京アニ裁判は、9月19日、7回目となった公判でも被告人質問が続いている。19日は、青葉被告が小説を書き始めた当時のことから質問が始まった。
うまくいかない時は「ハルヒの本をぶん投げた」
19日は、青葉被告が小説を書き始めた当時のことから質問が始まった。
検察官「小説を書き始めたきっかけとなった『涼宮ハルヒの憂鬱』をテレビで見たときの感想は?」
青葉被告「それまでは『ネットゲームよりも面白いものはない』と思っていたが、ハルヒのアニメを見て『今時こんなすごいアニメはないだろう』と驚きました。ネットゲームに並ぶほどの面白さで、すごいと」
検察官「ハルヒの文庫本は読みましたか」
青葉被告「大人買いしました。10冊ほど出ていたものを2日くらいで全部読みました」
検察官「感想は?」
青葉被告「なんとか自分でも書けないかと。当時は仕事もしていなかったので、それなりの小説ができれば、仕事も解決すると。初期衝動が強くて、衝動そのまま小説を書こうと」
小説の執筆に際しても、「ハルヒの文体を真似ていた」という青葉被告。24時間365日小説のことを考え、内容に満足が行かないと削除するなど、何度も推敲を重ね”渾身の小説”を書き上げていった。
しかし、一方で。
検察官「うまくいかないときは?」
青葉被告「ハルヒの本をぶん投げて『書くのやめてやろう』という時期がありました」
検察官「投げたらどうなった?」
青葉被告「壁にあたってバラバラになったのが1冊、森に投げたのが2冊、そのまま残ったのが2冊。(ハルヒの文庫本は)6回くらい買いなおしているはずです」
小説のアイデアは“フリースクール・刑務所での経験”から
当初から「小説のアイデアをパクられた」と主張している青葉被告に対し、小説のアイデアがどこから着想を得ているのか、検察官から質問される場面があった。
青葉被告のペンネームや、登場人物、セリフなどについて実際に例を挙げ、検察官が立て続けに質問していく。
検察官「長編小説『リアリスティックウェポン』の作者名(ペンネーム)はなぜこの名前に?」
青葉被告「昔一緒にクリエイターを目指していた人が『スクエアエニックス』という会社でCGグラフィッカーになり。自分がクリエイターになれなかったことに納得行かず、その人の名前を1文字変えて自分の名前にしました」
検察官「登場する先生にモデルは?」
青葉被告「(不登校のときに通っていた)フリースクールの先生。自分は勉強嫌いだったが、”勉強は覚えるものじゃなく、疑問に思ったことへの解決策だと思い、勉強し始めたきっかけになった先生です」
検察官「主人公のモデルは?」
青葉被告「シーンのモデルになったのは、埼玉県庁の文書課時代の職員」
検察官「ガソリンと軽油の違いに関するセリフは?」
青葉被告「ガソリンと軽油の主成分は同じだと思っていましたが、ネット上で調べて『違う』と知って書きました」
検察官「短編小説の主人公、『仲野智美』にモデルは?」
青葉被告「喜連川(刑務所)時代に聞いていたラジオDJの名前を文字った名前です」
検察官「タバコに関するセリフは?」
青葉被告「コンビニバイト時代、タバコを吸う先輩に『タバコと合わないものは?』と聞いたら、『牛乳は合わない』と言われたのが印象に残って、それを推理モノに入れました」
検察官は、青葉被告の小説について、自分で調べた文献やインターネットでの情報、また青葉被告自身の経験・知り合いが”アイデアの元”となっていることを確認した。
小説を「1つの中に詰め込むのはどうかと」
小説を何度も書き直すうちに、書き始めていた頃とは”全くの別物”になっていったという。当初は「軍人」が主人公だった作品も、ハルヒや京アニ作品の影響を受けてか、「学園モノ」へと変わっていった。
青葉被告は京アニ大賞に長編と短編の2作品を応募しているが、2つは元々は1つで短編小説は長編小説のなかから独立させて作ったということも明かされた。
その理由について青葉被告はー。
青葉被告「1つの中にそれだけ詰め込むのはどうかと。京アニに送るとなると、グッズを売ったりされるので、1つの作品だと1つしかグッズ売れないけど、2つ送れば2種類のグッズが作れると思いました」
小説落選…京アニへの“恨み”10年間溜めたネタ帳燃やす
“京アニで自身の小説がアニメ化される”という夢を、現実的に考えていた青葉被告。しかし、そんな思いとは相反して小説は落選し、京アニへの恨みが募っていくことになる。そして青葉被告はその後、京アニや小説と関わりを断つため”10年間アイデアを書き溜めていたネタ帳”を燃やし、小説と決別を図る。
検察官「あなたにとって、『小説家になれない』『小説がなくなる』というのはどういうことを意味していた?」
青葉被告「恋愛なんかもそうだと思うんですけど、一度くっついていたものを引きはがすのは、失恋に似たものがあるというか、離れるのに難儀した覚えがあります」
希望が持てなかったという自身の人生の中で、小説は「一筋の希望」だったと話した。しかし、小説のネタ帳を燃やしたことが、青葉被告の凶行へと繋がる1つのきっかけとなる。
青葉被告「小説のアイデアを全部燃やしたときに、何かしらつっかえ棒がなくなった感じはしました」
検察官「つっかえ棒がなくなるとどうなるんですか?」
青葉被告「ヤケになるようなところがあって。ちゃんと真面目に生きるための”つながり”みたいなものがなくなってしまうので、良からぬ事件を起こす方向になります」
そして、”盗作された”ことによってこのとき抱いていた憎しみの感情は、ネットの掲示板への書き込みにも現れる。
▼青葉被告の書き込み
「今度は殺人もありだな」
「裏切者やパクった連中は絶対許さない」
「人からされたことは人に返して良い それがルールだし礼儀」
前科がついて「良心がなくなった」
青葉被告が窃盗事件で有罪判決を受けたことにも質問が及ぶ。
検察官「前科がついたことはどう受け止めた?」
青葉被告「前科が無ければ悪いことをしようと思いませんが、一度つくと『もういいか』となり、何かのタガが外れて、自分を支配していた良心が無くなった気がしました」
強盗事件の精神鑑定書から見える事件の”予兆”
一方、京アニ事件を起こす7年前の強盗事件で受けた精神鑑定での発言についても言及された。MBSはこの精神鑑定資料を独自に入手していて、そこには京アニ事件の予兆ともとれる発言が記されている。
▼鑑定書の青葉被告
「無差別殺人を考えたりするが、最後で歯止めがあり」
検察官「この『最後の歯止め』とは何か」
青葉被告「小説だと思います。小説への思いがどこかにあり、つっかえ棒となっていたと思います」
▼鑑定書の青葉被告
「(仕事を)クビになったときは、(離婚した)母を、兄も含めて、ガソリン撒いて燃やしてやろうかと」
この発言については、「真面目にやっていても邪魔しか入ってこないので」と説明した。
京都では”警察の公安部”の監視はなかった
一方で、これまで「警察の公安部に監視されていた」と主張してきた青葉被告。
19日、検察官から「京都に来てからも公安に監視されている感じていたか」尋ねられると、「京都に着いてから監視はない。監視されていたら犯行できなかった」と述べた。
検察側はこれまで「精神状態が犯行に影響したのではない」と完全責任能力を主張しており、青葉被告は当時、刑事責任を問える精神状態だったと立証するための追及を続けるとみられる。
審理の終盤、初公判の罪状認否で、「やり過ぎたと思っている」と話したことの真意について尋ねられた。
青葉被告「本当に火をつけるってことは行き過ぎだと思っていて、30人以上亡くなられる事件ということを鑑みると、いくらなんでも『小説ひとつでここまでしなきゃいけなかったのか』というのが、今の自分の正直な思いとしてあります」
青葉被告はこう述べたが、そこに謝罪の言葉はなかった。
9月20日から、遺族による質問が始まる。