殺人などの罪で起訴された青葉真司被告の初公判が9月5日に始まりました。5日午前の様子を時系列で振り返ります。

【午前8時15分】青葉真司被告 京都地裁へ

大阪市都島区にある大阪拘置所から数台の車が出た。先月31日の公判前整理手続きに出席した青葉真司被告が乗車した時と同じ車列だ。午前10時半に開廷が予定されている京都地裁での初公判に向けて、青葉真司被告が乗っているとみられる。

【午前8時30分】異例 京都御苑に行列

同じころ、京都は異例の光景となっていた。裁判の傍聴席を求める人の列が、通常行われる京都地裁の敷地内ではなく、隣接する京都御苑富小路広場にできていたのだ。35席用意された一般傍聴席に500人が並ぶ、約14倍の倍率だった。傍聴整理券はリストバンド型で、当たった本人のみが傍聴できるルールだ。

並んでいた中には、「悲惨な事件だったので裁判過程を知りたくて来た」と話す法学部の大学生や、「裁判傍聴はほとんど来たことがない」と話し、行列の多さに驚いていた事件現場近くの住人がいた。その中に、京都アニメーションのファンだという若い男性も。

「自分は過去、引きこもりになっていたときにCLANNAD(2007年の京アニ作品)に救われて、家を出られるようになった。いまここにいられるのは京アニの作品のおかげ。青葉被告も、小説を送っていたぐらいだから、京アニのことが好きだったのだと思う。その初心を思い返して、なぜ事件を起こしてしまったのか自分の言葉で真剣に語ってほしい」

裁判にあたり、一般の傍聴人は廷内へのスマホや録音録画機器、傘やバインダー、飲み物などの持ち込みが禁止された。そして金属探知機で検査される厳しい管理体制の中で裁判準備がすすんだ。

【午前10時20分】「(青葉真司被告を)見ないといけないなというのが正直な気持ち」裁判に向かう遺族 車中で語る

事件で犠牲となった京都アニメーションの社員ら。寺脇(池田)晶子さんの夫が、京都地裁へ向かう車中で、事件から4年と、裁判への思いを語りました。

ーー初公判当日を迎えた 今の気持ちはいかがですか。

「やっと、やっと始まったかなっていうのが。あとはちょっとこの後どう進んでいくのかというのが心配はあります。きちっと見て聞いていかなあかんな、という気持ちですね」

ーー心配している部分は。

「やっぱり青葉さん(被告)が、きちっと答えてくれはるのかなというのが心配ですね」

子どもに聞いてきてと言われている『何でこんなことしたん?』って

ーー事件発生から4年という歳月が流れたが長かったか、それとも短かったか。

「正直4年と言われると長いなっていう印象ですけど、実際、感覚的には短かったかな。あっという間の4年間やったなって。もう毎日のことに追われていく日々だったので。実際は短く感じたかな」

ーー法廷で、青葉被告の姿を実際に目にすると思うが、それについては。

「姿を見てか、何ともですね。見ていろんなことを思って考えるんだろうなって思いますね。見たいとか、見たくないじゃなしに、見ないといけないなというのが正直な気持ちかな」

寺脇(池田)晶子さんの夫は、被害者参加制度を使って、裁判に参加する予定です。

ーー裁判を通じて青葉被告に一番聞きたいことは。

「子どもからも聞いてきて、って言われていることでもあるんですけど、『何でこんなことしたん?』って。それと可能なら、反省しているのかどうなのかっていうことも聞きたい」

【午前10時30分】厳重警備の中、初公判がはじまった

裁判が始まる直前、傍聴席と被告人席の間に8枚の透明なアクリル板(パーティション)が設置された。

関係者によると”法廷警備”のためだという。そして開廷前に裁判長が「発言したり立ち上がるなど審理の妨げになるような行動はしないで下さい。その場合は退廷していただきます」と述べたあと、青葉真司被告が法廷に現れた。

青葉被告は、背もたれの高い車いすに座り、上下青色の長袖ジャージ姿、頭は丸刈りで、顔にはマスクをしていた。

入廷の際、傍聴席はシーンとした空気に包まれた。事件後、全身を大やけどしていた青葉被告だが、傍聴席から見える場所に、包帯などはしていなかった。

【午前10時45分】「事件当時はそうするしかなかったと思っていて、たくさんの人が亡くなるとは思っておらず」起訴内容を認める

罪状認否で青葉被告は、書面を読み上げた。

「起訴状に書かれていることは、私がしたことに間違いありません」「事件当時はそうするしかなかったと思っていて、たくさんの人が亡くなるとは思っておらず・・・」

声は小さく、裁判長に聞き直しされる場面もあり、被告は同じ内容を2度読み上げた。そして、やけどの影響で固まっている5本の指でペンを持って署名した。

弁護側は、事実関係については争わないとしたうえで、こう主張した。

「責任を問えるか、責任能力の有無については争います。青葉さんは犯行当時、よいことと悪いこととを区別する能力、犯行を思いとどまる能力の両方か、いずれかが著しく減退していて、心神喪失で無罪であると主張します。無罪でないとしても、責任能力が著しく損なわれており、心神耗弱で刑を半分に減軽されるべきです。」さらに、「建物の構造が影響している可能性がある」とも話した。

【午前10時50分】検察側は「完全責任能力はあった」

続く検察側の冒頭陳述。「精神状態が犯行に影響したとのではなく、被告のパーソナリティが現れたもので、完全責任能力がある」と主張した。

検察側は「被告は京アニ大賞に、自分の小説を応募するも落選させられ、それを盗用されたと一方的に思い込んだ。被告の自己愛や人のせいにしやすいパーソナリティから、自分ではなく京アニが悪いと思い込んで犯行に及んだ」と筋違いの恨みによる復讐だと主張した。

続いて、青葉真司被告の幼少期からの経歴や本人のパーソナリティの形成に触れながら説明していく。

それによると、青葉被告は9歳で両親が離婚、父親による虐待や貧困による転居、引きこもりを経験。検察は、『独りよがりで疑り深いパーソナリティになった』と主張、その後、定時制高校を皆勤で卒業した経験から、『努力して成功した』と思うようになったとしている。

そして青葉被告は30歳になるまで、8年間コンビニでアルバイトしている中で、店長に仕事を押し付けられて辞め、『うまくいかないことを人のせいにしやすいパーソナリティが形成された』とした。

その後、「京アニ」制作アニメに感銘を受けたことをきっかけに、人とかかわらず身を立てられる小説家を志し、ライトノベルの小説を書き出したといい、37歳~39歳で京アニ大賞に応募するも、”10年かけた渾身の力作・金字塔”が落選したことで、被告は京アニや、ある監督に落選させられたあげく、作品を盗用されたと思い込んだ、と主張していった。

事件直前については、「自分はうまくいかないのに、スターダムをかけあがっている京アニと監督に対して筋違いの恨みを持った」といい、京都へ向かって、京アニと監督に対し、ガソリンをまいて殺害するという復讐計画を決意、他の従業員も連帯責任だと思って、最も多くの従業員が着席する午前10時に放火することを決めたというのだ。

そして裁判は、証拠調べに進んでいく。