「逆にお聞きしますが、僕がパクられた時に、京都アニメーションは何か感じたんでしょうか?」放火で犠牲となった社員の遺族らの質問に対し、逆質問で言い返した青葉真司被告を裁判長が制止する。しかし青葉被告は発言を続けた。法廷ドキュメント第11回目。

【妻の無念「直接」聞きたかった 遺族が初の質問】

京アニ放火殺人事件の裁判は8日目。この日はじめて遺族が、法廷で青葉被告と直接対峙した。最初にマイク前に立ったのは、事件で亡くなった社員の1人で、『涼宮ハルヒの憂鬱』などで総作画監督やキャラクターデザインをしていた、池田(本名寺脇)晶子さんの夫だ。検察官の隣に立ち、大きく深呼吸をしてから、ゆっくりと話し始めた。

寺脇(池田)晶子さんの夫「本当はもっとたくさんのことを、青葉さん、あなたに聞きたかったんですが、時間とか色々な制約があるので、限られた内容だけ質問します」

こう前置きして、手元のメモを見ながら丁寧に質問をはじめる。その声は、涙で震えていた。

寺脇(池田)晶子さんの夫「池田晶子は今回の事件のターゲットでしたか?」

青葉被告「うーん…(数秒間沈黙する)作画監督さんとして勤めていらっしゃるという認識は少しあったと思いますが、『京都アニメーション全体を狙う』認識で、誰か個人を狙うという認識はなかった」

遺族が直接質問するのは初めてとあって、法廷内が一層緊張感に包まれ、2人のやりとりに耳を傾ける。

寺脇(池田)晶子さんの夫「事件前に放火殺人をする対象者に、家族、とくに、とくに…子どもがいることは、知っていましたか?」

青葉被告「(しばらく無言のあと)申し訳ございません。そこまで考えなかったというのが自分の考えです…」

言葉を詰まらせながら尋ねる寺脇さんの夫に対して、青葉被告は考えが及ばなかったことについての断りはあったものの、犯行そのものに対する謝罪は無い。

【青葉被告が言い返すと裁判長が制止「被告人、今はあなたが質問される立場です」】

青葉被告はこれまでの裁判で「犯行直前にためらいや良心の呵責があった」と話している。この点を尋ねたのは、映画『聲の形』などで動画や原画を担当した宇田淳一さんの遺族の代理人だ。

宇田淳一さんの遺族の代理人「『ためらいや良心の呵責』と話していましたが、被害者のことは全く考えなかったのですか?」

青葉被告「自分の10年間のことで頭がいっぱいでした」

宇田淳一さんの遺族の代理人「では、あなたにとって『ためらい』や『良心の呵責』とは何を意味するのですか?」

青葉被告「それなりの人が死ぬだろうと」

宇田淳一さんの遺族の代理人「人が死ぬとわかっていたものの、被害者の立場では考えなかったということですね?」

青葉被告「逆にお聞きしますが、僕がパクられた時に、京都アニメーションは何か感じたんでしょうか?」

裁判長「被告人、今はあなたが質問される立場です」

裁判長がすかさず制止に入る。しかし…青葉被告は言葉を続けた。

青葉被告「逆の立場になって考えて、パクられたり、『レイプ魔』と言われたことに、京アニは良心の呵責も何もなく、被害者という立場だけ話すという理解でよろしいでしょうか?」

宇田淳一さんの遺族の代理人「その発言を、そのまま記録に残していいんですね?」

青葉被告「構いません」

青葉被告は、悪びれる様子もなくまくし立てた。謝罪どころか、不満の感情を露わにした青葉被告の態度に、他の遺族の代理人も黙っていなかった。

被害者の遺族の代理人「先ほど、逆に質問をした意図はなんですか?」

青葉被告「自分はこの立場なので罰は受けなければなりませんが、京都アニメーションが私にしたことは不問なのですか?」

質問に回答しなかったことを、代理人の女性が強めの口調で問い質す。

被害者の遺族の代理人「回答しなかった理由はなんですか?逆に質問したのはなぜですか?」

青葉被告「10年間やられ続けてきた話なので...」

被害者の遺族の代理人「(遮って)ちょっとすみません。そうではなくて、なぜさっき答えなかったのですか?」

青葉被告「それだけのこと(小説をパクるなど)をしている人や京都アニメーションがいるのに、自分だけ全部答えないといけないのですか?ということです」

被害者の遺族の代理人「憤りがあるのですか?」

青葉被告「当時、憤りなんてもんじゃ…」

被害者の遺族の代理人「(被せるように)当時ではなく今、憤りはあるのですか?」

青葉被告「憤りはございます」

青葉被告は怒った様子で、これまでよりも強い口調、かつ早口で答えた。

【あなたが『死ね』と言った相手は私の娘ですか?】

遺族やその代理人らが質問をしていくなかで、事件で亡くなった娘の最期を尋ねた遺族がいた。事件当時、新入社員だった兼尾結実さん。青葉被告が放火した際に鉢合わせしたという3人の従業員の位置関係を確認したうえで、兼尾さんの母親が少し震えるような声で問いかける。

兼尾結実さんの母親「私は、事件で焼死した兼尾結実の母です」「あなたが見た女性2人のうち、1人は私の娘である可能性が高いです。あなたが火をつけたとき、『死ね』と言った相手は、娘を含めて、第1スタジオにいた全員に対してですか?」

青葉被告「そう思います」

兼尾結実さんの母親「焼死した娘は、その年に入社したばかりでした。あなたが『盗作された』と言うアニメが作られた後に入社しました。そういう職員(社員)がたくさんいたことは考えなかったのですか?」

青葉被告「すみません、そこまでは考えておりませんでした」

兼尾結実さんの母親「第1スタジオの職員は全員焼け死んでいいと思っていたんですか?」

青葉被告「それで間違いございません」

当時の悲惨な状況を思い出させるようなやり取り。傍聴席には涙を浮かべる人の姿も見られた。そんな中で青葉被告は、新たに入社した社員らに対して、このように発言した。

青葉被告「京アニがパクっていることや社風を知らずに入って、金をもらって稼いでいる時点で、知らないことに関しては『どうなのか』と思う」

【青葉被告自身が「京アニをパクった」ことへの質問】

事件前の青葉被告は、クオリティの高い作品を創り出す京アニのファンで、『涼宮ハルヒの憂鬱』などの作品を参考にして小説を書いていたという。

被害者の父親「あなたがハルヒをパクるのと、京アニがパクるのとは何が違うんですか?」

青葉被告「ハルヒは教科書として使っていて、自分は書いていく過程でパクったが、最終的に別の作品を作っている。京アニは小説を落選させて、著作権を自分に戻しながら、パクったものを放映しているので、いかがなものかと」

このように青葉被告は、はっきりした口調で持論を展開。終始、遺族らに対し犯行について謝罪することはなかった。

この日は、被害者遺族やその代理人、計8人が尋ねた後で、最後に弁護人から質問があった。青葉被告は、遺族からの質問があると知って、前日は眠れなかったという。

弁護人「被告人質問をフルタイムでやるのは5日目ですが、今までの裁判とは違いますか?」

青葉被告「やはり追及が厳しくなったなと」

弁護人「4日目までと比べて、体調はどうですか?」

青葉被告「きのう寝れていなかったし、大阪から来ているのもあって、結構疲れております」

裁判長が確認に入る。

裁判長「疲れているからといってうまく答えられなかったということはありませんでしたか?」

青葉被告「それはございません」

この日の裁判は午後3時40分ごろ閉廷した。次回は9月25日(月)。弁護人や裁判官、裁判員から被告人質問が行われるとみられる。