被告人質問の2日目、30歳ごろからの青葉被告の生活実態を弁護人が聞いていく。仕事を何度も辞めるなど不安定な生活が続く中で、政府の国務大臣に直接メールを送ったことも明かされた。その後、京都アニメーションの作品をきっかけに「小説で身を興そう」という考えに向かったという。そして青葉被告は、インターネット掲示板に書き込む中で、ある女性監督への恋愛感情、さらに「闇の人物」の存在について語った。『事実か妄想か』そういった説明はなされないまま、具体的なエピソードが次々と明かされる。

《派遣をやめた4つの理由 大臣に直接メール》

弁護人:「(3回目の)派遣を辞めた理由を聞いても?」
青葉被告:「間違いなく、派遣切りが来るとわかっていた。主に4つの理由があります、まず第一にリーマンショックが来るだろうとわかっていたからです。」

青葉被告は、仕事を辞めた4つの理由について順に語る。2つ目は「当時勤めていた工場(外資系)の支社長が『この工場だけは残す』と発言したのを聞いて、派遣切りが起きると思った」ためで、3つ目は朝のTV番組で、「ある日から日本国債の利回りが追加された」のを見て「日本は破綻すると思った」から。4つ目は2008年の自民党総裁選の候補の発言を聞いて「最後の段階まで来た、日本の財政破綻が起きる」と思ったから。こうした理由で自ら仕事を辞め、そして、当時の大臣に対してメールを送ったという。

弁護人:「どんなメールですか」
青葉被告:「『国民はたぶん気づいていないですよ、財政破綻すればあなたは大臣も議員の職も失う、辞任すれば助かりますよ』とメールしました」。その後も弁護人は、別の政治家や、別の事件、あるいは総理大臣の行動と、青葉被告のメールとの関連について、何度も質問した。

《昼夜逆転の生活の中で、京アニに出会う》

30歳、郵便局を3か月で辞めて生活保護を受給。昼夜逆転の生活の中で、京アニの作品を見て小説を書き始めたという。

弁護人「なんという京アニの作品?」
青葉被告「ハルヒ(涼宮ハルヒの憂鬱)」
弁護人「そのときの目標って?」
青葉被告「実力さえあれば、何かにつくしかない、全力を出せばと、それで書き始めた」

自身の小説を送ろうとしたのが、従来からあるコンテストではなく、当時立ち上げたばかりの「京アニ大賞」だった。なぜ京アニだったのか。「下りのエスカレーターでなく、『上りのエスカレーターに乗りたい』と思ったからだという。

弁護人「京アニは上りだったのか?」
青葉被告「立ち上げたばかりで前例がないので、ある程度意見を出せるはず。自分で前例や「足あと」をつくっていけると考えた」「おそらくここでなら最高のアニメがつくれる。最高の物語が作れる」

《ある女性監督との“やりとり”》

 その後、作品応募前に、京アニの噂を知りたいと、ネット掲示板「2ちゃんねる」を見るようになった青葉被告、そこに、京アニのある女性監督が投稿しているのではないかと、思うようになったという。そして好意的な感情を抱いたというのだ。
弁護人「好意的な感情とは具体的にどんな?」
青葉被告「はっきり言って恋愛感情です」
弁護人「LIKEかLOVEかでいうと?」
青葉被告「LOVEであります」

その後、自身の小説を送りたい、などネット上で好意的に「やりとりをした」という青葉被告だったが、途中からケンカが増えて「自分の過去の犯罪を知って『レイプ魔』と言われた」などとネガティブな感情に変わったという。青葉被告は「京アニが探偵を雇って過去の犯罪歴を調べた」と思ったそうで、「犯罪歴を知っているってなると、小説を京アニに送れないし、小説も書けない」「作家で食べていけないので、犯罪した人ばかりしかいない刑務所に行ったほうがいいと思って犯罪をしようと思った」と、コンビニ強盗をしたというのだ。

《闇の人物”ナンバーツー》

さて、これまで弁護側は冒頭陳述で、「青葉被告の人生をもてあそぶ『闇の人物』が、京アニと一体となって嫌がらせをしてきたため、その反撃として 事件を起こした」と主張しているが、被告本人から「闇の人物」に関する言及があった。

青葉被告の説明によると、闇の人物とは「ナンバーツー」という人物で「ハリウッドやシリコンバレーに人脈があり闇の世界に生きる」人物だというのだが、青葉被告は強盗事件で服役していた刑務所で出会ったのだという。刑務官から「あの人がナンバーツー」と紹介を受けたといい、当時の印象を「何なんだろうと思った」と話した。

弁護人「ナンバーツーに会ったことは?」
青葉被告「一度だけチラッと見た。刑務所の中に紛れ込んでいた。」
弁護人「どんな人?」
青葉被告「刑務官に『あの人がナンバーツーです』と。」
弁護人「どんなことしていたの?ナンバーツーは。」
青葉被告「ナンバーツーが歩いてきて、刑務官に『よろしくお願いします』と頭を下げていた」
ただ、弁護側が主張していた犯行動機につながる話は出ず、「ナンバーツー」が青葉被告にどのような影響を与えたかなどについては分からないままだ。

《アニメを見て「パクられた」》

 これまでの裁判で検察側は、京アニの3作品について青葉被告の小説と「辛うじて類似」とされるシーンを公開している(Free!、けいおん!、ツルネ)。被告人質問で、弁護側が映像を当該映像をモニターに映し、青葉被告に尋ねた。

青葉被告:「自分の一番最初の小説の部分です。「このままだと留年だぞ」というシーンがあるんですが、けいおんの映画版に「私留年したよ」というシーンがある。そのシーンをパクられたのではないかと思いました。」
弁護側「青葉さんが長編小説を応募した翌年の3月5日、Free!の第9話が放送されます。見た時にどう思った?」
青葉被告「またパクってんのか、と思いました」
弁護人「パクられた、という認識について、“間違いなくパクられた“のか、それとも“パクられたのかな?“どちら?」
青葉被告「当時は、『パクられたのかな?』という認識でした。」
弁護人「確信はなかった?」
青葉被告「当時はありませんでした」

初公判の際は、消えそうな小さな声で何度も聞き返されていた青葉被告だったが、この日は饒舌に自身のことを語っていた。弁護側の被告人質問は13日にもあり、14日以降は検察側の質問、さらに被害者参加している遺族が直接質問する予定となっている。