今から8年前の2013年に「おもてなし」の精神を訴えるなどして招致が決定した東京オリンピック・パラリンピック。新型コロナウイルスの影響で、東京オリンピックに出場する各国の代表選手の事前合宿が中止となる動きが相次ぎましたが、十分な感染対策を取って受け入れることにした自治体もあります。コロナ禍のため、本来さまざまな形で行われるはずだった地元住民らとの交流も限定的なものになってしまいましたが、試行錯誤をして「おもてなし」をする人たちの姿を取材しました。

2人の陽性者が判明したウガンダ選手団 ホテルは「料理」でおもてなし

今年6月、日本にやってきたウガンダの選手団。しかし、うち2人の陽性が判明し、残りの選手団のメンバーは濃厚接触者となり、滞在先の大阪府泉佐野市内のホテルから出られなくなりました。自身も当時濃厚接触者となった泉佐野市の担当者は次のように振り返ります。

(泉佐野市 ホストタウン担当・高垣秀夫さん)
「最初、成田空港で入国されたときに陽性者がまず1人出てしまったので、『なんでこちらに連れてきたのか』とか苦情もいくつかあった」
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それでもホテルでは心を込めた「おもてなし」が行われました。選手たちを少しでも元気づけようとトウモロコシの粉を練った『ポショ』などウガンダ料理が振る舞われていたのです。

(ホテルニューユタカ 西隆代表)
「ウガンダの料理人がいらっしゃっていますので、その辺は安心してウガンダの選手方も喜んで食べています」
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地元住民らとの直接的な交流は叶いませんでしたが、最後は小学生が書いた感謝の手紙やタンブラーが手渡されるなどし、“いろいろあった”ウガンダ選手団は東京へと向かいました。

ニュージーランドのボートチームは琵琶湖で練習 学生らのおもてなしは「合宿の買い出し」

滋賀県大津市では、民間団体が中心となってニュージーランド代表のボートチームの事前合宿を受け入れました。
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選手らが琵琶湖でオールの感触を確かめる中、岸には学生の姿がありました。普段はこの場所でボートの練習をしている京都大学ボート部の奥田隆一さんです。世界の一流選手がやってくるということで一緒にボートを漕げると期待していましたが、感染対策で交流事業は中止に。遠くから眺めることしかできなくなってしまいました。
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(京都大学ボート部 奥田隆一さん)
「普段漕いでいる自分たちとの違いを見ています。もっと間近で選手に直接質問したり、実際に練習後どんなことしているのかとかをもっと間近で見たかったです」
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選手らは感染対策で滞在先のホテルと練習場所の往復しかできません。そこで、買い出しなどの合宿運営を奥田さんらボート部の学生がボランティアとして手伝うことになったのです。買い出しメモを見ると…。
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(京都大学ボート部 奥田隆一さん)
「アーモンドとかカシューナッツとかナッツ類がけっこう多いですね」
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洗剤などの日用品のほか、アーモンドなどの木の実が12kg分。日本では調達しにくいものもあり、スーパーマーケットを何軒もはしごして選手の要望に応えます。
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苦労して購入した日用品や食料品ですが、学生と選手は接触できないため、手渡しではなく、選手が練習から帰ってくる前にクラブハウスに置いて立ち去らなければなりません。
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奥田さんは地元のパン屋さん「パン工房『ROSETTA』」にも立ち寄りました。この店では選手をサポートするため、好みに合わせた特注のパンを作っています。

(パン工房『ROSETTA』の店主)
「2年前に選手が来られた時に『こんなパンがほしい』という感じで交渉があって、それに沿って作っている。すごく光栄です。自分の得意な分野でオリンピックにかかわれるのはすごくうれしいなと思っています」
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離れていてもエールを送りたい。地元の学校の生徒らも横断幕を用意して、岸から思いを届けます。

(地元の学校のボート部員)
「頑張って応援したので届いたかなと思います」
「初めて世界レベルの選手を間近で見たんですが、圧倒されました」
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コロナ禍で十分な「おもてなし」とはいきませんでしたが、ニュージーランドの選手たちはどう感じているのでしょうか。

(ニュージーランド代表 ケリー・ゴウラー選手)
「限られてはいるけれど、ここで助けてくれる人や外から支援してくれる人も含め、歓迎されていると感じます。皆さんベストを尽くして最高の環境を用意しようと動いてくれているので、コロナが落ち着いたらまた戻ってきて交流したいと思っています」

フランスの柔道選手団は姫路へ 地元の合唱団や吹奏楽団が「音楽」を届ける

一方、オリンピック3連覇を目指すテディ・リネール選手らメダリスト候補を多数抱えるフランス柔道選手団も関西に。総勢44人の大所帯の事前合宿地として選ばれたのが兵庫県姫路市でした。国内最大級の規模を誇る「兵庫県立武道館」を使って、練習を一般公開しました。
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地元住民らには体調チェックシートの提出を義務付けるなど、コロナ対策も万全です。感染リスクを避けるため、選手には近づけませんが、強豪チームの練習を食い入るように見つめます。

(地元の柔道部員)
「投げるときの迫力がテレビとは違うなと思いました。生で見られたことに感謝しています。(Q一緒に柔道やってみたい?)こわいっす」

また、こんな声も…。

「日本人よりも日本人らしいような挨拶とか礼儀。すごいなと思います」
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去年、国際大会の「グランドスラム」で優勝するなど、金メダル候補の1人と言われているロマヌ・ディッコ選手にも市民の歓迎が伝わっていたようです。

(フランス代表 ロマヌ・ディッコ選手)
「皆さんと交流できないことは非常に残念なことです。でも、姫路ですばらしい歓迎をしていただき、そのすばらしいサポートのお返しに来週メダルをとってお返ししたい」
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練習後、選手を乗せたバスが世界遺産・姫路城の方へ向かいました。練習場所とホテルの往復しか許されない選手たちに“寄り道”での「おもてなし」です。選手たちは車窓から姫路城の写真を撮るなどして姫路観光を楽しみます。
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その裏側で、姫路市は選手たちにふるさとを感じてもらおうと、市民が音楽を届ける「フランス祭」の準備に追われていました。実施にあたり何より重要なのが選手の体調管理です。会場のホールは入場人数を制限した上で、市民と選手のエリアを分けます。

(姫路市スポーツ振興室 後藤芳克係長)
「1階が一般のお客さま、2階がフランスの柔道選手団ということで、エリアを完全に分けることで感染症対策を取っています」
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また、舞台から距離がある選手たちからもよく見えるようにと、ホール内には5台のカメラを設置してプロジェクターに映し出すことにしました。

(姫路市スポーツ振興室 後藤芳克係長)
「今回はこのコロナ禍ですごく特殊な環境で滞在されることになります。楽しみを持つことがなかなかできないので、コンサートを少しでも楽しんでもらえて、ゆったり過ごしていただける時間を持ってもらえたらうれしいなと思っています」
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迎えた本番。コロナの影響で合唱や演奏の場が減っていた市民も気合いが入ります。

(演奏者)
「日本でオリンピックができることにちょっとでもかかわれてすごく幸せだなと思います」
「一番体調面を気をつけないといけない時に来てくれて、しかも子どもたちに会ってくれて、感謝の意味も込めて」
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練習を終えた選手たちが2階の客席に入ってきて、開演しました。地元の合唱団や吹奏楽団による音楽はいずれもフランスにゆかりのある曲を厳選しています。
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選手らはスタンディングオベーションで市民の思いを受け取りました。

(姫路市スポーツ振興室 後藤芳克係長)
「お見送りをさせていただいた時に『ありがとう』と皆さん手を振りながら言っていただいた。よかったです、本当に」
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コロナ禍でも「おもてなし」の心は距離や国境を越えたようです。
(2021年7月22日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『コダワリ』より)