性があるところを見極めて使っていければと思います」
(7月20日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『コダワリ』より)