大阪市西成区で暮らす92歳の男性は、10代の時に自分が同性愛者であると気づきましたが、家族や親しい友人には長年打ち明けられず、ずっと本当の自分を隠しながら生きてきたといいます。しかし、3年前に西成区で活動する紙芝居の劇団と出会い、自身が同性愛者であることを打ち明けることができるようになりました。その男性の今を取材しました。

92歳の長谷忠さん 出会った劇団で同性愛者であることを打ち明ける

92歳の長谷忠さん。大阪市西成区で活動する紙芝居の劇団「むすび」に参加しています。「むすび」ではメンバー全員がそれぞれ役を演じながら台本を読んでいきます。
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(台本を読む長谷さん)
「お酒もどうぞ、おじいさん乾杯しましょうよ」

長谷さんが演じるのはいつも女性の役です。
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(長谷忠さん)
「女性の役割をやっているのは、性にあっているのよね。だいたいみんな認めてくれている」

長谷さんは同性愛者です。しかし長年その事実を隠し続けてきました。
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(長谷さん)
「ぼくは『おかま』なんですよ。同性愛者ってわからんか知らんけど、割といてるんですよね。だけど黙ってるんですよ、普通はね」

長谷さんは3年前に偶然「むすび」の紙芝居を見て、生き生きと役を演じる自分と同年代の人たちの存在を知りました。『隠し事をせずにこの人たちと残りの人生を楽しみたい』。そう思った長谷さんは同性愛者であることをカミングアウトしました。
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(長谷さん)
「黙ってたらな、おもろないで。黙っておられへんよ、ここに来たら。他のところはそんなところないやろ。「むすび」は発達しているねん」

10代の頃に同性愛者と気づくも家族や友人に打ち明けられず

長谷さんは1929年に香川県で生まれました。高等小学校を卒業するころに男性の先生を好きになり同性愛者だと初めて気が付きました。しかし当時は『同性愛は病気』として扱われていたといい、長谷さんは家族や友人には打ち明けられずにいました。
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戦後は倉庫作業員や清掃員など11もの仕事を転々としました。しかし長年、自分が同性愛者であることは隠し続けて、好きな男性に思いを告白することもありませんでした。そんな長谷さんを受け入れてくれたのが「むすび」だったのです。
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長谷さんは今、西成区にあるマンションの一室で一人暮らしをして、年金生活を送っています。元々は大阪府東大阪市に住んでいましたが、「むすび」の活動に参加しやすいように引っ越してきました。
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部屋の壁には1人の男性の写真がありました。
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(長谷さん)
「この写真は新聞に載っていたんだけど、この人の顔がええ顔で好きなのよ。これは明治時代の大臣か、それとも昭和か知らんけど、名前がわからへん。せやけどこの人の顔ええやろ?」

ずっと愛してきたのは男性。それだけに「むすび」で女性の役を演じているときに“本当の自分”になれたように感じたといいます。
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(長谷さん)
「男は男だけど男になれないのよね。どっちかっていうと『半分男で半分女』そういう生活をしていたのよ。今のむすびの場合だったらみんなわかっている。私がゲイであること、女ではないけど女装して踊ったりするでしょ。それはみんなが認めてくれている」

リモート公演に向け役作り励む長谷さん 仲間もサポート

取材の日、長谷さんは10日後の7月10日に行われる紙芝居のリモート公演の本番に向けて役作りをしていました。今回披露するのは昔話「おむすびころりん」をもとにした紙芝居です。長谷さんの役はモンローという名の女王ネズミの役です。劇団の仲間も長谷さんの役作りをサポートします。
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(むすびの劇団員)「長谷さん今度は何着るの?」
   (長谷さん)「着るの?」
(むすびの劇団員)「なんか持ってこようか?ちょっと派手なん」
(むすびの劇団員)「女王やからね。派手なのがいいね」
   (長谷さん)「そんなん持ってへんもん」
(むすびの劇団員)「今度、私のを持ってくるよ」
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「むすび」の代表である石橋友美さんは、長谷さんをはじめ、参加する全員に自然体での魅力を発揮してほしいといいます。
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(紙芝居劇むすび・マネージャー 石橋友美さん)
「長谷さんも若いころにおしゃれとかもしたかったと思うんですけど、いろいろ環境的にできなかった部分もあるでしょうから、私たちも長谷さんを飾り立てたい。むすびは、そういう皆の個性とかやりたいこととか、その人らしく輝けるようにありたいなと思っています」

迎えたリモート公演の本番 長谷さん「100点だった」

本番の日。仲間が準備してくれた衣装に着替えた長谷さん。メイクもしてもらえるとあって少し緊張気味です。
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大学生たちに向けたリモート公演が始まりました。以前は自信なさそうに演技をしがちだったという長谷さん。この日は違いました。
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    (長谷さん)「私ネズミの国の女王です。名はモンローといいます」
 (むすびの劇団員)「あんたが女王様か。色が白くてなかなかきれいじゃのう」
    (長谷さん)「当たり前じゃ、恥ずかしい」
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自分を表現できる衣装を身にまとったことで自信を持って演じ切りました。長谷さんは今、自分らしくいられる居場所を見つけました。
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(長谷さん)
「(Q本番はどうでしたか?)良かったですよ。(Q何点ですか?)100点。とにかくむすびが僕の生きる場所やから。むすびは本当にうれしいところ。楽しいところ。ここで終わるの僕の人生は」


(2021年8月3日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『コダワリ』より)